
【医師監修】子供の嘔吐の原因、病院を受診するタイミングは?
赤ちゃんや子供は病気でなくても吐くことがよくありますが、嘔吐の原因の中には緊急性のある病気もあります。嘔吐を引き起こす可能性のある病気や受診のタイミング、ホームケアの方法を知って、突然の嘔吐でも慌てずに対処しましょう。
赤ちゃん、幼児の嘔吐について


赤ちゃんや幼児にとって、嘔吐はどのようなものなのでしょうか。
赤ちゃんはよく吐くもの
生後まもない赤ちゃんは、よくミルクを吐くことがあります。胃の入り口(噴門)の筋肉が弱いので、飲み過ぎやゲップなど少しの刺激で吐いてしまうのです。口からダラダラまたはゲプッと吐いて、吐いた後はいつもと変わらない様子になり、また体重がちゃんと増えていれば心配ありません。
成長に伴い、吐くことは減っていきます。注意したいのは、噴水のように何度も吐く場合や、あまり吐かなくなった幼児が突然吐いた時です。
嘔吐の原因は?
赤ちゃんや子供の突然の嘔吐の原因は、感染性胃腸炎であることが多いものです。ですが嘔吐には様々な原因があり、病気のほかに生理的なものもあれば、外傷が原因となることも。胃腸系の病気だけでなく、風邪で咳き込んで吐くこともあります。
嘔吐にともなう症状から考えられる病気は?
嘔吐にともなう症状から考えられる主な病気を紹介します。
授乳後によく吐く
元気で体重も増えている……生理的なもの
乳児が授乳後に口からダラダラと飲んだものを吐くのは溢乳(いつにゅう)といわれ、最初に紹介したとおり、胃の入り口(噴門)を締める筋肉がゆるめなために、生理的に起こるものです。飲んだ量が多かったとき、ゲップができなかったときによく起こります。
噴水のように大量に吐き、体重もあまり増えない……肥厚性幽門狭窄症
赤ちゃんが何度も吐き、体重が増えない場合は肥厚性幽門狭窄症の可能性があります。生後2週間~2ヶ月までが多く、日本人の発症率は0.1%以下と言われています[*1]。
胃の出口の筋肉(幽門筋)が厚くなることで、胃の内容物が腸へ流れなくなる病気です。病気が進行すると噴水のように大量に吐くようになります。急に嘔吐の回数と量が増えてきたら受診しましょう。
ふだん吐かないのに突然吐き、熱がある
下痢や腹痛がある……感染性胃腸炎
感染性胃腸炎では、嘔吐のほかに発熱、下痢が見られます。ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスが原因となることが多く、対症療法で回復を待つことになります。乳幼児は嘔吐や下痢が続くことによる脱水が心配なので、早めに受診しましょう。
咳、くしゃみ、鼻水などがある……かぜ、インフルエンザ、中耳炎など
かぜやインフルエンザ、RSウイルスなど呼吸器系の感染症や中耳炎でも嘔吐を伴うことがあります。
尿意が頻繁に起こる、排尿痛がある……尿路感染症
嘔吐・発熱に加えて尿意が頻繁に起こる、排尿痛がある場合は尿路感染症が考えられます。細菌の感染が原因で、腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎などがあります。原因菌に合わせた抗菌薬で治療します。
高熱に伴い繰り返し嘔吐し、意識がぼんやりしたり、けいれんを起こしたりする……髄膜炎、脳炎
髄膜炎は脳や脊髄を覆っている髄膜に、脳炎は脳自体に炎症が起こる病気。主にウイルスや細菌の感染で起こります。容体が急変すること、重篤になることがあるので早期の診断と治療が必要です。
高熱に吐き気をともなう頭痛があるときは髄膜炎の心配があるので医師に相談を。脳炎になると、髄膜炎の症状に加え、意識障害やけいれんなども起こります。この場合もすぐに救急医療機関を受診しましょう[*2]。
ふだん吐かないのに突然吐いたが、熱はない
突然激しく泣き、下痢や血便が出た……腸重積
腸重積は腸の一部が隣接する腸内にはまり込んでしまう状態で、緊急の治療が必要です。主な症状は腹痛、嘔吐と血便(便に血が混じる)。赤ちゃんは機嫌が悪い、ひどく泣く、機嫌が良かったり悪かったりを繰り返すことも。発症してから時間が経つと、イチゴジャムのような粘血便が出ることが特徴です。
特定の食べ物を食べた後に吐く……食物アレルギー
食物アレルギーによる嘔吐は、アレルギーがある食べ物を食べたあと、おおむね2時間以内に起こります[*3]。乳幼児期の食物アレルギーの原因となることが多い食べ物には、鶏卵、牛乳、魚卵、ピーナッツ・ナッツ類、果物、ソバなどがあります。
なお、乳児では、粉ミルクなどに含まれる牛乳由来のたんぱく質などが原因となる新生児・乳児消化管アレルギーがあります。この場合、繰り返す嘔吐や下痢、血便、体重が増えない、などの症状が出ます。
頭を打ったあと、もしくは数日後に吐く……脳しんとう、脳出血
頭を打ったあとに、脳しんとうを起こして吐くことがあります。また、短時間の間に何度も吐く、吐き気が繰り返し起こる場合は、頭蓋内で出血している可能性があります。早急に受診しましょう。
吐いたのが1〜2回でそのあとは元気であればあまり心配はありませんが、診療時間内に受診するようにしましょう。なお、時間が経ってから症状が出ることもあるため、頭を打ってから24時間はゆっくりと過ごし、体調の変化に注意しましょう[*4]。
ストレスや疲れがあるときに吐く……周期性嘔吐症(自家中毒症)
周期性嘔吐症は自家中毒症とも呼ばれますが、主に精神的なストレスや感染、疲労などが引き金となって起こり、嘔吐、腹痛、食欲不振、顔色が悪い、ぐったりする、頭痛などの症状があらわれます。
この病気が起こる詳しいメカニズムはわかっていませんが、心理的、身体的なストレスや緊張に脳と消化管が過剰反応するためと考えられており、偏頭痛も関連するといわれています[*5]。
嘔吐で小児科を受診するタイミングは?
嘔吐で受診した方がいいか迷うときは、下記を参考にしてください。
発熱、下痢など、嘔吐以外の症状がないかチェックを
ただ嘔吐しただけでは、あまり心配なことはありません。すぐに受診したほうが良いときは、たいてい嘔吐以外の症状が出ています。吐いた回数、下痢・腹痛・頭痛の有無、食欲、機嫌、体温をチェックし、受診のタイミングを判断しましょう。
病院に行くかどうかの判断の目安
夜間や時間外でも至急受診して
嘔吐で怖いのは、脱水症状を起こすことや、緊急の治療が必要な病気があることです。次の様子があるときは、夜間や休日であっても、医療機関を受診しましょう[*4, 6]。
・嘔吐がひどく、半日以上水が飲めない
・おしっこが半日位出ていない
・唇や舌が乾いている、涙が出ない
・嘔吐と下痢を同時に何度も繰り返す
・吐いた中に血液や胆汁(緑色)が混ざる、血便が出た
・何度も吐いたあと、コーヒーかすのような色や黄色の胃液になった
・ぐったりしている
診察時間内に受診する
吐いた回数が5回以内で、吐いたものは食べたものかミルクで量が少なく、吐いたあとは元気であれば、診療時間内の受診で構いません。吐き気が治まったあと、水分が摂れる、食欲がある、全身状態が悪くないときでも、嘔吐や下痢が続くようであれば受診しましょう[*6]。
しばらく家で様子をみる
嘔吐の回数が2〜、3回で吐いたあとは元気にしていて、ほかに何も症状がなければ、ひとまず家で様子を見ても良いでしょう。
医療機関へ行く際の注意点
受診する際は、症状を正確に伝えることが大切です。次のポイントを確認して医師に伝えましょう[*7]。
・いつから、何回吐いているか
・どんなものを吐いたか
・水分は摂れているか
・尿は出ているか
・ほかの症状はあるか(下痢、発熱など。下痢があるときは回数も)
また、心配なことや聞いておきたいことがあれば、聞き忘れないように受診する前にメモにまとめておくと良いでしょう。
嘔吐したときのホームケアで気をつけることは?


吐いた直後の対応や飲食などホームケアのポイントを紹介します。
横向きに寝かせ、安静に
嘔吐したあとは、しばらく寝かせて安静に過ごしましょう。吐いたものを詰まらせて窒息することを防ぐため、体や顔を横向きにして寝かせます。
水分補給はいそがないで
吐いてから30分~2時間[*6]は様子を見て、嘔吐が落ち着いたら少しずつ水分を補給しましょう。
水分は子供用のイオン飲料や湯冷まし、お茶を、1回の量を少なめに回数を多く与えます。最初はスプーン1杯から始めて、少しずつ増やしましょう。牛乳や乳製品、炭酸飲料、みかんやオレンジなどの柑橘類は避けましょう。
母乳やミルクはいつもどおりで構いません。
食事は様子をみながら
食事は焦らず、吐き気が治まり食欲がでてから少量から与えます。消化のよいおかゆや温かいうどんなどの炭水化物にしましょう。
牛乳、乳製品、柑橘系の果汁、炭酸飲料や油の多いものは避けてください。
口のまわり、汚れたものをきれいに
顔や体の汚れは濡らしたタオルなどできれいに拭きましょう。嘔吐の原因は感染性胃腸炎が多いので、汚れた衣類や寝具を扱うときは感染を広げないよう要注意。マスクや使い捨て手袋をして、消毒・手洗いを徹底してください。洗濯の際はほかの家族のものとは分けて洗いましょう。
お風呂に入れてもいいの?
高熱があるときや顔色がすぐれないなど具合が悪そうなときは控えましょう。元気があれば、短時間の入浴やシャワーをしてもいいでしょう。
まとめ


赤ちゃんや幼児はよく吐くもの。1~2回吐いただけでその後は元気であれば、様子を見て大丈夫。病気が原因でも、大半は感染性胃腸炎なのでしばらくすれば嘔吐は落ち着きます。ただし、多くはないものの、中には緊急を要する病気によって嘔吐している場合もあります。見極めのポイントは、嘔吐以外の症状と全身状態。子供の様子をよく観察して、激しく吐く場合や嘔吐のほかにも異常があるなど、明らかにいつもと違う様子が見られたらすぐに受診してください。
(文:佐藤華奈子/監修:梁尚弘先生)
※画像はイメージです
[*1]金子堅一郎:子どもの病気とその診かた, 147p, 南山堂, 2015.
[*2]日本神経学会(疾患・用語編)髄膜炎、脳炎解説 病原となる微生物
[*3]厚生労働省:食物アレルギーの診療の手引き2017, p2.
[*4]佐久医師会 教えて!ドクター
[*5]小児慢性特定疾病情報センター 周期性嘔吐症候群
[*6]茨城県 子どもの救急ってどんなとき?
[*7]佐久医師会 子どもの病気・おうちケア はじめてBOOK, 42p
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます