「まだおむつ?」「トイトレは?」と急かさないで。おむつはずしは子供のペースに合わせたほうがいい理由
「早くトイレトレーニングを始めないと」「幼稚園に入るまでにおむつをはずさないと」なんてよく聞きますよね。でも、おむつをはずすのに最適な時期っていつなのでしょうか? 小児科医の森戸先生に聞きました。
知っておきたい「尿が出る仕組み」
お子さんのおむつはずしやトイレトレーニングに苦労される親御さんは意外と多いものです。周囲の人たちから「まだおむつなの?」「早くはずさないとね」なんて言われると、自分が親として怠けているのか不安に思ったり、焦ったりしてしまいますよね。
さらに、ちまたには、おむつを早くはずすための教材、トイトレグッズなどもたくさんあるので、子供のためにも急いだほうがいいと思ってしまいそうです。
でも、結論から言うと、実はおむつはずしやトイレトレーニングを急ぐ必要は特にありません。その理由を知っていただくために、まずは尿が出る仕組みをご説明しますね。
私たちが摂取した水分は血液中に入って腎臓へと送られますが、この腎臓に脳の下垂体から分泌される「抗利尿ホルモン(バゾプレッシン)」が作用することで尿量が減って濃くなります。濃縮された尿は左右の腎臓から「尿管」を通って膀胱へと送られます。
この「膀胱」に溜まった尿がいっぱいになると、脳に「排尿が必要」というサインが伝わることに。そうして尿意を感じると、私たちはトイレなどに行って膀胱括約筋を開き、膀胱壁を収縮させて、尿を膀胱から尿道へと流して排尿するわけです。
ところが、こういうふうにスムーズに排尿ができるようになるのは、個人差はありますが、発達の観点からいうと、だいたい4〜5歳頃。生まれた時から、うまく排尿できるわけではないのです。
年齢とともに発達段階がある
ご存じの通り、乳幼児期には誰でも頻繁に排尿します。抗利尿ホルモンの分泌量が少ないせいで薄い尿がたくさんできるため、また尿をためる膀胱のサイズ自体が小さいため、すぐに膀胱がいっぱいになって尿が漏れ出てしまうからです。
乳児期の排尿は、「反射的排尿」と呼ばれます。大きな子供や大人のように、膀胱が充満しているのを知覚して、排尿していい場所まで行き、膀胱括約筋を開いて膀胱壁を収縮させて排尿するのではなく、ある程度たまったら意識せずに出しているからです。
排尿の回数は、新生児期には1日に15〜20回くらい。1歳前後になると、膀胱に溜める機能が発達してきて8〜12回くらいまで減ります。
その後、幼児期の2〜4歳くらいになると、膀胱が充満したというサインが脳に伝達されるようになるため、尿意を周囲に知らせることができるようになります。だから大人などに誘導されれば、トイレやおまるなどで排尿できるのです。これがトイレトレーニングと呼ばれるものですね。1日の排尿回数は、2〜3時間おきで5〜9回程度です。
さらに、4〜5歳になると膀胱充満の感覚を尿意として認識し、誰かに促されなくても自分でトイレに行って排尿することが可能になります。1日の排尿回数は、3〜6時間おきに4〜8回です。
無理せず子供のペースに合わせよう
ある研究で健康な乳幼児46人を調査したところ、日中の尿失禁(トイレやおまるで排尿したり、誰かに尿意を伝えたりできず、おしっこを漏らしてしまうこと)は、3歳6カ月(中央値)で消失するという結果でした[*1]。年齢別に日中の尿失禁が消失する割合は、3歳で52%、4歳で93%、5歳で100%です。
これにだいたい呼応するように、現在の日本では3歳くらいまでにトイレトレーニングを始め、1〜2年間のうちに自然におむつがはずれ、5歳までには日中にトイレで排尿するようになる子が多いでしょう。つまり、トイレトレーニングを始める時期は2歳以降で、尿意を教えたり、排尿の間隔が開いて来た時がいいでしょう。
それでも、夜間はまだおむつに尿が出てしまうのが普通です。年齢別におねしょをする割合をグラフにしたものがありますが、2歳で50%の子がおねしょをし、5歳で20%になり、10歳では5%くらいに減ります[*2]。夜尿症として治療の対象になるのは、小学生からです。
まとめると、子供は年齢に合わせて発達していくことで膀胱が大きくなり、抗利尿ホルモンが十分に分泌されて尿が濃縮され、「トイレに行こう」という意識が働いて、初めて自分でトイレに行けるようになるもの。
そのスピードは子供によって違いますから、「うちの子は遅い」「恥ずかしい」なんて思ったり言ったりしないで、できたら子供の発達に合わせて無理なく進めてあげてください。早くおむつがはずれたら、おむつ代の節約にはなりますが、特に子供にとって何か大きなメリットがあるわけでもありませんからね。
(編集協力:大西まお)
[*1]Jasson UB, Hanson M, Sillen U, et al. Voiding Pattern and Acquisition of Bladder Control from birth to 6 years. J Urol. 2005; 174: 289-93.
[*2]金子一成:小児科診療77(11):1437-41, 2014