宇宙の不思議にたくさん触れて、自然や科学に親しむきっかけにしてほしい! 本間希樹さんインタビュー<後編>
「子どもが宇宙に興味を持ってくれたら……」「宇宙に関心を持ち始めた子どもを応援したい!」。今回はそんな想いを抱いているママのために、宇宙への興味を広げるヒントを、天文学者の本間希樹先生にインタビュー。後編では、「目には見えない宇宙の面白さ」「子ども時代に宇宙を知ることの意味」などについて伺っていきます。
お話をしてくださった方
本間 希樹 先生
(国立天文台水沢VLBI観測所所長・教授)
お話を伺ったのは、当サイトでおでかけ記事を連載中のあゆーやです。
目には見えない宇宙の謎が、もっと知りたいという好奇心をかきたてる
――小学生のころから、宇宙に魅了されていた本間先生。子どものころに見ていた「宇宙」と、今、天文学者として見ている「宇宙」は違いますか?
本間希樹先生(以下、本間) やっぱり違います。子どものころに興味を持っていたのは、目に見えるもの。図鑑に載っているものだったり、天体望遠鏡をのぞいて見るものだったり、自分の目で見て「キレイだな」とか「神秘的だな」と感じるものでした。でも天文学の研究を始めてみると、目に見えない宇宙に興味を持つようになりましたね。
――ほぉ、目に見えない宇宙とは具体的にどんなものでしょう?
本間 たとえば、見えない宇宙でも究極に見えない天体「ブラックホール」とか、宇宙の始まりの「ビッグバン」はどういうものだったのかとか。見えないからこそ、見てみたいと思うじゃないですか。
――はい、見てみたくなります!
本間 そうですよね。今の僕の好奇心をかきたてているのは、目には見えない宇宙の謎。その謎を解き明かすのが面白いです。
全員が抱いていた「ブラックホールを見たい」という夢
――そんな“見えない宇宙の謎”に挑んだのが、先生も日本チーム代表として参加された国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」による、ブラックホールの撮影成功ですよね。公開された写真は、人類が初めて目にしたブラックホールの姿として話題を呼びました。
本間 ブラックホールは光さえ飲み込んでしまう暗黒の天体なので、決して見ることはできません。そこで世界各地の電波望遠鏡(※)をつなぎあわせ、地球とほぼ同じサイズの望遠鏡をつくりだすことによって、ブラックホールの影の撮影に成功しました。
目で見える天体の光をとらえて観測する一般的な「光学式望遠鏡」に対し、天体が発する電波を受け取って観測する望遠鏡のこと。
――世界中から300人以上を超える研究者が集まり、チーム一丸となって成し遂げたと伺いましたが。
本間 総勢300人を超えるプロジェクトだったので、もちろん時には意見の食い違いから難しい局面にもぶつかりました。それでもプロジェクトが成功したのは、集まった全員が「ブラックホールを見たい」という同じ夢を持っていたから。チームで何かを成し遂げるときにいちばん大事なのは、全員が同じ夢を持つことです。これは講演会などでも、子どもたちによく伝えていることなんですけどね。
宇宙を知ると、自然や科学への興味もどんどんわいてくる
――ところで先生は、子ども時代に「宇宙」を知ることにどんな意味があるとお考えですか?
本間 子どもたちが楽しみながら宇宙を学び、宇宙と深い関わりを持つ「自然」や「科学」に親しむ入口にしてほしいと思っています。宇宙って分かりやすいじゃないですか。夜空を見上げて、「あ、星ってキレイだな」と思ったり、そこにロマンを感じたり。あとは日食や流星群などの天体現象を見て、宇宙の不思議にたくさん触れてほしいと思います。
――宇宙を通じて、子どもが自然や科学好きになってくれることもあるんですね!
本間 あると思います。宇宙の神秘や不思議に触れると、「あの星は何だろう?」「なぜ日食って起こるんだろう?」「流れ星はどこからやってくるんだろう」などと、疑問が芽生えます。そうした疑問の答えを見つけているうちに、自然や科学って面白いなぁと気づくきっかけになります。
宇宙は「究極の“自分の外側”」
――先生の著書『深すぎてヤバい 宇宙の図鑑』を読んで、太陽が今から50億年後に燃え尽きることを知りました。子どもたちが宇宙を知ることは、将来のミッションに気づくきっかけにもなるのかなと。
本間 その通りですね。人類は地球のことを知らないと生きていけないことは、「地球温暖化問題」などで分かってきました。でもじつは、宇宙のことも知らないと生きていけない。太陽が燃え尽きるのはまだ50億年先のことなので心配しなくてもよいのですが、宇宙からの視点で地球のことを考えることはとても大事なことです。
――なるほど、宇宙からの視点ですか! そのような視点に立つと、子どもの生き方も変わりそう。
本間 はい、変わると思います。たとえば小さな子どもは、まだ“自分の内側”にしか意識が向いていないから、なかなか周りの人の気持ちを思いやれませんよね。でも人間が生きていくうえでは、自分と他人、自分と周りの人という、いわゆる “自分の外側”に意識を向けることが大切です。その“自分の外側”の究極が、僕は「宇宙」だと考えています。だから宇宙を知ると自分の外側にも目を向けられるようになり、適切な人間関係を築けるようになると思います。
子どもたちに持ち続けてほしい「好奇心」と「チャレンジ精神」
――先生は、NHKラジオ「子ども科学電話相談」で、子どもたちの疑問に直接回答されていらっしゃいますよね。そこで、感じていることをお聞かせください。
本間 毎回、子どもたちの好奇心の鋭さに驚かされています。僕らのような研究者は好奇心が大事だと思って日頃から意識していますが、どうしても失いかける。常識というの名の偏見に捕らわれて、ありえないって諦めたり、はなっから考えなかったり。子どもたちの好奇心の鋭さに触れることで、「研究者はこうあるべし!」って教えてもらっています。
――面白い! 子どもたちの純粋な好奇心って貴重ですね。
本間 そう思います。いちばん分かりやすいのが、どこかの講演会かイベントで、ブラックホールの写真が撮れたという話を子どもたちにしたら「次は中の写真ですよね!」って発言があって(笑)。僕らはそんなの見えるわけないと思っているから、考えもしない。でも本当の研究は、そこを見据えるべきなんでしょうね。
――宇宙分野のお仕事をめざすうえで「好奇心」は大事な素質だということが分かりましたが、ほかにはどんな素質が必要なんでしょう?
本間 好奇心とあわせてもう一つ大事なのが「チャレンジ精神」です。できることだけやっていても、新しい道は切り開けません。子どもたちには、失敗を恐れずに挑戦する気持ちを持ち続けてほしいと思います。
「好き」を見つけて、好奇心を育てて
――最後に、将来宇宙分野で活躍するかもしれない未来の子どもたちにメッセージをお願いします!
本間 宇宙ビジネスの成長が勢いを増す今、僕らのような研究者以外にも、宇宙に興味がある人の活躍の場はいくらでもあります。だからぜひ今のうちから「好き」を見つけ、いろんな意味で深堀りしながら、好奇心を育てていってほしいと思います。
(解説:本間希樹先生、取材・文:あゆーや)