【医師監修】エストロゲンの働きと過不足で陥る3つの病気とは?
女性特有の病気の中には、女性ホルモン「エストロゲン」が深く関係しているものがあります。妊娠や出産ができる体をつくるために欠かせず、かつ女性の健康を維持するという重大な役割も担っています。これからの健康のために、エストロゲンの重要性を確認しておきましょう。
エストロゲンの大事な機能と働き
女性ホルモンには2種類ある
女性ホルモンは主に卵巣から分泌されるホルモンで、大きく分けると卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2種類があります。特に初潮を迎えてから閉経するまでの間、女性の体は女性ホルモンの影響を日々受けることになります。生理(月経)前になると心身に不調が起きがちなのも女性ホルモンの増減による影響と考えられています。
生理が終わったころからエストロゲンが徐々に増えて、卵胞(卵子を包む袋)が卵巣の中で育ってきます。生理周期が28日の人の場合、生理がはじまった日から数えて2週間ほど経つと、排卵(卵胞から成熟した卵子が飛び出す)が起こります。その後、排卵後の卵子を包んでいた袋が変化したもの(黄体)から、プロゲステロンという女性ホルモンが多く分泌されるようになります。
エストロゲンの役割は妊娠に関するものではおもに、子宮内膜を厚くすることで、プロゲステロンの役割は妊娠の準備を整えることです。プロゲステロンは子宮内膜を受精卵が着床しやすい状態に変化させ、妊娠に至れば、妊娠を継続させるため、妊娠週数が進むほど分泌量が増え続けます。
排卵しても妊娠しなかった場合、2週間ほどでプロゲステロンの分泌は減少し、元の分泌量に戻ります。すると、子宮内膜がはがれ、生理として体の外に排出されます。
プロゲステロンとエストロゲンが規則的に分泌され、そのバランスが整っていると、生理は規則正しく起こります。しかし、ストレスや疲労、急な体重減少などの影響を受けると、このバランスは簡単に崩れてしまい、生理周期も乱れてしまうのです。
エストロゲンの働き
エストロゲンは、思春期には乳房や子宮の発育を促し、女性らしい丸みを帯びた体をつくります。また、毎月、生理が終わったころから分泌が増え、エストロゲンの分泌量がピークになることで排卵を促します。
うるおいのある肌をつくるのに役立つので、「美人ホルモン」と呼ばれることもあります。また、骨や血管の健康を維持する作用もあるので、女性が美しく健康でいるためには不可欠なホルモンといえるでしょう。
エストロゲンが分泌される時期
生理周期の中で、エストロゲンが多く分泌されるのは、生理の終わりころから排卵前まで。エストロゲンの分泌量が増えるこの時期は「卵胞期」と呼ばれています。卵胞期は基礎体温は低め(低温相)で、心も体も比較的安定してお肌の調子も良くなることが多いでしょう。
年齢的には思春期の始まる、10、11歳ごろから分泌が増えます。初潮を迎える12歳くらいから成人までにかけてエストロゲンの分泌量がグンと増えてきます。その後、閉経するまで月経の周期に合わせて増減をくり返します。
そして、40歳くらいから卵巣機能が低下し、エストロゲンの分泌量は減少していきます。エストロゲンの減少にともない、少しずつ生理周期が乱れがちになり、50歳ころに閉経を迎えるというわけです。閉経の前後5年、計10年間を「更年期」と呼びます。この時期、ホルモンバランスが急激に崩れることから、心と体が非常に不安定になりやすくなります。これが、更年期障害です。
更年期を過ぎると、更年期障害の症状は徐々に治まっていきますが、健康に一役買っていたエストロゲンの働きがなくなり、体にいくつかの問題が生じてくるようになります。
エストロゲン過不足が原因となる3つの病気・症状
女性器や乳腺の病気
エストロゲンが多く分泌される期間が長いほど、乳がんや子宮体がん、子宮内膜症などを発生するリスクが高くなるといわれています。たとえば、初潮を迎えるのが早かった、閉経するのが遅かった、授乳の経験がないなどの女性が該当します。
逆に子供を多く産んで妊娠期間が長かった女性は、これらのリスクが低くなるということも知られており、排卵時期に分泌されるエストロゲンが関係していると考えられています。
また、肥満もこれらの病気のリスクを高めるとされていますが、これにもエストロゲンの量が関係していると考えられています。エストロゲンは主に卵巣で作られますが、脂肪細胞によっても作られるため、肥満の女性はエストロゲン量が多くなるのです。
特に閉経後、通常は卵巣で作られるエストロゲンの量が減少して乳がんのリスクが下がるのですが、肥満の女性の場合、閉経後にも乳がんになるリスクが高いので、注意が必要です。
更年期障害
エストロゲンは、脳(視床下部や下垂体)からのホルモンの指令を受けて卵巣から分泌されます。
ところが、更年期に入ると卵巣の機能が低下するため、脳からの指令を受けてもエストロゲンを作ることができません。
更年期障害は、エストロゲンの減少に加え、加齢などによる身体的な要因、心理的要因、職場や家庭での人間関係などの社会的要因が複合的に絡み合って発症すると考えられています。その結果、生理の異常やのぼせ、ほてり、動悸といったさまざまな不調が生じます。
骨粗しょう症
骨は破骨細胞(骨を壊す細胞)と骨芽細胞(骨をつくる細胞)がバランスよく働くことで、常に新しく生まれ変わっています。エストロゲンは骨の新陳代謝に関わりがあり、破骨細胞の働きを抑える役目があります。
エストロゲンが不足すると破骨細胞が活性化して、新しい骨がつくられるよりも、多くの骨が壊されることになるため全体として骨の量が減少してしまいます。閉経後の急激なエストロゲンの減少で、骨の量が減り、その後増えることはないとされています。
骨の量が減って骨粗しょう症になると、簡単に骨折しやすくなります。骨粗しょう症は男性より女性に多く、閉経後の女性にとってリスクの高い病気であることを理解しておきましょう。
カルシウムとビタミンDを豊富に含む食品をとる、適度な運動で骨を強くすること、タバコは吸わないこと、お酒を飲み過ぎないことが、骨粗鬆症のリスクを減らすのに大切と考えられています。
まとめ
女性の一生は女性ホルモンに大きな影響を受けています。だから、そのバランスが乱れると体調を崩してしまうなど、振り回されてしまうこともあります。女性が生きていくうえで女性ホルモンとの関係は切っても切れません。エストロゲンの働きや年齢による分泌量の変化とその影響などを十分に理解して、心身ともに健康的に過ごしていきましょう。
※この記事は 医療校閲・医師の再監修を経た上で、マイナビ子育て編集部が加筆・修正し掲載しました(2020.03.03)