【医師監修】妊娠中の情緒不安定はいつまで続く? 解消法やパートナーへの対処法
妊娠中は、何かと情緒不安定になりやすい時期。過剰にイライラしたり、ささいな言葉に必要以上に傷ついたりしがちです。この状態はいつまで続くのでしょうか。そもそもどうしてそうなるのでしょうか。解消法やパートナーへの対処法などとあわせて解説します。
妊娠中の情緒不安定はいつからいつまで?
妊娠中は感情の変化に戸惑う人も少なくありません。些細なことでイライラしてしまったり、理由もなく不安になったり……。妊娠中に情緒が不安定になりやすい時期というのはあるのでしょうか。
個人差は大きいが妊娠初期から始まることも
妊娠中に不安やイライラを感じやすい時期には、個人差があります。このあと解説するように、妊娠中に情緒不安になりやすい理由はいくつかあり、それらのうち複数が関係することも考えられるからです。
たとえば、妊娠にとまどう気持ちに激しいつわりが始まったことで妊娠初期に気持ちが不安定になる妊婦さんもいれば、大きなお腹で便秘などのマイナートラブルがひどくなり、近づきつつある分娩への恐れも加わって、妊娠後期になって不安やイライラがつのってくる妊婦さんもいることでしょう。
妊娠中、メンタル面に大きな影響を与えるかもしれない妊娠の経過は人それぞれなので、妊娠中は全期間にわたって、感情の起伏が生じやすいと考えてよいのかもしれません。
妊娠初期から情緒不安定になることも多い
ちなみに、妊娠中に起こしやすい精神疾患には「うつ病」と「不安障害」がありますが、中等度~重度のうつ症状を感じた人がもっとも多かったのは妊娠期間中では「妊娠初期」だったと報告している研究があります[*1]。
また、妊娠や赤ちゃんに関してはもちろん、それにとどまらず自分自身に関すること含めさまざまなことについて不安を感じていた妊婦さんはやはり「妊娠初期」に多く、妊娠の経過とともにその割合は減っていたとする報告もあります[*2]。
妊娠初期はまだお腹も大きくありませんが、胎内では赤ちゃんがものすごいスピードで成長し始めています。それに伴って、ママの心も大きな影響を受けるようです。
妊娠中に情緒不安定になるのはなぜ?
このように情緒が不安定になるのは、妊娠中に生じるさまざまな身体的、心理的な変化が影響しているといわれます。
ホルモン変化の影響
妊娠中は、ホルモンの分泌に大きな変化が生じます。とくに女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンは、妊娠期間中にわたって分泌量が増加し続け、非妊娠時よりはるかに多い量が分泌されるようになります。
こうした大幅なホルモン分泌の変化は、脳がストレスに耐える抵抗力の低下をもたらします。すると脳はストレスを処理しきれずにうまく働かなくなり、ものごとをいつも以上に悪く捉える傾向が出やすくなるのです [*3]。
このようなホルモン分泌による脳の働きの変化が原因で、妊婦さんは情緒が不安定になり、不安やイライラといったネガティブな感情を抱きやすくなると考えられます。
体の変化へのとまどい
妊娠中の女性の体には、ホルモン変化のほかにも、大きくなる子宮にほかの内臓が圧迫されて不調が生じたり、大きなお腹で行動が制限されるなど、非妊娠時には体験したことのないような変化が生じます。そうした体の変化に戸惑いを覚え、不安を感じる人もいます。
「このままお腹が大きくなっていくとどうなるのだろう」「大きく変化した体形は産後、元に戻るのか」といった不安を感じたり、「お腹が大きくなった姿を他人に見られたくない」など、妊娠によって変化していく自分の姿を受け入れられなかったりすることもあるでしょう。
出産・産後への不安
陣痛や分娩時の痛みがどのくらいのものか、妊娠の経過にともなって不安が大きくなる妊婦さんも多いでしょう。経腟分娩であれば、会陰の切開や裂傷の不安、帝王切開を予定している人なら手術や麻酔に対して、不安を感じるのは仕方がないことです。
また、これから経験するであろう産後の生活に対しても、不安を感じる人は少なくありません。初めての妊娠の場合はとくに、授乳もオムツ替えも沐浴も、とにかく何もかもが未経験のことですから、不安を感じて当然です。母乳は出るのか、赤ちゃんが泣いた時にうまくあやすことができるのかなど、育児に対する不安は尽きないでしょう。
そうした感情はあって当たり前のことですが、妊娠中はそのような不安を、必要以上に感じてしまうことが多いかもしれません。
妊娠による制約に対してのストレス
非妊娠時は気にする必要がなかったのに、妊娠したことで必要となる生活上の制約もいくつかあり、それをストレスに感じて不安やイライラが生じることもあるでしょう 。
そもそも妊娠がわかってから出産まで、「妊婦健診のため定期的に産科を受診する」のもそうですし、「アルコールや生ものはNG」といった食事面での制約も出てきます。持病があったり、妊娠経過に異常があったりする場合には「安静指示」や「生活指導」を受けることもあり、制約はさらに増えることがあります。
こうした制約は赤ちゃんをすこやかに育み、出産を無事に終えるために大切なことだとわかっていても、気をつける事項が積み重なると精神面で負担になり、情緒に影響を与えることもあります 。
妊娠中にみられる「情緒不安定」
そもそも妊娠中にみられる可能性がある情緒不安定とは、具体的にどんなものなのでしょうか。
泣く、不安になる……あって当然!妊娠中の心の変化
妊娠中に感じる気持ちの変化には、さまざまなものがありますが、中でも「不安」を感じる人は多いようです。
妊娠に関する不安だけでなく、物事を難しく考えてしまったり、必要以上に心配をしてしまったりなど、一般的なことに対する不安もあります。たとえば以下のようなものです[*2]。
一般的な不安
・眠りがとぎれがちでよく眠れない
・涙が出やすく、すぐに泣いてしまう
・本当は何でもないのに、必要以上に心配をする
・恥ずかしくて顔がすぐに赤くなる
・物事を難しく考えすぎると思う
・何事にも自信がもてなくなることがある
・何か不幸なことが起こらないかと心配である
・いつも何かについて、くよくよと心配している
・まわりの人たちに気をつかいすぎると思う
・緊張すると、 すぐ汗が出て困る
・ちょっとしたことでも、すぐまごついてしまう
・何かしようとする時、 失敗しはしないかと心配しすぎる
・すぐに胃の具合が悪くなる
・胸がドキドキして、 気持が落ち着かなくなる
・何か心配で、眠れないことがある
・心配ごとがあると下痢をしやすくなる
妊娠に関する不安
・妊娠中に病気や流産にならないか
・妊娠により思い通りに体を動かせない
・お腹の赤ちゃんは健康に育っているか、異常がないか
・自分の行動が赤ちゃんに悪影響を及ぼさないか
・出産に耐えられるのか
・出産後、うまく育児ができるのか仕事はどうすればいいのか
・母乳は出るようになるのか
・妊娠による容姿の変化が受け入れられない
・産後、体型が崩れるのではないか
・妊娠により夫との関係性が変わったのではないか
・夫は産後、育児をするかどうか
妊娠中は無意識のうちに、このような不安や心配を抱くこともあります。
パートナーにイライラしてしまうことも
先ほど紹介した「妊娠に関する不安」にもありましたが、夫などのパートナーとのかかわりのなかでイライラをつのらせる妊婦さんもいます。
「体調が悪くて横になっていたら、帰宅した夫に『寝てられていいな』と言われ、イライラした」
「体調が悪い中、必死で家事をしていたのに『ご飯は適当でいいよ』と言われて嫌な気持ちになった」
「夫がソファでゴロゴロするせいでソファに座れず、お腹が張ってつらくなった」
「『大丈夫?』と言葉はかけてくれるけど、家事を全く手伝ってくれなかった」
「赤ちゃんのことを真剣に心配をしていたのに『大丈夫、大丈夫』と軽く流された」
など、はよく聞く経験談ではないでしょうか。もっとも身近な存在であるパートナーに「誰よりも理解してもらいたいのに」という気持ちに、妊娠期特有の情緒不安定さが加わり、パートナーにそのつもりがなくても、その言動にイライラさせられる妊婦さんは少なくなさそうです。
妊娠中の情緒不安定の解消法
ここからは、妊娠中に起こりやすいイライラや不安を、少しでもやわらげるのに役立つ方法をいくつか紹介します。
情緒不安定を受け入れる
繰り返し説明しているように、妊娠中はわけもなくイライラしたり、不安になったりしても当然の時期です。
まずは自分がいまそのような状況にあること、「イライラしたり、不安になったりしやすい時期なんだ」ということを受け入れましょう。そうすることで肩の荷を少し下ろせるかもしれません。
軽い運動をする
ウォーキングのような一定のリズムを繰り返す運動をすると、心の安定をはかる脳内ホルモン「セロトニン」の分泌が高まるといわれています。こうした運動を行ってみると、不安定だった気持ちを少しずつ落ち着ける助けになるかもしれません。
意識して呼吸を行う、ストレッチやヨガなどでもセロトニンの活性化は期待できるとされています 。体調が落ち着いたら、医師に相談のうえで、自分のできる範囲の運動をしてみるのもよいですね。
話し相手を見つける
不安やイライラといった感情は、誰かにそれを話すことで落ち着くこともあります。
パートナーに限らず、家族、友人、同僚、趣味の仲間 などの中で、自分が正直に思いを打ち明けられる人にするとよいでしょう。安心して相談できる場所や相手を、妊娠中の今から見つけておけるとよいですね。
妊婦健診で話したっていい
妊娠中の不安な気持ちは、妊婦健診の際に助産師や看護師、医師に話をすることもできます。
現在の産科医療の現場では、妊婦さんの不安に寄り添うようにしている医療機関が多いはずです。それが産後のケアにもつながるからです。市町村の保健師さんなどに相談する方法もあります。
些細なことでも構いません。遠慮せずに自分の気持ちを話してみてください。
パートナーに理解してもらうことも大切
話し相手はパートナーに限りませんが、やはり、ともに人生を歩んでいくパートナーに、妊婦が陥りやすい心理状況を理解しておいてもらうことも重要です。
可能であれば健診や両親学級に同行してもらったり、妊娠 ・出産・育児などにかんしていま気になっていることや知った情報を妊娠期間中からパートナーにも共有してみましょう。
パートナーにも「あなたを支えたい」という思いはあるはずです。どういう行動をしてもらえるとうれしいか、どういうことを言われたらイヤかなどを具体的に伝えることで、少しずつ理解が深まっていくでしょう。
現在は、両親学級などは中止していることが多いので、妊娠中に産後知っておきたい知識を得るのが難しい場合もあるかもしれませんが、どのように家事を分担していくかなど、パートナーにも理解しておいてもらうことは産後クライシスを避けるためにも必須です。
赤ちゃんが生まれたあとには、育児について勉強する時間はあまりありません。
パートナーにはママが出産する前から、直接母乳をあげる以外の育児、家事は全て、自分が主体的に行うという気持ちを持っておいてほしいと、産婦人科医は思っています。
辛いと感じたら受診やカウンセリングも検討
誰かに話しても解消せず、不安やイライラがつのっていく場合は、我慢しないで早めに専門家の力を借りることをおすすめします。
「気分の落ち込み」や「何事にもやる気が起きない」「判断力の低下」「死にたいと思う」などの心の変調が2週間以上続く場合は、まずはかかりつけの産科医に相談してください[*4]。 かかりつけの産婦人科でカウンセラーを紹介してもらえるケースもあります。
とくに、「死にたい」と1回でも思うようなことがあったら、早めに産婦人科の主治医、あるいはかかりつけの精神科心療内科があればそこで相談してほしいです。
また、行政などの公的な機関が運営する、電話やメールで看護師などに相談できる窓口もあります。いきなり対面ではなかなか相談しづらい場合は、まずはこうした窓口に相談してみる方法もあります。
心の不調を感じたとき、こうした窓口など、まず相談できるところを持っておくことは、産後の育児の際にもきっと役立ちます。以下に相談先の一例を紹介するので、必要に応じて、参考にしてみてください。
妊娠や出産に関する悩みを相談できる先の例
まとめ
心と体にさまざまな変化が生じる妊娠中は、その変化についていくのが難しいもの。そうした状況下で、わけもなく不安やイライラがつのるのは当然のことです。まずは「妊娠中は不安な気持ちになって当たり前」ということを受け入れるだけでも、少しは気持ちが楽になるのではないでしょうか。そこから、なるべく前向きに考えられるよう、できることからいろいろ工夫してみましょう。
ただ、誰かに話したり、自分なりの不安の解消法を試したりしても気持ちが晴れず、ふさぎ込んでいく状態が続く時は、専門家の力を借りるなどして、ひどくなる前に早めにSOSを出すことが大切です。不安や悩みは一人で抱え込まず、あちこちに分散させて、やわらげていきましょう。
(文:山本尚恵/監修:直林奈月先生)
※画像はイメージです
[*1]Putnam KT et al.: Clinical phenotypes of perinatal depression and time of symptom onset: analysis of data from an international consortium, Lancet Psychiatry. 2017 Jun; 4(6): 477–485.
[*2]「妊婦の不安に関する研究 : 妊娠経過に伴う不安の推移と保健指導のあり方」富山医科薬科大学看護学会誌, 1999-03, 2, p74-76
[*3]厚生労働省「e-ヘルスネット 妊娠・出産に伴ううつ病の症状と治療」
[*4]米産科婦人科学会:妊娠中のうつ病
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます