【医師監修】産後の胎盤って食べてもいいの? その効果とリスク
「産後に胎盤を食べる」とさまざまなメリットがあるという説があります。どんな効果があると言われているのでしょうか? また、それらは本当なのでしょうか? 産後に胎盤を食べるのは果たして体に良いのかどうかなどについて解説します。
「胎盤」を食べる人がいるのはどうして?
海外のセレブや日本の芸能人が産後に胎盤を食べたというニュースを見たことはありませんか? 産後に胎盤を食べる人がいるのはなぜでしょうか? まずはその理由について調べてみました。
いろいろな効果があると信じられているから
胎盤食は、一部の人の間でさまざまな健康上のメリットがあると信じられています。
よくあげられるのが次のようなメリットです。
・産後うつの予防になる
・産後直後の痛みを緩和できる
・美肌になる
・ママの気分が改善される
・母乳の出がよくなる
・鉄分補給になる など
ただし、こうしたメリットが本当にあるかどうかはわかりません。
どの効果も「科学的根拠がない」
胎盤食のメリットを調べた研究は色々ありますが、それらを横断的に調べた報告では、胎盤食によりもたらされると言われているメリットには「科学的根拠がない」としています。むしろ「胎盤食は害を及ぼす可能性がある」とさえ結論付けています[*1]。
胎盤食のリスクについては、のちほど詳しく解説します。
そもそも胎盤って食べてもいいの?
胎盤とはどんなものなのでしょうか。また、そもそも食べてもよいものなのでしょうか。
胎盤とは
胎盤は「ママから胎児へ、栄養分や酸素を送り届け、胎児の老廃物をママに受け渡す臓器」です。また、「妊娠を継続させたり、胎児が成長したりするのに必要なホルモンを生み出す役割」もあります。
胎盤は妊娠7週ごろに作られ始め、妊娠4ヶ月末までに形と機能がほぼ出来上がります。その後、妊娠10ヶ月までに大きくなり続け、妊娠後期には重さがおよそ500gに達します。そして、出産時、赤ちゃんが出てきた後に子宮から排出されます[*2]。
動物は、産後に自分の胎盤を本能的に食べてしまいます。
これは「天敵から身を守るために血の匂いを残さないため」「産後に体力を回復させるため」などの説があります。
ただし人間の場合、産後、他の動物に襲われる可能性はほとんどありませんし、胎盤以外の食べ物が産後すぐ手に入るので、栄養補給のために胎盤を食べる必要もありません。
自分の胎盤なら「法的な問題」はない?
「胎盤は法的に食べても問題ないものなのか」どうかも気になりますね。
厚生労働省が1971年に都道府県に出した通知「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」によれば、ヒトの胎盤は「医薬品としての扱い」となっています[*3]。ただ、これはヒトの胎盤を原料にしたものを「流通させる」場合のことで、「自分の胎盤を自分で食べる」ことについて何か規制があるというわけではなさそうです。
とはいえ、通常、医療機関では処置などによって人間の臓器や皮膚などが生じると「感染性廃棄物」として、厳重に管理したうえで廃棄することが義務付けられています。他の人が触ったりすることで、「病気などを感染させるリスクがある」からです。
これは胎盤も同様で、他人がむやみに触ったりすれば何かの病原体に感染するリスクがありますし、捨てるのではなくその後食べるとなると今度は「食べることによる感染などのリスク」(詳しくはこのあと解説します)も考える必要が出てきます。
胎盤食のリスク
胎盤食について調べた報告によると、胎盤を食べることにはリスクがあるとわかっています。どんな危険があるのか知っておきましょう。
細菌や重金属などを摂取する可能性が
胎盤には多くの細菌やウイルスなどが含まれています。とくに胎盤を生で食べれば、こうした病原体もそのまま口にすることになります。
また、乾燥などの処理済の胎盤であっても、感染の原因となることはあります。乾燥させた胎盤入りのカプセルを服用していた母親の母乳から、新生児が「 B群溶血性連鎖球菌(GBS)」に再感染した事例があったことから、CDC(米疾病対策センター)はこうしたカプセルを摂取すべきではない、と警告しています[*4]。
さらに、胎盤には、ママの体内に入り込んだ有害物質が赤ちゃんに移行するのを防ぐ働きもありますが、その結果、カドミウムなどの物質は胎盤に蓄積されやすいことがわかっています。そのため、胎盤を食べるとこうした有害物質を余計に体内に摂り入れることになります。
世界と日本の胎盤利用方法あれこれ
ここでは、世界や日本の一部の人の間で行われてきた、胎盤の利用方法をいくつか紹介します。
アメリカセレブ発信の「Placentophagy(胎盤食)」
海外では、次のようなさまざまな方法で胎盤を摂取する人がいるようです。
・生のままスライスで
・加熱調理して
・乾燥させて
・カプセルに詰めて
・他の食材とともにスムージーにして
アメリカではこのうちカプセルに詰めて摂取するケースが多く、200~400ドル程度で胎盤を加工するサービスもあるようです。
アジアでは漢方薬として利用されていた
東洋医学では、胎盤は「紫河車(しかしゃ)」という名前の漢方薬として活用されてきました。
紫河車は、滋養強壮や虚弱体質、ひどい疲れや衰弱・発熱時・産前・産後の栄養補給に効果的と言われてきました。
ただし日本では、中国のように盛んにヒトの胎盤を薬とすることはなかったようで、太平洋戦争末期から戦後にかけて栄養補給剤や注射薬、内服薬が開発されたものの、現在ではブタや馬などの動物由来の胎盤を使ったものだけになっています。
庭に埋める風習がある地域も
なお、日本では、子どもの健やかな成長を願って、産後に「胎盤を庭に埋める」という風習が残る地域もあります。現在でも沖縄の産婦人科では、「胎盤を持って帰るかどうか」ママに確認することが珍しくないようです。
昭和20~30年ごろの鹿児島でも、人が歩かない軒下に胎盤を埋めていたといいます。また、産後に胎盤を食べる習慣もあったそうです[*5, 6]。
産後の胎盤は食べたほうがいい?
胎盤について知ったところで、改めて胎盤食を考えてみましょう。
効果が不確実なのにリスクはあるのでお勧めしない
胎盤を食べるということは、あるかどうかわからない効果のために、病気になるリスクをおかす行為です。そのため、胎盤食はおすすめできません。
胎盤食のメリットが不確実なことは、研究者によって繰り返し確認されてきました。
むしろ胎盤を食べると、胎盤に含まれている細菌やウイルス、重金属まで食べてしまい、ママや赤ちゃんが病気になる可能性があることもわかっているのです。
いろいろな効果の噂を聞くと試してみたい気持ちが湧いてくるかもしれませんが、ママや赤ちゃんの命を危険にさらす可能性があることを忘れないでくださいね。
まとめ
胎盤食にはさまざまなメリットがあると言われていますが、それが本当かどうかはわかっていません。それなのに、胎盤に含まれる細菌やウイルス、重金属などを摂って病気になるリスクがあることはわかっています。
胎盤は中国では古来漢方薬とされており、日本でも胎盤を特別なものとして産後に庭に埋めたり、昔は食べる地域もあったと言います。
歴史的に胎盤が価値のあるものとされていたとしても、それを食べることが身体などに良いかどうかは別問題です。効果ははっきりしないのにリスクは確実にあるので、胎盤食はおすすめできない行為ということは覚えておいてくださいね。
(文:大崎典子/監修:宋美玄 先生)
※画像はイメージです
[*1]”Human placentophagy: a review” Farr A, Chervenak FA, McCullough LB, Baergen RN, Grünebaum A. Am J Obstet Gynecol. 2018 Apr;218(4):401.e1-401.e11. doi: 10.1016/j.ajog.2017.08.016. Epub 2017 Aug 30.<
[*2]『病気が見える vol.10』メディックメディア
[*3]「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(昭和46年6月1日薬発第476号)
[*4]NEJM Journal Watch:CDC Warns Against Consumption of Dried Placenta Capsules
[*5]「郡山郷土史」郡山郷土史編纂委員会
[*6]第35回日本助産学会学術集会・前夜祭企画「助産師学生のつどい-日本の産育習俗MAPを作ろう-」より「日本の産育習俗MAP」
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
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