
授乳中の豆乳が母乳に良いって本当? イソフラボンの影響は?【管理栄養士監修】
なんとなくヘルシーで健康によさそうなイメージのある「豆乳」ですが、授乳中に飲むと母乳によい影響があるかもと聞くことがあります。これは本当なのでしょうか。豆乳に含まれるさまざまな栄養素の働きとともに解説します。
豆乳は母乳にいいって本当?


授乳中は、体に摂り入れるものにどんな栄養が含まれるのかとくに気になりますよね。「豆乳」は蒸した大豆を砕いて、液体の豆乳とおからに分けて作られます。そのため、大豆由来の栄養成分を豊富に含んでいます。
もしかしたら「豆乳は母乳にいい」という噂を耳にして、授乳中に飲んでみたくなった人もいるかもしれませんね。体にうれしいさまざまな栄養素を含む豆乳ですが、本当にこういった働きが期待できるのでしょうか。
大豆イソフラボンに母乳を増やす効果はなさそう
「豆乳が母乳によさそう」という噂について、それを裏付けるはっきりした根拠はとくになさそうです。豆乳にはエストロゲンに似た働きをする「大豆イソフラボン」が含まれることからそう連想した人がいたのかもしれませんね。
でも、産後に母乳を分泌させるのは「エストロゲン」ではなく、「プロラクチン」と「オキシトシン」というホルモンです。エストロゲンにはむしろ母乳の分泌を抑える作用があるため、豆乳が母乳をたくさん作るのに役立つとは考えにくいでしょう。
母乳がよく出るようになる食品ってあるの?
「〇〇を食べると母乳がよく出るようになる」「母乳によくないので授乳中に〇〇は避けるべき」といった説がまことしやかに言われることもありますが、実はその多くはそれが本当かどうか科学的にきちんと調べられていません。
「昔から言われているから」とか「個人的にたまたまそう感じた人がいたから」といった理由で言われているだけで、根拠がないことがほとんどなのです。
授乳中の栄養摂取で大切なのは、「さまざまな食品をバランスよく食べること」「エネルギーは平常時より少し多めに」「十分に水分補給すること」の3つです。なお、母乳の量を増やす方法が知りたい人は、下記の記事を参照してみてくださいね。
豆乳には産後の体にうれしい栄養がいっぱい


飲むことによる母乳増が期待できなくても、「豆乳は栄養豊富」なため、産後の飲み物としておすすめです。豆乳に含まれ、健康に役立つとされる栄養素にはどんなものがあるのか解説します。
体で効率よく利用されるたんぱく質
豆乳は液体なので、きなこや納豆に比べれば少なくはあるものの、牛乳と比べると同等かそれ以上の「たんぱく質」を含んでいます。
たんぱく質は体内で筋肉や臓器などを構成する欠かせない栄養素ですが、つねに分解と合成を繰り返しているので、食べ物や飲み物から常に十分に補給する必要があります。
実は、豆乳の原料である大豆に含まれるたんぱく質の「アミノ酸スコア」は「100」[*1]。アミノ酸スコアは、100に近いほど人間の体内で効率よく利用されることを示す指標です。そのため、豆乳をはじめ大豆食品はたんぱく質源として優秀なのです。
授乳中は非妊娠時の摂取量に「1日20gプラス」することが推奨されている[*2]ので、しっかりたんぱく質をとりたいものです。なかなか料理が難しいという場合は、豆乳などから簡単に補給できるといいでしょう。
大豆イソフラボン
大豆には「大豆イソフラボン」というポリフェノールの一種が含まれています。大豆イソフラボンはその構造が女性ホルモンのひとつである「エストロゲン」に似ており、「植物エストロゲン」と呼ばれることもあります。
女性の体内で卵巣から分泌されるエストロゲンには、妊娠や生理などにかかわるさまざまな働きがありますが、それ以外にも「骨量の維持」や「LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)を低下させる」などの作用もあります。
大豆イソフラボンは女性の体内でつくられるエストロゲンに形が似ていることから、弱いエストロゲン様作用があるとされ、「骨粗しょう症の予防」や「更年期障害を軽くするのに役立つ」可能性があると言われています[*3]。
健康効果が期待されるサポニンやレシチン
豆乳には「サポニン」という成分も含まれています。サポニンは植物に含まれる苦味成分ですが、抗酸化作用や肥満予防、肝機能向上など、健康に役立つさまざまな働きが期待されています。
また、大豆には「レシチン」も豊富です。細胞膜の主成分であるリン脂質の一種で、これが不足すると細胞膜の正常な働きが保てなくなったり、血管にコレステロールが溜まりやすくなったりします。また、脳や神経を構成する成分としても重要です。
お腹の健康に役立つオリゴ糖
豆乳には「オリゴ糖」も含まれています。オリゴ糖は、ビフィズス菌などの善玉菌と呼ばれる腸内細菌の餌となってこれを増やす働きがあり、お腹の調子を整えるのに役立ちます。
ビタミン、ミネラルなども豊富
その他にも、豆乳は、「葉酸」をはじめとしたビタミンB群やビタミンE、カリウム、マグネシウムといったミネラルも含んでいます。
豆乳ばかり毎日大量に飲むのはあまりお勧めしない

さまざまな栄養素が含まれる豆乳。中には「授乳中の水分補給は豆乳ですればいいのでは?」と思った人がいるかもしれません。でも、それはあまりお勧めしません。
どんな食べ物でも1つに偏ることはリスクも伴います。食事ではいろいろなものを摂ることで、バランスよく栄養がとれるよう意識したいですね。
毎日豆乳を飲むならどのくらいがいいの?
健康に役立つ働きが期待されている大豆イソフラボンですが、その影響については不明な点が多いため、内閣府の食品安全委員会では、大豆食品からの大豆イソフラボン摂取量で安全と考えられる量を公表しています。
そこでは、1日の上限量を「70〜75mg/日(大豆イソフラボンアグリコン換算値)」としています[*4]。これは長年にわたり大豆食品をよく食べている日本人で、明らかな健康被害が報告されていない量などを参考に算出されています。
豆乳に含まれる大豆イソフラボンは、製品により異なりますが「平均25mg程度/100g」(大豆イソフラボンアグリコン換算値)[*4]。この濃度で計算すると、大豆イソフラボンの上限量を超えない豆乳の量は「1日300g程度」ということになります。
豆乳をこれ以上飲んだからといって、食品で摂る分には、毎日何リットルも長期間飲み続けていない限り、健康への影響を心配する必要はそれほどないと考えられます。
ただ、大量に豆乳ばかり飲んでいると他の食品が摂れなくなってしまいます。さまざまな食品からバランスよく栄養摂取するなかで、豆乳も適量飲むことをおすすめします。
まとめ

豆乳に含まれる栄養素の働きと期待されている効果、授乳によい影響があるのかどうかなどを解説しました。赤ちゃんに母乳をあげているときですから、せっかくなら少しでも体によいものを摂りたいと考える気持ちがわくのは自然なことですが、残念ながら食品にそうした効果を期待して摂りすぎるとかえってあまり体によくないこともあります。豆乳は授乳中にもおすすめできる飲料ですが、何事も過ぎたるは及ばざるが如し。豆乳だけをたくさん飲むのではなく、いろいろな食品を摂る中で適量を楽しむようにしましょう。
(文:マイナビ子育て編集部/監修:川口由美子 先生)
※画像はイメージです
[*1]日本食品分析センター:食品たんぱく質の栄養価としての「アミノ酸スコア」
[*2]日本人の食事摂取基準(2020年版)たんぱく質
[*3]食品安全委員会 大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます