【助産師解説】差し乳 ・溜まり乳とは?授乳するときはどんな状態がいい?
差し乳・溜まり乳とはどのような状態で、なぜなるのかについて助産師が詳しく解説します。母乳不足や分泌過多などとの関係や、リスク予防・解消方法についてもお伝えしています。
(マンガ:ななかんな、監修:清水茜 先生、構成:マイナビ子育て編集部)
差し乳・溜まり乳ってどんな状態?
差し乳、溜まり乳という言葉を耳にしたことがあっても、どのような状態を指すのか具体的にはわからないという方も少なくないでしょう。差し乳や溜まり乳とは何か、また、母乳の産生に影響はあるのかについて見ていきましょう。
差し乳|普段はやわらかく、張ることが少ない
「差し乳」は医学的な用語ではありません。授乳中のおっぱいの“ある状態”を指す通称として使われており、一般的には以下のような状態を指すことが多いです。
・乳房があまり張らない
・授乳間隔が開いても乳房が張らず、やわらかい状態が続く
・普段はやわらかい状態が続き、赤ちゃんが飲み始めると母乳の分泌が一気に増える
・搾乳しても出ないか、少量しか搾れない
溜まり乳|乳房が張りやすく、普段も乳房に母乳を感じる
「溜まり乳」も医学的な用語ではありません。こちらは、一般的には以下のような意味で使われています。
・乳房が張りやすい
・授乳前には乳房が張っており、赤ちゃんに吸ってもらうと張りが落ち着く状態
(または、赤ちゃんに吸われても空っぽになった感じがしない状態)
・授乳後でもすぐに母乳が湧いてくる感じがする
差し乳だと母乳が十分に出ない?
いわゆる「差し乳」になると乳房が張らない状態が続くので、母乳の産生が少ないか、張っていないときはまったく作られていないのでは?と思いがちです。でも、授乳を続けている限り母乳の産生が止まることはありません。
差し乳=母乳不足ではない
おっぱいが張っていないと母乳が溜まっている実感がないため、母乳の分泌が足りていないのでは?と心配になりますよね。でも、差し乳でも母乳が溜まっていないわけではないので、あまり神経質になりすぎないでください。
母乳が足りていないと思うのは母乳不足感から来ていることが多いです。
・ママが抱えやすい「母乳不足感」
母乳不足感とは、母乳が足りていないわけではないのに、乳房や赤ちゃんの状態を見て足りないのでは?と思う感覚を言います。たとえば、赤ちゃんがいつまでもおっぱいを飲み続ける、授乳が終わったのに泣く、ウンチの回数が減った、手や指をしゃぶるようになったなどを見ると、差し乳の場合は特に母乳不足感を覚えやすいでしょう。
でも、赤ちゃんがおっぱいを放そうとしなかったり授乳後も泣き続けるのは、必ずしも母乳量が足りていないからではありません。赤ちゃんにはおっぱいを飲み続けたがる時期があり、生後2~3週頃、6週頃、3ヶ月頃にこのような状態になることが多いといわれます。
差し乳でも母乳は作られ続けている
昔は、差し乳は赤ちゃんが飲み始めると母乳の分泌が一気に増え、それまでは産生がストップしている状態と信じられていましたが、研究によりこれは間違いということがわかりました。
つまり、差し乳でも溜まり乳でも母乳は24時間生産し続けられており、常に乳房の中に溜められているのです。差し乳だから母乳が溜まっていないと思い込んで授乳間隔を開けてしまうと、新しい母乳が作られにくくなってしまいますし、乳汁うっ滞が起こって乳腺炎になる可能性もあるので注意が必要です。
授乳開始から15分後以降の「ゴールデンタイム」もしっかり授乳を
乳脂肪分の多い濃密な母乳が出るピークは、平均的に授乳開始から15分くらい経ってからとされています。脂肪分の多い母乳を飲めるように片方の乳房を飲み終えてから反対側の乳房に移ると、赤ちゃんに満足感が出やすいです。
搾乳の量が少ない=母乳が足りてない証拠!? 搾乳量が少ない理由は?
搾乳がうまくできないときも、母乳がちゃんと溜まっているのかを疑ってしまいますよね。でも、たくさん搾乳できるかどうかは母乳の溜まり具合とは関係ないことも多いです。
直に吸われた方が母乳は出やすい
たとえば、十分な量が溜まっていてもオキシトシン反射が起こらないと母乳は出にくいです。オキシトシンというホルモンにはおっぱいの筋肉を収縮させる作用があり、これにより母乳が排出されることを「オキシトシン反射」と言います。
赤ちゃんにおっぱいを吸われたり、赤ちゃんとスキンシップしたりするとオキシトシンは多く分泌されるので、直接吸われるときより搾乳するときの方が母乳の出は悪くなる傾向にあります。
絞り方が上手に行っていない可能性も
また、単に技術不足によりちゃんと搾れていないという可能性もあります。より多くの母乳を搾るためには、正しい方法で行うことが重要です。
うまく搾れないという方は、以下の手順と方法を参考に再チャレンジしてみてください。
1. リラックスする
楽な姿勢でリラックスしましょう。
2. 乳管を見つける
乳頭から親指一関節くらい離れたあたりの乳房をやさしく触り、紐の結び目や豆のような感覚がある部分(これを乳管と言います)を探します。
3. 乳管をはさむ
見つけたら、親指と人差し指で結び目のような部分をはさみ、他の指ともう一方の(乳管をはさんでいない反対の)手で乳房をしっかり支えます。
4. 乳管を圧迫する
親指と人差し指でゆっくり乳管を圧迫し、母乳を排出します。このとき、乳首の方にではなく、肋骨の方向に向かって押すように圧迫するのがポイントです。決して、乳首をしごいたりつぶすことのないよう注意しましょう。
5. 別の乳管に替える
母乳の出が弱くなってきたら、他の乳管を探して同じように圧迫します。
溜まり乳にはどんなリスクがある?
一般的に、いわゆる「差し乳」より「溜まり乳」の方がトラブルの可能性が高くなります。溜まり乳にはどのようなリスクがあるのでしょうか?
溜まり乳は「母乳分泌過多」の兆候かも
常におっぱいが張っているような感じであったり、授乳後も楽になった感じがしないという場合は、母乳分泌過多の兆候である可能性があります。
母乳分泌過多とは、赤ちゃんの飲む量より母乳の分泌が多すぎる状態。赤ちゃんが母乳を飲みきれないので乳汁うっ滞が起こりやすく、乳腺炎のリスクも高くなります。事実、母乳分泌過多のママは乳腺炎を繰り返すことも少なくありません。
母乳分泌過多の原因
母乳分泌過多になる要因には、主に以下の2つが考えられています。
1.授乳方法や搾乳のしすぎなどが要因になっているケース
両方の乳房を短時間で切り替えながら授乳したり、乳房をいつも空にするために授乳後にも搾乳をしたりすると、母乳分泌過多になることがあります。特に、搾乳のしすぎは母乳の分泌を増やす要因となります。これは、母乳のストックが少なくなると体はより多くの量を産生しようと働くためです。
2.母親の身体的な理由[*1]
母親の身体的な問題から母乳分泌過多が起こることもあります。
・高プロラクチン血症
・一部の薬剤(ドンペリドン・SSRI・H2ブロッカーなど)
・ハーブ(フェンネル・レッドラズベリー・レッドクローバーなど)
・下垂体腺種などの病変によるホルモンの異常
心配があるときは、かかりつけ医など医療機関で相談しましょう。
まとめ
差し乳・溜まり乳は医学的な言葉ではありませんが、一般的に、授乳時以外はおっぱいが張らない状態を差し乳、普段からおっぱいが張りがちな状態を溜まり乳と呼びます。差し乳だと母乳不足を疑うこともあるかと思いますが、授乳を続けている限り母乳の産生は止まりません。
赤ちゃんの排泄量や回数、体重の増え方に問題がなければ、母乳が十分に溜まっている証拠なので心配しなくても大丈夫です。溜まり乳の場合は母乳分泌過多の可能性があるので注意しましょう。
授乳状況などを確認し、問題がありそうなときは医療機関に相談して対策を立てることが大切です。
(文・構成:マイナビ子育て編集部、監修・解説:坂田陽子先生)
※画像はイメージです
[*1]日本ラクテーション・コンサルタント協会著「母乳育児支援スタンダード」(医学書院)p.260
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、助産師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます