妻40歳、夫42歳で第一子誕生。不妊治療で貯蓄をかなり減らしたが……教育費を捻出しながら老後資金を貯められる?
妻40歳、夫42歳で第一子に恵まれたIさん夫妻。不妊治療に時間とお金をかけたこともあって喜びもひとしおですが、3人家族となった家計への解像度が上がるにつれ、不安を感じるようになったといいます。
現在は賃貸物件に住んでいますが、子どもの成長を見据えて、別の賃貸物件への転居かマイホーム購入するかにも悩んでいるというIさん夫妻。
女性の平均初産年齢が30.9歳になり 、40歳を過ぎて第一子を出産する著名人の話題も多い今の時代、Iさん夫妻のような高齢出産は珍しくありません。
子どもへの教育費を捻出しながら、老後の資金を貯めるにはどうしたらいいのでしょうか。また、マイホームの購入は可能なのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの鈴木さや子さんに、高齢出産夫婦ならではの“貯めどき”を含めて解説してもらいます。
Iさんファミリー
夫42歳、妻40歳
子ども1人(0歳)
世帯年収 950万円/貯蓄 700万円
共働き正社員。現在の住まいは賃貸1LDK:家賃15万円/月
第一子が誕生したばかりで、第二子は予定していないそう。
高齢出産夫婦の“貯めどき”はいつ!?
――Iさん夫妻は、妻が育休中に貯蓄を崩して生活費を捻出せざるを得ず、今後の家計管理に不安を感じるようになったそうです。Iさん同様に家計や、今後の教育費・老後資金に不安を感じる人も少なくないと思いますが、高齢出産ならではのポイントはどのような点になりますか?
鈴木FP そうですね、20~30代前半で子どもを持った夫婦と高齢出産夫婦の一番の違いは、ズバリ子育てが終わったときの年齢です。
20~30代前半で子どもを持った夫婦の場合、子どもの大学卒業時点でだいたい50~55歳前後なので、もし老後資金があまりなくても、そこからもうひと頑張りして貯めることが可能です。
一方、高齢出産夫婦の場合は60歳前後となり、企業によっては定年を迎え再雇用されるなど、働き方の変化によって収入が大きく減っていることも。ですので、高齢出産夫婦の場合は、出産した時点から教育資金と老後資金を同時に貯めつつ生活していくのが大前提となります。
――では、高齢出産夫婦の場合の“貯めどき”はいつになるのでしょうか?
鈴木FP 2つあります。ひとつは、出産前。この時期に十分に貯蓄をしておくと、余裕を持ったプランが立てられます。とはいえ、Iさんご夫妻のように不妊治療に使うケースも多いでしょう。難しいところではありますが、子育てをする費用も視野にいれつつ、不妊治療で貯蓄をすべて使い切ったりしないよう、予算を立てておけると良いですね。
2つ目の”貯めどき”は、お子さんが生まれてまもない今から、小学校3年生ぐらい、または中学校卒業までです。なぜ小学3年生かというと、中学受験をする場合、一般的には小4から塾通いを始めるケースが多いから。中学受験に挑む場合は、進学塾に200万円など大きな金額がかかり貯蓄をすすめられない可能性があるので、小学校3年生までにしっかり貯めておきましょう。中学受験をしないのであれば、中学3年生まで“貯めどき”を延長できます。
幼保無償化といえども0~2歳は保育料がかかります(住民税非課税世帯の場合は無償)。Iさん夫妻の場合は、第一子かつ世帯年収も額面950万円となると、保育料も高額に。職場復帰後も時短勤務となり、数年間は世帯の手取り額が出産前より下がる可能性が高いため、今のうちに家計を見直し、少しでも貯められる仕組みづくりをすることが必要です。
教育費のために必要な貯金月額は「3.6万円」
――やはり教育費が家計プランの大きなカギとなるということですね。
鈴木FP その通りです。教育費も公立/私立の選択肢によって大きく異なりますが、基本は「高校卒業までは貯蓄には手を出さずに、手取りの中で払う」が大前提。例えば、公立小学校ですと給食費・教材などで学校に納める平均額は月額9,000円、私立は学費込みで7万9,000円です。教育費には習い事も含めて考えますが、小学生の習い事は平均2万円。それを含めて、手取りで払えるかを検討しましょう。学校にかかる費用は入ってしまえば公立でも私立でも固定されますが、習い事はコントロールできるので、家計のバランスを見ながら決めるといいですね。
教育費がもっとも高額になるのが、大学時期です。国公立に比べて、私立文系・理系に通うと、4年間で200~300万円は高くなるとも言われていますが、大学の進路がどうなるかは今からはわかりません。できるだけ子どもの希望を叶えたい考えの場合は、私立に通うことを想定して、貯蓄しておくと良いですね。Iさん夫妻の場合は、目安として中学3年までに大学資金500万円を貯めることを目指しましょう。
――効率的に貯めるにはどのような方法がありますか?
鈴木FP まずは児童手当を専用口座で貯蓄することがもっとも簡単で効率的です。それにより約200万円(所得制限限度額未満の場合)が貯まります。残り300万円を0歳から中学3年までの15年で貯めるには、月に1.6万円を貯蓄に回せばOK。ただし、子どもに関しては想定外のことも起こり得るので、+2万円貯めていけたらベターではないでしょうか。つまり、月に3.6万円を子どものための貯蓄にするのです。これで計860万円ほど貯められることになりますから、高校~大学の教育費は最低限乗り切れるはずです。
マイホーム購入の基本ルール
――教育費とともにIさんを悩ませているのは住宅事情です。お子さんが大きくなれば今の1LDKでは手狭になるため、もし購入するなら早めにと考えているようですが、家計からみてマイホーム購入は可能でしょうか?
鈴木FP ローン返済額や管理費など住居費が、今の家賃を上回らなければマイホーム購入も可能だと思います。基本的なルールとして 「今の家賃を大きく上回らない」ことを守らないと、教育費と老後資金を貯めながらローンの返済はきついので注意してください。
Iさん夫妻の場合、今の家賃である15万円からローンの借入額などを逆算すると、物件予算は約3,800万円が目安となります。計算根拠は次のとおりとなります。
①家賃15万円のうち、管理費・修繕積立金等を3万円とした場合、ローンの返済額は12万円となる
②借入可能額を逆算すると約3900万円となる(返済期間35年/元利均等返済/固定金利1.5%と仮定)
③頭金は200万円準備、また、購入時の諸費用が8%かかると想定すると、物件価格の目安は次の式で求められる
物件価格の目安=(借入可能額3900万円+頭金200万円)÷1.08
上記の計算式の結果は3796万円となるため、約3800万円が目安というわけです。ちなみに、金利が変動する変動金利にすると金利がぐんと低くなるため、物件価格の目安は高くなりますが、金利上昇のリスクに対応できるよう貯蓄は必至。安易な変動金利の選択には注意してください。
また、完済年齢が77歳となるため、完済時期を早められるよう、住宅ローン控除の対象期間が終わったら、繰上げ返済がマスト。退職金が出る会社であったとしても、大切な老後の生活資金ですので、できるだけ退職金には手を付けず返していけると良いですね。
もちろん、マイホームを持たず、その時々のライフスタイルによって賃貸物件を選ぶのもアリですが、老後も家賃がかかることを想定し、老後資金の貯蓄をプランニングしておくと安心です。
本当に必要な老後資金はいくら⁉
――仮にマイホームを購入するとして、住宅ローンを支払いながら教育費を捻出すると、自身の老後資金がすっからかんなのではないかと不安になる人も多いと思いますが……?
鈴木FP 大丈夫、貯められます! そして、貯められるように家計を作り、仕組みを作ってしまうことが大事です。
プランニングのポイントは大きく3つ。
1)夫婦それぞれがもらえる年金額を知る
「ねんきんネット」に登録すると、今の働き方を続けた場合にもらえる年金額を把握することができます。毎年お誕生月に届く「ねんきん定期便」には、50歳未満の人の場合、これまでの加入期間に応じた年金額しか載っておらず、もらえる年金額は書かれていませんので注意してください。
2)年金生活での生活費を想定する
夫婦2人だけでの生活で、どのぐらいの生活費が必要かを考えることが重要です。老後にどういう生活を送りたいのか、何を我慢して何を楽しみにするのかをイメージしてみましょう。そして、50歳になったら、イメージした老後の生活を送れる生活費でおさまるようお金の使い方を見直し、練習する時期と考えると良いですよ。
3)貯蓄額を決める
1と2の差額を把握しましょう。差額がなければ、年金で生活できるということになりますので、貯蓄は少なくても大きな心配はないでしょう。
とはいえ、老後の医療費(1~2割負担の医療費+介護費用)などを考えると、最低1人約500万円は準備しておきたいもの。退職金で用意できなければ、貯蓄が必要になります。
――どういった老後を送りたいかによると思いますが、誰にでも「老後費用2000万円」必要なわけではないようですね。
鈴木FP 老後資金に関しては、定年後の収入も大きく関係してきますので、ご自身のキャリアプランと併せて考えていく必要があります。同時に、「お金を増やす」ための投資なども始めましょう。
【教育資金を増やすには】
学資保険の加入をおすすめします。保護者が40歳の場合、30歳の人に比べるとやや返戻率は悪くなりますが、それでも超低金利のメガバンクの定期預金などよりは増えます。ただし、途中解約すると損するため、フレキシブルに資金を置いておきたい場合は、金利の高いネット銀行などを選び、預金で積み立てるのがベター。また、つみたてNISAも組み合わせれば、18年後に向けてインフレリスクに備えながら、資産を育てていける可能性がありますよ。
【老後資金を増やすには】
強制的に老後資金を作れるiDeCo(お勤め先の企業型DCがマッチング拠出を選べる場合はマッチング拠出)が選択肢となります。運用益が非課税となり、毎年の掛金全額を所得控除できるため税金を減らせるお得な制度だからです。しかし、60歳まで一切引き出すことはできないことと、受け取る際には全額に税金がかかることには要注意です(退職所得控除や公的年金等控除といった税制優遇を受けられます)。
また、iDeCoは口座管理料がかかり続けるため、節税の恩恵を受けられない人(ライフプランによって専業主婦/主夫になる可能性がある場合)は避けた方がいいでしょう。
育児と介護が重なるリスクに備える
――40代での出産は、親族の介護と自身の育児が重なるリスクも高まります。
鈴木FP まず親族の介護については、離職はしないことを前提に準備しましょう。離職すれば収入は途絶え、貯蓄が減っていきます。これは、それだけで精神的なストレスにもなります。介護には終わりがあるので、そのあとの自分を想像することもとても大事です。
仕事と介護の両立のためには、国や会社の制度をフルに活用できるよう、早いうちから調べておくことが大切です。
公的介護保険や自治体の支援内容は、地域包括支援センターで教えてくれますので、介護を受ける人が住んでいるところの地域包括支援センターに問い合わせてみましょう。
また、自身が所属する会社に、介護休暇や介護休業給付など活用できる支援制度を聞いておくのも大切。そして、親族が遠距離に住んでいる場合は、親族本人やきょうだいらと希望やシミュレーションについて話しておく、異変があったら教えてもらえるなどの近所付き合いをしておく、といったことも事前にできることですね。
――「年齢的なリスク」でいえば、ご自身やパートナーの健康リスクも高まりますよね。
鈴木FP 大きな病気になれば医療費がかさむだけでなく、収入が減る可能性もありえます。貯蓄が少ない場合は、医療保険への加入を検討するといいでしょう。保障の対象を三大疾病やがんのみにすれば大きな病気に限定して一時金などで備えられるのでおすすめ。特に、傷病手当金の保障がない自営業にとっては、これらの保険以外にも、就業不能保険など働けない体になったときの保障は必須です。
「自分はならないだろう」「なったときに考える」と未来にふたをせず、自分ごととしてライフイベントを見直すこと。それがリスク回避への第一歩となります!
(取材・構成 佐伯香織)