「ぼく、やってない!」注意を受け入れられない子に効果抜群の“他人事メソッド”とは? |声かけ・接し方大全#6
通常学級に通う小中学生の中で、発達障害の可能性がある子は8.8%いるとされています(2022年、文部科学省調査)。そんな特性がある子どもたちへの対応をまとめた「発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた 声かけ・接し方大全 イライラ・不安・パニックを減らす100のスキル」(講談社)は、親としての“気づき”が満載です。
発達障害がある子、その可能性がある子、そうでない子……いろいろな子どもたちがいますが、「我が子のいいところを伸ばしたい」と思う気持ちは全ての親に共通しています。そんな方に知っていただきたいことを、元小学校教諭で現発達支援コンサルタントの小嶋悠紀氏の解説でお届けします。
第六回の今回は、「すぐ反抗してしまう子に①」「暴力が出てしまったら②」についてです。
「他人事メソッド」がおすすめ
大人からの注意や指導がどうしても受け入れられず、
「うるさい」
「知ってるから!」
「わかったから、もういい!」
と反抗する子はめずらしくありません。マンガの子のように、大人の目の前で悪いことをしたのに、「やってない!」と言い張ってしまう子もいます。
そんな言動が出てくる背景には、〈悪いのが自分だなどとは、絶対に認めたくない〉という心理(あるいは発達障害の特性でしょうか)がはたらいているように感じます。
子どもが反発しているときに、大人が「大事なことだから!」「見ていたのよ!」と怒って指導しようとしても効果はありませんが、ひとつだけ、大人が伝えたいことを受け入れてもらえるいい方法があります。
他人事のようにエピソードを話して聞かせる「他人事メソッド」です。
たとえば私は、隣の子の消しゴムを取ってしまった子を指導したことがあります。その子も自分のしたことを認められず、パニックになりましたが、私は落ち着いてから次のように話して聞かせました。
こんなふうに、「同じようなことをした他人のケース」を語って聞かせるのです。「私が子どものときの話なんだけど……」と、過去のこととして話してもいいし、もちろん、エピソードが事実でなくても構いません。
ポイントは、必ず「君には関係ないかもしれないけど……」とつけ加えることです。
他人事であっても、話を聞いていくうちに、子どもは〈自分のことを言っているんだ〉と気づき、また反発する気持ちがわき始めます。
しかし、最後に大人が「君には関係ないかもしれないけど……」と言語化すると、〝他人事のような感じ〟が強まるので受け入れやすくなるようです。
講師として登壇したセミナーでこの方法を披露すると、必ずと言っていいほど、「本当に効くんですか?」と怪訝な顔をされますが、はっきり言って、これほど効果のある方法はありません。
実際、消しゴムを取ってしまった子は、私が聞かせたエピソードを真似るかのように、後日、手紙を書いて謝りに来ました。そのようなケースを、私はほかにもたくさん経験しています。
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※ この「他人事メソッド」は暴力行為への対応にも使えます。異なるバージョンを別ページに紹介するので、そちらも参照してください。
「他人事メソッド」が有効
暴力をふるった子を前にすると、大人も軽い興奮状態になりがちです。だから、加害者となった子を静かな場所まで誘導したあと、すぐ、
「友達を叩いちゃダメだ!」
などと叱ってしまう人がいますが、他害行為の「直後」に何を言っても、効果はないと思ってください。子どもの脳は、まだ、「思わず暴力をふるってしまうほどの興奮状態」にあるので、大人の言葉は記憶に残りません。
まずはクールダウンさせましょう。落ち着くのに1時間以上必要な子もいますが、最初は「落ち着くまで、大人が待ってあげる」ことが大事です(落ち着いたことを確認する必要がありますが、その際は230〜231ページに紹介した方法を参考にしてください)。
子どもが落ち着いたあとにおすすめしたいのは、「他人事メソッド」です。
170ページで紹介した、「君には関係ないかもしれないけど……」と最後に言い足す方法は、大人の言いつけになかなか従わない子に有効な方法でした。
もしも他害行為に出てしまったのが、普段は聞き分けがいい子であれば、左のマンガのように、最後に望ましい行動をうながす言葉(「○○くんは、どうしたい?」)をつけ加えるといいでしょう。子どもの性格によっては、行動を後押ししたほうが効果的なのです。
書籍『発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた 声かけ・接し方大全 イライラ・不安・パニックを減らす100のスキル』について
\教えたいことが確実に届く! 子どもが変わる! 成長する!/
これまで2000人を超える人の支援に関わってきた特別支援教育のエキスパート・小嶋 悠紀氏が送る「支援スキルの大全集」。イライラ、パニック、暴言・暴力など、解決の難しい問題にも効果があります。
✅ こだわり行動を終わらせて、切り替えてもらうコツ
✅ パニック寸前になっている子の見分け方
✅ 怒りの爆発を防ぐために、最初にかけたほうがいい一言
✅ 順番を守れない子に、順番の守り方を教える方法
✅ 不安を募らせがちな子との向き合い方
✅ 反抗的な言動を口論に発展させない「返し方」
など、多くの発達障害・グレーゾーンの人と関わるなかで磨き上げられた、子どもたちへの「声のかけ方」「接し方」、そしてアセスメントの100の方法が紹介されています。
<2児の母・マイナビ子育て編集者が読んでみた!>
事例がとても具体的にわかりやすく漫画やイラストで描かれており、「あーこれはやりがち」「こうすればよかったのか!」と反省しつつ、気づけば夢中で読んでいました。夫に共有したいページに付箋を立ててたら、本が付箋だらけに……!! イライラや不安を抱きつつ、手探りで子育てしている保護者にとって救いとなるヒントに溢れた一冊です。
著者|小嶋悠紀氏について
1982年生まれ、株式会社RIDGE SPECIAL EDUCATION WORKS代表取締役、発達支援コンサルタント、元小学校教諭。信州大学教育学部在学中に発達障害がある人を支援する団体を立ち上げ、代表を務める。卒業後は長野県内で教員を務めながら、特別支援教育の技術などをテーマに全国で講演を実施。県の保育士等キャリアアップ研修や、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の養護教諭むけの研修なども担当する。2023年より現職。直接の指導や支援会議への参加を通じてこれまで2000人をこえる子どもの支援に関わり、センサリーツール「ふみおくん」の開発にも携わった。おもな著作に『発達障がいの子供を教えてほめるトレーニングBOOK』『小嶋悠紀の特別支援教育 究極の指導システム1』(教育技術研究所)などがある。
■Instagram:@oshietekojit