【医師監修】つわりがひどい人って体質なの? つわりが重くなるタイプの特徴と軽減法
つわりは重い人、軽い人、人それぞれで症状や程度が大きく違います。それには体質が影響しているのでしょうか? つわりが重くなるタイプや症状を軽減する工夫を知っておきましょう。
- つわりのひどさは体質が原因?
- だいたい「体質」が原因と言えるのかも
- 第一子と第二子でつわりの程度が違う傾向はある
- 第二子以降はつわりが重症化した「妊娠悪阻」が起こりやすい
- つわりがひどい人にみられる特徴
- 個人差が生じる原因は明らかになっていない
- 精神的なストレスが強い
- つわりがひどい人は必見!つわりの症状を軽減する方法
- お腹が空いたら少量でも口に入れる
- 朝起きたら口に入れられるものを用意しておく
- 脂っこいもの、辛いもの、においの強いものを避ける
- 冷えた食べ物なら食べやすいこともある
- ビタミンやミネラルの摂取が役立つことも
- 食べられないときは無理をしない
- 水分と塩分補給を忘れない
- 軽い運動で気分転換する
- 家庭内で不快な匂いを減らす
- まとめ
つわりのひどさは体質が原因?
まずは「つわり」と「体質」の関係について考えてみましょう。
だいたい「体質」が原因と言えるのかも
妊娠すると体内でさまざまな変化が急激に起きます。そうした「変化の影響を強く受ける人」と「そうでもない人」がいて、その違いを「体質」と言うなら「つわりの程度には体質が影響する」と言えるのかもしれません。
つわりの原因はそもそもよくわかっていない
実は、つわりを起こす原因はまだはっきりとはわかっていません。ホルモン分泌の変化や心理的ストレス[*1]の影響、ビタミン不足など、いくつもの要因が重なって起こると考えられています。
元々こうした変化の「影響を受けやすい体質の人」では、つわりがひどくなる可能性はあります。
原因のひとつはホルモンバランスの変化
つわりの代表的な症状とされるのが、「吐き気やおう吐などの消化器症状」です。
妊娠によって変化したホルモンバランスの影響で脳の「おう吐中枢」が刺激され、「中枢性(ちゅうすうせい)おう吐」を起こすというのが、つわりが起こるメカニズムのひとつと言われています。
一般的につわりの症状が悪化する時期と分泌増のピークが重なることが多いため、「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」というホルモンの影響が指摘されていますが、ほかに妊娠によって分泌量が変化する「甲状腺ホルモン」や女性ホルモンの「エストロゲン」なども、つわりの発症に関係していると見られています。
また、妊娠中は女性ホルモンの「プロゲステロン」の分泌量も増えていきますが、このホルモンの作用で胃や腸といった消化器を動かしている平滑筋がゆるみ機能が低下することで、吐き気やおう吐を起こすこともあります。急速に大きくなる子宮に消化管が圧迫されることも、消化器症状の悪化につながります。
つわりが重症化しやすいのは?
なお、つわりが重症化して起こる「妊娠悪阻(にんしんおそ)」という病気になるリスクは、双子などの「多胎妊娠」の場合と、以前の妊娠時に「妊娠悪阻」になったことがある人で高くなるとされています。
妊娠の継続や出産への不安、仕事や家族の問題などで精神的ストレスが大きい場合も、症状の重症化や「妊娠悪阻」のリスクが高くなるとされています。
第一子と第二子でつわりの程度が違う傾向はある
ここまでで解説したように、つわりの程度はいわば「体質」のようなものに左右されることが多そうですが、それ以外にもおかれた環境や心理状態など、影響を与える要因が多数存在します。
「第一子と第二子でつわりの程度が違うのもこのためと考えられます」
つわりは妊婦さん全員に起こるというわけではなく、症状がみられるのは妊婦さんの約50~80%と言われていますが、なかでも「経産婦より初産婦に起こることが多い」と言われています[*2]。
第二子以降はつわりが重症化した「妊娠悪阻」が起こりやすい
また、つわりを起こしやすいのは初産婦ですが、いったんつわりが起こると重症化しやすいのは「経産婦」とも言われています [*3]。
重症化して治療が必要になると「妊娠悪阻(にんしんおそ)」という状態になり、これはすべての妊婦さんのうち約0.5〜2%に起きている病気です[*4]。次にあげるような状態になったら、すぐに産科に連絡し、指示をもらってください。
・1日に何度も吐いてしまう
・食事も水分も受けつけない
・急激に体重が減り、元の体重の5%以上落ちた
・排尿回数や量が減っている
妊娠悪阻と診断されると、脱水や栄養状態、体重が回復するまで、基本的に入院治療を受けることになります。
つわりがひどい人にみられる特徴
つわりの症状が重い人には何か特徴があるのでしょうか。
個人差が生じる原因は明らかになっていない
つわりの症状や程度の個人差に何か原因があるのかどうかは、まだよくわかっていません。
最初に解説した通り、つわりの原因は1つではなく複数の要因が関係していると考えられています。そして、人によって体質やおかれた環境、心理状態は違います。つわりに個人差が大きいのはこのためと考えられます。
精神的なストレスが強い
ただ、「精神的ストレスを強く受けている」人ではつわりが重くなる傾向はあるようです[*1]。
「妊婦だから」と生活の中で制限を設け過ぎるのもストレスになり、それがつわりの症状悪化につながる可能性もあります。
「妊娠期間中に、出産までの母子の体調やその後の生活などについて不安に思うのは当たり前です。妊娠をきっかけに仕事や家族の問題など表面化し、精神的ストレスを感じることもあるでしょう。そうした精神的な負担が強いとつわりが重くなるので、つわりの時期は母子の健康に関わること以外はなるべくおおらかに考え、気分転換を上手にしていくことが大切です」
つわりがひどい人は必見!つわりの症状を軽減する方法
つわりがひどいときは、無理せずできることを試してみましょう。
お腹が空いたら少量でも口に入れる
つわりの症状は比較的「空腹時」に現れることが多いので、なるべく空腹の時間がないよう、少量ずつ口にできる食べ物を持ち歩き、こまめに口に入れます。雑穀ビスケットやゼリー飲料など、自分が食べやすい物を探しておきましょう。
食事もなるべく胃腸に負担をかけないよう「分割食」(1回分の食事を2、3食に分けてとる)を試し、症状が比較的ラクになるような生活スタイルを考えてみましょう。
朝起きたら口に入れられるものを用意しておく
寝起きは空腹で血糖値も下がっているので、つわりの症状が出やすくなります。朝起きてすぐ何か食べると症状を軽減する助けになるので、枕元にすぐ食べられるようビスケットやラムネ、キャンディーなどを準備して寝ましょう。
脂っこいもの、辛いもの、においの強いものを避ける
プロゲステロンの働きで消化機能が低下しているので、胃腸に負担のかかる「脂っこいもの」「辛いもの」などは、つわりの時期には避けたほうがよいかもしれません。
また、においで症状が悪化する人は、「においの強いもの」も避けるようにしましょう。
妊娠後、嗅覚の変化を感じる妊婦さんは多いようです。特に妊娠初期ににおいの強い飲み物や料理、傷んだ食品など特定のにおいを感じやすくなったり、日常的ににおいに敏感になることがあります。
冷えた食べ物なら食べやすいこともある
何が食べやすいかは個人差がありますが、どちらかというと「冷たい食べ物」はあまりにおいが強くなく、喉ごしもよいので食べやすいと感じる妊婦さんが多いようです。
ビタミンやミネラルの摂取が役立つことも
つわりの時期は栄養バランスを意識し過ぎず、「食べられるとき、食べられる分だけ食べる」のでよいのですが、あまりつわりが長引くと水分やミネラル、糖分、ビタミンが極端に不足し、体重が減少するとともに、自力で回復できない「妊娠悪阻」の状態に陥ることもあります 。
食事が十分にとれないときは、ビタミンやミネラルを含むスポーツドリンクや経口補水液などを気にかけてとりましょう(ただし、この場合はカフェインレスのものを選びましょう。妊婦さんはカフェインの摂り過ぎに注意が必要です)。
なお、つわりの予防に「ビタミン A」「B1」「B2」「B6」「B12」「C」「D」「E」「葉酸」「ミネラル」などを含む「マルチビタミン」が有効という報告もあります[*3]。これがなぜつわり予防に役立つのかはまだわかっていませんが、つわりの時期は食事から摂取するのが難しい葉酸を補充できるメリットもあります。
ただし、特に妊娠初期に「ビタミンA」をサプリメントなどで大量にとると赤ちゃんに先天異常を起こすリスクがあるとも言われています[*4]。
妊娠初期のビタミンA推奨量(1日あたり)は、18~29歳では650μgRAE、30~49歳では700μgRAE。1日あたりの上限量はともに2700μgRAEです[*5]。過剰摂取にならないよう、注意しましょう。
なお、つわりで食事が摂れないときは仕方がありませんが、妊娠期の栄養摂取は、葉酸以外は基本的に食事からバランスよく摂り入れることを心がけましょう。
「つわりの時期には葉酸のサプリメントすら飲めないというママもいて、砕いて飲む、代わりにビタミン豊富な野菜や果物を食べる努力をするなどとも聞いています。
自分なりにとりやすい方法を工夫するのは素晴らしいこと。しかし、無理はしないでください。つわりの時期は自分を甘やかして体力を温存してもいい時期です。
主治医や助産師さんも、妊婦さんが妊娠をより前向きにとらえ、症状が軽くなるよう、さまざまな相談にのります!」
食べられないときは無理をしない
つわりの時期に十分な食事がとれなくても、赤ちゃんの成長にはほとんど影響はありません。この時期の赤ちゃんが必要な栄養はほんの少しでいいので、「赤ちゃんの分まで二人分食べよう」などとは考えず、ママ自身にとって必要な栄養が確保できればいいのです。
食べられないときは無理して食べず、「食べられる分だけ食べる」でOKです。
水分と塩分補給を忘れない
つわりを重症化させないためには、脱水を起こさない注意も必要です。吐き気やおう吐が続くと、十分な水分量が保てません。
さらにつわりの時期が梅雨から初秋の間にかかる場合は、熱中症や脱水のリスクが高い時期と重なるので、より注意が必要です。意識的にこまめに水分と塩分補給を心がけましょう。経口補水液を常備しておくと便利です。
軽い運動で気分転換する
つわりの辛い症状が続くようなときには、普段以上に気分転換が必要です。方法は何でもいいですが、適度な運動は気分転換になり、リラックスにもなること。近所を散歩するなど軽い運動でOKです。
家庭内で不快な匂いを減らす
吐き気やおう吐が匂いで起こることが多かったら、苦手な匂いをチェックしておいて、なるべく生活から排除する工夫もしてみましょう。
「辛い症状をがまんして家族のために台所に立っている人も多いですが、苦手な匂いが吐き気を誘発するような状態で調理をするのは大変です。症状が重い日には外食したり、デリバリーで食べてもいいのではないでしょうか。無理は禁物です。
もしもつわりについてパートナーの理解が乏しい場合には、健診に同行してもらい、一緒に医師の説明を受けてもらいましょう。医療者から聞く方が理解しやすいこともあります」
まとめ
つわりが重くなるのは体質とも無縁ではないようですが、それだけでもないようです。そもそもつわりはその原因や個人差がある理由もまだよくわかっていません。症状をなるべく軽減するには自分に合った方法がないか試してみるしかないので、無理のない範囲で工夫しながら、辛い時期を乗り越えていきましょう。ただし、具合が悪いのにがまんし過ぎるのは禁物です。つわりが重症化すると治療が必要な「妊娠悪阻」という病気にもなるので、極端に症状が重いと感じたり、食事や水分がとれずに不安な場合は、かかりつけの医療機関に連絡して主治医に相談することが大切です。
(文・構成:下平貴子、監修:松峯美貴先生)
※画像はイメージです
[*1]「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
[*2]「病気がみえるvol.10 産科」(メディックメディア),p86,87
[*3]日産婦誌50巻6号 妊娠悪阻にまつわる諸問題
[*4] 産婦人科診療ガイドライン―産科編2020,p108
[*5]「日本人の食事摂取基準(2020年版),p176, 厚生労働省
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます