これは過飲症候群?新生児に多い母乳・ミルクの飲み過ぎサインと改善方法【医師監修】
体重が通常よりかなり早く増加している赤ちゃんに、たびたびのおう吐やお腹がパンパンなどの様子も見られたら「過飲症候群」の可能性があります。過飲症候群の症状、原因、対処法を解説します。
母乳・ミルクの飲みすぎによる「過飲症候群」
赤ちゃんが母乳やミルクをよく飲むのは、すくすくと元気に育っている証拠。でも、あまりにもたくさん飲みすぎていると、体調を崩すこともあります。過飲症候群とは何かを知って、赤ちゃんにとってほどよい授乳について、今一度考えてみましょう。
過飲症候群とは
数日~数週間にかけて母乳やミルクを飲みすぎた結果、赤ちゃんにさまざまな症状が出てくるもので、特徴的なのが「体重の増加量が通常よりだいぶ多い」こと。1ヶ月健診の前後によくみられるとされています[*1]。
体重の増える量が多いこととともに、大量に吐き戻したり、喉がゼロゼロ鳴ったり、お腹がパンパンになるなどの症状も見られます。過飲症候群で見られる可能性がある症状については、中盤の「過飲症候群の赤ちゃんに見られる症状」でより詳しく解説します。
これにあてはまったとしても多くの場合、授乳の工夫で解決すると言われています。あまり深く考えすぎないでくださいね(監修:森戸やすみ 先生)
赤ちゃんの体重増加の目安について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
赤ちゃんのミルク・母乳の目安量
過飲症候群は母乳やミルクの飲み過ぎで起こると説明しました。過飲症候群で見られる症状を解説する前に、まずはミルクや母乳の月齢別の目安量をおさらいしておきましょう[*2]。
育児用ミルクの授乳間隔と回数、授乳量の目安
●出生後~3、5日
欲しがる時に1日8回。初回は10~15ml(1日~数日ごとに、1回当たり10~15mlずつ増やしていく)
●生後1ヶ月未満
1日7~8回。0~1ヶ月の間は1回当たり80ml
●生後1~3ヶ月ごろ
1日5~6回。生後1~2ヶ月は1回当たり120~150ml、生後2~3ヶ月は1回当たり150~160ml
●生後4~5ヶ月ごろ
1日5回。生後3~4ヶ月は1回当たり200ml
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新生児期のミルク量に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
ミルクは母乳より長く胃にとどまる
母乳が胃にとどまっている時間は「約90分」ですが、ミルクは「約180分」で母乳よりもだいぶ長いといわれています[*2]。胃の中で半分まで減る時間は、母乳が47分、ミルクは65分だったという研究結果もあります[*3]。とはいえ、消化の速さには個人差がありますし、実際に飲んだ量によっても変わってくるのでこれはあくまで目安です。
同様にミルクの適量も赤ちゃんによって少しずつ異なりますが、ミルクの与え過ぎが心配な場合は、まず上記の授乳回数や量と照らし合わせて、極端に多く与えていないかを確認してみるとよいかもしれません。
ただ、何か別に病気があっておう吐などの症状を引き起こしている場合もあります。過飲症候群かもしれないと思っても自己判断はせず、まず専門家に相談してから対策したほうが安心です(対処法の詳細は、後半の「対策・対処法」で解説します)。なお、過飲症候群の心配がない場合は、赤ちゃんがほしがるたびにあげていて大丈夫です。
母乳の授乳間隔と回数の目安
●出生後~生後2・3ヶ月ごろ
欲しがる時。1日7、8回以上
●生後3~5ヶ月ごろ
眠る時間が長くなるため、1日の授乳回数は6~7回くらいに減る
●生後5~6ヶ月ごろ
離乳食を始めてからほぼ1ヶ月間は、離乳食は1日1回。母乳は授乳のリズムに合わせて、赤ちゃんが欲しがった時に与える
●生後7~8ヶ月ごろ
離乳食は1日2回くらいになる。母乳は離乳食の後に与える。また、離乳食後とは別に、授乳のリズムに合わせて赤ちゃんが欲しがった時にも母乳を与える
●生後9~11ヶ月ごろ
離乳食は1日3回くらいになる。母乳は離乳食の後に与える。また、離乳食後とは別に、授乳のリズムに合わせて赤ちゃんが欲しがった時にも母乳を与える
●生後12~18ヶ月ごろ
食事を1日3回摂るとともに、1日1~2回を目安に間食を与える。母乳は離乳の進み具合に合わせて与える
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母乳の場合は赤ちゃんが実際どのくらいの量を飲んでいるかわかりにくいものですが、1日に飲み取る量を合計すると、生後1ヶ月では650ml、生後3ヶ月で770ml、生後6ヶ月で800ml程度と言われています[*4]。
また、ミルクの項でも説明した通り、母乳が胃の中にとどまる時間は約90分と言われており、授乳間隔の平均は90~120分です。とはいえ、母乳の場合も授乳回数には個人差があり、1日に10回以上なことも少なくありません[*2]。
授乳回数について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
過飲症候群の赤ちゃんに見られる症状
ここからは、「過飲症候群」の赤ちゃんにはどのような症状が見られるのかを解説します[*1]。
1日50g以上の体重増加
まず、過飲症候群の赤ちゃんに特徴的なのが、「1日あたり50g以上の体重増加」が見られることです。ただし、生まれた時の体重が2500g未満の低出生体重児の場合は、増加量がもう少し少ない場合もあります。
個人差はありますが、赤ちゃんに期待される1日の体重増加量は通常、生後0~3ヶ月で25~30g、3~6ヶ月で15~20g、6~12ヶ月で10~15gが目安とされており[*5]、成長に伴って増加のペースはゆるやかになっていきます。ところが、過飲症候群の赤ちゃんでは、1日に通常の倍近く、あるいはそれ以上の体重増加がみられます。
過飲症候群では、体重の増加量がかなり多いというほかに、次にあげるような症状が見られることもあります。
授乳後に吐く
過飲症候群は、飲み過ぎたミルクや母乳が口からあふれる「溢乳(いつにゅう)」から始まるとされています。
溢乳は授乳後に少量の母乳やミルクが口からダラダラ出てくる状態のことです。もっと多くの量が勢いよく出てくる「吐乳」が見られる赤ちゃんもいます。
ただし、授乳後やげっぷをした時に母乳やミルクが少し出てしまうのは、過飲症候群でなくとも赤ちゃんによくみられることなので、気になる症状が溢乳だけであれば心配する必要はありません。
「吐乳」は過飲症候群のほか、赤ちゃんによくあるげっぷ不足や胃食道逆流などにより起こることもありますが、感染症やアレルギー、胃腸の異常が原因なこともあるので、繰り返し吐くなどの場合は受診が必要です。
赤ちゃんの吐き戻しについては、以下の記事で詳しく解説しています。
鼻づまりなど風邪のような症状
過飲症候群では、鼻づまりや、のどがゼロゼロ鳴るなど、まるで風邪のような症状がみられることもあります。
また、胃袋がいっぱいになっているために腹圧が上がって、呼吸数が増えたり呼吸困難になることもあります。
授乳中にむせる
母乳の分泌量が多すぎて過飲症候群になっている場合は、授乳中にむせたり、せき込むこともあります。赤ちゃんが吸い付いた時に大量の母乳が噴き出すからです。
母乳の勢いが強すぎて飲みづらいので、乳首から口を離したり、泣くこともあります。
お腹が張る
胃の中が飲み過ぎたミルクや母乳でいっぱいになるため、お腹はぱんぱんに張ります。
この状態が数日~数週間続くと、消化不良もあってさらにお腹はふくれ上がります。すると、おへそは飛び出し、呼吸がつらくなって苦しそうな表情を見せ、背中側にそっくり返ったりもします。
新生児のお腹の張りについては以下の記事で詳しく解説しています。
便秘または消化不良の便がたびたび出る
過飲症候群の赤ちゃんでは便秘を起こすことがあります。また、消化不良により少量で泡だらけのうんちを何度もすることもあり、この場合は肛門のまわりに皮膚炎を起こしやすくなります。
赤ちゃんが母乳・ミルクを飲みすぎる原因
赤ちゃんが過飲症候群になる原因は、母乳やミルクの飲みすぎです。
ではなぜ、母乳やミルクを飲みすぎることになるのでしょうか。
母乳の量が多すぎるから
母乳の出が良すぎると、赤ちゃんは脂肪分の多い母乳を飲む前に胃袋がいっぱいになってしまいます。そうすると乳糖はたくさん摂れていても脂肪分豊富でカロリーの高い母乳が飲めず 、満足感を得にくくなります。そのため、赤ちゃんはしきりにおっぱいを飲みたがり、飲み過ぎになることがあるのです。
なお、母乳の出が良すぎるママには
・授乳の際、両方の乳房を短時間で切り替えて飲ませている
・おっぱいを空にするために、授乳後に搾乳をする
すでに母乳が十分に出ているママがこうしたことを行うと母乳の出すぎになる可能性があるので、赤ちゃんの飲みすぎが気になる人は控えましょう。
なお、高プロラクチン血症や甲状腺機能低下症などのホルモン異常、特定の薬剤やハーブの使用などによっても母乳が出すぎるようになることはあります。また、洋服が触れたり皮膚炎で乳房が刺激を受けていても、母乳の出が良くなりすぎることがあります。
母乳が出すぎる場合について詳しくは以下の記事を参考にしてください。
ミルクの飲ませすぎ
完全ミルクの赤ちゃんにその子が必要とする量以上に飲ませている時も過飲症候群になります。また、母乳とミルク混合の場合、母乳が足りているかが不安でミルクを追加しすぎており、その結果飲みすぎになっていることもあります。
最近では、完全ミルクの場合より、混合栄養でのミルクの足し過ぎによる過飲症候群のほうがよく見られるようです。
泣き止まないときに周囲が飲ませてしまう
赤ちゃんがなかなか泣き止まないのを見た時、「おっぱいやミルクが足りていないのでは」と感じるのはよくあることです。
でも、赤ちゃんの泣く原因は空腹だけではありません。おむつの不快感や体調不良のほか、時に理由らしい理由もなく泣くことだってあります。赤ちゃんが泣くたびに母乳やミルクを飲ませていることで飲みすぎになり、過飲症候群を起こすこともあります。
赤ちゃんが泣く原因については以下の記事で詳しく解説しています。
過飲症候群の対策・対処法
赤ちゃんが過飲症候群かもしれない、と思ったらどうすればいいのでしょうか。
まずすべきことと、専門家の指導を受けながら自宅で気を付けるポイントを紹介します。
飲む量や状態を病院でチェックしてもらう
過飲症候群を疑ったら、最初にかかりつけの小児科に相談するか、母乳外来で授乳の状態をチェックしてもらいましょう。
「過飲症候群の赤ちゃんに見られる症状」で紹介した症状は、別の病気によっても起こります。一度、医療機関を受診して、赤ちゃんをよく診てもらうのが大切です。
母乳・ミルクの量を見直す
過飲症候群であった場合は、専門家から個々の赤ちゃんに合わせた指導があると思いますが、母乳・ミルクの量を見直す際、一般的によく試される方法についてもここで簡単に解説しておきます。
実際行う場合は、自分だけで試すのではなく、専門家に赤ちゃんの状態をチェックしてもらいながら取り組みましょう。
母乳量を調整する方法
母乳が出すぎる時には、授乳回数を減らしたり、乳房を冷やしたり、授乳前に搾乳するといった対処法がよく行われています。
また、「片側授乳」(ブロックフィーディング)という方法もあります。片側授乳は、赤ちゃんがほしがるたびに片側の乳房からだけ授乳し、4時間経ったらもう1つの乳房に替える、という方法です。4時間で改善しない場合は6時間ごとに乳房を替えるようにします[*6]。
時間を区切らずに、1回ごとに片方の乳房だけからすっきりするまで飲ませたり、両方の乳房からしっかりと搾乳したあと片側授乳するという方法もあります[*3]。
母乳の量が落ち着くには時間がかかる
なお、生まれて間もない赤ちゃんの場合は、まずは母乳の分泌量が落ち着くまで専門家とともに見守るのも1つの方法です。
赤ちゃんがおっぱいを吸うとママの脳からプロラクチンというホルモンが分泌され、乳腺が反応して母乳が分泌されます。ところが産後直後はプロラクチンの分泌量が多いため、母乳がもれるほどに出すぎたり噴き出すこともよくあることなのです。
個人差はありますが、だいたい産後4~6週ごろになるとプロラクチンの分泌量は落ち着き、赤ちゃんが必要とする母乳量に少しずつ近づいてくると言われています[*6]。
母乳の分泌の仕組みについてより詳しくは、下記の記事を参照してください。
いずれにしても、授乳回数を突然減らすと、乳腺炎などのトラブルを起こすこともあります。信頼できる母乳の専門家にママと赤ちゃんの様子をチェックしてもらいながら、調節するようにしましょう。
混合栄養の場合のミルクの量の減らし方
母乳にミルクを追加している場合も、赤ちゃんの週数や現在の体重、一定期間での増加量、食欲などを元に必要な量を割り出し、調整していくことが大切です。そのため、自己判断で行うのではなく、助産師などの専門家に相談しながら実行しましょう。
以下は、混合栄養の場合のミルクの減らし方の1例です[*4]。
●1日あたり300mlのミルクを飲んでいる場合(1日5回の場合、1回60ml)、1日50ml程度ずつ減らしてみます。減らし方は、5回で各回10mlずつ減らすか、5回のうち2回は25mlずつ減らすといったようにします。 これを2~3日続けます。
●量を減らしても赤ちゃんが満足そうにしていて、体重も増加していたら、さらに同じ量を減らしていきます。
●赤ちゃんが授乳後に空腹そうにしていて体重も増えない場合は、ミルクは減らさず、もう1週間様子を見ます。
●1週間様子を見た結果、赤ちゃんが授乳後も空腹そうにしたり、やはり体重が増えないなら、減らす前のミルクの量に戻します。
むせにくい授乳姿勢を試してみる
母乳の場合、ママが後ろに寄りかかりながら、赤ちゃんをうつ伏せにして授乳すると赤ちゃんはむせにくくなります。赤ちゃんの喉よりも乳首の位置が低くなるため、飲み切れない母乳があっても重力で自然と口から漏れ出るからです。
よりかかる時には、力を抜いて姿勢を維持できるように、クッションや丸めたタオルなどを配置しても良いでしょう。よりかかるのが難しければ、横たわったままあげる方法もあります(いわゆる添い乳)。
ただ、赤ちゃんがうつぶせの状態になったり、添い乳でママが覆いかぶさってしまうと窒息が心配なので、授乳しながら眠り込まないように注意してくださいね。
様々な授乳姿勢については以下の記事を参考にしてください。
食事によって母乳が出すぎることはない
食事制限をしても、母乳の出が変わることはありません。そのため、母乳のママは食事を減らそうとしなくて大丈夫です。むしろ授乳中は妊娠前よりもエネルギーを使うため、極端な食事制限はやめましょう。
ただし、母乳の分泌を促すといわれているハーブティーやサプリメントなどを摂っている人は控えた方がいいでしょう。
食事と母乳の関係については以下の記事で解説しています。
泣き止まないときはあやすなどしてみる
また、赤ちゃんが泣いたからといって、すぐに授乳するのはやめましょう。
赤ちゃんは口に物が入ってくると安心して泣き止むことがあります。また、口に物が入っていると物理的に泣きにくくなります。そのため、授乳すると泣き止むことはあります。
でも、もともと空腹で泣いていたのではない場合は、授乳で一度泣き止んだとしてもしばらくしたら苦しくなってまた泣くでしょう。
授乳以外にも、おむつや服・室温のチェック、抱っこしてあやすなど、赤ちゃんが泣いているときに試したいことはいろいろあります。くわしくは下記の記事を参照してください。
まとめ
母乳やミルクを飲みすぎると、過飲症候群を起こすことがあります。過飲症候群の症状には、「1日に50g以上体重が増え続ける」ことのほかに、授乳後に吐く、鼻詰まりや呼吸するとゼロゼロいう、お腹が張る、消化不良や便秘などがあります。
ただ、これらの症状は過飲症候群以外の病気や不調が原因で起こることもあるので、過飲症候群かもしれないと思ったら、まずは小児科医や助産師などの専門家に相談しましょう。過飲症候群だとわかったら、専門家のアドバイスのもと授乳量を減らしたり、授乳の仕方を工夫していきます。泣き止まない時にすぐ授乳する習慣を見直してみるのも大切です。
母乳もミルクも、個々の赤ちゃんに適切な量を知るのはなかなか難しいものですが、専門家に相談しながら少しずつ適切な量に調整することはできます。ぜひ赤ちゃんとの授乳タイムを、親子にとって幸せなひと時にしていってくださいね。
(文:大崎典子/監修:森戸やすみ先生)
※画像はイメージです
[*1]橋本武夫:過飲症候群, ネオネイタルケア Volume 22, Issue 9, 886 - 887 (2009)
[*2]母子衛生研究会:授乳・離乳の支援ガイド(2019年改訂版)実践の手引き
[*3]水野克己・水野紀子:母乳育児支援講座, 南山堂, p.134
[*4]日本ラクテーションコンサルタント協会:母乳育児支援スタンダード第2版, 医学書院
[*5]厚生労働省:乳幼児身体発育評価マニュアル, P24 表4
[*6]medela:母乳が多すぎますか? 分泌過多を減らす方法
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます