
「マッチ売りの少女」のあらすじは?大晦日の夜に少女が最後に見た幻は大好きなあの人だった
親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回はアンデルセン童話の一つ「マッチ売りの少女」を取り上げます。多くの人が知っている作品ですが、子どもに話してあげようと思うと、細かな部分が出てこないという人も多いのではないでしょうか。親自身も幸せについて考えさせられる名作です。

「マッチ売りの少女」を子どもに聞かせよう!
数多くの童話を遺したことで知られるアンデルセンは、デンマークの代表的な作家・詩人です。 代表作には「マッチ売りの少女」のほか、「おやゆび姫」や「人魚姫」、「みにくいアヒルの子」、「雪の女王」などがあります。アンデルセンの童話の特徴として、民俗説話の影響を受けたグリム童話とは異なり、創作童話が多いと言われています。
「マッチ売りの少女」のあらすじ

日本でも有名な「マッチ売りの少女」。子どもの頃に絵本などで読んだ大人も多いでしょう。ぜひ今度はお子さんと一緒に楽しんでください。親子で幸せについて話をするきっかけにもなりますよ。
大晦日の夜、マッチが売れずに歩き続ける少女
ひどく寒い大晦日の夜のことです。あたりは真っ暗で、雪も降っていました。一人のみすぼらしい少女が帽子もかぶらず、裸足のまま歩いています。行くあてがあるわけではありません。足は寒さで赤くはれています。
少女の古びたエプロンの中にはたくさんのマッチが入っていました。少女はマッチを売っていたのです。しかし、一日中売り歩いても、買ってくれる人はだれもいませんでした。少女はおなかをへらし、寒さに震えながら歩き続けました。
どの家の窓も明かりがあかあかとついていて、おなかがグゥとなりそうなガチョウの丸焼きのにおいがします。「そっか、今日は大晦日なんだ」と少女は思いました。
通りの隅に少女はぐったりと座りこんで、身をちぢめて丸くなりました。足をぎゅっと引き寄せても寒さをしのぐことはできません。けれども、家に帰る勇気もありませんでした。マッチが一箱も売れていないからです。お父さんは少女のほっぺをぶつにちがいありません。また、家にはかろうじて屋根がありますが、寒いことはここと同じでした。
\ココがポイント/
✅大晦日の寒い夜、貧しい家の少女がマッチを売るために歩いていた
✅少女は寒さにこごえていたが、マッチが1つも売れていないため、家に帰ることもできなかった
暖をとるためにマッチをすると、目の前には幸せな幻が

寒さにこごえる少女は、マッチの火が役に立つかもしれないと思いつきます。一本マッチを取り出して、シュッと壁でこすると、メラメラと燃え出しました。暖かくて、明るくて、まるで、大きな鉄のだるまストーブの前にいるみたいでした。事実、少女の目の前にはぴかぴかの金属の足とふたのついただるまストーブがあります。
少女はもっとあたたまろうと、だるまストーブの方へ足をのばしました。と、そのときマッチの火は消えて、だるまストーブもパッとなくなりました。手の中に残ったのはマッチのもえかすだけ。
少女はべつのマッチを壁でこすりました。すると、火はいきおいよく燃え出します。壁がヴェールのようにすき通ったかと思うと、いつのまにか部屋の中にいました。食卓テーブルがあり、白いテーブルクロスの上に銀食器やガチョウの丸焼きが乗っています。不思議なことにそのガチョウが胸にナイフとフォークを指したまま、お皿から飛び降りて床を歩き、少女の方へ向かってきました。しかしそのとき、マッチの火はまた消えてしまいました。
少女がもう一つマッチをすります。今度は、とても綺麗で豪華なクリスマスツリーの下に座っていました。ツリーのまわりには何千本もの細長いロウソクがあります。しかし少女が手をのばそうとすると、マッチはふっと消え、クリスマスのロウソクも空にのぼっていき、星と見分けがつかなくなりました。
\ココがポイント/
✅マッチをすると、ストーブや豪華な食卓、きれいなクリスマスツリーなどが少女の前にあらわれた
✅しかしマッチの火が消えると、それらも消えてしまった
大好きなおばあさんとの再会
そのとき少女は一筋の流れ星を見つけました。「だれかが死ぬんだ……」と、少女は思いました。なぜなら、「人が死ぬと、流れ星が落ちて命が神さまのところへ行く」と、おばあさんが言っていたからです。そのおばあさんは少女を愛してくれた、たった一人の人でしたが、もう死んでしまっていました。
少女はもう一度マッチをすりました。少女のまわりを光がつつみこんでいきます。前を見ると、光の中におばあさんがやさしく笑って立っていました。
「おばあちゃん!」と、少女は大声を上げました。
「ねぇ、わたしをいっしょに連れてってくれるの? でも……マッチが燃えつきたら、おばあちゃんも、パッと消えちゃうんでしょ……」
少女はおばあさんが消えないように、マッチの束を全部だして、残らずマッチに火をつけました。マッチの光は真昼の太陽よりも明るくなりました。おばあさんは少女を抱きしめます。そして二人は浮かび上がり、空の向こうの光の中へ、高くのぼっていきました。
夜が明けて、新年の朝。少女はその手の中にマッチの燃えかすの束を握りしめたまま、動かなくなっていました。頬は青ざめていましたが、口もとは笑っていました。少女がマッチで見たものも、おばあさんと一緒に新しい年をお祝いしに行ったことも、だれも知りませんでした。
(おわり)
\ココがポイント/
✅もう一度マッチをすると、亡くなったおばあさんがあらわれた
✅大好きなおばあさんが消えないように、少女は残りのマッチをすべてすった
✅おばあさんと少女は光の中へ一緒にのぼっていった
✅翌朝少女は冷たくなっていたが、口元は笑っていた
子どもと「マッチ売りの少女」を楽しむには?
少女がマッチをすって幸せな幻を見るのは有名ですが、細かなところに目を向けると、暴力をふるう父親を恐れていたり、少女を愛してくれたのがおばあさんだけだったりと、貧しいだけではない、少女の恵まれない境遇もうかがえてきます。つらい人生の最後に少女が幸せを感じることができたのは救いですね。
・結末を聞いて、どんな気持ちがした?
・もし街でマッチ売りの少女に会ったら、どうする?
・マッチ売りの少女は幸せだったと思う?
などとお子さんに聞いて、話をしてみてはいかがでしょうか。おばあさんが少女を腕に抱くように、お子さんをぎゅっと抱きしめてあげてもいいですね。
まとめ
貧しい家に生まれ、寒い夜もマッチを売らなければならなかった少女。1人で通りの隅でなくなっている姿は孤独でかわいそうに映りますが、少女は幸せな幻を見て、最後には大好きなおばあさんに再会したのでした。何が幸せかを考えさせられる作品です。また、自分たちのことを振り返ってみて、家族が愛し合って暮らす幸せを改めて感じることができるお話でしょう。
(文:千羽智美)
※画像はイメージです
大久保ゆう訳:マッチ売りの少女
翻訳の底本:English Translation by H.B.Paull (1846) "The Little Match-Seller"
※この翻訳は「クリエイティブ・コモンズ CC BY 4.0 DEED 表示 4.0 国際」(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja)によって公開されています。