世帯年収1,100万円の共働き夫婦、今の生活をキープしたまま購入できるマイホームの予算は?
30代夫婦と幼い子ども2人の4人家族。「家を買いたいけど、今買うのはどうなんだろう?」というお悩みにFPが答えます。
夫婦いずれも30代後半、第二子が1歳を超え、生活も安定してきたというSさん夫妻。子どもたちの成長を見据え、手狭な賃貸物件から広さのあるマイホームの購入を考えているといいます。
とはいえ、円安・インフレの傾向が強く、2021年の新築マンションの平均価格(6,260万円)は、バブル期(1990年、6,123万円)を超えるほど住宅価格が高騰している今、本当にマイホーム購入でローンは支払えるのか、不安を感じているようです。無理のないローンを組むときの購入価格はいくらなのか、ファイナンシャルプランナーの鈴木さや子さんに判断ポイントを解説してもらいました!
Sさんファミリー
妻37歳、夫36歳
子ども2人(小学生+1歳)
世帯年収 1,100万円/貯蓄 1,200万円
共働きで正社員。マイホームは、東京23区内ではく、郊外や埼玉・千葉・神奈川まで含めて検討中。
マイホームを「買っていいタイミング」とは⁉
――Sさん夫妻は「子どもは2人まで」と決めていたそうで、第二子が1歳をすぎて生活も落ち着いたため、上の子が低学年のうちに転校して生活基盤をつくりたいそうです。ですが、不動産価格が高騰している今が本当に買い時なのか、不安を感じているとのこと。マイホーム購入に悩む人は多いと思いますが、購入のタイミングはどう考えればいいのでしょうか?
鈴木FP 「家を買うタイミング」には個人と社会経済の2つの側面があります。まずは個人の観点から説明していきますね。
個人のタイミングとしておすすめなのは、①家族のライフプランが決まった時。これは子どもの有無や人数、大きな病気がないとわかったときですね。あとは②できるだけローンを長く組める年齢。住宅ローンの支払期間は一般的に35年、現在ローンの支払いの完了を80歳未満としている金融機関が大半です。そのあたりを逆算して、何歳くらいまでに買うか検討すると良いでしょう。また一番大事なのは③購入したいという気持ちが高いとき。人生で一番高い買い物になりますし、30年以上はローンを支払うために節約したり、家計を考えたりするわけですから、買いたいという意欲と気に入った物件こそが、それに耐えるモチベーションになります。
この3点から考えるとSさんは「今は悪くない」タイミングだと思いますよ。
――相場観としては、今は買い時なのでしょうか?
鈴木FP それについては、もうひとつの社会経済の観点からみた「買うタイミング」を解説します。まずは今の価格相場を見てみましょう。首都圏全体、まだまだ高止まり状態だと言えます。特に利便性を求める共働き世帯が多い23区は、新築はもとより中古市場も他地域に比べてずば抜けて高いですね。では郊外が安いかといえば、23区を買えない人が流れたりやテレワーク推進によって検討する人が増えたりして、やはり上昇傾向にあります。
私個人の意見ですが、円安やインフレ(建材費の高騰等)を考えると、不動産価格が近い将来下がるイメージはあまり持てません。「価格が下がるまで待とう」という人も多いかと思いますが、そうするとタイミングを逃すことも。待っているうちに子どもが大きくなり、例えば中学受験の費用とか学費などの出費が重なって、貯蓄を食いつぶすことになりかねません。もしかしたら、今が一番、貯蓄がある状態かもしれないですよね。
金利面を見ても、買うならば今はおすすめと言えるでしょう。固定金利はアメリカの金融政策の影響でじわじわ上昇していますが1パーセント台、変動金利は0パーセント台と超低金利だからです。
でも、今後いつ上がるかはわかりません。変動金利も、物価上昇とそれに伴う賃上げが安定してくれば、基準金利(※)が上がるでしょう。また基準金利があがらなくても、銀行が独自に決める引き下げ幅が小さくなれば、新規での借入金利は上昇します。でも今はまだ、変動も固定も超低金利でローンを組みやすい。
個人的・社会経済的な状況から考えてみても、Sさんにとっての「マイホームを購入するタイミング」は今だと思います!
家計が破綻しないマイホーム購入価格の算出法
――いまのSさん夫妻の収入で購入可能な物件価格はいくらぐらいになりますか?
鈴木FP 今時点での住宅費や貯金の進み具合、今後の収入予定がわからないのですが、いまある限りの情報をベースに、「25%ルール」で算出してみましょう。これは、「ローン返済額+管理費・修繕のための積立+固定資産税などの税金」を手取り年収の25%以内に抑えるという考え方です。以下が、25%ルールによる物件購入額の算出法です。
1)1年間の住宅関連費を算出する
Sさん夫妻の場合は、
1,100万円(世帯年収の額面)×0.8(手取り)×0.25(25%)=220万円。
つまり、一年間に住宅関連費用として、ローン返済額+管理費・修繕のための積立+固定資産税などの税金で使える金額は220万円が目安となります。
2)1から管理費や税金を引いて、ローン返済額を算出する
Sさん夫妻の場合、管理費・修繕のための積立を月3万円と仮定します。
220万円-36万円(3万円×12カ月)=184万円。
税金を年10万円と仮定すると、184万円-10万円=174万円。
それを12カ月で割ると、1カ月14.5万円までが返済額の上限目安となります。
3)ローン額から物件価格を算出する
ローンを返済期間35年、返済月額14.5万円、元利均等返済・金利1.5%と仮定すると、借入金額は4,735万円となります。それに、仮に頭金を700万円とすると、5,435万円。
住宅購入には火災保険料や印紙税などの諸経費が掛かりますので、それを仮に購入価格の10%すると、諸経費を抜いた物件価格は5,435÷1.1=4,940万円が目安となります。
もし、貯蓄力があり繰上げ返済のお金を計画的に貯められる人なら、低金利の変動金利を検討するのも手。金利0.5%であれば、物件価格の目安は約5,700万円となります。
――だいたい5,000万円ぐらいですね。そうすると、新築物件では場所が限られてきそうです。
鈴木FP そうですね、新築マンションの現在の平均価格が、千葉35万円/㎡、東京88万円/㎡、神奈川50万円/㎡ 。ファミリーとして80㎡を想定すると、東京だと場所にもよりますが、都下で7,000万円くらい、23区だと1億円を超える物件もあり予算的に厳しいですね。中古マンションなら東京でも5000万円前後の物件があるので、現実的な選択肢になってくると思います。その場合、平均200~300万円をリノベーション費用として想定するといいでしょう。リノベーション費用を物件価格と併せて同金利で借りられるローンであれば良いですが、別々にローンを借りるとリノベ分について金利があがってしまいます。その場合は、リノベーションについては現金で払うほうが良いでしょう。
Sさん夫婦が気に入った物件がもっと高額の場合、①両親からの贈与をお願いする、②頭金を増やすという手段があります。
頭金と貯蓄のバランスはどうとるべき?
――シミュレーションでは頭金を700万円としていましたね。Sさん夫妻は貯蓄が1200万円ありますが、頭金の金額はどのように決めるのが安心でしょうか?
鈴木FP 大前提として、予備資金といわれる6カ月~1年分の生活費は最低取っておきましょう。Sさん夫妻の場合、年収から1カ月の生活費を約40万円前後と考え、300万円(約7.5カ月分)を貯蓄に取っておく。すると最大900万円までは頭金に使うことはできます。今後、教育費の負担があがっていき、老後資金も貯める必要があるSさん夫妻の場合、できるだけローンの返済額は抑えたいもの。そのためには、可能な限り頭金を入れて借入額を減らし、毎月の支出や貯蓄に備えたいですね。頭金を多めに入れて、返済額を下げるというのも、賢いローンの組み方の一つですよ。
ただし、頭金を入れすぎて、近いうちに使うお金が足りなくなる、なんてことにはならないように注意してください。予備資金と別に貯蓄として残すべき金額を洗い出しましょう。Sさんの場合、上のお子さんが年齢的に中学受験する可能性があるかもしれません。塾の夏期講習などで40~50万円とまとまった金額が出ていくこともあるため、そういった流動的な支出を払えるぐらいの貯蓄は持っていたほうがいいと思います。
住宅購入で知っておきたい節税や補助金制度は?
――さきほど購入価格が予算より高い場合は、「両親などに贈与をお願いする」というお話がありましたね。実際、親に「頭金などを出してもらった」という話を聞くケースも多いですが、Sさんの場合はどのくらい出してもらうのがいいでしょうか?
鈴木FP 両親などに住宅購入資金を援助してもらう場合、贈与税が発生します。ただし、両親や祖父母らから贈与される住宅購入資金については、要件を満たせば一定金額まで非課税となります。ですので、贈与税がかからない(非課税の)範囲でおこなえる金額が目安となります。
非課税で贈与できる金額の上限は、省エネ等住宅の場合には1,000万円まで、それ以外の住宅の場合には500万円まで。ただし、暦年贈与の基礎控除(受け取り側が年間で110万円まで贈与が非課税になるもの)との併用が可能なので、それぞれ+110万円まで枠を広げることができます。
「省エネ等住宅」とは、次の①から③の省エネ等基準のいずれかに適合すると証明された住宅です。
① 断熱等性能等級4以上、もしくは一次エネルギー消費量等級4以上であること
② 耐震等級(構造躯体の倒壊など防止)2以上、もしくは免震建築物であること
③ 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上であること
――なるほど。例えば、Sさんご夫婦がそれぞれの父親から援助してもらうということも可能ですか?
鈴木FP この制度の注意点は、「父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、マイホームの新築、取得または増改築等にかかるお金をもらった場合」というように、直系尊属(両親、祖父母、曾祖父母)からの贈与のみを対象にしていること。ですので、夫妻がペアローンを組み、夫は夫の親から、妻は妻の親から、それぞれ自分の持ち分に対して贈与をしてもらうことは可能です。逆に夫が単独でローンを組み、妻の親から贈与を受ける場合は対象外となります。
また贈与を受ける方についても、18歳以上、贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下といった条件があるほか、取得する住宅の広さや時期についても細かな要件があるので注意してください。
――ほかに、住宅購入関連で行政からの補助金、節税などの方法はありますか?
鈴木FP まずはなんといっても住宅ローン控除(正式名称:住宅借入金等特別控除)です。既存の制度ですが、2022年に改正され、控除率や年数が変更となりました。2022年以降に住宅ローン控除の適用をされる方は、年末時点の残高0.7%が13年間(既存住宅および増改築は10年間)、税金から控除されます。
たとえば、2022年に購入・入居し始めた人で年末に3,000万円のローンが残っている場合、初年度は21万円の控除を受けることができます 。
補助金としては、子育て世代にはぜひ、「こどもみらい住宅支援事業」を活用してほしいです。子育て中または40歳未満の若者夫婦が注文住宅を建築したり、新築住宅を購入したりする場合に、住宅が 「ZEH住宅」「高い省エネ性能を有する住宅」「一定の省エネ性能を有する住宅」など要件を満たせば、性能に応じて最大100万円の補助をもらえます。
また、新築じゃなくても、本事業に登録をした事業者と契約したリフォームにも補助金が出ますので 、中古戸建/マンションを検討している人も活用できます。こちらは「開口部の断熱改修」「外壁、屋根・天井又は床の断熱改修」「エコ住宅設備の設置」のいずれかが必須の工事となり、条件によって最大60万円の補助金が出ます 。
リフォームでいうと、「長期優良住宅化リフォーム推進事業」という制度も。こちらは長期優良住宅化リフォーム済みの住宅を購入する場合に補助金が買主に還元されるもので、補助金は最大250万円。(※令和4年度は予算に達し募集終了)
もうひとつ、「ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)補助金」という制度もあり、これは先ほども出てきた「ZEH住宅」を対象としたもの。「ZEH住宅」とは、断熱性能の大幅な向上と高性能な設備・システムの導入により、省エネを実現し、さらに再生可能エネルギーを導入して、年間のエネルギー量を実質ゼロ以下にする住宅。要は、冬温かく、夏涼しい住宅にすることで冷房や暖房の使用を少なくし、太陽光発電などで創るエネルギーを使う住宅です。要件が細かく分かれておりますが、最大112万円+αの補助金が受けられます。
ほかにも自治体独自の補助金制度もあるので、ぜひお住まいの自治体のHPをチェックしてみてください。新築/中古+リフォームによって対象となる制度が異なるので、物件検討のときから確認しておくことをお勧めします。
(取材・構成 佐伯香織)