【医師監修】妊娠後期のイライラは赤ちゃんに影響する? つらい気持ちの対処法
妊娠後期に入ってからよくイライラして情緒が不安定……。それは妊婦さんの多くが経験することです。後期は誰でもイライラしやすい時期。その理由やイライラへの対処法をお伝えします。少しでもストレスを減らして出産に備えましょう。
妊娠後期のイライラは妊婦特有の原因もある?
妊娠後期にイライラする原因には、次のような理由が考えられます。
1. ホルモンの影響
妊娠すると、ホルモン分泌に大きな変化があります。女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンは妊娠前よりずっと多い量が分泌され、その量は妊娠中ずっと増加を続けます。こうしたホルモン分泌の変化によって、脳のストレスに対処する力が弱くなり、物事をいつも以上に悪く捉えるようになることがあります[*1]。
また、ストレスホルモンと呼ばれ、ストレスがある状態で増加する「コルチゾール」も妊娠が進むに連れて血中濃度が上昇することがわかっています[*2]。
2. 妊娠による変化などへのストレス
妊娠後期に入ると、お腹が目立って大きくなります。すると前にかがみにくくなるだけでなく、足元も見えづらくなって動きにくくなります。それに伴い、家事や日常の動作がとりづらくなり、今までより時間がかかってしまうことも。
さらにお腹に圧迫されて寝苦しくなったり、頻尿になって夜間何度も起きたりして、睡眠不足になりがちです。胃が圧迫されることで一度に少ししか食べられなくなることも。逆流性食道炎や腰痛など後期に起こりがちな体のトラブルもあります。こうした変化もイライラを引き起こす原因と考えられます。
3. 出産や産後への不安
出産が近づくと、無事に出産できるのか、産後の育児は大丈夫なのかという不安がつのるもの。それによって気持ちが高ぶってしまったり、よく眠れなくなったりすることがイライラにつながる可能性もあります。
イライラはあって当然!なんとか乗り切ろう
これだけ原因があるのですから、妊娠後期にイライラしても当たり前。イライラする自分を責めないでください。
出産を終えると、今度は育児でイライラすることがたくさんあります。そのときの練習として、自身の気持ちと向き合い、自分をなだめる方法を妊娠中から見つけられると良いですね。この記事の後半で簡単にできるイライラへの対処法も紹介するので、参考にしてみてください。
妊娠後期のイライラ、情緒不安定の特徴は?
妊娠後期のイライラや情緒不安定の現れ方もさまざまです。瞬間沸騰してすぐ怒ってしまうこともあれば、イライラした後すぐに落ち込むなど、気分が変わりやすい状態になることもあります。
<体験談>妊娠後期はイライラがすごかった!対処法も
妊娠後期にイライラで悩まされたことはありますか?
妊娠後期のイライラへの対処法
※マイナビ子育て調べ 調査期間:2020年9月16日~2021年10月4日 調査人数:154人(21歳~40歳以上の女性)の回答から抜粋 ※ここで紹介した方法と結果は、個人の体験によるものです。記載の方法を推奨したり、結果を保証するものではありません。
妊娠後期のイライラはいつまで続くの?
イライラして不安定な状況はいつまで続くのかも気になりますね。
徐々に治まることも
ホルモン分泌の変化や体の状態が大きく変わったことにある程度慣れることで、徐々にイライラが治まっていく人もいるでしょう。
産後うつにつながる人も
・いつも憂うつ、気分が重い
・何をしても楽しくない、興味がわかない
・疲れているのに眠れない、一日中ねむい、かなり早く目が覚めてしまう
・イライラして落ち着かない
・自分を責める、自分には価値がないと感じる
・考えがうまくまとまらなくなった
・死にたくなることがある
妊娠後期のイライラによる影響は?赤ちゃんは大丈夫?
妊娠中にイライラしていると、お腹の赤ちゃんに影響しないかも心配になりますね。
あまり心配し過ぎないで
強いストレスは早産や出生時低体重のリスクを高めることがわかっていますが、それはパートナーからの暴力や自然災害によって、ママ自身が危険にさらされる状態が継続した場合。
多少のイライラする程度なら、赤ちゃんへの影響は心配しなくて大丈夫です。自分のイライラが赤ちゃんに悪影響を及ぼしたらどうしよう……と焦ることで余計に精神的に不安定になる、なんてことがないようにしたいですね。
妊娠後期のイライラへの対処法
妊娠中は赤ちゃんのことを一番に考えたい、という気持ちもあると思いますが、まずはママの気持ちを立て直すことを優先しましょう。
もちろん、飲酒や喫煙はできませんが、自身のストレスと向き合って、イライラを少しでも減らせる方法を工夫して探してみることが大切です。まずはすぐにできるイライラ対策を紹介しましょう。
すぐできる|1秒で心を落ち着かせる方法4つ!
イラッとしたとき、すぐに気持ちを鎮めたい! そんなときは次の4つの方法を試してみてください[*3]。
・肩を1cm下げる
嫌なことがあると、体も反応して肩に力が入っていることがあります。まず肩を1cm下げるようにすると、力が抜けてラクになります。一度肩をあげて止めてから、ストンと落とすのもいいですね。
・息を「はぁーっ」と吐く
緊張状態になると呼吸が浅くなってしまうことも。息を大きく「はぁーっ」と吐くだけでも気持ちは多少落ち着きます。
・早食いになっていたら最初の一口を味わって食べる
早食いは消化に悪いですし、せっかくの食事を味わって食べないのはもったいないですね。最初の一口だけでも味わって食べると、その後も味や香りを感じやすくなり、満足感が生まれます。
・少し顔をあげて歩く
考え事をしながら歩いていると、うつむきがちに。すると姿勢も悪くなりますし、眉間にシワまでよっているかも。少し顔をあげると、その日の空模様や景色、季節のうつろいに目がとまり、気分も少しよくなるのではないでしょうか。
普段から|心がけたいイライラ対策7つ
イライラ対策として、日頃から次のことを心がけるのもおすすめです。
・経過が順調であれば運動する
運動にはストレスを解消してイライラを吹き飛ばす効果も。経過が順調で健康な妊婦さんであれば、軽い運動をすることが勧められています。マタニティヨガやマタニティスイミング、マタニティビクスで体を動かすのもいいですね。切迫早産や妊娠高血圧症候群などで安静が必要な場合は、かかりつけ医の指示に従ってください。
・規則正しい生活をする
ホルモンバランスを整えるためにも、できるだけ規則正しい生活を。もし不規則になっていたら、まず朝決まった時間に起きることから始めましょう。そして寝る時間、食事の時間も毎日できるだけ同じになるようにしてみましょう。
・とりあえず笑う
楽しくなくても意識して笑うと、リラックスするのに役立つと言われています。口角をあげて笑顔を作り、できれば声も出して笑ってみましょう。何もない状況で笑うのが難しければ、おもしろい動画を見たり漫画を読んだりして、笑える機会を意識して増やしてみましょう。
・瞑想をする
瞑想は医学的にもリラックス効果が認められていて、効果的なストレス解消法とされています。色々なやり方があるので、まず仕事中の気分転換向けなど、短時間のものを試してみましょう。
・好きなものリストを作る
集中して好きな本を読んだり、映画やドラマを見たり、好きな音楽を聴くのはリラックスするのに役立ちます。他に、手芸やペットの世話、料理などで癒される人もいるでしょう。
ただイライラの真っ最中に気分転換しようと考えても、ひとつ何か浮かんでは「今、そんな気分じゃない……」となりがち。あらかじめ自分がリラックスできる行動のリストを作っておいて、イライラしたときやりたいと思えることがすぐ見つかるようにしておくといいですね。
・一人で抱え込まず早めに相談する
イライラの原因がはっきりわかっているときは、気持ちが爆発する前に早めに誰かに相談しましょう。例えば義理の家族のことならパパに、仕事のことなら職場の信頼できる人に。自身の体調やメンタル、子育ての不安などは妊婦健診でも相談できます。
・自分にご褒美をあげる
妊娠後期は赤ちゃんが急速に成長し、出産が近づいてくる大変な時期です。そんな時期を毎日がんばって過ごしている自分に優しくして、ご褒美をあげましょう。物だけでなく、ただゆっくり休むこともご褒美です。「〇〇しなくては」という気持ちは一度置いておいて、「今はがんばらないとき」と考えて。
「こうでなくてはいけない」という物事の考え方もいったん見直し、考え方、受け止め方をできるだけ柔軟にできると、自分を肯定する・いたわる気持ちが生まれてくるかもしれません。
パートナー|そばにいるからこそできること
妊娠中に情緒不安定になるのは誰にでも起こる普通のこと。だからといって、放置は厳禁です。パパはそっとしておくことで時間が解決したと思っていても、ママの中では「あのとき何もしてくれなかった……」と禍根が残ってしまうかも。ただちに向き合ってサポートする必要があります。まずできるのは「話を聞く」こと。それもただ聞き流すのではなく、よく聞いて状況を理解し、共感を示して気持ちに寄り添うようにしましょう。
このとき、「がんばれ」といった励ましはかえってママを追い詰めることがあります。言ってはいけない言葉があることも覚えておいてください。逆に「そうだね」という言葉は「気持ちを受け止めた」という印象を与えるので、コミュニケーションをスムーズにしてくれます。会話の最初に積極的に使ってみてください。
共感の言葉がけは難しいかもしれませんが、産後の子育てでも大切なことです。まずはママの話をよく聞いて、相手の気持ちに寄り添うことから始めましょう。話すほかにも、「上の子のお世話や家事を引き受ける」「パパ方の家族の窓口になる」など、率先して担当していきましょう。
うつ病のサインが見られたら早めに専門家に相談して
なお、単なるイライラではなくうつ状態になると、メンタルヘルスの専門家の助けも必要です。本人は気づけないかもしれないので、「いつもぼんやりしている」「何でもないことで涙ぐむ」「自殺や虐待をほのめかす」などのサインが見られたら、できるだけ早く専門家に相談してください。
仕事|職場への相談は母健連絡カードで
医師や助産師から、事業主に女性労働者への指示事項を伝達するツールとして「母健連絡カード」(母性健康管理指導事項連絡カード)があります。母健連絡カードの内容には、体調面だけでなく「妊娠中・産後の不安・不眠・落ち着かないなど」という精神的な項目もあります。
妊娠中のメンタル不調で仕事に支障が出そうと不安なときは、まず医師に相談したうえで、このカード利用して職場に相談することも検討してください。
まとめ
妊娠後期にイライラするのはよくあることで、その原因も複数考えられます。精神的な問題なので、何かこれをしたらすぐ改善するという方法はなかなかありませんが、試してみてほしい対処法はここで解説したようにたくさんあります。考え方や生活習慣など、ちょっとしたことを変えるだけでぐんとラクになることもあるので、まずはいくつか試しながら自分に合った方法を見つけてみてください。制限されることに目を向けるよりも、あと少ししかない赤ちゃんがお腹にいる生活をできるだけ楽しみながら、イライラと上手につきあっていきましょう。
(文:佐藤華奈子/監修:直林奈月 先生)
※画像はイメージです
[*1]厚生労働省「e-ヘルスネット 妊娠・出産に伴ううつ病の症状と治療」
[*2]荒田 尚子:妊娠中の内分泌疾患の管理, 日内会誌 106:2432~2438,2017
[*3]国立精神・神経医療研究センター Knowell Family 日々のストレスに、1秒で心を落ち着かせる方法
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます