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2021年01月23日 18:52 更新

【助産師解説】母乳に含まれる免疫とは?母乳育児の健康面でのメリット

母乳には免疫物質が含まれることがわかっていますが、どの免疫がどれぐらい含まれ、赤ちゃんの健康にどのようなメリットをもたらしているのでしょうか?母乳の特徴とミルクとの違いについて、助産師が詳しくお伝えします。

母乳に含まれる主な免疫物質と働き

母乳には多くの免疫物資が含まれている。授乳する赤ちゃん。
Lazy dummy

母乳には赤ちゃんの発育・発達に欠かせないさまざまな栄養素とともに、免疫物質も多く含まれることで知られています。では、母乳には主にどのような免疫物質が含まれるのでしょうか? 

母乳にはどんな免疫物質が含まれている?

免疫の中で大きな役割を担っている免疫グロブリン(=抗体)には5つのタイプがあります。実は、母乳にはその全てが含まれています。中でも最も多く、約90%を占めるのが「分泌型免疫グロブリンA(IgA)」です。

分泌型IgAは初乳(産後に数日間に分泌される最初の)中に最も多く含まれています。特に乳児期の赤ちゃんは自力でIgAを作る能力が低いので、母乳中のIgAが感染防止に重要です。

母乳中の免疫に関係する主な物質や細胞成分

産まれたばかりの赤ちゃんの免疫力は未熟で、これを補うために母乳には数多くの免疫物質が含まれていますが、分泌型IgA以外にも、赤ちゃんを感染から守る物質や細胞が含まれます。

・ラクトフェリン
病原菌やウイルスの侵入を防ぐ効果があります。
初乳に多く含まれ、抗菌・抗ウイルス作用のほか、ビフィズス菌を増やしたり、免疫調節などの作用があります。

・オリゴ糖
ビフィズス菌の成長を促し、腸にビフィズス菌が定着することで、病原となる強い菌が腸に定着しにくくなります。
母乳中には130種類以上のオリゴ糖が含まれています。

・ムチン
細胞内、主に腸管をバリアし、ウイルスが侵入するのを防いでくれます。

・リゾチーム
抗菌・抗炎症作用があります。
なお、母乳に人工乳を混ぜると、リゾチームの働きが低下するため、母乳の免疫機能が減少することが知られています。そのため、混合栄養でも母乳に人工乳を混ぜないほうが良いでしょう。

・リンパ球
リンパ球は生きた細胞成分で、赤ちゃんの免疫機能の発達や感染予防作用があります。

・マクロファージ
感染が起こると、そこにマクロファージが集まり、細菌を食べることによって殺菌します。
なお、冷凍するとある程度の細胞が死滅してしまうため、冷凍母乳ではリンパ球やマクロファージの効果は期待できません。

母乳が赤ちゃんにもたらす健康面のメリット

授乳中の母乳から免疫を受け継ぐ赤ちゃん
Lazy dummy

母乳中にはさまざまな免疫物質などが含まれ、これが他の成分とともに赤ちゃんの健康な成長をサポートしていることがわかりました。母乳中に含まれる免疫は赤ちゃんを母乳で育てる大きなメリットのひとつですが、この他にも母乳には赤ちゃんの発育に良い影響をもたらす特徴がたくさんあります。

ママの風邪が赤ちゃんに…

ママが風邪をひくと、風邪ウイルスと戦うために作られた免疫が母乳を通して赤ちゃんに移行することもわかっています。

風邪をひいたり体調をくずすと、赤ちゃんにもうつるのでは? との心配から授乳をためらう方もいるかもしれませんが、その必要はなく、授乳前や赤ちゃんに触れる前に手洗いを十分に行い、マスクをするなど感染予防を行った上で、授乳をしても良いでしょう。

母乳の成分は赤ちゃんの成長に合わせて変化する

母乳には栄養素や免疫物質が多く含まれるだけでなく、含まれる成分が赤ちゃんの成長に合わせてその時々の最適なものへ変化するという特徴もあります。

たとえば、出産直後の初乳は赤ちゃんの未熟な免疫を補うべく免疫物質が多く含まれ、産後2週目以降の成乳には、発育をサポートすべくカロリーや脂肪分の分量が多くなります。

また、「1歳頃の母乳には栄養がほとんどない」という説を耳にすることもありますが、1歳を超えたら急に母乳の栄養が大きく変化するわけではありません。

この頃には離乳食からほとんどの栄養をとる必要があることから、そのような意味で「(母乳だけでは)栄養が(足り)ない」と言われているのかもしれません。生後6ヶ月頃からは母乳栄養だけでは不足する栄養素が出てくるのは事実ですが、母乳中の栄養素がほとんどなくなるというわけではないので、ここは誤解しないようにしましょう。

母乳とミルクの成分はどう異なる?

搾乳した母乳
Lazy dummy

前述のように、母乳には赤ちゃんの健康な発達と発育に必要な栄養素と免疫物質が多く含まれます。では、母乳とミルク(人工乳)の成分はどのように異なるのでしょうか?

多くの免疫物質が含まれ、赤ちゃんの成長とともに成分の割合が変化していくのは母乳だけの特徴です。一方のミルクには血液の凝固に関係するビタミンKや、正常な骨格と歯の発育の促進、カルシウムとリンの腸管吸収の促進など、さまざまな働きをするビタミンDが多く配合されています。これらは、母乳にはあまり含まれない栄養素です。

母乳であれ、ミルクであれ、赤ちゃんの健康的な成長に欠かせない乳糖、タンパク質、脂質、オリゴ糖などの栄養素が含まれることは同じです。ミルクは国のガイドラインをもとに母乳に近づくよう作っているので、国内メーカーのものなら配合成分に大差はありません。そのため、母乳とミルクはどちらを与えても栄養面の心配はなく、健康面での大きな差もないでしょう。

このように、赤ちゃんの健康な成長においては母乳・ミルクともに不足はないので、ママの健康や生活の条件など、さまざまな点を考慮してご家庭に合わせて選ぶとよいでしょう。

まとめ

母乳で赤ちゃんの免疫をま守る授乳中の赤ちゃんとママ
Lazy dummy

赤ちゃんの未熟な免疫を補うべく、母乳には多くの免疫物質が含まれています。もちろん、母乳だけですべての病気をブロックできるわけではありませんが、含まれる免疫物質により感染症のリスクは下がりやすくなるでしょう。また、母乳は赤ちゃんの成長に合わせて最適な成分割合に変化していくので、健康な成長に適した栄養とも言えます。一方のミルクには免疫物質はほとんど含まれませんが、発達・発育に不可欠栄養素は含まれています。ご家庭の状況や条件に合わせて決めてください。

(文・構成:マイナビウーマン編集部、監修・解説:坂田陽子先生)

※画像はイメージです

参考文献
NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会「母乳育児支援スタンダード」(医学書院)
水野克己ほか「よくわかる母乳育児」(へるす出版)
水野克己ほか「母乳育児支援講座」(南山堂)

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、助産師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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