この世はお互いに助け合わなければならない―欲が深く傲慢な老人が改心、謙虚さを教えてくれる「夏とおじいさん」を子どもに聞かせよう
親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回は小川未明の「夏とおじいさん」を取り上げます。お金儲けが生きがいの欲深いおじいさんが主人公です。傲慢な性格で、雇い人を手足のようにこき使う、嫌な人間なのですが、あることがきっかけで心を入れ替えます。
「夏とおじいさん」を子どもに聞かせよう!
「日本のアンデルセン」と呼ばれた小川未明は数多くの童話を残していますが、なかには教訓となるようなお話も。ご紹介する「夏とおじいさん」もそうした一遍といえるでしょう。欲深く、お金で雇った人を手足のごとく使うおじいさんがリウマチを患い、さらにワガママになっていって……という物語です。おじいさんは最終的に改心するのですが、いったい彼の身に何が怒ったのでしょうか?
「夏とおじいさん」のあらすじ
雇い人をこき使う、お金持ちのおじいさん
ある街に、気難しいおじいさんが住んでいました。ずっと独りぼっちでしたが、欲が深く金を貯めることばかり考えていたので、寂しさを感じたことはありませんでした。
「おじいさん、寂しくありませんか?」と、慰める人がいても、「仕事が忙しいから、そんなことは考えませんよ」と、お爺さんは、寂しいとか寂しくないとかいうのは、暇人の言うことだとばかりに返事をしました。尋ねた人は、金が儲かれば寂しくないようだ、流石に金持ちは違ったものだと思いました。
おじいさんは雇い人を手足のごとく使います。おじいさんの気難しさを知っているため、雇い人はせっせと働きますが、思い通りにならない時は、「お前は気がつかん、馬鹿だから」と言ってがみがみ叱りました。雇い人はたまりかねて、「あんな分からず屋には、罰があたればいい」と、思っていました。
ところがおじいさんはリウマチを患い、初夏の頃から手足があまり動かなくなります。「とうとう罰が当たったのだ。これからは私たちにも優しくしてくれるだろう」と雇い人たちは言うのでした。
\ココがポイント/
✅欲深く気難しいおじいさんがいた
✅おじいさんは雇い人をこき使っていた
✅ある時おじいさんはリウマチにかかり、手足が動きにくくなった
リウマチになったおじいさん、イライラが募る
ところが、雇い人たちの期待とは反対に、おじいさんはますます口うるさくなりました。さらに、自分が不自由で思うようにならないと癇癪を起こし、小言を言うように。それでも雇い人たちは「病人だから」と我慢をしていました。
暑くなって来ると、蝿や蚊が増えてきました。蠅は遠慮なく、おじいさんの禿げた頭の上にとまります。お爺さんは「ちくしょうめ」と言って、うちわを頭の上にやって、蠅を叩こうとしますが、蠅はすばしこく逃げ、また頭の上にとまります。また、晩になると蚊がおじいさんを刺しました。「俺が手足がきかないと思って、蚊までが馬鹿にする」と怒るおじいさん。
蠅や蚊に対する腹立たしさが、ついに雇い人の方へも回ってきました。そこで雇い人たちは、せめてこの夏の間、涼しい山の温泉に行ってはどうかとおじいさんに勧めました。
おじいさんは喜ぶどころか、「仕事の忙しい体でそんなところへ行けるものか。私はあのビルの五階の事務所で、夏を過ごすつもりだ」と、答えました。「なるほど、それはいいお考えでございます」と、温泉行きを勧めた雇い人は頭をかいて下がりました。
\ココがポイント/
✅おじいさんは余計に癇癪を起こすようになった
✅夏になると蠅や蚊がおじいさんを苛立たせた
✅おじいさんはビルの五階にある事務所で夏を過ごすことにした
ビルの五階はおじいさんにとって快適だったが…
高い五階の一室で住むようになってから、蠅も蚊も来ず涼しい風が入って、おじいさんはとても快適でした。しかし雇い人はますます手足の如く使われて、上がったり下りたりしていました。
そんなある日、ビルのエレベーターが故障して止まってしまいました。その修繕には五、六日間かかるそうです。雇い人たちは、「いつも手足のように働いている皆のありがたみを分かってもらおう」と相談しました。
皆が仕事を休んでしまうと、体の自由がきかないおじいさんは本当に困ってしまいました。「あいつらよくも、私を酷い目にあわしたな」お爺さんは怒りましたが、よく考えれば、自分は体の自由がきかないのだから、皆がどんな命令でもきくのは当然だと思っていたことに気が付きました。
「私はもっと謙虚にならなければならない、そして人を信じなければならない。この世の中は、お互いに助け合わなければならぬところだ」と、悟りました。
お爺さんはお腹が減ると、かごの中へ手紙と一緒に銭をいれて、細紐でするすると五階の窓から、下の通りへ下ろしました。その手紙には、「もし、このお金でパンを買って、この中へ入れてくだされば幸せです。そして、あなたの手間賃もお引きください」と、書いてありました。
しばらくしてお爺さんがかごを引きあげると、その中には出来立ての柔らかなパンが入っていました。そして釣り銭もちゃんと入っていたのです。
赤々とした夏の太陽は、高いビルと人の歩む白い道をいきいきと彩り、照らしていました。おじいさんは正しい道を悟ったことで雇い人にも尊敬され、一人で寂しいこともなく、体がきかなくても何不自由なく暮らすことができるようになりました。
(おわり)
\ココがポイント/
✅ある日エレベーターが壊れたことをよい機会に、雇い人たちは自分たちの有り難みを分かってもらおうと全員で休んだ
✅おじいさんは怒ったが、そのとき、自分の傲慢さにはじめて気がついた
✅改心したおじいさんはその後、寂しくもなく、身体が不自由でも生活に困らず暮らすことができた
子どもと「夏とおじいさん」を楽しむには?
強欲で人使いの荒いおじいさんでしたが、目下に見ていた人たちの支えがあってこそ生きられることに気づき、心を入れ替えることができました。体は不自由なものの、その後は雇い人たちとも仲良くし、楽しく暮らしたことでしょう。また、おじいさんが改心したに言う、「私はもっと謙虚にならなければならない、そして人を信じなければならない。この世の中は、お互いに助け合わなければならぬところだ」という言葉は、ぜひ子どもによく伝えてあげたいですね。
お子さんには
・おじいさんの性格についてどう思う?
・自分がおじいさんの雇い人だったら、我慢する?
・おじいさんの下ろしたかごにパンとお釣りを入れてくれたのは、どんな人だったと思う?
などと聞いてみると良いでしょう。
お金を持っている人はえばっても良く、他人をこき使っても良いなどということはなのだと、教えてあげるのもよいかもしれませんね。
(文:千羽智美)
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