
6割得点できればみんな大学合格! エリート主義を招かないオランダの教育|オランダ人のシンプルですごい子育て#4
大学の入試事情は国によってさまざま。受験競争がないオランダの大学合格の条件とは?
\子ども幸福度世界一のオランダ!親も苦労しないシンプルな子育てとは/
小学生は宿題なし、塾通いなし。でも学力は世界トップ層のオランダ。
手をかけないで「自分の頭で考える力」を伸ばすシンプルな育児法が、今、世界から注目されています。
それぞれアメリカ、イギリスから移住した2人の著者が、自由放任に見えて学力も幸福度も高いオランダ式育児を紹介した一冊です。
良くも悪くもない平均が一番いいとされるオランダのテストについて、書籍『オランダ人のシンプルですごい子育て』(日経BP)から一部抜粋してお届けします。
「10点満点中60点」で大学に合格

競争のないオランダの小学校では「クラスのトップになることを目指さない」という意味で興味深かった。さらに、これは中学校でも同じことが言え、10点満点の試験のうち、6点を取れば次の学年へ上がれるので、みんなそのレベルで満足している。
オランダの成績評価方式は、正答率を基本とするイギリスやアメリカの評価方式とは異なることをまず断っておかなければいけない。オランダの場合、取得点数は全体から間違ったぶんを差し引く方式なので、事実上10点満点達成は不可能なのである。
ほとんどの生徒は卒業資格を取得するのに必要な点数として6点か7点を取っており、6年間の中等教育の後半、高等部卒業時の平均点数は一般的に64点くらいになるそうだ。ほんの一握りの優秀な学生だけが平均8点を取ることもあるが、それはとても高得点と見なされる。
VWOでは、もし学生が卒業資格を取得さえしていれば、誰でも大学へ行くことが可能だ。そこにはイギリスやアメリカで大きな問題となる、甘い基準でわざと高い成績評価をつけるようなことは起こらない。そのためオランダでは、大学へ入るためにより高い点数を取ろうと学生同士の競争がエスカレートすることはなく、エリート主義を招かない。これはとても公平な教育システムのように見える。
ハーマン・プライという文化史家が、オランダ人のアイデンティティについて最近調査しまとめて書いた『Moet Kunnen(未訳:これでいいのだろうか)』(2009年)という著書の中で、オランダにおける教育方針の説明がされている。
プライ氏が言うには、学問の良くできる成績優秀者よりも、平均レベルの能力においてこそもっとも広い可能性を見つけ出すことができるという。
「『中道(平均レベルで良い)』という概念は、できるだけ多くの学生を進学させるという政府の方針として教育システムのすべてに反映されている。そのため、合格ラインの点数さえ取っていればそれでじゅうぶんなのだ。それでも良い成績を取りたいのであればそれはまったくあなた次第だ。しかし、必要はない」
古代ギリシアの哲学者、アリストテレスによる「中道」の概念は、オランダ人の考え方の中核をなしているようだ。すなわち、良し悪しの2つの極端な評価をつける悪習を避け、健全な平均レベルで良いということだ。

競争させなくても子どもたちは学ぶ
私自身の人生を振り返れば、試験や成績表なしで、いつも成績優秀者であろうと努力して学生生活を送ることや、その後の仕事人生を過ごすのは難しかったと思う。
けれど、子どものころのひどい競争は、後の人生においては、失望感をも引き起こす。競争の元凶である「格付け」さえなければ、自分はそのままの自分でいいという自己肯定感を持っていただろうと思う。
大人になってからも、経済的な条件や収入、子育てにどのくらいの時間を費やしたかということで、自分の価値を計られてしまうこともあるかもしれないが、この種の競争によるストレスを自分の子どもには味わってほしくないと思う。自分の子どもには、いつも褒められようと人の目を意識したり、ほかの子よりも自分の方がすごいと比べることよりも、努力の積み重ねをきちんと自分で評価できる子どもになってほしい。
心理学専門誌『Pサイコロジー・トゥデイsychologyToday』の記事で、ボストンカレッジのピーター・グレー教授が、アメリカ教育において問題と思われることを以下のように書いている。これは、イギリスでも同様だろう。
「先生がいつもきちんと正しく予測できるとは限らないのに、子どもは早いうちから、学校の中で、自己決定や自己認識よりも、先生がどのように選択して判定をするのかが重要だということを意識しはじめます。すると、こんなことが起こるのです。一生懸命勉強しているのに成績が良くない。その原因は、ちょうど先生の望むような勉強の仕方をわかっていなかったか、あるいは先生が質問しようとする問題に正確に答えられなかったからということでしょう。
だから、大多数の学生が夢中になるのは、能力を伸ばすことではなく、いかに先生の意向を察知し、良い成績を取るかということになるのです。学校の成績と試験の結果をもっとも重視することにより、学生は本来あるべき姿を失っています。このままでは、学生が課題について幅広い知識を得たり、知的な刺激や視野を広げるチャンスを逃す恐れがあります。人生において大事なことは、良い成績を取ることから得られるキャリアチャンスや物質的なことだけではないはずだからです」

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この続きは、是非書籍でご覧ください。

※本記事は、『オランダ人の シンプルですごい子育て』著:リナ・マエ・アコスタ、ミッシェル・ハッチソン 訳:吉見・ホフストラ・真紀子/日経BP より抜粋・再編集して作成しました。