「子どものためにすべてを犠牲にしないでほしい」「小学校は楽しいところと伝えて」くわばたりえさん×犬山紙子さんに聞く【小1の壁】
赤ちゃんだと思っていたのに、もう小学1年生。頼もしくもあり、まだ心配でもありーー中学生の長男、小5次男、小3長女の三児を育てるクワバタオハラのくわばたりえさんと、昨年「小1の壁」を実感したばかりで小2のお子さんを育てる犬山紙子さんが語り合う、「子どもを信用する」こととは?【全4回】の2回めです
実は必要な「忘れ物をして怒られるということ」
くわばたりえ(以下、くわばた) 犬山さんは子どもの登下校が心配でまだ送っていくって言っていたけど、もしかして翌日の学校の用意も全部やってるの?
犬山紙子(以下、犬山) 学校の用意は、一応子ども自身にさせるんですけど、私が忘れ物チェックをしちゃうんです。忘れ物をして怒られる、という経験も大事だとわかっているのに、宿題とかも見ちゃうんですよね。でもほんとうは自分ひとりでできるようになってほしいので、2年生から放っておいてみましょうかね。
くわばた 私わかったぞ! あなた絶対にできない! あなた絶対にムリだってしゃべっててわかりましたよ!
犬山 ええーーー! 実は今朝も「あっ! 宿題のプリントまだやってないよ!」と言ってきちゃいました(笑)。けど、自分の責任で宿題を忘れて、学校で注意される経験を阻止しちゃっているんですよね。
くわばた そうそう。忘れ物をして怒られて、そこから自分でチェックするようになったりするからね。
私は「お母さんはなにも知らんから、勝手にしてな」って言っているんです。学校から帰って「今日は習字道具が必要だったのに、ママなんで教えてくれなかったの!?」と言われても、「知らんから。自分でチェックしとけって言ったやん」って。それでも「どこにも持って行くって書いてないし」と言うんだけど、ちゃんと配布プリントに持ち物が書いてあるんですよ。
子どもに任せるほうが、あとあとお互いに楽だと思うんです。私も子どもたちのすべての予定を把握できへんしね。
ーー自分のタスクも大量にあるから、全部を網羅するのは難しいですよね。
犬山 子どもの責任感が養われそうですね。
くわばた あとね、忘れ物をしたとき、先生に怒られる前にこっそり友達に借りるという知恵もつく……というのもあるのよ。借りられる相手がいるということは友達がいる証拠だし、そう思うと忘れ物も悪いことじゃないかなって思って。
犬山 いい話! なんだか自分の過保護ぶりが浮き彫りになって反省です……。中学生になったら内申点も気になってしまうし、失敗しまくるなら小学生の今のうちですね。
くわばた そう! 小学生なんて、失敗しまくるタイミングよな。いっぱい失敗したほうがいい。
犬山 じゃあ私、約束します! 誓います! 明日から忘れ物チェックしない!
くわばた 子どもには失敗する権利があるからな。まあ中学校でも失敗したらいいんですけどね(笑)。
ーー犬山さんの「チェックしなくちゃ」という不安はどこからくるのでしょう?
犬山 たぶん、自分がそうやって育てられたからだと思います。それを無意識に内面化して同じことを繰り返しているのかも。思い出したら、私の母はみかんの白いところを全部剥いてくれていたんですよ。だから今日はこういう話を聞いて、改めなきゃなと思うことがたくさんありますね。
くわばた いきなり改めるというよりは、子どもに合わせたらいいと思いますよ。100人おったらうちの子みたいに「夏休みから学童に行きたくない」という子もおれば、「学童楽しい! 行きたい!」という子もおるし、ひとりでお留守番できる子・できない子もおるし。自分の子どもをよく見ることが大切やもんね。
子どものスマホ利用を無制限にした結果……?
ーーそこに、親から子への信頼感が垣間見えます。
くわばた ダメ親のほうが子どもが育つのかなって。ほんま言いにくいんですけど、私、朝ごはん作ってないんですよ。子どもは7時40分くらいに家を出るんですけど、私、更年期で最近は朝起きるのがしんどくなってて8時くらいに起きてて。子どもたちは勝手に7時に起きてパンを焼いて食べて「行ってきます!」って。
犬山 すごい! えらい! 最高! そんなことやってくれるなんて……!
くわばた これができるようになったのは、番組で自宅の片付け企画をやったことがきっかけなんです。このとき、食器や食材をすべて子どもたちの手の届く位置に入れ替えたの。それまではキッチンのいろんなものを高いところに置いていたんだけど。
犬山 たしかにうちも子どもが取れない場所に置いてますね。
くわばた そうでしょ? 未就学児の頃は手が届くと危ないから高いところに置くんですよ。だから下げるねん。
犬山 そうか! 子どもは成長してるんですもんね。
くわばた うちの子たちは最初はぶーぶー言っていたけど、こっちがなにもせえへんかったら腹も減ってるし勝手に食べて行くしかないからと、強くなったんです。うちのお母さんはフルーツ盛りなんて作れないから、「バナナ剥いたほうが早い!」ってな。バナナは剥けば食べられますから。
犬山 うちも過保護とはいえ、朝ごはんは全然ちゃんとしてなくて。おにぎりとバナナとプチトマトを切ってぼんぼんって出すだけ。あとはパンですね、5本入っているやつ。
くわばた あのパンな! 私もほんまにあれ好きや!
犬山 ありがたいですよねえ、あれ。
ーースマートフォンはいかがですか? 主にGPSを使うために小学生から持たせるご家庭もあるかと思います。
犬山 うちは「BoTトーク」という見守りGPSガジェットを使っています。学校に行くときに持たせていますが、一言くらい会話ができて。
くわばた うちは長男にスマホを持たせはじめた当初、制限をかけなかったんですよ。
ーーえー! アプリもネットも使い放題ということですか。
くわばた はい。そのかわり言葉で「これはしたらあかん」と説明して。結局、課金とかアカウント開設とか子どもだとできないことも多いしね。インスタは見られるけどアカウントは作れなかったりコメントできなかったり。そんな中で、長男は自分で、◯時から◯時まではスマホが使えないようにする制限をかけていました。
ーーええーーー! どうしてそんなことができるんですか!?
くわばた なんで? と思ったら、無制限だからあまりにもやりすぎて、「これじゃあかん」と思って制限をかけたんやって。たとえばYouTubeを何時間も見ていると「そろそろ止めたほうがいいんじゃないですか?」みたいなアラートが出てくるように、自分で設定していたんですよ。
子ども宛に届いた謎の荷物、中身は……
犬山 ええーー! お子さんもすごいし、そこまで見守れるくわばたさんもすごくないですか!? そうなる前に口を出しちゃいますよ!「見すぎだよ!」「YouTube消すよ!」って。
くわばた 長男はサッカーばかりやっている人でそこまでスマホを1日中見るタイプじゃないから、口出ししなかったのもあるな。ほったらかしにするとそうなるのかなあ。逆に制限をかけすぎると、上手いこと解除する方法を覚えたりするのかな? スマホを持たせてよかったと思ったのは、彼がYouTubeでおもしろいと思った動画を私に教えてくれて、「この子はこういう動画に感銘を受けているんだな」と気付けるようなやりとりができたこと。それって楽しいなあと思いました。
犬山 ステキ! お子さんのこと、信用されているんですね。
くわばた でもね、信用しすぎた。この前ね、長男宛に荷物が届いたんです。親戚のおじさんが長男宛に送ってくれることもあるから、それかなあと思って「開けたら?」と声をかけたら「あとで開ける」と。「いま開けや」と言うと、渋々開けたら変なガラクタみたいなおもちゃが出てきて。これ何!? って。勝手にネットで注文していたんですよ。
犬山 あらま!
くわばた 怖ない!? クレジットカードもないし、振り込みもできないし、どうやって買い物したのかわからなくて聞いたら、「コンビニ支払いを選択した」というんです。
犬山 最近は子どもに対する詐欺も横行しているんですよ。子どもはクレジットカードを登録できないからネットでお金を使えないだろうと思いきや、そうやってコンビニ支払いにさせるんです。Xでやりとりして、メルカリに移動させて、「コンビニ支払い」を選択させるとか。先日取材したときに聞いて、えげつないと思いました。
くわばた そんなことあんねや……教えてくれてありがとう! これは子どもに言おうかな。禁止するんじゃなくて、「こういう手口があるから、こういうことを言ってきた人にお金を払っちゃダメだよ」って。
ーーちなみに、くわばたさんのお子さんが買ったおもちゃというのは?
くわばた 高額でもないし、180円のボールみたいなやつとか、すごくしょぼい指を鍛えるやつとか。サッカーやってんのになんで指鍛えなあかんねん! 「こんなんいる!?」って思いました。
犬山 かわいい買い物じゃないですか!
くわばた それは怒りました。「勝手に買うのはやめて。お母さんに言ってくれ」と。
犬山 その失敗は理想的ですね。いいなあ。私も子どもを信用できる親になりたいし、自分も母に信用されたかったですね。
ーーそれが根底にあるのですね。
犬山 だと思います。信用してくれたら、将来の夢を母に言えていたのかな、とか。だって漫画家になりたかったこと、ひた隠しにしていましたもん。親が、というより当時は大人が冷笑的だったから、夢をあまり語れなかった。子どもなりにそんな空気を察知して「夢? べつにないし」って。そういう子は結構いるように思います。だから、子どもがどんな将来像を抱いていようと、否定せずに「応援するね」と言おうと思っています。
子どもがいるときは、なるべく「ながら喋り」をやめてみる
ーーとにかく時間が足りないような日々で、お子さまとそういった突っ込んだ話ができないご家庭もあると思いますが、おふたりはどうしていますか?
くわばた うちはごはんを食べるときにめっちゃ会話が多いんです。長男は特にお喋りで。帰宅してから30分くらいずっとひとりで喋っています。うれしかったこと、友達の面白い話ーーびっくりするくらい喋ってる。
犬山 いいですね! なんでも喋ってくれるんですね。
くわばた 止まらないのよ。
犬山 お母さんが話を聞いてくれて、キャッチボールになるから喋りたくなるのかなあ。子どもが話しているとき、スマホやパソコンを見たりしますか?
くわばた 見ないねー。
犬山 そこですよね。忙しいときはどうしてもスマホを見ながら「うん、うん、あ、ごめん仕事のメール……」となりがちだけど。うちもごはんを食べながらお喋りします。あとね、うっとうしがられるんですよ、子どもが大好きすぎて。隙あらば「抱っこしていい!?」って聞くんですけど、スーンとしながら「1日2回までね」って(笑)。
くわばた もうそんな感じなんや(笑)。ママのラブラブ攻撃がすごいのね。
犬山 そんな感じで、子どもがいるときはなるべく仕事をしないようにして、お絵描きが好きな子なので隣同士で描いたり、一緒に寝て、ベッドでいろいろな話をしてくれます。仕事で子どもと離れている時間が多いと思うからこそ、抱きしめながら話をして濃密な時間にしています。
ーーそういうふれあいがない日はちょっと様子がちがう、と感じることもありますか?
犬山 私が出張で丸1日会えない日でも、娘は「ママは私に会いたいに決まっている」と思っているんですよ。実際、私も口に出してそう言っているし、帰宅したら「会いたかった!」と真っ先に飛びつきます。だからか、離れていても娘は落ち着いています。「どうせママは私に会いたいでしょ?」という自信がある。
ーーステキですね! 私は話を聞きながら原稿を書いてしまっていますね……。
犬山 私もやってます。
くわばた うちは「ながら聞き」できへんくらい子どもが喋ってます。ほんでマイムもあるから、見なあかんのよ。
犬山 マイム!(笑)かわいいですね!
くわばた スマホも置かなきゃいけなくなっちゃうんですよね。長男はね、いまもぎゅーさせてくれるんですよ。
犬山 へえーーー! それ知りたい!
くわばた 何年か前に、ごはんを作っている合間に「ぎゅーさせて」とお願いしたことがあったんですよ。いつもはすぐにさせてもらえるねんけど、このときは「ドラえもん(の放送時間)が終わるまで待って」と言われて。そのとき、むっちゃ長かったの! その30分が。それで私、はっとして。「ママ、◯◯やりたい」と言われたときに「ちょっと待ってて」と言って30分は平気で待たせていたのよね。やることいっぱいあるから。
犬山 待たせちゃいますね~。
子どもの「ちょっと待って」で気づいた「ちょっと」の長さ
くわばた 私は『ドラえもん』が30分後に終わるのがわかっているし時計も読めるから待てるけど、時間の感覚がわからない子どもにとっての「ちょっと待って」ってすっごく長いんじゃないかなと思って。そのときから、子どもに「ママ、◯◯やりたい」と言われたら「うん!」ってすぐに行くようにしたんです。よほどのことがないかぎり、「ちょっと待って」をやめたの私。
犬山 すっごく大切な話ですね。言うのは簡単かもしれないけど、なかなか実行できることじゃないと思うんです。
くわばた そうやってぎゅーするんだけど、「私が手を広げたらぎゅっとしに来て」って言ったんですよ。そうしたら長男、「ハイハイ」って来たんだけど、ガラスに映る長男の顔、ニコニコしてて。喜んでるやん! って。
犬山 えーーーいい話!
くわばた そしたらあるときね、洗い物していて、ぱっと振り向いたら長男がこうやって手を広げて立っていたんですよ。
ーーハグ待ちのポーズですね!
くわばた いつも私が手を広げるけど、向こうも来てほしいときがあるんやなあって。「ママぎゅーして」とは言われへんけど、黙って立っているの。だから私も黙ってぎゅーする。
犬山 はあ〜〜いい話! 報われるなあ。「小1の壁」の話をしていたけど(笑)、子どもはいくつになってもかわいいっていう話になっちゃいましたね! 赤ちゃんの頃のようにずっとベタベタすることはなくなるかもしれないけど、ずっとハグをし合える関係性、すごくいいですね。希望が持てます。
くわばた 親が子どもに弱音を吐くのもいいかもしれないと思っているんですよ。お母さんが「うわあ、どうしよう、すごくイヤなことがあった~」と話していると、子どもも何かあったときに「こんなイヤなことがあった」と打ち明けやすくなる気がするんです。いつもニコニコして何でも乗り越えられる完璧なお母さんの姿を見せていると、「『そんなの気にしない! だいじょうぶでしょ』と言われるかもしれない」と、言いにくいのかなって。だから完璧じゃないお母さんを見せたほうがいい……ということで、ダラダラしているんですよ(笑)。
犬山 あはははは! たしかに私も『プレバト!』(TBS系)でめちゃくちゃ順位が低いときとか、子どもに慰めてもらっています。「がんばってね! また次があるぞ」って。ありがたいです。
ーー最後に、小学校入学を控えるママとパパにメッセージをお願いします。
くわばた 「小学校は楽しいところ」とどんどん伝えたほうがいいと思います。「お兄さん・お姉さんになるからこれができるようにならないといけないよ」というと、すごくプレッシャーになるから「楽しいところだよ。はじめてのお友達もいるよ。鉛筆が持てて、お勉強もできるよ」と。そうすれば、楽しく行けるのかなって思います。
犬山 「小1の壁」で、会社員の方の中には、お迎え時間や夏休みが原因で働き方を変えざるを得ない方もいらっしゃると思うんです。未就学児の場合は、会社も時短勤務ができたり、育休が取れたりしていましたが、小学生になると会社側のそういった制度も使えなくなることが多いと思います。そうなったときに、子どものためにすべてを犠牲にするのを当たり前とせず、どうすれば自分の人生を守れるのか、を大切にしてほしいと思います。今日のくわばたさんのお話も、とても参考になりました。
仕事を辞めたり、時短する判断をされる方もたくさんいらっしゃると思いますが、どうか孤立しないように、パートナーや頼れる人としっかり話し合ってほしいです。女性が必ず仕事を減らさなきゃいけない……ではなくて。「私さえ我慢すれば」のマインドになっていたら孤立のサイン。話し合い、チームとしてどうすればみんなが納得して生活できるのか、第三者や行政の力も借りながら模索してほしいです。
くわばたりえさん/お笑い芸人
1976年3月24日生まれ、大阪府出身。2000年に相方の小原正子さんとお笑いコンビ「クワバタオハラ」を結成。2009年に会社員男性と結婚。4月から中学2年生の長男、小学5年生の次男、小学3年生の長女の3児の母。ただただしゃべりながら料理を作り、子どもとの食卓を映す公式YouTubeチャンネル『バタやんちゃんねる』が登録者数40万人を越えた。東野幸治さんが「芸能事務所を開くなら、ママタレの筆頭としてくわばたをスカウトしたい」と絶賛。
犬山紙子さん/イラストエッセイスト
1981年12月28日生まれ、大阪府出身。2011年、女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで書き始めたところネット上で話題になり、マガジンハウスからブログ本を出版。
『ドデスカ!+』(メ〜テレ)、『ピタニュー』(広島ホームテレビ)、『newsランナー』(関西テレビ)などでテレビコメンテーターとしても活動。『プレバト!!』(TBS系)では俳句などで才能を発揮。2014年にミュージシャンで漫画家の劔樹人さんと結婚。4月から小学2年生の長女を育てる。2018年にボランティアチーム「#こどものいのちはこどものもの」を発足した。
(撮影:松野葉子 取材・文:有山千春)