
【医師監修】排卵日と体温の関係は?基礎体温パターンと予測の仕方
赤ちゃんが欲しいカップルにとって、排卵日を知ることは最初の一歩とも言える大切なこと。排卵のタイミングは、いくつかの方法である程度把握することができます。中でも一番簡単なのは「体温を測る」こと。体温から何がわかるのか、排卵との関係などを解説します。
- 排卵日とは? 妊娠しやすい日ってほんと?
- 月に一度、卵巣から卵管へ卵子が跳び出す日
- 「排卵日が最も妊娠しやすい」は正しくない
- 症状から排卵日に気づくもの?
- 排卵日前後の体温変化
- 生理開始とともに体温が低下し「低温期」に
- 排卵日前後に、体温がさらに低下する「陥落日」が
- 排卵とともに体温が上昇して約2週間続く「高温期」に
- 基礎体温からの排卵日の判断が難しい人も
- 低温期から高温期への変化がわかりづらい場合
- なにかの異常が考えられる場合
- 基礎体温の正しい測り方
- 基礎体温=なにもしていないときの体温
- 起床後すぐ、床の中で、舌下で5分間かけて測定
- 基礎体温は気になる体調とともに記録する
- 基礎体温でわかるのは「排卵が起こったこと」
- 排卵日をより正確に知るには?
- まとめ
排卵日とは? 妊娠しやすい日ってほんと?


最初に「排卵日って何?」ということからお話ししましょう。「排卵日」という漢字から、卵子が排出される日だということはわかるかと思いますが、もう少し詳しく知っておくと、体温(正確には基礎体温)を測る意味をよく理解できます。
月に一度、卵巣から卵管へ卵子が跳び出す日
卵子は「卵巣」で作られます。
卵巣には「卵胞」という袋状の殻があり、その殻の中に卵子の元になる「原始卵胞」が、女性がまだお母さんの胎内にいる時点で既に一生分蓄えられています。その原始卵胞の中で最も成長したものが、定期的に(だいたい月に1回)、卵胞から飛び出すのが「排卵」(❶)で、排卵が起きた日が「排卵日」です。
飛び出た卵子は卵管に移動します。それとともに、子宮では受精卵を迎える準備が始まり、赤ちゃんのベッドになる子宮内膜を厚くします。その状態が整ったタイミングで、排卵された卵子と女性の体内に入ってきた精子が出会って(❷)受精卵になり、受精卵が子宮内膜に着床(❸)すると、妊娠が成立します。

「排卵日が最も妊娠しやすい」は正しくない
排卵日が最も妊娠しやすいと思っている人は少なくないと思いますが、その理由について解説します。
まず、妊娠は、卵子と精子が出会わなければ成立しません。男性の精子が女性の体の中で生きている時間は、およそ72時間と言われています。つまり、セックス後3日ほどは、卵子にたどり着いて受精するチャンスはあるということ。
受精可能期間が短い卵子
一方の卵子は寿命が約24時間(受精可能な期間は排卵後10数時間とも、体外受精のデータからすると、受精後も順調な発育するのは排卵後数時間以内)と、精子よりも受精可能な期間が短いとされています。つまり、排卵後のわずかな時間が受精のチャンスということです。


精子を排卵に合わせてスタンバイさせる
となると、排卵が起きてからセックスをして精子が卵子を探しにいくよりも、排卵より先にセックスをして精子が卵管にいる状態にスタンバイしておいて、そのタイミングで排卵が起きたほうが、受精する確率が高くなると考えられます。また、精子が腟に射精されてから、受精の場所である卵管膨大部に到達する時間は1時間ぐらいといわれています[*1]。
「排卵日の3日前~当日まで」を中心に
このような理由から、排卵日と排卵日の1〜2日ぐらい前のセックスが最も妊娠する確率が高いと言えますが、排卵のずれや精子の卵管膨大部到達時間、精子の生存期間等も考慮すると、妊娠を希望している際のセックスは「排卵日の3日前~当日まで」を中心に、と期間を広めに考えるといいでしょう。
症状から排卵日に気づくもの?
「排卵日の少し前が最も妊娠しやすい」とお話ししましたが、排卵日を知ることができなければ、その知識を役立てられません。なにも手段を使わずに、なんとなく「そろそろ排卵日かな」と気づくことはできるのでしょうか?
痛みや出血がある女性も


女性の3人に1人は、排卵の時期に「排卵痛」と呼ばれる短時間の軽い腹痛や違和感を感じたり、少量の性器出血などが起きるとの報告があります[*2]。似たような症状は排卵以外の理由でもしばしばみられますが、基礎体温を測定することで、それらの症状と排卵が関連していることに気づくきっかけにもなります。
女子大生を対象とするある調査では、基礎体温を測定することで58%が「排卵日がわかる」と回答したとの報告があります[*3]。では、排卵と基礎体温の関係について見ていきましょう。
排卵日前後の体温変化
女性の基礎体温は、ホルモンの関係で、生理(月経)周期に合わせて次のように変化します。
生理開始とともに体温が低下し「低温期」に
生理の初日を1日目と数え、次の生理の前日までが「生理周期」です。生理周期は通常、25~38日です[*4]。

生理の1日目から排卵までの約2週間は、低温期(低温相)です。低温期にはエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌によって子宮内膜が増殖します(そのため低温期は卵胞期とも呼ばれます)。
排卵日前後に、体温がさらに低下する「陥落日」が
低温期でエストロゲンの分泌が高まると、脳の視床下部にある下垂体から黄体形成ホルモン(LH)という排卵を指示するホルモンが分泌され、排卵が起こります。低温期の最終日に、体温が一層低下することがあり、「陥落日」と呼ばれます。ただし、必ずしも陥落日がはっきりとわかるわけではありません。
排卵とともに体温が上昇して約2週間続く「高温期」に
排卵が起こると、その後はプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が始まります。それとともに体温が高くなり、高温期(高温相)になります(そのため高温期は黄体期とも呼ばれます)。低温期と高温期の基礎体温の差は0.3~0.5℃ぐらいです[*5,6,7]。

高温期は12~16日続き[*5,7,8]、この長さは、低温期に比べて個人差が少ないと言われています。なお、高温期が17日を超えて続き、生理がこない場合は妊娠の可能性が考えられます。
基礎体温からの排卵日の判断が難しい人も
一方、基礎体温を測っていても、排卵日の判断が難しいこともあります。
低温期から高温期への変化がわかりづらい場合


基礎体温の変化が典型的な二相性であれば(低温期と高温期の変わり目がはっきりしていれば)、低温期の最終日を知ることに苦労しません。しかし、低温期から徐々に高温期に移行する人の場合、いつが低温期最終日だったのかの判断がわかりづらくなります。
そのようなケースでは、さきほど書いたように高温期(黄体期)の長さは個人差が少なく14日前後であることを利用して、次の生理開始日から逆算して排卵日を推定することもできます。
なにかの異常が考えられる場合
基礎体温の測定を排卵日の把握に役立てられないもう一つのケースは、何かしらの異常がある場合です。以下のような状態が思い当たるのであれば、医師に相談しましょう。
・無排卵月経:基礎体温がほぼ一定で、低温期が続いていると考えられる場合、女性ホルモンの分泌低下などによる無排卵月経の可能性があります。
・黄体機能不全:プロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が少なく、高温期が短い状態。高温期に入ってから基礎体温が低下することもあります。
・基礎代謝が低い、低体温:基礎代謝が低いと熱を産生できないため基礎体温も低くなります。そのために高温期に入ってもそれがよくわからないことがあります。
基礎体温の正しい測り方
まだ「体温」と「基礎体温」の違いをお話ししていませんでしたので、ここで解説します。
基礎体温=なにもしていないときの体温
体温は1日24時間一定ではなく、時間帯や行動内容などでわずかに変化しています。そのうち基礎体温とは、眠っていて何もしていない安静時の体温のことをいいます。


体温は通常、夜間睡眠時に低下し、朝目覚める直前から上昇し始めます。そのため厳密な意味での基礎体温は、目覚める前の体温ということになりますが、自分で測ることはできませんので、朝目覚めた直後の体温を基礎体温として測ります。
起床後すぐ、床の中で、舌下で5分間かけて測定
さきほど解説したように、低温期と高温期の基礎体温の差は0.3~0.5℃ぐらい。そのわずかな差をきちんと把握するには、毎日一定の条件で測定する必要があります。
トイレにも行く前に床の中で測る
朝目覚めたら、床の中で測定します。体をできるだけ動かさないことがポイント。もちろんトイレに行くのもNG。少し立ち上がるだけでも体温は上がってしまいます。
水銀の目盛は前の晩に下げておく


水銀体温計を使用する場合、目盛を下げるために体温計を振る動作も体温を上げてしまいます。ですから毎晩、寝る前には目盛が下がっていることを確認しましょう。そして、枕元に体温計を置いて眠りましょう。
舌下で測る
体温は腋窩(脇の下)でも測れますが、口の中で測ることをお勧めします。その理由は、腋窩では温度が平衡になるのに時間がかかるからです。また、脇の下は汗の影響を受けるので、正確性も低下します。
体温計を舌の下に差し込み、口を閉じて口呼吸にならないようにして測定します。
毎日一定の時刻に


基礎体温は時間とともに変化します。低温期から高温期へ変わるタイミングを正確に知るには、わずかな変化の影響を少しでも抑えたいところ。ですからできるだけ毎日同じ時刻に測るようにしてください。
なお、時刻が1時間遅れるごとに約0.1℃の補正が必要になると言われます[*9]。
基礎体温は気になる体調とともに記録する
基礎体温を測っただけでは意味がありません。毎日記録する必要があります。グラフ形式で記録していくことで、低温期と高温期の違いを把握できます。最近では、測定した基礎体温を記録できるパソコンやスマートフォンのアプリもあり、排卵日の予測機能がついているものもあるので、使い勝手のよいものを選んで使うのもよいでしょう。


記録する際には、基礎体温とあわせて、測定時刻、生理や帯下の状態、性交日、下腹部の痛みの有無、薬を飲んだ場合はそれについても記録しておくとよいでしょう。体調に影響を及ぼす原因を探す手助けになります。
基礎体温でわかるのは「排卵が起こったこと」
基礎体温の測定は、排卵日を把握するための最も初歩的な手段です。低温期最終日の前後に排卵が起きることは確かですが、低温期最終日や陥落日、または高温期初日が排卵日とピタリと一致するかというと、それは実証されていません。
また、高温期に移行したことがわかった時は、すでに排卵が起こった後なので、基礎体温で排卵日を事前に予測するということはできません。
排卵日を事前に知るには産婦人科での詳しい検査が必要です。また、このあと解説する市販薬を利用する方法もあります。
排卵日をより正確に知るには?


排卵日を知るための検査の1つとして、黄体形成ホルモンが分泌されたかどうかを調べる方法があります。黄体形成ホルモンとは「陥落日」の項で説明したとおり、排卵を促す指令のようなホルモンです。この検査は自宅でも行え、「排卵日予測検査薬」として第1類医薬品という位置づけで、薬局やドラッグストアなどで販売されています。尿を試験紙にかけたり、カップに採尿しそこに浸すことで、数分間で判定できます。
基礎体温の記録から、排卵日が近いと思われるタイミング(次回生理開始予定日より17日前から)で測定を始め、陽性になったら間もなく排卵が起きると考えられます。
まとめ


排卵を迎えると、一般的にそれまでよりも0.3~0.5℃ほど体温が高くなります。基礎体温をグラフにつけていると低温期から高温期への移行期に起こる排卵を把握することができます。しかし、排卵日を正確に知るには、基礎体温の変化だけでは限界があります。何か気になることがあるときは早めに専門機関に相談してみましょう。
(文:久保秀実/監修:齊藤英和 先生)
※画像はイメージです
[*1]Am J Obstet Gynekcol 47; 407-411,1944
[*2]産婦人科の実際42(7),p.973,1993
[*3]日本養護教諭教育学会誌14(1),p.77,2011
[*4]日本産婦人科学会編著HUMAN+
[*5]ヘルスケアラボ/早めの準備が大切 妊娠・出産のこと/基礎体温
[*6]日産婦誌46(2),N-35,1994
[*7]産科と婦人科63増刊,p.74,1996
[*8]周産期医学28増刊,p.46,1998
[*9]周産期医学22(5),p.615,1992
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます