出産・産後 出産・産後
2023年09月11日 08:21 更新

「母は陣痛の痛みを乗り越えてこそ、子供に愛情を持つことができる」という説のおかしさ

無痛分娩を否定するときに使われがちな「陣痛に耐えてこそ」「産みの苦しみを味わってこそ」母になれるという説。そのおかしさについて森戸先生にお聞きしました。

陣痛がないと子供に愛情が持てないなら、父親はどうなるの?

(※画像はイメージです)

ときどき「お腹を痛めて産んだ子はかわいい」「陣痛の痛みを乗り越えてこそ子供への愛情がわく」「産みの苦しみを味わえば真の母親になれる」などという俗説を耳にします。陣痛の痛みを母親になるための通過儀礼として捉えるというものです。

そもそも陣痛の痛みを感じないと子どもへの愛情が持てないなら父親はどうなるのか、「真の母親」とはどういうものなのかなど、ツッコミどころがいっぱいあります。母親には「神話」が押し付けられがちなのですが、その一つといえるでしょう。

私は初産のとき、麻酔なしの経腟分娩で出産しました。陣痛自体に価値を見出していたわけではありませんが、医師という職業上、どんなものなのか経験したかったからです。その結果、あまりの痛さに、産後すぐには子供をかわいいと思う余裕さえなく、自分には母性がないのかもしれないと少し不安になりました。

翌日になっても痛みで体に力が入ったせいか全身は筋肉痛、後産でお腹が痛くて、乳腺が張って胸も痛く、それなのに看護師さんからは「安産でしたね」と言われて愕然! これで安産なら、難産ならどんなことになるのだろうと震えました。私は陣痛が来てから半日で出産しましたが、私の少し前に3日間陣痛を耐えた後に、帝王切開になった友人がいたのです。

そうした経緯があって、2回目の出産では無痛分娩を選択。初産のときと違って痛みがなく、産後すぐに安堵感、そして赤ちゃんへの愛情をしっかりと感じることができました。初産のときの不安は、陣痛の痛みで疲れ切っていたせいだったのです。

個人的な価値観を他人に押し付けてはいけない

当たり前のことですが、痛みのあるなしで、子供への愛情の多寡が決まるわけがありません。でも、愛情を感じるだけの余裕があるかないか、に影響することはあるでしょう。

海外で出産した女性が、医師に無痛分娩の説明を受けた際、「歯医者さんで治療してもらうとき、麻酔があるのにわざわざ『痛みを味わいたいので無麻酔でお願いします』と言う人がいないように、無痛分娩という痛みを和らげる方法があるなら、それを使うでしょう」と言われたという話を読んだことあります。確かにその通りです。

誰かが個人的に「陣痛の痛みを乗り越える」ことに価値を見出すぶんには問題ありませんが、勝手に出産や陣痛を神聖化して他人にまで押し付けるのはよくありません。たとえ配偶者であっても、自分の妻に押し付けてはいけないでしょう。

ところが、困ったことに、医療関係者の中にも陣痛自体に価値を感じていて、妊婦さんたちに精神論で痛みを我慢するよう伝える人がいます。医療者が伝えるべきなのは、個人的な価値観ではなく、裏付けのある医療の知識なのに、です。

もちろん、無痛分娩には別途費用がかかりますし、少ないながらも遷延分娩(分娩が長引くこと)などのリスクはあり、説明を受けた上での判断が大事です。それでも、痛みがないことによるメリットは大きいですし、少なくとも無痛分娩で出産することに罪悪感を抱かないようにしましょう!

参照)森戸やすみ『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(内外出版社)

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