【助産師解説】母乳を増やす5つの方法とは? 少ないかどうかの見分け方
「母乳が足りない?」と不安になることがありますよね。母乳が少なく足りていない場合は、母乳量を増やす方法を試してみましょう! 一方、実際には十分なのに「母乳が不足しているように誤解している」ケースも。今回は母乳指導を多く手がける坂田陽子先生に、母乳を増やす方法と本当に不足してるかの見極め方を解説いただきました。
母乳を増やすには? 分泌量を安定させる5つの方法
なかなか母乳育児が軌道に乗らないとき、赤ちゃんのためにもできるだけ早く量を安定させたいですよね。一体どうすれば母乳の分泌を促してスムーズに母乳量を安定させることができるのでしょうか。
1. 回数|赤ちゃんがほしがるだけ飲ませてあげよう
母乳の量は、産後早い時期から頻繁に授乳した方が早く増えやすいです。これは、母乳は赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激により分泌されるプロラクチンによって産生が促されるためです。
実は、母乳を作るホルモンであるプロラクチンの濃度は出産直後がもっとも高く、その後はゆっくり低下していき、何もしなければ産後7日目くらいには妊娠前と同じくらいまで下がってしまいます。でも、プロラクチンの値は乳頭が刺激されるたびに上昇するので、産後すぐから赤ちゃんにおっぱいを吸ってもらえば、プロラクチンはその後ゆっくりと低下し、授乳の度に一過性に上昇します。具体的には、24時間に8回以上授乳していれば、次の授乳までのプロラクチン濃度は下がりにくく、その分母乳の産生も安定しやすいと言えます。なので、最初の頃はとにかく赤ちゃんがほしがるだけ、できるだけ頻回に授乳するよう心がけましょう。
また、乳房の中に長い間母乳を溜めておくと、母乳の産生量を抑制するたんぱく質(=乳汁産生抑制因子)によって分泌量が減ってしまいます。母乳の排出を滞らせないためにも、やはり頻回授乳が大切と言えます。
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2. 姿勢|正しい授乳姿勢を心がけよう
おっぱいを飲ませる際は、正しい授乳姿勢を心がけることも大切です。というのも、授乳姿勢が正しくないと吸着がうまくいかず、赤ちゃんが上手に飲めなくなってしまうからです。うまく哺乳できないことで飲み残しが多くなると、乳房に母乳が溜まりやすくなり、乳汁産生抑制因子によって母乳の分泌量が減ってしまう可能性があります。
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3. 補足|ミルクはむやみに足さない
必要がない場合はむやみにミルクを足さないよう心がけましょう。ミルクを与える量が多くなると母乳の哺乳量が少なくなり、結果的に分泌量の減少につながります。
また、赤ちゃんが人工乳首に慣れてしまうと、まれにおっぱいから吸うことを嫌がる「乳頭混乱」を起こす場合もあります。乳頭混乱が起こると母乳を飲ませることが困難になり、哺乳回数と量が減ってしまうと分泌が減るリスクがあります。
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このような理由から、ミルクの補足はどうしても必要なときだけ、必要な量をあげるよう努めることが大切です。わからないときは医師や助産師にアドバイスを受けましょう。
4. 搾乳|何らかの理由で授乳ができないときは搾乳しよう
授乳をしたくても、状況によっては授乳ができないこともあると思います。そのようなときは、分泌を滞らせないためにも搾乳して母乳を排出させてください。
搾乳が頻繁であったり、手ではうまく搾れないときは搾乳機を使うという方法もあります。さまざまなタイプが市販されているので、無理なく搾乳するためにも専門家にアドバイスを受けながら、自分にもっとも合うものを選んでください。
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5. 相談|母乳不足が疑われるときは専門家に相談しよう
母乳不足のサインが見られるときは、すぐにかかりつけの産婦人科を受診しましょう。また、なかなか母乳が増えない…と心配なときも、1人で悩まずに産婦人科や母乳外来に相談してみてください。母乳不足かどうかを診断してくれるだけでなく、何が問題かをアドバイスしてもらえ、具体的な対策も教えてもらえます。
まれに、出産時の状況(出血や胎盤娩出)など医学的な原因で母乳分泌不全となっていることもあります。心配なときは、遠慮なく相談しましょう。
最初からうまくできる人はいませんし、みんな手探りから始めるのが当たり前。相談することをためらわず、赤ちゃんのためにもスムーズに解決できる道を選びましょう。
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母乳が足りてるか足りてないか、見分ける方法は?
「母乳が増えない」「不足している」と感じるママは少なくありません。でも、それは本当に母乳の分泌量が足りていないのでしょうか? 「母乳が足りていない」と感じる主なケースと、実際の母乳不足のサインについて説明します。
本当は足りているケース1:産後すぐで母乳量が不安定
「母乳が足りていないかも…」と感じるのは、多くが "授乳し始めてまだ間もない頃" のようです[*2]。実は、そう感じてしまうのは仕方のないこと。というのも、出産後すぐにたくさんの母乳が分泌されるわけではないからです。
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「では、分泌量が増えるまで、母乳だけでは赤ちゃんに十分な量をあげられないのでは?」と心配になるかもしれません。実際、母乳量が安定するまでには一定の時間が必要ですが、生まれたての赤ちゃんの胃もまた小さいもの。初めは一日何度もちょっとずつ飲んでいたのが、赤ちゃんの胃のサイズの成長に添うようにママの母乳の量も増え、まとめてたくさん飲めるようになってきます。赤ちゃんに頻繁に吸ってもらうことで徐々に母乳の分泌が促されるので、量が少ない時期から少量でも頻回に授乳することが大切です。
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ただし、赤ちゃんの体重減少が大きいなどの場合には、必要に応じてミルクで補うことがあります。入院中は助産師に相談してみましょう。退院時には母乳の出方を見て適切なアドバイスがもらえます。その後も、不安や疑問、気になることがあるときは医師や助産師に遠慮せず相談しましょう。
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本当は足りているケース2:「母乳不足感」で足りないと誤解
■赤ちゃんの状態
・泣いてばかりで寝てくれない
・母乳を飲ませてもすぐまた飲みたがる
・ずっとおっぱいを離さない
・指やこぶしをよく吸っている
母乳は消化にかかる時間が短いため、1時間ほどで次の授乳が始まる場合もあります[*2]。
消化の問題のほかにも、実は赤ちゃんは空腹だけでなく「安心感を得る」ためにも母乳を飲みたがることもあります。
■ママの状態
・おっぱいが張らなくなった
・母乳が漏れなくなった
・搾ってもあまり母乳が出ない
おっぱいが張っていないと母乳が溜まっている実感がなく、不足感を覚えやすいですが、一般的に、母乳の分泌が安定してくるとおっぱいは張らなくなる傾向にあります。
張っていなくても、搾乳で取れる量が減っていても、母乳不足とは限らないので安心してください。
このように、授乳回数や時間、おっぱいの張りなどを見て、本当は不足していないのに母乳の分泌が足りないかもしれない…と思うのは「母乳不足感」で、本当の「母乳不足」とは異なります。
事実、母乳が増えない、分泌量が少ないと母乳外来に相談に来るママは、母乳不足感を覚えているだけである場合がほとんどです。本当は不足していないのに、その疑いだけでむやみにミルクを足して授乳回数を減らしてしまうと、結果的に母乳量の減少につながってしまう可能性もあるので、注意が必要です。
本当に足りていないケース:体重、排泄、脱水をチェック
■体重が増えない。体重減少の幅が大きい
赤ちゃんの体重は、産後3ヶ月まではおよそ25~30g/日、3~6ヶ月目はおよそ15~20g/日、それ以降1歳まではおよそ10~15g/日ずつ増えるのが目安です[*3]。
体重の増え方がこれより著しく少なかったり、体重の減り方が多い場合は、哺乳量の不足など何かしらの問題が考えられるので、すぐに医療機関を受診しましょう。
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■排泄の回数や量が少ない
尿と便は、赤ちゃんが十分な量の母乳を飲んでいるかどうかを判断するひとつの指標となります。尿の回数が減った、おむつの濡れ具合や重さが少なくなった、便の量が少なくなったと感じるときは、医療機関に相談しましょう。なお、月齢を重ねると、母乳が足りていても便の回数は少なくなる傾向があります。
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・母乳が足りている場合の尿と便の目安[*4]
・尿:1日6~8回、色の薄いおしっこが出る
・便:1日3回以上うんちが出る(生後6週目ごろまで)
口が乾燥している、赤ちゃんの尿の色が濃いなどの症状が見られるときは、脱水症状の可能性があります。また、お腹がすく時間なのに授乳に対して無気力でおとなしい、眠りがちなときも、脱水症状や体調不良が疑われます。
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このようなサインが見られるときは、母乳不足の可能性も考えられます。他に何かしらの病気などが潜んでいる可能性もあるので、少しでもおかしいと感じるときはすぐに医療機関を受診しましょう。
まとめ
妊娠中に引き続き、授乳中も何かと不安になることが多いですよね。母乳は産後すぐに多く分泌されるわけではありません。赤ちゃんの胃のサイズに合わせて少しずつ増えていくので、スムーズに分泌量を安定させるためにも初期は頻回授乳を心がけましょう。飲み残しを少なくするために、正しい授乳姿勢と吸着で哺乳することも大切です。母乳がなかなか増えない、赤ちゃんが頻繁に飲みたがる、授乳時間が長いなどの理由で安易に母乳不足を疑い、ミルクを足すのは得策ではありません。わからないときは遠慮なく専門家に相談しましょう。また、赤ちゃんの体重が増えないなど母乳不足が疑われる危険サインが見られるときは、すぐに医療機関を受診してください。
(文・構成:マイナビ子育て編集部、監修・解説:坂田陽子先生)
※画像はイメージです
[*1]水野克己「母乳育児支援講座」(南山堂)
[*2]堀内成子ほか「エビデンスをもとに答える妊産婦・授乳婦の疑問92」(南江堂)
[*3]厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業「乳幼児身体発育 評価マニュアル」p.24
[*4]水野克己「これでナットク母乳育児」(へるす出版)p60
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、助産師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます