
【医師監修】39歳の妊娠・出産で知りたいこと!高齢出産?リスクはある?
日本女性の平均初産年齢は、2015年以降は30.7歳となっており、今や、初めてママになる女性の5人に1人は35歳以上です[*1]。晩婚化・晩産化は時代の流れとはいえ、35歳以上の妊娠・出産には注意しておきたいことがいくつかあります。ここでは、30代後半での妊娠・出産について知っておきたいことを紹介します。
39歳でも自然妊娠は可能?


「いつかは子供を持ちたいけれど、今はまだ仕事優先」「高齢出産の芸能人ママはたくさんいるから私だって大丈夫」「生理があるうちは妊娠できるはず」
――さまざまな事情や思いで妊娠・出産を先延ばしにするうち、気づいたら40歳目前!という女性も少なくはありません。「30代はまだ若い」「いつでも産める」は本当なのでしょうか。
30代前半を過ぎると妊娠する力が低下する
女性が妊娠する能力(男性の場合は妊娠させる能力)のことを、「妊孕性(にんようせい)」といいます。妊孕性が高く、妊娠・出産に適しているのは、「ホルモンバランスがよい」「子宮や卵巣の問題が少ない」「卵細胞が老化していない」などの条件がそろっている状態で、年齢でいうと25~35歳前後にあたります。
妊孕性が35歳前後を境に下がっていくことは、科学的なデータからも裏付けられています。体外受精などの生殖補助医療を行った際の「妊娠率」を年齢別に見ると、25~33歳では4割を超えていますが、それ以降は徐々に下がり、39歳では3割、44歳では1割ほどに低下します[*2]。女性の妊娠する力は、30代前半からすでに衰え始めているのです。
39歳以上でママになる人はどれくらいいるの?
もちろん、39歳を過ぎてママになる人も大勢います。2017年に日本で生まれた94万6065人の赤ちゃんのうち、5万3613人(全体の5.7%)が、40代以上(39歳超)のママから生まれていました。実はこの数、20年あまり前(1995年)に比べて4万人以上も増えているのです。ちなみに年間の出生総数は、この20年あまりで約24万人も減っています[*1]。
39歳は高齢出産になる?


さて、ここまで「高齢出産」「高齢ママ」などと書いてきましたが、妊娠・出産における“高齢”とは、医学的には何歳以上を指すのでしょうか。
39歳の「初産」は高齢出産
日本産科婦人科学会は、35歳以上で初めてのお産をする妊婦さんを「高年初産婦」と定めています。高年初産婦は、お産が長引いたり、赤ちゃんの染色体異常が増えたりするリスクが高まるため、「要注意妊婦」と位置付けられています。お産が2回目以降の妊婦さんに対しては特に定義はないものの、35歳以上であれば同様のリスクがあるとみなされます。
高齢妊娠・出産のリスクとは?


では、ママが35歳を超えると、どのようなトラブルが増えるのでしょうか。まず妊娠そのものが難しくなることは、先ほど説明したとおり。それ以外にも、さまざまなリスクが待ち受けているようなのです。
流産のリスクが高くなる
30代半ば以降は、妊娠率が低下する一方で流産率は上昇します。前述した生殖補助医療のデータで「流産率」を見ると、25~33歳では2割以下ですが、34歳で2割を超え、41歳では4割と約2倍に増加します[*2]。
流産の主な原因は受精卵の染色体異常と考えられており、30代後半の染色体異常発生率は、前半に比べて約2倍に上るという報告もあります[*3]。
染色体異常を持って出生する赤ちゃんの率が高くなる
受精卵の染色体異常は、赤ちゃんにさまざまな病気や障害をもたらします。代表的なものが「ダウン症候群」です。ダウン症候群の赤ちゃんが生まれる頻度もママが高齢になるほど高くなり、40歳の場合は25歳に比べて約10倍の頻度といわれています[*4]。
妊娠中、分娩中、産後のリスクが高くなる


妊娠中のリスクは?
ママが35歳以上になると、妊娠前から糖尿病や高血圧、子宮筋腫、甲状腺疾患などの持病を持っているケースが増えてきます。これらは「合併症妊娠」と呼ばれ、妊娠に配慮した治療・管理が必要になります。
また、妊娠中に特有の病気に妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離(正常な位置についていた胎盤が出産前に突然剝がれてしまうこと)などがありますが(これらは妊娠合併症と呼ばれます)、これらの発症率も、ママが高齢になるほど高まります。
また、妊婦健診で子宮頸がんにかかっていることがわかったり、乳がんが発見されたりするケースも、年齢が上がるほど増えます。
分娩中のリスクは?
経腟分娩の赤ちゃんは産道を通って生まれてきますが、35歳以上で初産のママは腟や会陰がお産が進んでもなかなか軟らかくならず、子宮口が全開大になるまで時間がかかる傾向があります。
陣痛が弱くなったり遠のいたりする微弱陣痛も起こりやすく、お産の途中でママが疲れきってしまったり、赤ちゃんの具合が悪くなったりしたときには「吸引分娩」「鉗子分娩」「緊急帝王切開」などの医療的な措置を行います。お産に伴う出血も、若いママより増えやすいようです。
産後のリスクは?
産後は急激なホルモン分泌量の低下や、お産の疲れ、慣れない育児などで心身が消耗しています。この時期には約3割のママが「マタニティーブルーズ」と呼ばれる気分の落ち込みを経験し、さらに重症の「産後うつ病」に移行するケースも約5%あるといわれています[*5]。産後うつ病の発症率は、「35歳以上のママのほうが、25~34歳のママより高かった」とする研究報告があります[*6]。年齢の高いママは、心の不調にも注意が必要です。
体外受精などの助成システムについて
赤ちゃんを望んでいるのになかなか妊娠しない場合は、「不妊治療」も一つの選択肢となります。日本産科婦人科学会は、「健康な男女が避妊せずに性交しているのに、一般的には1年間、妊娠しない場合」を「不妊」と定義しています。
ただし、排卵がなかったり、子宮や骨盤周囲の病気をもっている場合は妊娠しにくいことが知られており、こういった場合は1年間待たずに、検査や治療を開始したほうが良いこともあります。
また、加齢により妊娠しにくくなっていることが疑われる場合も、待つことでより妊娠しにくくなる可能性があるため、1年を待たずに専門病院を受診したほうが良い場合もあります。
不妊治療は、健康保険が適用される一般不妊治療と適用されない生殖補助医療に大きく分けられ、体外受精・胚移植や顕微授精といった生殖補助医療では高額な費用がかかりますが、国が費用の一部を助成してくれる制度があります。
女性の年齢が43歳未満である夫婦で、夫婦合算の所得が要件を満たした場合に利用でき、39歳までは通算6回、40~42歳は通算3回の助成が受けられます。申請する場合は、厚生労働省のホームページに相談窓口などの情報が公開されているので、まずは、該当する都道府県の窓口に相談してください。
不妊に悩む夫婦への支援について|厚生労働省
高齢妊娠・出産は怖いことばかりではない


そもそも妊娠までのハードルが高いうえに、妊娠合併症や難産のリスクも上がる高齢出産。「39歳の妊娠・出産はやっぱり怖い!」と思われたでしょうか。加齢によるデメリットは正しく認識しておく必要がありますが、恐れすぎることはありません。
プレコンセプションケアのすすめ
高齢出産にチャレンジするママにぜひ知っておいてほしいのが、「プレコンセプションケア(preconception care)」という考え方。「受胎(conception)前からの健康管理」を意味し、具体的には「将来の妊娠に備えて健康チェック、ワクチン接種などを済ませる」「糖尿病や高血圧、子宮筋腫などの持病があれば、あらかじめ治療・管理しておく」ことなどを指します。
ママの肥満ややせ過ぎも、妊娠前にできるだけ改善しておきましょう。
豊かな人生経験を子育てに活かそう
高齢ママには、これまでの人生経験や、職場・地域で築いてきたネットワーク、経済的な余裕などの強みもあります。そうしたメリットを上手に活用して、ゆとりをもって子育てすることもできるはず。また、パパはもちろん、赤ちゃんの祖父母、公的・民間の育児支援サービスなどの手も、必要に応じ、積極的に借りてください。何事も一人で抱え込まず、頑張りすぎないことが、子育てを楽しむコツです。
まとめ
39歳での妊娠・出産に加齢がもたらす数々のリスクがあるのは、まぎれもない事実ですが、正しい知識を持ち、適切に対処することで乗り越えられるものもあるはず。豊かな人生経験を積んでいるという強みを生かして、まずは前向きにチャレンジしみましょう。
(文:吉村直子/毎日新聞出版MMJ編集部/監修:浅川恭行先生)
※画像はイメージです
[*1]厚生労働省 2017「人口動態統計」
[*2]公益社団法人日本産科婦人科学会, ARTデータブック, 「ART(生殖補助医療)妊娠率・生産率・流産率2016」.
[*3]Pellicer A, et al.: Fertility and Sterility 71: 1033-1039, 1999.
[*4]Cuckle HS, et al.: British Journal of Obstetetrics and Gynaecology 94: 387-402, 1987.
[*5]公益社団法人 日本産科婦人科学会, 産婦人科診療ガイドライン―産科編2017, CQ315産褥精神障害の取り扱いは?, p239
[*6]浜松医科大学・子どものこころの発達研究センター「産後うつに関する長期縦断研究」報告書
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます