「うまっ!」「にがっ!」感情を表す言葉に二文字が多いのはなぜ? 『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか?』#5
毎日当たり前のように使っている「ことば」には実は不思議がいっぱい! 子ども達からの「ことば」にまつわる素朴な疑問から言語学の面白さに迫る1冊、『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、親子で楽しく学べる「ことばの魅力」が満載です!
言語学者・音声学者で、慶應義塾大学言語文化研究所教授の川原繁人さんが、実際に小学生に向けておこなった“言語学”の特別授業の様子を再現! 小学生のクリティカルな疑問に応えながら、ことばの不思議に迫ります!
今回は、「まだまだ質問に答える」より一部お届けします。
感情をことばにするとに二文字が多いのはなぜ?
感情をことばにするとに二文字が多いのはなんでですか? 例えば「ぐろっ」「きしょっ」「きもっ」「まずっ」「うまっ」「にがっ」など。(わこ)
様々な言語で見られる現象なのですが、日本語では、単語を省略する現象が広く観察されます。わかりやすい例が、愛称です。
例えば、「まさこ」という人の名前に「ちゃん」を付けて愛称をつくってみましょう。「まーちゃん」「まっちゃん」「まさちゃん」「まこちゃん」などいろいろな可能性が考えられますが、基本的に「二文字+ちゃん」に省略されます。
他に、日本語では「キラキラ」や「ポツポツ」などのオノマトペ表現(擬態語・擬音語)が多く使われてますが、これらも二文字が繰り返される形が基本になります。
わこがあげている例でも、二文字の形容詞が感情を表していますね。
ちなみに、「きしょっ」のような例もあることを考えると、「二文字」といった場合、小さい「ゃゅょ」は含まれません。このため、本当は「二文字」ではなく「二拍」という単位を使ったほうが正確です。
ここで、質問であげられた例を考えてみると、「グロテスクな」から「グロ(い)」、「気色悪い」から「きしょ(い)」、「気持ち悪い」から「きも(い)」というように、「二拍+い」という形に省略されています。
また、他の形容詞(「うま(い)」「にが(い)」「まず(い)」)も「二拍+い」という形が多いです(「きたな(い)」「おもしろ(い)」などの例外はありそうですね)。
もしかしたら、「二拍」というのは、感情を表すために有効なリズムなのかもしれません。
その証拠として、「キモい」に関しておもしろい観察があります。「気持ち悪い」という表現には「気分が悪い(吐きそう)」と「見ていて不快な感情がする」という二つの意味がありますが、それを縮めた「キモい」という表現には後者の感情を示す意味しかありません。これはわこが発見した、「二拍は感情を表すのに適している」ということと整合性があるように思えます。
また最後についている「っ」の意味も興味深いですね。
感情の瞬間性や鋭さを表しているように感じられます。「うわっ」や「げっ」のような驚きを表す表現や、「ぴかっ」や「ぱちっ」などに現れる瞬間性を表す「っ」に意味が似ています。
音声学的には、このような「っ」は前の母音を瞬間的に終わらせる作用を持っているので、この作用が「瞬間性」という意味に結びついているのかもしれません。
(著:川原 繁人『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より再編集/マイナビ子育て編集部)
書籍『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える』について
言語の本質に迫る、小学生からの素朴な疑問の数々。
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