喋らない、弁当出さない、靴下脱ぎっぱ…思春期の息子はどう対応する?|元開成学園校長・柳沢先生取材#1
以前は何でも話してくれた息子が、思春期に差し掛かったら何を聞いても「べつに」「ふつう」としか答えてくれなくなった……とコミュニケーションの難しさに悩むことはありませんか?
男女ともに訪れる思春期。特に、母と息子・父と娘など異性の親は理解のできなさや、対応の難しさを感じることが多くあります。今回は、元開成学園校長の柳沢幸雄先生に「思春期男子との接し方」について聞きました。
お話をしてくださった方
柳沢 幸雄 先生
(北鎌倉女子学園中学校高等学校・学園長/東京大学名誉教授)
■思春期に口数が減るのは成長段階で当然のこと
――思春期の男の子が、口数が少なくなったり、親との会話を避けるようになるのはなぜでしょうか?
柳沢幸雄先生(以下、柳沢) 小学校高学年から高校生くらいにかけて、男の子も女の子も思春期を迎えます。個人差はありますが、第二次性徴を迎えるのもこのころ。第二次性徴を迎えた子どもが、異性の親と距離を置くようになるのはヒトという動物として当然のことです。さらに、第二次性徴によって、本人もよくわからないままに自分の体にさまざまな変化が現れます。子ども自身も、体の性的成熟や、心がもやもやするような変化をどうあつかったらいいのかわからないわけです。
子どもにあれこれ質問しても「べつに」「ふつう」としか答えてくれなくなったとしても、それは親を無視しているわけではありません。男の子自身もよくわからないから答えようがないわけです。さらに思春期では、親よりも友だちや先輩からの影響が大きくなることもあるでしょう。親よりも、自分の年齢の近い人たちに相談して、自分で考え、決めるようになるのです。口数が少なくなるのは、成長の段階を踏んでいると考えましょう。
――そんな成長段階にある男の子とコミュニケーションするときのポイントはありますか?
柳沢 子どもが反応しないと、親は先走ってあれこれ聞きたくなりますが、まずは子どもにしゃべらせることが大事です。子どもがぽつりと話し始めたときには、晩ごはんはUberEatsでもいいですから、お茶でも飲みながらじっくり話を聞きましょう。
話を聞くときのポイントは、子供が2、親が1の割合で話すこと、つまり親は子供の半分以下の時間しか喋らないようにします。親からの質問は1つにして、子どもが話し終わるまで待ちます。子どもの話の途中で遮ったり、親が畳みかけるように話してはいけません。子どもから答えが返ってきたら「そうなんだ」「それで、それで?」「おもしろいね」というように肯定的な相づちを入れると、子どもも話しやすいでしょう。
――子どもと話をすると、つい「なんで?」「それってこういうことでしょ」などと言ってしまって、肯定的な相づちはできていないですね。
柳沢 親であるみなさんは中学から英語を学んでたと思いますが、「英語で1分間の自己紹介をしてください」と求められたらスムーズに話せますか? おそらく多くの人が難しいと感じるでしょう。それと同じで、子どもが3歳くらいから言葉を話し始めたとして、思春期に入るころでは日本語を10年弱しか学んでいないわけです。それできちんとしゃべるというのは、なかなか難しい話だと想像できるのではないでしょうか。
子どもが順序立てて話す力を身につけるには、小さいころから子どもの話をたくさん聞いてあげることが大事なんです。
幼児期の子どもの話を引き出すポイントは、英語の疑問詞を1つずつ質問することです。子どもに「今日は楽しかった?」と聞いて「楽しかったよ」と答えたとしたら、
「何をしたの?(what)」
「だれと遊んだの?(who)」
「どこで?(where)」
「どんなふうに遊んだの?(how)」
などと1つずつ聞いて、答えを待ちます。そして、ひと通り聞き終わったら「今日は〇〇ちゃんとお砂場でこんな遊びをして、楽しかったんだね」とまとめてあげます。家庭でしっかり話を聞いてもらうことを繰り返すと、子どもは「こういう順番で話せば伝わるんだな」とわかり、少しずつ論理的な話し方が身についてきますよ。
ですから、思春期男子への質問は1つくらいにして、子どもが話すことを受け止めてあげましょう。肯定されていると感じると、子どもからいろいろと話してくれるようになるでしょう。
■子どもに失敗を経験させ、自分の責任を負わせることも大事
――思春期男子の口数が減るのは仕方ないとしても、お弁当箱を出さない、体操着や靴下を洗濯に出し忘れる、といった日常的な困りごとはどう話し合えばいいですか?
柳沢 お弁当箱を出さなければ自分で洗わせる、靴下を部屋に脱ぎっぱなしならそのままにする……つまり、やるべきことをやらないと困るというのを実際に経験させましょう。親が先回りしちゃいけません。思春期は、子どもが自分の人生を自分の足で歩みはじめている時期。転ばぬ先の杖が必要なのは老人です。子どもは転んで覚えたほうがいいんです。自分がしたことの責任は自分で負わせるようにしましょう。
それで、もし靴下がきちんと洗濯かごに入っている日があったら「今日はかごに入れられたね、助かったよ」と具体的にほめてあげましょう。
――男の子の部屋を掃除してあげたのに迷惑がられると、親もムッとしてしまいます。そんなときはどうすれば?
柳沢 そうしたら、「そんな言い方をされるのは悲しいから、もうやらないからね」でいいと思いますよ。逆に子どもに家事を覚えさせるチャンスと考えましょう。子どもに家事を手伝わせるメリットは、身の回りのことを自分でできるようになるだけでなく、子どもをほめるネタが増える、ということもあるんです。
幼児期の子どもはお手伝いをするのが好きですよね。たとえば子どもが卵を割るのを手伝ったら「卵を割れたね!」「1つもからが入らなかったね」と具体的にほめてあげる。そうすると子どもはうれしくなって、どんどん手伝うようになりますよね。
思春期男子も同じこと。人間はだれもがほめられたいですから、家事をして家族にほめられるとうれしいし、やる気も出るでしょう。もし、子どもがなにか料理を作ったとしたら、「おいしくできたね」「映える盛りつけだね」などと具体的にほめることができます。そこから家族との会話が広がるきっかけにもなります。さらに料理ができるようになると、洗い物や掃除など、ほかの家事ができるようにもなります。
(解説:柳沢幸雄先生 取材・文:早川奈緒子 撮影:梅沢香織)
>>後半に続きます(2024/06/08 06:06配信)