【医師監修】赤ちゃん(乳児)のインフルエンザ | 症状・予防・対処法
気温が下がってくると気になってくるのが、インフルエンザ予防のこと。初めての冬を迎える赤ちゃん(乳児)の場合は勝手がわからずなおさら心配になりますね。赤ちゃんがインフルエンザにかかった時の症状や対処法について、予防法とともに紹介します。
赤ちゃんもインフルエンザにかかるの?
「月齢の低い赤ちゃんはママからもらった免疫が残っているので風邪を引きにくい」と言われることがあります。インフルエンザは症状がより重いものの風邪に似た病気ですが、本当に赤ちゃんは風邪やインフルエンザにかかりにくいのでしょうか?
赤ちゃんもインフルエンザにかかる
生後半年以内はもっとも免疫力が低い
たしかに、赤ちゃんは胎児の頃にママの持っている免疫(病気に打ち勝つ力)の一部を譲り受けます(IgGという抗体※)。ママから受け継いだIgGは出生時にもっとも多く、生後6ヶ月ごろまで赤ちゃんに残っています(生後3ヶ月ごろから赤ちゃん自身もIgGを作り始めます)。ただし、IgGは数ある免疫の仕組みの「一部分」でしかありません。
※抗体:ウイルスや細菌などを排除するために体内でつくられるたんぱく質。
抗体にはほかにIgAやIgMもありますが、これらは出生後、母乳から吸収したり、赤ちゃん自身の体内で少しずつ作られ増えていくものです。また、リンパ球などの細胞も免疫で重要な役割を果たしますが、赤ちゃんは大人に比べてその働きが弱かったり、病源体に対して素早く攻撃できなかったりします。つまり総合的に考えると、母親由来のIgGが残っている時期であっても赤ちゃんの免疫はまだ弱い状態にあるのです。
また、母体からのIgGが移行するといっても、インフルエンザ自体が終生免疫(一度かかったらその後は生涯かからない)の感染症ではないため、母親がインフルエンザウイルスに有効な抗体を持っていないことも十分に考えられます。
一般的に言われる「風邪」とは「かぜ症候群」のことで、おもに鼻の中からのどまでに急性の炎症を起こす病気のことを指しますが、その原因となる病源体はさまざまです。多くがウイルスですが、細菌などが原因となることもあります。インフルエンザも「かぜ症候群」を起こすウイルスの一種です。
さきほど説明したとおり免疫の仕組みは単純でなく、病源体によってもその働き方は異なります。ママからもらったIgGが中心となって感染を防いでくれる病気も中にはありますが、「普通の風邪」も、「インフルエンザウイルスによる風邪」も、月齢の低い赤ちゃんもかかります。
赤ちゃんがかかると重症化することが多い
乳幼児はインフルエンザにかかると重症化することがあり、まれに、急性脳症を起こしたり後遺症が残ることもあります。
インフルエンザは大人でも高熱が出ますが、0~1歳で発症すると、入院する割合がおよそ3%と他の年代に比べ高かったという報告もあります[*1]。この報告では、2歳以上の子供を含めそれ以上の年齢での入院率は1%前後でした(65歳以上の高齢者は約2%)。
ですから、赤ちゃんの場合はとくに、インフルエンザにかからないように予防を心がけ、もしかかった時には早めに診察を受けておくことが大切なのです。
妊娠中の予防接種で赤ちゃんの感染リスクが下がるという報告も
なお、ママが妊娠中に予防接種しておくと、赤ちゃんが生後6ヶ月までにインフルエンザにかかる率を減らすことができるという報告もあります。
インフルエンザは妊娠中にかかると重症化しやすいこともあり、妊婦さんは流行する前に予防接種を受けておくことが推奨されています。妊娠中のインフルエンザ予防についてくわしくは、下記の記事も参照してください。
赤ちゃんのインフルエンザの症状って?
もし赤ちゃんがインフルエンザにかかったら、どんな症状が見られるのでしょうか? 大人がかかった時との違いも知っておきましょう。
インフルエンザの症状とは
赤ちゃんがインフルエンザになると、大人と同じように39~40℃の高熱が出て、寒気や頭痛がするようになります。かかり始めには咳や鼻水が出ることもあります[*2]。
全身がだるくなり、筋肉痛なども起こると考えられます。喉が痛んだり鼻がつまることもあるでしょう。赤ちゃんはこうした不調を言葉で訴えられないので、代わりに機嫌が悪くなったりぐったりするなどの様子がみられるかもしれません。嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状が現れることもあります。
赤ちゃんのインフルエンザが大人と違うのは、合併症を起こして重症化しやすい点です。
インフルエンザウイルスによる上気道症状だけではなく、肺炎や脳炎・脳症、中耳炎、筋炎などを起こすことがあり、大人よりも重症化しやすいのです。また熱性けいれんを起こしやすいウイルスであり、けいれんにも注意が必要です。
インフルエンザを防ぐためにできること
赤ちゃんにとって、インフルエンザは大人以上につらい病気です。できるだけかからずに済むように、予防に気をつけてあげたいですね。
生後6ヶ月以上なら予防接種を受ける
インフルエンザワクチンは、生後6ヶ月から任意接種で受けることができます。
2015-16シーズンのデータでは、6歳未満でインフルエンザの不活化ワクチンの効果について調べた報告では、予防接種を受けなかった場合と比べて約6割、発症のリスクを減らしたとしています[*3]。乳幼児のインフエルエンザワクチンの有効性に関しては、報告によって多少幅がありますが、概ね20~60%の発病防止効果があったと報告されています[*4]。
インフルエンザのワクチンは確実に発症を防げるわけではありませんが、発症の予防だけでなく、乳幼児の重症化予防に役立つ可能性もあると言われています[*4]。赤ちゃんの命を守るために、生後6ヶ月になったら、ぜひワクチンを接種しておきましょう。
ほかの予防接種と間隔を開けなくて良くなった
なお、乳幼児のうちはたくさんの予防接種のスケジュールに、インフルエンザの接種も組み込むことになります。うれしいことに、2020年10月からは予防接種の間隔が変わって接種しやすくなりました[*5]※。
これまでは、たとえば4種混合などの不活化ワクチンを接種した後、インフルエンザの予防接種を受けようとすると、4種混合を接種後「1週間ほど開けてから」インフルエンザを接種することになっていました。これが、2020年10月からは「翌日」にインフルエンザの予防接種を受けることもできるようになったのです(逆も同様にOK)。
※ただし、注射生ワクチン(MR、水痘、おたふくかぜ、BCG)同士は、27日間開けて接種する必要があります
予防接種のスケジュールについて、詳しくはかかりつけの小児科でも相談してみてくださいね。
人混みを避ける
インフルエンザはおもに「飛沫感染」で広がる病気です。インフルエンザにかかっている人の咳やくしゃみ、つばなどが飛沫となって飛んだ時に一緒に飛び出したウイルスを、喉や鼻から吸い込んで感染します。
そのため、インフルエンザのシーズンになったら、人混みや繁華街など人の集まる場所を避けるだけでもインフルエンザ予防につながります。
赤ちゃんとのお出かけは人混みをさけ、すいている時間帯を選ぶようにしましょう。
小まめに手を洗う
うがい、手洗いもインフルエンザ予防にはかかせません。
赤ちゃんはまだうがいはできないので、お出かけしたら手洗いだけはやってあげましょう。もちろんママやパパは、インフルエンザウイルスを自宅に持ち込まないように、帰宅したらまっさきにうがいと手洗いをするように心がけてくださいね。
自宅では湿度50~60%に加湿を
空気が乾燥すると、喉や鼻の粘膜が乾きやすくなって防御機能が下がり、インフルエンザにかかりやすくなります。
自宅では加湿器などを使って、湿度50~60%を保つように心がけましょう[*6]。
また、赤ちゃんはマスクができませんが、ママやパパはマスクをすることも大切です。
親子でバランスの取れた食事とお休みを
体力や抵抗力が落ちると、インフルエンザにかかりやすくなります。
赤ちゃんはもちろんママやパパも、元気な体を維持できるように普段からバランスの取れた食事を心がけたうえで、できるだけしっかりと睡眠を取って身体を休め、無理をしないようにしましょう。
赤ちゃんがインフルエンザにかかったら
予防を心がけていても、赤ちゃんがインフルエンザにかかってしまうことはあります。赤ちゃんがインフルエンザにかかった時の対処方法もチェックしておきましょう。
症状が出たら早めに病院へ
赤ちゃんが急に熱を出したり鼻水や咳を繰り返すようになったら、単なる風邪だと見過ごさないで、早めにかかりつけの小児科を受診しましょう。
なお、インフルエンザで発熱してから24~48時間以内に、「インフルエンザ脳症」を起こすことがあります[*6]。この場合、おう吐、意識がはっきりしない、けいれんや、いつもと違う異常な行動をするなどの症状が見られます。
インフルエンザ脳症は、年によって異なりますが、日本では1シーズンに100~300人程度の子供に起こることがわかっています。インフルエンザ脳症を起こすと、場合によっては後遺症が残ったり、亡くなってしまうこともあります[*6]。
インフルエンザ脳症であった場合も、できるだけ早く適切な治療を開始することが重要とされています。赤ちゃんにインフルエンザを疑うような症状が出たら、できるだけ早く医療機関で診察を受けましょう。
おうちでの過ごし方は?
おうちでのんびりと過ごしましょう
医療機関でインフルエンザの診断を受けたら、主治医の指示に従って薬を飲ませるなどしたうえで、自宅ではできるだけ体力を使わずに済むようにのんびりと過ごしましょう。
しっかりと睡眠を取ることが大切ですが、赤ちゃんが寝ようとしなければ無理やり寝かしつける必要はありません。絵本を読み聞かせてあげたり抱っこをしたりしながら、できるだけ興奮させないようにゆったり過ごしてくださいね。
水分を十分取りましょう
インフルエンザにかかったら、十分水分補給することも大切です。
離乳食の開始前であれば、母乳やミルクをいつも通りあげれば大丈夫です。離乳食が始まっていて赤ちゃんが欲しがるのであれば、その進み具合に合ったスープなどをあげるのもいいですね。
引き続き加湿を心がけましょう
空気が乾燥していると、咳が出やすくなったり喉が痛みやすくなります。
予防の時と同じように、引き続き湿度50~60%を保ちましょう。
まとめ
赤ちゃんもインフルエンザにかかることはあります。しかも、大人より重症化しやすいので、できるだけかからないように予防することが大切です。
生後6ケ月以上になったらワクチン接種を受けるだけでなく、流行時期には人混みを避けること、お出かけ後には手をよく洗うこと、加湿を心がけます。それでもかかってしまったら、症状に気づいた時点ですぐに小児科で診てもらいましょう。自宅では処方薬の服用、部屋の加湿、母乳やミルクなど飲めるものによる水分補給をしてあげてください。
親子でインフルエンザにかからないように、またかかっても悪化しないように、普段から体調を整えておき、流行を乗り越えていきましょう。
(文:大崎典子/監修:大越陽一 先生)
※画像はイメージです
[*1]Yokomichi H et al.: Incidence of hospitalisation for severe complications of influenza virus infection in Japanese patients between 2012 and 2016: a cross-sectional study using routinely collected administrative data, BMJ Open. 2019; 9(1): e024687.
[*2]「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説 2020年5月改訂版」日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会
[*3]Jefferson T. et al.:健康な小児におけるインフルエンザワクチンの予防効果, Cochrane Systematic Review , February 2018
[*4]厚生労働省:インフルエンザQ&A Q.23: 乳幼児におけるインフルエンザワクチンの有効性について教えて下さい。
[*5]厚生労働省:ワクチンの接種間隔の規定変更に関するお知らせ
[*6]厚生労働省「インフルエンザの基礎知識」平成19年12月版
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます