心理学を使ったアプローチで 子どものやる気を引き出そう!『低学年のための中学受験レッスン#7』
子育てにおける永遠のテーマ、やる気問題。「子どもの自主性を重んじるべき」という教えに従い、子どもが自分から勉強を始めるのを待っていても、いつまでたっても始めようとしない……。子どものやる気アップって、一体どうすればいいの?!ベテラン中学受験指導者・宮本毅先生から低学年の子の親へ向けた、心理学的視点からのアドバイス。
「今からやろうと思ってたのに、やる気なくなった!」問題の仕組みと回避方法
ヒトにはそもそも「自分の行動や選択を自分で決めたい」という欲求があります。それを他人から「〇〇したら?」と先回りされたり、「〇〇しなよ」と命令されてしまうと、反抗したくなっちゃいますよね。
これを心理学の世界では「心理的リアクタンス」といいます。「心理的リアクタンス」とは、「他者によって自分の意思や行動を制限された時に起こる心理的抵抗」のことを指します。
言い訳や屁理屈でなく、本当にやる気がなくなってしまう
たとえば、そろそろ片付けなきゃなあと思っていても、「また出しっぱなし、早く片付けて!」と言われたら? そろそろダイエットしようかなと思っていても、「もうちょっと運動したほうがいいんじゃない?」と言われたら?
本当は自分でもそうしようと思っていても、人から言われたら、「誰がやるか!(怒)」と、ムカッと感じてしまうことってありますよね。
これと同じことが、「勉強しなさい」と言われた子どもたちの心の中でも起こっているのです。
多くの子どもは親からのその言葉に「あーもう今からやろうと思ったのにー、やる気が一気に失せた」などと反論しますが、それは屁理屈をこねているわけでもなんでもないんです。
心理の働きとして、本当にやる気が損なわれてしまうから、そう文句をつけたくなるのです。
「勉強しなさい」をぐっと我慢して聞いてみる
かといって、子どもがやる気を出すまでじっと待っていても、大抵の子どもは一向に勉強しようとしませんよね。
もちろん長い目で見れば、たとえば高校生とか社会人になれば「やらなきゃなー」と思える日が来るかもしれませんが、親としてはそんなに待ってはいられません。どうしても、小学生のうちに、勉強させないといけないわけです。
そこで、どうするか。頭ごなしに「勉強しなさい」と言うのではなく、まずは相手の話を聞いてみてください。
今、学校でどんな勉強をしているのか。どんな科目が得意でどんな科目が苦手なのか。そして、もし苦しんでいるようなことがあるのであれば、どんなことに苦しんでいるのか。
子どもの話を聞くときに意識すべきこと
話を聞くときのポイントは、答えを数値化するテクニックを示してあげること。
「普通のたし算の理解度を10とすると、繰り下がりのひき算の理解度はどのくらい?」
「学校の教科書の文章のわかりやすさを10とすると、この文章のわかりやすさはどのくらい?」
といった感じですね。子どもたちは、より具体的に自分の目標をとらえることができるようになります。
数値化が難しければ「上・中・下」で判定させても構いません。
大切なことは、ただ単に「わかんない」状態から「どこらへんがどれくらいわかんない」のかを、徐々にでもよいので、明確にさせることです。
おなかが痛くて病院に行ったとき、よくお医者さんが「過去に一番痛かった時を10段階の10として、今の痛みはどのくらい?」と聞いてきますよね。
あれって、数値そのものが重要なのではなく、今の状況がどの程度深刻かを、数値化させているのだと思います。
「10段階中……?」と自分の状況を冷静に捉え直させることが、治療の第一歩であるということなのでしょう。
「傾聴」で本人にコミットさせる
相手との対話の中で相手の状況を聞き出すことを「傾聴」といいます。
まずはこの「傾聴」で相手に自分自身について話をさせ、自分の現在位置を把握させます。
そして次のステップとして、たとえばいまの状況が10段階中7の場合、これを10にするには何をどうすればいいか、あるいは「上・中・下」のうち「下」ならそれを「中」の段階に持っていくにはどんなお勉強が必要なのか、「本人に」考えてもらい、自分の言葉で表現させるのです。
ここがめっちゃ重要です。
本人に「やるべき具体的な方法」を言わせること。
ヒトは、自分の言った言葉に縛られる生き物です。意志を誰かに宣言することで、「やらねば」という気持ちが沸き上がってきます。
これを心理学では「コミットメント効果」と言います。「結果にコミットする」という、例の宣伝文句に使われている言葉ですね。
「モラル・ライセンシング・マネジメント法」でやる気を引き出す
もうひとつ、子どものやる気を引き出すために使える心理テクニックをご紹介しましょう。「モラル・ライセンシング」です。
何だか今日は専門用語ばかりで退屈だわ、そうおっしゃらずに聞いてください!
ひょっとすると、中学受験だけでなく、なかなか長続きしないダイエットにも光明が見えるかもしれません!
勉強すればするほどモチベーションが下がる!?
「モラル・ライセンシング」とは何か、簡単に説明すると「正しいことや良いことをした後は、多少悪いことをしてもいいと思い込み、誘惑に弱くなってしまう」心理現象のことです。
よくあるパターンとしては「今日はウォーキングを2時間やったから、ケーキを食べてもいいよね」とか、「1週間頑張って仕事したから、金曜日の夜くらい深夜まで飲み歩いてもいいよね」といった感じですね。
これは日々の勉強にも当てはまって、「朝から学校に行って勉強してきたんだから、夜は勉強せずテレビを見てもいいよね」となるわけです。勉強すればするほど勉強に対するモチベーションが下がっていく、これが「モラル・ライセンシング」の怖いところです。
しかし「勉強するとサボりたくなる」からといって、勉強をしなくても良いわけはありませんよね。
そこでおススメしたいのが「モラル・ライセンシング・マネジメント法」です。
モラル・ライセンシング効果を逆手に取るこの方法は、すぐれたダイエット法としても活用されています。
「モラル・ライセンシング」をリセットする方法
ダイエットをするときに甘いものをずーっと我慢してしまうと、「モラル・ライセンシング」によって、食べ過ぎという大きな反動が起こり、リバウンド地獄に陥ってしまうケースがあります。
そこであえて「チョコレートを食べてもいい日」をつくるわけです。
せっかくダイエット頑張っているのに、そんな日をつくったら効果が薄れてしまう。そんな不安を持つ人もいるでしょうが、大切なのはダイエットを「継続する」ことです。
一週間ごとに「チョコを食べてもいい日」をつくれば、そこでいったん「モラル・ライセンシング」がリセットされますから、また一週間頑張れるというわけです。
これを応用して、お勉強のスケジュールの中に、友達と思いっきり遊んでもよい日を組み入れます。
たとえば「土曜日はまったくお勉強しなくてもいいよ」とする。するとそこで「モラル・ライセンシング」をリセットでき、また次の一週間頑張れるというわけです。
中学受験も目前に迫ってくると、親御さんにも本人にもそんな余裕はないかもしれませんが、低学年のうちはまだまだ大丈夫。ぜひ、お勉強しなくていい日をつくってあげてください。
また、この「まったくお勉強しなくてもいい日」というのは、いざというとき「予備日」として活用できます。
たとえば、宿題の多い一週間や課題が終わりきらなかったときに「まったくお勉強しなくてもいい日」の一部を、追いつくために使えるということです。
「予備日があるから」と考えることで家族にも心の余裕ができ、一石二鳥です。
まとめ
心理学的アプローチは一種の「実践科学」ですので、ある程度の効果を期待できるものです。
ですが、なにせ相手はまだ「心理的にも充分発達しきっていない子ども」。大人相手なら上手くいくケースも、子どもが相手だと、思ったような効果が得られない可能性も充分考えられます。
けれど、お子さんの脳や心が発達するにつれて、勉強をする理由や勉強の仕方は、段々と自分自身で理解していくものです。
私の教え子の中にも、中学受験ではなかなか目が出ず中堅校におさまったけれど、高校生の時に開眼して東京大学や早稲田・慶應といった優秀な大学に進学したという子も決して少なくありません。
だから、保護者の方のスタンスとしては「過度に力を入れすぎない」ことも重要なのではないかと感じます。今そんなに伸びなくても、トータルで見たときに成長できていれば問題ないわけですからね。
子育てに焦りは禁物です。
まして、みなさんのお子さんはまだ低学年。中学受験を目指すからといって、焦る必要はどこにもありません。
今できていないことを責めたり、勉強に追い立てたりして本人の自己肯定感を下げるよりも、長い目でじっくりゆっくり向き合ってあげる方が、案外子どもたちは「やる気」を出してくれるかもしれませんよ。
※中学受験ナビの連載『低学年のための中学受験レッスン』の記事を、マイナビ子育て編集部が再編集のうえで掲載しています。元の記事はコチラ。