【医師監修】新生児の抱っこ紐はどう選ぶ? 選び方と使用時の注意点
市販の抱っこ紐には幅広い機能やデザインがあり、選ぶのも迷ってしまいますね。新生児から使いたいと考えているものの、何を基準に選べばいいかわからなかったり、使用時の注意点が知りたい人のために、新生児の抱っこ紐についてまとめました。
新生児にも抱っこ紐は使える?
市販の抱っこ紐には、新生児から使えるものが多々あります。それでも新生児に使うときは横抱きのみだったり、専用のインサートが必要だったりと、使用条件が限られているものです。赤ちゃんの安全のために、必ず各製品の使用上の注意を確認してから使用しましょう。
新生児から使える抱っこ紐の種類
新生児から使える抱っこ紐には「横抱きタイプ」と「縦抱きタイプ」があります。
横抱きタイプ
赤ちゃんを横抱きできるタイプは、抱っこ時の姿勢が抱っこ紐なしでの状態に近く、目線も合わせやすいので、首が座る前の赤ちゃんにも試しやすいでしょう。
使用時は、ストラップやバックルが正しい位置になるように調整し、赤ちゃんの位置が低すぎず、歩いているときに揺れ過ぎないように気をつけて使用します。また、抱っこ紐のなかで赤ちゃんの首や頭がグラグラしないよう、付属のパッドなどですき間を調整します。
スリングタイプはとくに窒息に注意!
幅広の布をリングやアジャスターなどで留める構造の「スリングタイプ」の抱っこ紐でも、横抱きはできます。構造がシンプルで装着しやすく、赤ちゃんが体に密着するので、まだあまり動かない低月齢の赤ちゃんにも使いやすいのですが、このタイプでの横抱きでは「窒息」に特に注意が必要です。
赤ちゃんがスリングの中に完全に入り込んでしまうと、鼻と口が大人の体に押しつけられ、呼吸が妨げられてしまうことがあります。窒息が起こるのはわずか数分のことです。
スリングを使うときは、横抱きでも「赤ちゃんの顔がスリングの縁より上に位置していること」「赤ちゃんの顔が見えていること」を確認してください。赤ちゃんの頭や顔がスリングの中にすっぽり入っている状態は、正しい使い方ではありません。また使っている間は頻繁に赤ちゃんの様子をチェックしましょう。
縦抱きタイプ
縦抱きができる抱っこ紐にも、新生児から利用できるものがあります。首が座る前の赤ちゃんの頭部をフォローする構造になっていたり、別売りのインサートなどで首周りを支えながら使用します。
こちらも、安全に使うためにはベルトの位置をしっかり調整し、付属のフードやストラップも正しく使うことが大切です。
横抱きと縦抱き、どちらがいいの?
「横抱き」と「縦抱き」のどちらがいいかについて、実は断言できるような根拠はないようです。そこで、実際に月齢が低い赤ちゃんの抱っこ紐としてどんなタイプが選ばれているかから見てみましょう。
横抱き用は生後2ヶ月、縦抱き用は生後3ヶ月からの使用が多い
生後1年間の育児用品の使用に関する国内の研究[*1]では、抱っこ紐(抱っこスタイル)の使用率は77.5%、平均使用開始月齢は生後3.4±2.4ヶ月、1日あたりの平均使用時間は1.6時間となっていました。
一方、スリング(横抱きスタイル)の使用率は15.6%、平均使用開始月齢は生後1.9±2.2ヶ月、1日あたりの平均使用時間は0.3時間でした。
使用率は低いものの、横抱きスタイルのスリングは抱っこスタイルの抱っこ紐に比べて、比較的低月齢から使用されていることが分かります。これは、保健指導で「首が座る前の赤ちゃんは横抱きをする」ように指導されるからではないかとこの研究では考察しています。
首座りは生後3ヶ月以降が多い
赤ちゃんの首座りは、乳児健診で赤ちゃんを仰向けに寝かせて両手を持って起こしたとき、首が遅れずについてくるかどうかでチェックされます。1割くらいの早い子では生後2ヶ月~3ヶ月未満でできるようになり、3ヶ月~4ヶ月未満で6割、4ヶ月~5ヶ月未満に9割以上ができるようになります[*2]。
一般的に、生後3ヶ月くらいまでは、できるだけ横抱きを基本にしましょうと言われることは多いですが、それは首座りの時期を考慮してのことでしょう。ただ、もちろん、日常の生活の中でげっぷをさせるときや授乳時、横抱きに疲れたときなどに、首を支えて縦抱きにするのはまったく問題ありません。
横抱きでは、先天性股関節脱臼にも注意が必要
首座りの観点からは生後3ヶ月ごろまでは横抱きがいいと考えられますが、「先天性股関節脱臼」の予防のためには、縦抱きがいいという考え方もあります。縦抱きでは、赤ちゃんの両膝と股関節が十分曲がったM字型で外側に開いている「M字開脚」の状態に自然となりやすいからです。
「先天性股関節脱臼」は脚の付け根の関節が外れる病気。「先天性」といっても生まれてすぐ症状が出るわけではなく、リスクを持って生まれてきた赤ちゃんに対して、扱い方を注意することで発生を減らし、悪化を防ぐことができます。横抱きのスリングでは両脚が伸ばされた状態になり、股関節が脱臼しやすいので、注意が必要といわれています。次のうち複数が当てはまる場合は特に気をつけましょう[*3]。
・向き癖があり、向いている側と反対の脚がM字に開かない
・女の子(先天性股関節脱臼は女の子に多い)
・家族に股関節の悪い人がいる
・ 逆子(骨盤位)で生まれた
・ 寒い地域、寒い時期に生まれた(足を伸ばしてくるまないように注意が必要)
このように、「横抱き」と「縦抱き」のどちらがいいかというのはなかなか難しい問いですが、
・生後3ヶ月ごろまでは横抱きを基本に
・横抱きの際は脚が伸びたままにならないようにする
ということに注意すると良いでしょう。
抱っこ紐を使うときの注意
新生児を抱っこ紐で抱っこするときの注意点についても、事前に知っておきましょう。
事前にサイズ調整し着脱方法を確認する
抱っこ紐は付属品の取り付けやサイズ調整で新生児から3歳くらいまで使用できたり、さまざまな抱き方ができたりと、便利に進化しています。その分、装着の仕方が難しいこともあるようです。初めて使用するときは必ず事前に取扱説明書を読み、参考になる動画を見るなどして、よく理解してから使うようにしてください。
また、実際に赤ちゃんを抱っこする前に、使う人の体に合わせてある程度のサイズ調整をしておきましょう。ぬいぐるみなどを使って着脱の練習をしてから使用するのもおすすめです。
赤ちゃんがM字型開脚をした状態に
さきほど説明したように、先天性股関節脱臼の予防のために、抱っこの際は赤ちゃんがM字開脚になるように注意しましょう。
縦抱きの場合
縦抱きの場合は、赤ちゃんの脚が大人の体にしがみつくようにM字に開くことが多いのですが、抱っこした時に赤ちゃんの脚が下に伸び切っていないか、鏡を見るなどしてチェックしてください。
伸びてしまっている場合は各アジャスターなどが適正な位置になっているかもう一度確認し、赤ちゃんを後ろから見た時、脚がM型に開くよう調整してください。また、抱っこ紐の中で赤ちゃんが偏って左右対称に足を開けていなかったり、足が抱っこ紐の中に収まって動かせなくなったりしていないかも確認しましょう。
横抱きの場合
横抱きの場合は、さきほど説明したように脚が伸びたままにならないようにし、長時間同じ向きで抱っこするのは避けましょう。
転落事故に注意
転落事故にも注意が必要です。赤ちゃんを縦抱きの抱っこ紐に入れて前かがみになったために落下する事故や、赤ちゃんが隙間をすり抜けて落ちてしまう事故が起こっています。
低月齢の赤ちゃんは頭が重いため、頭から落ちてしまうことが多く重症につながる危険があります。抱っこ紐で抱きあげるときや降ろすときは、必ず低い姿勢で行いましょう。そして抱っこ紐の中で赤ちゃんが適切な位置になるように使用し、使用の度にバックルの止め忘れやベルトに緩みがないか確認を。
抱っこしたまま前にかがむときは必ず手で支えます。地面に手を伸ばすときは前かがみではなく、ひざを曲げて腰を落とすようにしましょう。
窒息事故に注意
スリングタイプの窒息については前半で説明しましたが、縦抱きの抱っこ紐でも窒息が起こる可能性はあります。使用中は赤ちゃんの様子に注意し、フードを被せる際も隙間を作って赤ちゃんの様子がいつも確認できるようにしてください。
そして、大人の体に赤ちゃんの顔が押し付けられていないこと、赤ちゃんの顎と胸の間に隙間があること、赤ちゃんが頭を動かせる隙間があることを確認しましょう。また、首が座る前の赤ちゃんでは常に抱っこ紐の本体やインサート、大人の手で首を支えることも忘れずに。何か異変を感じたらすぐに使用を中止してください。
まとめ
新生児から使える抱っこ紐はたくさんあり、抱き方は大きく横抱きと縦抱きにわかれます。どちらを選ぶかは、それぞれの特徴を踏まえて、首座り前に使う頻度や実際に装着してみたときの着け心地などから総合的に判断しましょう。どちらの抱き方もできる多機能な抱っこ紐もあります。どんな抱っこ紐を使うにしても、使い方を誤ると事故のリスクがあります。製品の説明をよく読み、安全に使用してください。
(文:佐藤華奈子/監修:梁 尚弘先生)
※画像はイメージです
[*1]発育発達研究 第 86 号「生後1年間における育児用品の使用に関する研究:乳児の運動発達の視点から」
[*2]厚生労働省「平成22年 乳幼児身体発育調査」
[*3]日本小児整形外科学会「股関節脱臼予防パンフレット」
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます