死神が男の子の名付け親!?死神の助けで人の生死が見えるようになった男は名医として成功するが…グリム童話「死神の名付け親」
親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回はグリム童話から「死神の名付け親」という作品を取り上げます。知らない人も多いかもしれませんね。どんなお話なのでしょうか。
「死神の名付け親」を子どもに聞かせよう!
グリム童話といえば、「シンデレラ」や「赤ずきん」、「ブレーメンの音楽隊」、「白雪姫」、「ヘンゼルとグレーテル」などがまず思い浮かびますよね。しかし、これ以外にもたくさんの童話がグリム兄弟によって集められており、その数は100以上にのぼります。今回ご紹介する「死神の名付け親(第一話)」はあまり知られていないかもしれませんが、大人が読んでも奥深さを感じるお話ですよ。
「死神の名付け親」のあらすじ
貧しい男が子どもの名付け親に選んだのは、だれにでも平等な死神でした。やがてその子は大人になりますが、死に神が現れて、二人はある約束を交わします。死神のおかげで世界一の医者になるのですが……。どんな結末が待っているのでしょうか。
貧乏な男が我が子の名付け親を頼んだのは死神だった
12人の子どもを持つ貧しい男がいました。子どもたちを養うために男は昼夜となく働き続けました。そこへ13人目の子どもが生まれます。その子は男の子でした。父親は名付け親を見つけるために大通りへ出ていきました。
父親が出くわした最初の者は神様でした。神様は父親の悩みをすぐに理解し、「かわいそうに、私がお前の子どもに洗礼をしてあげよう」と言いました。「どなたですか、あなたは?」と父親が尋ねました。「私は神様だ」と神様は答えました。
「あなたに名付け親をお願いするのはやめます、あなたは金持ちには物を与え、貧しい人は腹が減っても知らん顔をしていますから」父親はそう言うと、神様に背を向けて歩いて行きました。
すると悪魔が現れて、「僕をお前の子どもの名付け親にすれば、世の中の楽しみを一つ残らず与えてやるよ」と言いました。「どなたですか、あなたは?」と父親が尋ねました。「僕は悪魔だよ」と悪魔は答えました。
「それでは、あなたを名付け親にお願いするのはごめんです、あなたは人間を騙だましたり、そそのかしたりしますから」
父親が再び歩き始めると、カサカサになった骨ばかりの死神が現れ、「僕を名付け親にしないか?」と言いました。
「どなたですか、あなたは?」と父親が尋ねました。「私は誰にでも平等な死神さ」と死神は答えました。
父親は「あなたならばぴったりです、あなたは金持ちでも貧乏人でも差別なく連れて行きますね、あなたに名付け親をお願いしましょう」と死神に頼みました。すると死神の方も、子どもが将来、お金持ちになり、有名になることを約束するのでした。
\ココがポイント/
✅貧しい家に13人目の子どもが生まれた
✅父親は名付け親を探しに大通りに出て、神様、悪魔、死神と出会った
✅父親は死神なら誰に対しても平等だと考え、名付け親を頼んだ
死神からの贈り物で医者となり大金を得る
男の子が大きくなったある時、死神が現れます。そして、森の中の薬草が生えている場所へ、男を連れていきました。
「名付け親として贈り物をする時が来た。私はお前を評判の医者にしてやろう。お前が病人のところへ呼ばれた時、私が病人の頭の方に立っていたら、薬草を飲ませればその病人は治る。だが、私が病人の足の方に立っていたら、その病人の命は私のものだ」と死神は言いました。そして、もしこの使い方を守らなければ、男にどんでもないことが起こるだろうとも釘を刺すのでした。
やがて男は世界中で一番名高い医者になります。多くの人が男の診察を求め、たくさんのお金を出していくので、男はたちまちお金持ちになりました。
ある時、王様が病気にかかりました。医者が王様の寝台を見ると、死神はその足の方に立っていました。医者は王様を救うために死神をだますことを考えます。王様の上下を逆に置き換えて、死神が患者の頭の方に立つようにしたのです。そして薬草を飲ませると王様は回復しました。
しかし死神は激怒します。「今回だけは寛大に見てやる、お前は僕の名付け子だからな。だが次はないぞ」
しかし、まもなく今度はお姫様が大病にかかってしまいます。王様は姫の命を救った者は姫の婿となり王の後継者にすると、お触れを出しました。
医者が姫の寝床に行くと死神は足元に立っていました。彼は死神の警告を思い出しましたが、美しいお姫様の婿になれるという望みで頭がいっぱいです。姫を抱き起して足と頭を置き換えて薬草を飲ませました。姫はたちまち元気を取り戻しました。
\ココがポイント/
✅大きくなった男の子に死神は薬草の在り処を教え、名医にしてやろうと言う
✅自分が病人の頭の方に立っていればその人は助かり、反対に足元に立っていればその人は死ぬのだと死神は教えた
✅死に神の言うことを守り名医になった男だったが、王様の命を助けるために死神をだました
✅さらに今度は姫が病気になり、姫と結婚したい男はまたしても死神をだました
地下の洞穴には人の命を表すたくさんのろうそくが…
二度もだまされた死神は激怒します。冷たい手で医者を掴み、地面の下の洞穴へ連れ込みました。そこには数え切れないほどのろうそくが並んでいました。
「これは人間たちの生命の灯火だ。大きなものは子どもの、中くらいのは元気な夫婦の、小さなものは老人のものだが、子どもや若者でも小さな灯火を持っていることがある」と死神は説明します。
「私の命の灯火を見せてください」と医者が尋ねると、死神は火が消えそうになっている小さなろうそくを指さしました。ぎょっとした医者は、「新しいものに火をつけてください、そうすれば王様になれるし、美しいお姫様の婿にもなれますから」と言います。
「一つが消えてからでないと、新しいものは燃え始めない」と死神。すると医者は「それなら、古いものを新しいものの上に置いてください、古いものが燃え尽きれば、新しいものがすぐに燃え始めるでしょう」と懇願しました。
死神は新しい大きな蝋燭を手に取りますがわざと失敗し、小さなろうそくはひっくり返って消えてしまいました。医者の命は死神のものになったのです。
(おわり)
\ココがポイント/
✅死神は激怒し、地面の洞穴へと医者を連れ込んだ
✅そこには人間の命の表すろうそくがたくさんあって、医者の火は小さく消えそうだった
✅医者は新しいものに取り換えてくれと懇願するが、死神はわざと失敗し、医者のろうそくの火は消えてしまった
子どもと「死神の名付け親」を楽しむには?
タイトルに「死神」とあるとおり、生と死がテーマとなったお話でした。貧乏な家の子どもに生まれた男の子は、死神という名付け親を得ることで豊かな暮らしと名声を手に入れます。しかし、最後は「国王になれる」という欲に負け、死神の怒りを買って命を奪われてしまいました。死神をだますために病人の頭と足の位置を置き換えるという発想なども面白いですね。
生と死は難しいテーマのようですが、お子さんが小さなうちはあまり深く考えず、まずはストーリーを楽しめばよいでしょう。大人が読んでも色々と考えさせられますね。読む年齢によって子どもの感想も変わっていくかもしれません。
ちなみに、落語好きな人はお気づきかもしれませんが、このお話は落語の「死神」の原典とも言われています。YouTubeなどで聞いてみて、二つを比べてみるのもいいですね。
(文:千羽智美)
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