「パパもママもキューピッドに胸を射られたんだよ」と話したくなる♪アンデルセン「いたずらっ子」を子どもと楽しもう
親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回はアンデルセンの作品から「いたずらっ子」を取り上げます。どんなお話か知らないという人も多いかもしれません。弓矢を持ったいたずら好きの男の子――と聞けば、ピンと来る人もいるのではないでしょうか。ユーモアのある楽しいお話です。
「いたずらっ子」を子どもに聞かせよう!
デンマークの国民的文学者であるアンデルセンは、童話作家として日本でも広く知られる存在ですよね。「マッチ売りの少女」や「人魚姫」、「親指姫」など、有名なお話も多いですが、アンデルセンの隠れた名作とも言えそうなのが、今回ご紹介する「いたずらっ子」。いたずらっ子とは誰のことなのか、予想しながら読んでみてくださいね。子どもにもピッタリのコミカルなお話です。
「いたずらっ子」のあらすじ
嵐の夜、お爺さんに助けを求めに来た男の子
昔々、とても優しいお爺さんの詩人がいました。ある晩、凄まじい嵐になり、外では雨が滝のようです。お爺さんは部屋の中の暖炉のそばで、気持ちよく暖まっていました。暖炉ではリンゴが美味しそうに焼けています。
「こんな嵐の時に外にいる者は可哀想だなあ、服もびしょ濡れになってしまうだろうに」と、お爺さんは言いました。
するとその時、 「開けてください、僕、びしょ濡れで寒くて堪んないの!」と叫ぶ子供の声が聞えました。子供は泣きながら戸をドンドン叩いています。その間も雨はザーザー降り、窓という窓は、風のためにガタガタ鳴っています。 「おお、可哀想に!」お爺さんは戸を開けに行きました。
外には小さな男の子が立っています。真っ裸で長い金髪からポタポタと雨が滴り落ちているではありませんか。お爺さんは男の子の手を取りました。「さあ、中へおいで。暖かくしてあげるよ、ブドウ酒と焼きリンゴもあげよう」
男の子のとても可愛らしい子でした。金色の髪の毛からは、まだ雨水が垂れてはいましたが、綺麗にカールしていて、まるで小さな天使のようです。ただ、寒さのために真っ青な顔をして、体中ブルブル震えていました。
手には立派な弓を持っていましたが、それも雨のためにびしょびしょになって、駄目になっていました。
お爺さんは、暖炉の前に腰を下ろして膝の上に男の子を抱き上げました。そして髪の毛の水を拭いてあげたり、甘いブドウ酒も作ってやりました。
\ココがポイント/
✅嵐の夜、とても優しいお爺さんの家に小さな男の子がびしょ濡れでやってきた
✅男の子は金髪で、まるで天使のようだった
男の子は助けてくれたお爺さんの胸を弓矢で…!
やがて元気を取り戻した男の子は、早速床に飛び降りて、お爺さんの周りをぐるぐる踊り始めました。 「元気な子だねえ、何という名前だい?」と、お爺さんは言いました。「僕、キューピッドっていうの」と、男の子は答えました。
「お爺さん、僕を知らない? ほら、そこにあるのが僕の弓、その弓で矢を射るんだよ。あっ、天気が良くなったよ、お月様も出た」
「だがお前の弓は、濡れて駄目になっているじゃないか」と、お爺さんは言いました。
「弱っちゃったなあ!」と男の子は言うと、弓を取り上げて調べました。「大丈夫、もうすっかり乾いてる。どこも悪くなってないよ。弦だってピーンとしてるよ。僕、試してみる」
男の子は弓を引き絞って、矢をつがえました。そしてお爺さんの心臓を狙って、射ました。「ほらね、お爺さん。僕の弓は駄目になっていないよ」 こう言ったかと思うと、男の子は大声で笑ってどこかへ飛び出していきました。
お爺さんは床の上に倒れて涙を流しました。本当に心臓を射抜かれてしまったのです。
お爺さんは言いました。「あのキューピッドというのは、なんといういたずらっ子だ。どれ、子供たちに話しておいてやろう。あいつには気をつけて、一緒に遊ばんように、とな」
\ココがポイント/
✅元気になった男の子はキューピッドだと名乗った
✅キュービッドの弓は濡れてダメになったかと思いきや、すっかり乾いて元通りになっていた
✅キューピッドはお爺さんの心臓を射抜くと笑いながら飛び出していった
いたずら者のキューピッドがしていることは?
子供たちはこの話を聞くと、いたずら者のキューピッドに気をつけました。それでも、キューピッドはとてもずるくて利口でしたから、やっぱりみんなを騙していました。
学生たちが学校の講義が終わって出てきますと、キューピッドがいつの間にか本を腕に抱えて、一緒に並んで歩いているのです。同じ制服を着ているので誰にも見分けがつきません。そうして胸を矢で射られてしまうのです。
キューピッドはいつどんな時にも、人々の後を追っています。劇場の大きなシャンデリアの中に座り込んで、明るく燃え上がっていることもあります。人々は、ただのランプだと思っているのですが、後になってそうではなかったことに気がつくのです。
そうかと思うと、お城の遊園地の散歩道を歩き回っていることも。いやいや、それどころかあなたのお父さんやお母さんも、胸の真ん中を射られたことだってあるんですよ。お父さんやお母さんに、聞いてごらんなさい。きっと面白い話を聞かせてもらえますよ。
まったく、このキューピッドというのはいたずらっ子です。この子ときたら、誰の後をも追っているんですから。何しろ、年取ったお婆さんでさえ、矢を射られたことがあるんですよ。もっとも、それはずっと昔の話で、もう済んでしまったことですがね。でもお婆さんは、そのことを決して忘れはしませんよ。
いやはや、仕様のないキューピッドです。でも、あなたにはこの子がわかりましたね。キューピッドが大変ないたずらっ子だということを忘れないでくださいよ。
(おわり)
\ココがポイント/
✅キューピッドはいつも人々の後を追いかけていた
✅お父さんやお母さん、さらに年取ったお婆さんもキューピッドの矢に射られたことがあった
子どもと「いたずらっ子」を楽しむには?
いたずらっ子とは、恋の矢を打つキューピッドのことだったのですね。もともとローマ神話の愛の神のことで、絵画でも弓を持った裸の子どもとして描かれることが多いのですが、それが今回のお話でもあらわれていますね。キュービッドの持っている弓矢は普通の弓矢ではなく恋の弓矢なんだよ、と子どもに教えてあげましょう。
また、せっかくなのでパパとママの恋のお話をしてあげてはどうでしょうか。実はお母さんとお父さんもキューピッドに心臓を射抜かれたのよ、なんて教えてあげると、お子さんも本当に!?と驚くでしょう。
(文:千羽智美)
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