【医師監修】妊娠初期に発見される卵巣の腫れは何が原因?治療法と出産への影響は?
妊娠初期に卵巣に腫れが見られることはよくあります。ただし、そのうち腫れが落ち着いて消えることも多いので、焦らなくても大丈夫です。卵巣の腫れの原因として考えられることや治療方法、赤ちゃんや出産への影響についてお話します。
妊娠初期に多くみられる「ルテインのう胞」
妊娠初期に見つかる卵巣の腫れとしては、「ルテインのう胞」がよく見られます。
まずはルテインのう胞について説明します。
自然に消える良性の腫瘍
「ルテインのう胞」は、妊娠すると受精卵が子宮と接する箇所(絨毛)から分泌されるようになる「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」というホルモンによって、卵巣が刺激され過ぎて腫れやふくらみが起こったものです。
hCGは卵巣にある「黄体」を刺激します。黄体は卵子が排卵されたあと卵巣に残る袋状の器官ですが、妊娠するとここからエストロゲンやプロゲステロンといったホルモンがたくさん分泌されるようになります。これらのホルモンは妊娠を維持するために欠かせません。
基本的に治療はいらない
つまり、ルテインのう胞は、受精卵が育っていけるよう黄体が活発に働くため一時的にできるもので、基本的に妊娠16週ごろまでに消えていきます[*1]。この場合、特別な治療は必要なく、赤ちゃんへの影響もありません。
なお、「ルテイン」とは黄体に含まれている黄色い色素のこと、「のう胞」とは体の中で体液などがたまって「袋のようになった状態」のことです。
腫瘍が小さいと自覚症状はほとんどない
ルテインのう胞を含む卵巣にできるのう胞や腫瘍は、小さければ自覚症状はほとんどありません。
ただし、骨盤付近が痛んだり重く感じる人も中にはいます。
なお、卵巣にできたのう胞や腫瘍が大きくなってくると、お腹が膨れた感じがしてきます。また卵巣ののう胞や腫瘍が大きくなると、卵巣の根もとがねじれる「卵巣茎捻転(※)」が起こり、急にお腹が痛くなることがあります。
※子宮と卵巣をつなぐヒモ状の部分(固有卵巣索)がねじれ、卵巣に血液が行かなくなってしまう状態のこと
5cm以下の大きさなら出産に問題ない
直径5cm以下の卵巣の腫れやふくらみは、80%がルテインのう胞などの問題のないのう胞・腫瘍です。たいてい妊娠16週までには消えてなくなるので、出産にも赤ちゃんにも影響はありません。
ただ、卵巣の腫れやふくらみが直径5cm以上になると、自然に消えないことも多いので、出産より前に手術で切除することになります。[*2]
卵巣の腫れの状態に合わせた治療法と、原因となる病気
妊娠初期に卵巣の腫れを引き起こす原因はルテインのう胞以外にもあります。
そもそも卵巣は「腫瘍」(なんらかの原因で異常な細胞が増殖してできるもの)がとてもできやすい臓器です。腫瘍の中でも、周囲に染み出るように拡がったり(浸潤)、体のあちこちにに転移したりするものを「悪性腫瘍(がん)」と呼びます。
こうしたことはなく、周囲の組織を押しのけるようにゆっくり増えるのが「良性腫瘍」です。卵巣にできる腫瘍の多くは良性と言われており、これは妊娠中に見つかるものも同様です。ただ、良性であっても、できた場所や大きさによっては切除したほうが良いこともあります。
そのため、妊娠初期に卵巣の腫れが見つかったら、まずは超音波検査で「悪性」の疑いがあるかどうかや、悪性でなくても切除が必要な状態ではないかなどを調べることになります。
基本的に良性のもの:経過観察or大きさによっては手術
良性腫瘍の場合は、次のようにサイズに合わせてどうするかを決めます。ただし、茎捻転や腫瘍破裂を起こした場合はサイズや妊娠週数に関係なく、手術をします。また、出産方法は、サイズに関わらず基本的に「経腟分娩」となります。
腫れが直径6cm以下
悪性腫瘍の可能性は低いですが、茎捻転を起こす可能性はあるので経過観察をします。
腫れが直径6~10cm以下
腫瘍・のう胞が1つなら、悪性腫瘍の可能性は低いです。ただ、やはり茎捻転を起こす可能性はあるので経過観察をします。
腫瘍・のう胞が複数ある場合は、破裂したり分娩する際に邪魔となることがあります。また、悪性腫瘍の可能性もあるため、妊娠12週以降に手術で切除します。
腫れが直径10cm以上
破裂したり分娩する際に邪魔となることがあります。また、悪性腫瘍の可能性もあるため、妊娠12週以降に手術で切除します。[*1]
良性腫瘍に多い「成熟奇形腫」
なお、妊娠16週以降まで存続する腫瘍の中で、一番多いのが「成熟奇形種」です。
成熟奇形腫は「皮脂や毛髪、歯など」が含まれた腫瘍で、ほとんどが良性です。
良性と悪性の境い目の腫瘍:妊娠12週以降で手術が多い
「境界悪性腫瘍」といって、良性と悪性の「境い目」にある腫瘍・のう胞もあります。
境い目なので、卵巣にしかない場合はあまり心配のない場合もありますが、一方、悪性腫瘍のように転移したり切除後に再発するものもあります。
そのため、この場合も悪性腫瘍と同じように、妊娠12週以降に手術で取り除くことになります。なお、手術後の出産方法は基本的に経腟分娩となります。
悪性腫瘍:妊娠中でも早期の手術が必要
悪性腫瘍は、放置しておくと転移したり急速に大きくなっていきます。
そのため、超音波検査で悪性の疑いがあるとわかった場合には、よりくわしく調べるために「MRI検査」も受けることになります。
画像検査で悪性の疑いが高いとわかったら、すぐに手術で取り除きます。化学療法(抗がん剤による治療)を行うこともあります。なお、妊娠中期~末期であれば化学療法をしても赤ちゃんへの影響はあまり心配ないと言われています。
悪性腫瘍かどうかは、次の項目をチェックして診断します。
・しこりのような硬さがある
・腫瘍・のう胞の壁が厚かったりしこりがある
・腫瘍・のう胞の内側に細長く突き出たものがある
・急速に大きくなってきている
・腹水が溜まっている
なお、悪性の場合も、手術後や化学療法後の出産方法は、基本的に経腟分娩となります。
卵巣の腫れが妊娠・出産に与える影響
卵巣の腫れがあると、妊娠や出産にはどんな影響があるのでしょうか?
MRI検査を受けても大丈夫?
卵巣の腫れに悪性のものの疑いがある場合、「MRI検査」を受けることになるでしょう。MRI検査は、超音波検査と違って「強い磁力」と「電波」を利用して体の断層撮影をするものなので、赤ちゃんに何か影響しないか不安になるかもしれません。
でも、妊娠初期にMRI検査を受けることになっても、赤ちゃんへの影響はあまり心配いらないと考えられています。
ただ、万が一のことを考慮して、「超音波検査ではわからないことを早めに確認する必要がある時」、また「ママや赤ちゃんの治療方針の決定に欠かせない情報が得られるはずの時」だけに行われています。
流産や早産の可能性は?
卵巣の腫れだけで赤ちゃんに悪影響が及ぶわけではありませんが、「茎捻転」を起こしたり、「破裂」したりすると、流産や早産の引き金になることもあります。そのため、慎重な経過観察をして、卵巣の腫れに大きくなる傾向がないか確認していきます。
ただ、一度、卵巣に腫れが見つかっても妊娠経過とともに消えてしまうことは多いものです。卵巣の腫れを指摘されてもあまり心配しすぎず、主治医に状態を確認するようにしましょう。
まとめ
妊娠初期に卵巣に腫れが見つかったら、良性・悪性・境界悪性のどれなのかを検査することになります。ほとんどの腫れは良性ですが、悪性だとしても適切な治療を受けることで経腟分娩を行うこともできます。
悪性かどうかの検査にはMRIが使われます。MRI検査はお腹の赤ちゃんの健康にほぼ影響しないと言われています。妊娠中に体の異常を指摘されるといつも以上に心配になってしまいますが、安心してお産の日を迎えるためにも、まずはきちんと検査を受け、体の状態をよく調べてもらいましょう。
(文:大崎典子/監修:齊藤英和 先生)
※画像はイメージです
[*1]『病気が見えるvol.10産科』メディックメディア
[*2]「産婦人科診療ガイドライン産科編 2020」日本産婦人科学会・日本産婦人科医会
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます