【医師監修】妊婦がチーズを食べる時、リスクある種類の見分け方は? 妊娠中に安心なチーズとは
妊娠中に食べてもいいのか、控えたほうがいいのか迷う食材の1つにあげられることがある「チーズ」。手軽に買える種類も豊富ですから、どのように利用するのが安心か、調べてみました。
妊娠中はチーズを食べても大丈夫?
結論から言うと、妊娠中でもチーズを食べるのはOKで、栄養バランスの視点からもぜひ食生活に取り入れたい食品と言えます。ただし、チーズの種類によっては注意が必要です。
ナチュラルチーズは注意が必要!
妊娠中は食中毒のリスクが高く、重症化しやすくなります。またママが重症にならない場合にも、赤ちゃんは食品由来の病原体の影響を受けやすいことがわかっています[*2]。チーズの中でも、加熱処理をしていない生乳で作ったナチュラルチーズなどが感染源になる可能性がある食中毒は「リステリア症」というものです。
欧米では、加熱処理をしていない生乳で作ったナチュラルチーズ、生ハム、スモークサーモンなどの食べ物を原因としたリステリア菌による集団食中毒が発生しています。リステリア菌は4℃以下(つまり冷蔵庫の中)や12%の食塩濃度下でも増殖する菌[*4]で、日本国内で販売されている乳製品や食肉加工品などからリステリア菌が検出された例もあります。
さまざまな食中毒の中でみるとリステリア症は比較的まれな病気で、患者数は世界の国や地域によって年間100万人あたり0.1~10人程度と少ないものの、病気による死亡率が高いので予防が広く呼びかけられています[*3]。そしてその他の健康な成人と比べて、妊娠中の女性はリステリア症の感染率が20倍も高いとされます。風邪のような症状だけで治ることもある一方、胎盤を経て赤ちゃんに感染した場合に影響が出ることもあります[*3]。
リステリア症の赤ちゃんへの影響
胎盤を経て赤ちゃんに感染した場合、早産や流・死産の原因になることがあるだけではなく、赤ちゃんが低出生体重児となる可能性や、髄膜炎や水頭症、敗血症、精神・運動障害などを起こす可能性が指摘されています[*3][*5]。
ナチュラルチーズの種類
乳、クリーム、バターミルクなどを混ぜて凝固させた後、ホエーを除いて熟成したもので、加熱処理はされていません*。硬さや熟成方法で多品種あります。
種類:カマンベールチーズ、モッツアレラ、カッテージ、クリーム、ゴルゴンゾーラなど
*製品によっては、製造工程での加熱殺菌やリステリア菌検査を行い、問題のないことを確認している場合もある。
プロセスチーズならば妊娠中でもOK!
プロセスチーズはナチュラルチーズを粉砕・加熱して乳化剤を加え、型に入れて冷やし固めたもので、製造過程に加熱の工程があるためリステリア菌が増殖するリスクは低くなります[*6]。
種類:スライスチーズ、スティック、ポーションなど(形状が異なるものの、内容的には基本的に同じ)
チーズパッケージをチェックすればわかる
ナチュラルチーズかプロセスチーズかは、商品のパッケージに記載されています。パッケージには景品表示法に基づいて種類や原材料、賞味期限、保存方法、原産国(輸入品に限る)なども表記されています。
なお、市販されている国内産のチーズは製造過程で加熱殺菌済みです。
ただし、ピザ用チーズなど加熱して食べる製品には「要加熱」等の表示がありますので、それに従いましょう。リステリア菌は、食中毒の原因菌が増えにくいと思われるような状況下でも増える恐れがあるので、どんな食品もリステリア症の潜在的なリスクがあると考えられています。
妊娠中の女性がチーズを選ぶなら、加熱処理された「プロセスチーズ」、もしくは加熱殺菌済みの製品のものにして、表示の賞味期限や保存方法、調理法などを守ることが大切です。
---------------------------
妊娠中のクリームチーズについて、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎妊婦はクリームチーズを食べても大丈夫?
レアチーズケーキなど加熱していない原料を使い、加熱せずにつくられるデザートもリステリア菌による食中毒になる可能性があるので、妊娠中は控えましょう[*7]。
(松峯先生)
---------------------------
妊娠中のチーズケーキについて、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎妊婦はチーズケーキを食べても大丈夫?
どうしてもナチュラルチーズが食べたいときは?
妊娠中に気をつけたいナチュラルチーズですが、一手間加えれば妊婦さんでも食べることができます。
しっかり加熱すれば大丈夫
妊娠中、輸入もののナチュラルチーズをそのまま食べるのは控えましょう。
国内で生産される乳製品は殺菌された乳から作られるので安全とされるものの[*8]、妊娠中には基本的にしっかり加熱して食べるのが安心です。中心部分の温度が75℃の状態を1分間以上保つことを目安に加熱しましょう[*9]。
チーズはカルシウムを摂る上でも優秀な食品
そもそも牛乳・乳製品は1回に食べる量に含まれるカルシウム量が多く、他の食品に比べて吸収率も高いことがわかっています。
「国民健康・栄養調査」によると、カルシウムはほぼすべての年齢層で男女ともに十分にとれていません[*1]。そしてカルシウム不足は日本に限らず、多くの国で共通しているため、効率よくカルシウムがとれるものとして世界的に「3-A-Day」(1日に3回または3品の乳製品をとろう)運動もあります。
特に牛乳に乳酸菌や酵素などを加えて熟成発酵させるチーズには牛乳の栄養が凝縮されています。上手に利用してカルシウム補給しましょう。
(松峯先生)
まとめ
チーズはカルシウム補給のためにも食生活に取り入れたい食品ですが、加熱殺菌していないナチュラルチーズ(特に輸入品)に関しては、妊娠中にそのまま食べるのは食中毒予防の視点からNGです。そして妊娠中には基本的に生食を避け、しっかり加熱して食べる習慣を徹底するのが安心です。
(文・構成:下平貴子、監修:松峯美貴先生)
※画像はイメージです
[*1] 平成29年国民健康・栄養調査報告 第1部 栄養素等摂取状況調査の結果
日本人の食事摂取基準(2020 年版) - 厚生労働省
[*2] 国際食品安全当局ネットワーク
[*3] 厚生労働省検疫所 リステリア症 (ファクトシート),2018
[*4] 厚生労働省「リステリアによる食中毒」
[*5] 食品安全委員会 食品中のリステリア・モノサイトゲネス
[*6]厚生労働省
[*7] 母子栄養協会
[*8] 食品安全委員会
[*9]厚生労働省「これからママになるあなたへ 食べ物について知っておいてほしいこと」
食品安全委員会「加熱調理と食中毒」
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます