
【医師監修】妊婦はどうして喉が乾くの?妊娠中に必要とされる水分の量とは
妊娠してから、いつもより喉が渇くような気がしませんか? 妊婦さんは喉が渇きやすくなり、水分を多くとったほうがいいといわれます。妊娠中にはどれくらいの水分が必要なのでしょうか? また、それはなぜなのでしょうか?
妊娠初期だけとは限らない!妊婦は喉が乾く

妊娠中は水分不足になりやすく、喉が渇きやすい状態です。なぜ喉が渇くのか、そのしくみを知っておきましょう。
妊娠中は初期・中期・後期と喉が乾きやすい
「妊娠すると喉が渇くようになった」と感じる人は少なくないようです。喉の渇きは初期・中期・後期の全期間を通じて起こり得ます。赤ちゃんのための水分が必要になるため、妊娠前よりも水分が不足しやすいからです。
そもそも、「人体の60%は水でできている」といわれるように、水分は私たちの体にとって、なくてはならないもの。そのため、毎日の水分摂取は欠かせません。
通常、成人が1日に必要な水分量は約2.5Lといわれています。尿や便、呼吸や汗などで1日に2.5Lが失われるためです。一方、1日に摂取する水分量は、食べ物に含まれる水分からの約1Lと、摂取した食べ物が体内で分解されるときに生じる「代謝水」約0.3Lを合わせると1.3L。これだけでは不足するので、飲み物からも1.2Lほど摂取しなければなりません[*1]。
しかし妊娠中は、赤ちゃんのためにより多くの水分が必要になるため、妊娠前と同じ飲み物の量では赤ちゃんの分が補えず、喉が渇きやすいのです。
ホルモンの影響で喉の渇きを感じる
喉の渇きを感じるのは、妊娠中に分泌量が増加する女性ホルモンの影響も考えられます。
妊娠するとエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの分泌が増加します。このうち、プロゲステロンには子宮内膜を厚くし、妊娠を維持する働きのほかに、水分を保持する働きと体温を高くする働きがあります。プロゲステロンは非妊娠時、生理の前に分泌量が増加しています。そのため「生理前になると、やたら喉が渇く」という人もいるのではないでしょうか。
妊娠期間中はプロゲステロンの分泌量が週を追うごとに増加し、生理前と同じような、体温が高く、水分を欲する状態が続きます。それが、喉の渇きを感じる一因になっていることもあると考えられます。
妊娠中に水分摂取が必要な理由

妊娠中に喉が渇きやすいのは、体が水分を欲しているサインですが、妊婦さんにとって水分摂取が大切な理由がいくつかあります。
赤ちゃんが育つために必要
赤ちゃんを守る羊水は、妊娠初期には主にママの血液から作られます。また妊娠中は、赤ちゃんの成長に必要な栄養が血液を通じて送られるため、ママの体をめぐる血液の量は妊娠周期が進むにつれて、徐々に増加していきます。血液の一部は水分でできていますから、赤ちゃんが育つにつれて、必要な水分量も増えていくことになります。赤ちゃんの健やかな成長のためには、水分を積極的に摂取していくことが大切になるのです。
食事からの水分と代謝水だけでは不足する分を補うのが飲み物からの摂取ですが、妊娠前よりも多く飲むよう意識しなければ、マイナスになってしまいます。
汗をかきやすい
冒頭で女性ホルモンのプロゲステロンには体温を上昇させる働きがあるとお伝えしました。そのため、妊娠中は汗をかきやすくなっています。また、妊娠中期から後期にかけては皮下脂肪が増えるので、そのために暑さを感じやすくなり、汗がよく出ることもあります。
水分摂取を控えてしまうと、汗で失われた体の水分を補うことができず、脱水状態になるリスクが生じます。それを防ぐためにも、水分をしっかり摂取しましょう。
つわりの嘔吐で水分が失われる
つわりで嘔吐がある場合は、それに伴い大量の体液が失われます。失った体液を補うため、水分をしっかりと摂取する必要があります。このときに大切なのが、水分だけでなく電解質(※)を一緒に補給することです。
嘔吐や下痢では、水分とともにナトリウムやカリウムといった電解質も一緒に失われます。そのため、電解質が含まれる経口補水液やスポーツドリンクを適度に摂取するのも一つです。
もし電解質を補わず、水分だけを摂取してしまうと、体液中の電解質濃度が薄まってしまいます。すると体は尿として水分だけを排出して電解質濃度をもとに戻します。しかしこれは、そもそも水分が失われている状態でさらに水分を排出することになり、脱水を助長させてしまい、かえってマイナスになるのです。脱水症に進行すると重篤な症状に至ることもあります。
つわりの症状にもよりますが、飲めるようなら経口補水液やスポーツドリンクを選ぶのもよいでしょう。味が受け付けなければ、自分が飲みやすい飲み物でかまいません(アルコール以外で)。ただし、もしどんな水分も受け付けないような重度のつわりの場合は、医療機関で点滴を受けることが必要になります。そのような場合には迷わず医療機関を受診してください。
※血管、細胞内、細胞の周囲のそれぞれに存在する体液の量を調整するはたらきのあるミネラルのこと。水に溶けると電気を通すのでこう呼ばれる。
むくみ予防になる
妊娠中はむくみに悩む人もいるため、むくみを嫌って、水分の摂取を控えたくなることもあるでしょう。しかし、十分な量の水分を摂取することは、むくみの改善・予防につながると考えられます。
そもそも、妊娠中のむくみは、体が水分をため込みやすくなることや、大きくなった子宮がリンパ管や血管を圧迫し、血液循環が滞ることなどで生じるもので、水分の過剰摂取によるものではありません。むしろ水分摂取量が少ないと、血液の流れはさらに滞り、むくみがひどくなる可能性もあります。また、羊水が少なめな場合に、医師から水分摂取をすすめられることもあるでしょう。
冒頭でお伝えしたとおり、妊娠中は非妊娠時よりも水分が必要になっているので、独自の判断で水分摂取をセーブすることはせず、適切な量の水分を摂取しましょうね。
便秘予防になる
体が水分不足の状態になると、便も硬くなりがちです。妊娠中は、ホルモンの影響や子宮が直腸を圧迫して便が通過しづらくなるなどの影響で、便秘になることが少なくありません。硬い便は腸を通過しづらくなり、便秘を助長することにもなります。水分を適切に摂取することは、便秘の予防にも効果的といえます。
肌の乾燥を防ぐ
また、体内の水分の不足は、肌の乾燥を招くことも。ただでさえ妊婦さんはホルモン分泌の影響などで、肌トラブルが起こりやすい状況にあります。水分の摂取を心掛けて、肌の乾燥も防ぎましょう。
妊娠中は水分をたっぷりとる

このように妊娠中は水分をしっかり摂取する必要があります。どんな飲み物を、どれくらいの量、摂取するのがよいのでしょうか。
毎日2L程度の水分をこまめに飲む
最初にも説明したように、成人の必要な水分量を満たすために、十分な食事をしているうえで飲み物から約1.2Lの水分をとる必要があります。必要量が増えている妊婦さんの場合は、約2L分の飲み物を毎日飲むようにするとよいでしょう。
ただし、この「毎日2L」というのは、あくまで目安のひとつです。これ以上飲むのがダメというわけではないですし、これ以下だとダメというわけでもありません。気温や湿度などによっても、必要な水分量は変わってきます。喉の渇きや体の状態を考慮し、多すぎず少なすぎない量を摂取することが大切です。その目安となるのが、大体2Lということだと覚えておきましょう。
常温でカフェインレスの飲み物を選ぶ
妊娠中は水分を多めに摂取する必要があるといっても、どんな水分でもよいわけではありません。
甘いジュースばかり2Lも毎日摂取するのは、糖分の過剰摂取につながり、体に異常が生じるリスクが高まります。また、冷たい飲み物ばかりを摂取するのも、胃腸の働きを低下させる可能性があるので避けたほうがよいでしょう。冷たいものよりも常温などの「冷たすぎない温度」がおすすめです。
それともうひとつ、気を付けたほうがよいのがカフェインです。カフェインは、コーヒーや緑茶、紅茶、エナジードリンクなどに含まれていて、摂取しすぎると妊娠の継続やお腹の赤ちゃんの成長に影響があるとされています。「絶対に飲んではいけない」というわけではありませんが、妊娠中はカフェインの摂りすぎに注意し、多く飲むものはノンカフェインの飲み物を選ぶと安心でしょう。
妊娠中の飲み物については、以下の記事で詳しく解説しています。
▶【助産師監修】妊娠中の飲み物「おすすめ」4選 &「注意すべき」3選
▶【医師監修】妊婦のカフェイン過剰摂取の影響とリスクとは?
カフェインについては、以下の農林水産省のサイトも参考にしてください。
▶農林水産省「カフェインの過剰摂取について」
つわりで水を飲めないとき
水分が必要といわれても、つわりで食事も十分にとれず水も飲めない場合、赤ちゃんや自分の体が大丈夫なのか、心配になってしまうでしょう。
つわりによる一時的な食欲不振であれば、心配のない場合がほとんどです。しかし対策をしているにもかかわらず、水すら受け付けないようなときは注意が必要です。何も口にできず、妊娠前より5%以上体重が落ちている場合[*2]などでは、重度のつわりである「妊娠悪阻」(にんしんおそ)の可能性があります。
妊娠悪阻は、そのままにしておくと赤ちゃんやママの体への影響が心配されるため、治療や管理が必要になります。水分や栄養を点滴で補うことや、薬剤による治療が行われ、症状の進行によっては入院が必要なことも。水が飲めず、体重がみるみる減っていったり、1日中嘔吐が続いたりするようなときは我慢せず、かかりつけ医療機関に相談しましょう。
まとめ

妊婦さんは、妊娠中の体の変化により、妊娠前より多くの水分を必要とします。それにより、喉が渇きやすくなることもあります。
むくみや頻尿が気になり、水分摂取を控えたくなる妊婦さんもいるでしょうが、本来摂取するべき水分を控えてしまうと、脱水だけでなく便秘やむくみといったマイナートラブルの増加や、ひどくなると妊娠悪阻を引き起こし、入院が必要になる可能性も考えられます。
喉の渇きを感じたときは、適切に水分を摂取し、体調管理に努めましょう。
(文:山本尚恵/監修:直林奈月 先生)
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※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます