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2024年05月04日 09:18 更新

母猫の深い愛情が胸を打つ……小川未明の「ねこ」を通じて子どもに愛を伝えよう

親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回は、日本のアンデルセンとも言われる小川未明の童話から、「ねこ」を取り上げます。題名から想像されるとおり主人公は猫なのですが、ただの猫ではありません。おなかに子どものいる母猫なのです。さて、どのようなお話なのでしょうか?

「ねこ」を子どもに聞かせよう!

小川未明の童話には、読んでいると、場面、場面の情景が自然と頭に浮かんでくる語りが素晴らしく、子どもに話して聞かせるのにもぴったりの作品が多くあります。

今回ご紹介する「ねこ」は、母猫が主人公。冒頭に起こることは、今の日本でもあり得ることでしょう。親であれば痛いほど母猫の気持ちがわかると思います。ぜひ、母親の愛情を描いた本作を、お子さんに聞かせてあげてください。

「ねこ」のあらすじ

捨てられてしまった黒猫は、おなかに子どもがいて…

飼い主が引越していく時に捨てられてしまった黒猫がいました。その日から寝る場所もなければ、食事をもらうこともできません。仕方なく昼間はゴミ箱をあさり、夜になると知らない家の庇の下や、物置小屋のような所で眠りました。

こうなると、今まで可愛がってくれた人々までが「そら、泥猫が来た」と言って水をかけたり、いたずらっ子が小石を拾って投げたりしてきます。元は綺麗な毛色だったのも、この頃は汚れてみすぼらしい姿となってしまいました。

それに黒猫は、置いて行かれた時にはもうおなかに子どもがいたのです。きっと情けを知らぬ飼い主は、「子供を産むと厄介だから捨てていこう」と思ったのでしょう。可哀想な猫は、子どもを産む場所を探して毎日歩き回りますが、安全と思うような所はなかなか見つかりませんでした。人間にも油断ができなければ、犬や、また他の猫たちにも決して心を許せなかったからです。

もうすぐ母猫になる黒猫は、自分の食物を探すことよりも、可愛い子どもを産む安全な場所を見つけることに一生懸命でした。そして、とうとう森の中に良さそうな所を見つけました。

\ココがポイント/
✅飼い主に捨てられた黒猫は野良猫となって人々から嫌われるようになった
✅捨てられた時すでに黒猫のおなかには子どもがいた
✅黒猫は自分が食べることよりも、安全に産める場所を探すことに一生懸命だった

三匹の子猫を産んだ黒猫に悲劇が

やがて、三匹の可愛らしい黒と白のぶち猫が産まれました。それからというもの、母猫は今まで以上に子どもの心配をするようになります。自分たちの隠れ場所に雨や風が吹き込んでも子猫には当たらないようにして、子猫はいつも暖かな母猫の腹の下で安らかに眠っていました。

子猫たちが虫を追いかけて遊べば、その様子を見守っていました。もし子猫たちがあまり自分から遠ざかろうとすると、「あまり遠くへ行ってはいけない、お母さんが許すまではそんなに遠くへ行くことはなりませんよ」と、教えていました。

ところがある日、食物を探しに出かけていた母猫が森へ戻ってくると、二匹の子猫の姿がありません。犬に食われてしまったか、人に連れられて行ったか、それとも溝の中へ落ちてしまったか。母猫が声を枯らしてあたりを探しますが、ついに見つかりませんでした。

母猫の悲しみはどんなでしたでしょう? 一夜泣き明かした母猫は、せめて残った一匹の子猫を幸せにしてやりたいと思いました。「こんな森の中でいつまでも暮らすのは可哀想だ。やはり親切な人間の世話にならなければ」

\ココがポイント/
✅母猫は3匹の子猫を産んだ
✅母猫が食べ物を探しに行って帰ると、子猫のうち二匹がいなくなってしまった
✅母猫は残った一匹はやはり人間の世話になるのがよいと考える

子猫を連れて人家を尋ねる母猫

母猫はいたずらっ子のいない静かな家がいいと思い、綺麗な奥様とおばあさんの二人が暮らす家に、子猫と一緒にやってきました。「さあ、お前はあの奥様の側へ行ってごらん」と言って母猫は子猫を家の中へ入れて、自分は物陰に隠れて様子を窺っていました。

子猫はすがろうとして奥様の膝に上がろうとしますが、奥様は「まあ嫌だ」と言って子猫を外へ投げ出してしまいました。

母猫は子猫を舐めていたわると、今度は子どものある家へ連れてきました。やはり自分は物陰に隠れて様子を窺います。

その家のお母さんはいつも忙しそうに働いていました。子猫が足元に来て泣くと「まあ可愛らしいこと、正ちゃんも勇ちゃんも来てごらんなさい」と言いました。

子供たちはたちまちお母さんの所へ飛んできます。「可愛い猫だなあ。捨て猫なら家で飼ってやりましょうよ」と言って子どもたちは鰹節を削ってご飯をやったり、大騒ぎです。

これを見て母猫は安心し、「どうか達者でいてくれるように」と祈ってどこへか姿を消してしまいました。

(おわり)

\ココがポイント/
✅一軒目に綺麗な奥様がいる静かないたずらっ子の居ない家に子猫を連れていったが、子猫は無常にも追い出されてしまう
✅今度は子どものある家へ連れて行くと、子どもたちは子猫を捨て猫なら家で飼おうと餌をやったり、大騒ぎをしていた
✅母猫は子猫の幸せを祈り、自分はどこかへ姿を消した

子どもと「ねこ」を楽しむには?

子どもに対する母親の深い愛情が胸を打つ作品でした。子猫のことを思って行動する母猫の姿に、共感を覚えたママも多いのではないでしょうか。

お子さんには
・捨てられて、みすぼらしくなってしまった母猫はどんな気持ちだったかな?
・母猫が人間や犬、ほかの猫にも心を許せなかったのはなぜだと思う?
・物語の結末を聞いてどう思った?

などと聞いてみましょう。

母猫の深い愛情がより伝わるよう、優しい声でお話してあげたいですね。お子さんが親になった時に自分の子どもにも話したくなってくれるような、親子で語り継いでいきたいお話ではないでしょうか。

(文:千羽智美)

※画像はイメージです

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