
【医師監修】育児ノイローゼかも?主な12の症状と対処法、相談窓口
「育児ノイローゼ」はどんなママでもなる可能性がある心のSOS。ここでは多くみられる症状と、万が一なってしまったときの対処法と相談先を紹介します。一人で抱え込まず、周りの支援を得ることが大事です。
育児ノイローゼとは?
子育ては、新しい発見も多くハッピーな経験ではある一方、つらいことやストレスが溜まることも少なくありません。
子供が言うことを聞かずイライラしたり、自分は母親失格なのでは?と落ち込んだり。そういう経験は日常的にありますが、こうした負の気持ちが増幅して心と体を支配してしまったら……。
「育児ノイローゼ」はどんなママにも起こり得る心と体のSOS。どんな対策をとればいいかみていきたいと思います。
なぜ育児ノイローゼになるの?
・別名「育児不安」「育児ストレス」
育児ノイローゼとは、「育児困難を抱える母親に表れる抑うつ、不安、イライラ、不眠などの精神神経症状」のこと。一般的に使われているものの、医学的な診断名ではなく俗称です。「育児不安」「育児ストレス」などとも呼ばれています。
子供を産み育てることは、ママにとって喜びである一方で、不安に感じることも少なくないでしょう。
実際、育児に対する自信のなさや戸惑い、周りからのプレッシャーなどは、日々、子供と密に接しているからこそ感じてしまうもの。こうした負の感情が強くなりすぎて、日々の生活にまで支障が出てしまったのが、育児ノイローゼといえます。
・産後うつ病とは違うの?
ちなみに、育児ノイローゼと似たようなものに「産後うつ病」があります。出産直後のママに表れる抑うつ症状や不安症状のことで、発症率は5~15%前後[*1][*2] ほどと珍しくありません。
特に授乳や子供との生活のペースが安定するまでの産後1~3ヶ月は、生活環境の変化に加え、ホルモンの急激な変化もあって精神面で不安定になりやすく、発症リスクが高いといわれています。
この産後うつ病と育児ノイローゼの関係については専門家によっても見方が異なり、別のものとする意見と同じものという意見に分かれています。
7割以上のママが育児ノイローゼ予備軍


・まだ多い、母親主体の育児
近年、“イクメン” や男性の育児休暇取得など、夫も育児に積極的に関わるようになり、「育児は母親(女性)がするもの」といった意識は変わりつつあります。ですが、現実をみると育児の主体を担っているのはいまだに女性という家庭がほとんどです。
しかも、核家族が増えた今では育児を祖父母に頼ることができず、相談ができる身近な人も少なくなっています。高齢出産の場合は、両親の年齢も高いため、体力的に孫の世話ができないということもあります。
こうした環境が子育てに悩んでいるママを孤立させて、育児ノイローゼなどの問題を深刻にしてしまっています。
・子育てに負担や不安を感じてしまう
0~15歳の子供が1人以上いるママに「子育てに対して負担・不安があるかどうか」を聞いた厚生労働省の調査(2015年)によると、「どちらかといえばある」という答えが最も多く43.6%、次いで「とてもある」が28.8%でした[*3]。

実に7割以上のママが、何かしら子育てに対して不安や負担を感じている、“育児ノイローゼの予備軍”といえるのです。
育児ノイローゼの代表的な12の症状
育児ノイローゼといっても、その症状はさまざまです。
「子供を可愛く思えない」「子供といるとイライラする」など、子供に対する感情だけでなく、眠れない、気力がないなど、肉体的、精神的な症状も出てきます。代表的な症状は以下の通りです。
<育児ノイローゼの代表的な症状>
□ 子供を可愛く思えない
□ 子供の世話をするのが面倒
□ 子供といるとイライラする
□ 意味もなく子供を叱りつけてしまう
□ 子供を産まなければよかったと思う
□ 育児だけでなく、家事もやりたくない
□ 夜眠れず、昼間ボーッとしてしまう
□ 気分が落ち込む、毎日が憂うつ
□ わけもなく悲しくなり、涙が出る
□ 些細なことでもカーッとしてしまう
□ 気力がなく、何事にも興味を感じない
□ 食欲がない、あるいは過食してしまう
ストレスを抱えたママ自身、こうした症状を自覚していないこともあります。その場合は、家族や周囲の気付きが大事になります。
「最近、子供にあたるようになった」「食事を残すようになった」「常にイライラしている」というような様子が見受けられたら、ママのSOSだと思って、家族はいつも以上のサポートを心がけてほしいものです。
育児ノイローゼの予防・解消法
育児ノイローゼは、そのきっかけが子育てであるため、子育てが続く限り悩まされる可能性はあります。しかしその一方で、小さな気付きや周りのサポートなどがきっかけでママの負担が軽減され、症状が改善していくこともあります。
大切なのは、子育てがつらいと思ったときにその気持ちを一人で抱えないこと。まずは夫や家族、子育て経験のある友人・知人に相談を。地域には育児支援をしているところもあり、相談を受け付けているので、そういう場にも思い切って足を運んでみましょう。
ママが抱えるストレスを分析
ところで、ママが抱えるストレスにはどんなものがあるでしょうか。
昨今、さまざま研究から、ママが抱えるストレスの正体が分かりつつあります。代表的なものとしては以下のようなものが挙げられます。
<ママの抱えるストレス>
・慣れない育児への不安
・育児で睡眠時間が削られる
・育児に対する夫への不満
・育児に対するサポートの不足
・子供と二人だけでいることの孤独
・子供が言うことを聞かない
・周りからのプレッシャー
・自分の時間がとれない
・ゆとりが持てない
こうしたストレスのすべてに対応するのは、むずかしいかもしれません。
ですが、睡眠や休息をしっかりとることで肉体的な疲れが改善されたりしますし、家族や周囲がママの頑張りを認めてサポートするだけでも、気持ちに余裕が出てくることがあります。
また、育児に対する不安や落ち込みは、多くのママが経験しているもの。「自分だけじゃない」ことが分かれば、育児を前向きに考えられるようになるかもしれません。
いずれにしても、育児は結果がすぐに出ない気長な仕事であり、正解はありません(見方を変えれば、不正解もないということです)。
完璧主義になることで自分を追い詰めてしまわないこと。「こうすべき」という考え方はいったんすみっこに置いておきましょう。行き詰まったと感じたら深呼吸をして、気持ちを落ち着かせるのもよいでしょう。
育児がつらいときの相談先
それでも先が見えなくなりそうなときは、育児のプロの視点で話を聞いたり、サポートを受けたりするのも一つの方法です。
例えば、東京都世田谷区では「世田谷版ネウボラ(ネウボラとは、担当の保健師が妊娠から就学まで、家族の健康を一貫して支援するフィンランドの制度)」として、妊娠中から就学前までの子育てを切れ目なく支えるための事業を展開しています。
対象は世田谷区民ですが、助産師や保健師、看護師、社会福祉士、保育士などによる相談や支援が受けられたり、育児不安を抱えるママが一時的に子供を預けられる、赤ちゃんのショートステイなどを利用できたりします。
こうした取り組みは世田谷区だけでなく、いくつかの自治体も実施しています(厚生労働省が「妊娠・出産包括支援モデル事業の取組事例集」[*4]を紹介しています)。
基本的に、子育て中のママの支援を担当するのは、自治体の「地域子育て支援センター」などです。まずは自分の住んでいる地域にどんなサポートがあるか、役所や保健所に問い合わせてみてはどうでしょうか。
ほかにも、ママが集まる子育てサークルなどに参加して、情報交換、意見交換をすることもおすすめです。
多かれ少なかれ、どんなママも日々、悩みながら育児を続けているはずです。不安を抱えているのは自分だけではないということが分かるわけでも気持ちが軽くなるかもしれませんし、そこで育児不安を乗り越えるためのヒントが見つかるかもしれません。
症状がひどくなるようなら受診を


育児ノイローゼがずっと続き改善する見込みがなかったり、逆にひどくなったりするようなら、一度、精神科や心療内科に相談することも大事です。
カウンセリングや認知行動療法などの非薬物療法を受けることで気持ちが整理され、新しい視点で育児と関われるようになります。症状の緩和を目的に、一時的に抗不安薬や抗うつ薬、睡眠導入薬などを処方されることもあります。
家族や周囲ができることは?
そもそも育児はママだけが担うものではなく、家族みんなで行うものです。
パパが積極的に育児に関わるのはもちろんのこと、子供と一緒にいる時間が長くなりがちなママの気持ちになって、ママの不安や悩みに耳を傾けるようにしましょう。批判や叱責はママを追いつめるだけなので、よくありません。
ママが育児を休み、自分の好きなことができる日(時間)を作ってあげることも大事です。
育児ノイローゼの対処法
ここまで見てきた育児ノイローゼの対処法。まとめてみると次のようになります。
<育児ノイローゼの対処法>
□ 睡眠や休息をとって、睡眠不足や肉体的な疲れを解消する
□ 育児不安を持つママは「自分だけではない」と理解する
□ 育児をお休みする日(時間)を作る
□ 行き詰まったら、深呼吸して気持ちを落ち着ける
□ 地域にある育児支援の窓口に相談する
□ 育児サークルなどに参加してみる
□ 医療機関(精神科・心療内科)に相談する
まとめ


赤ちゃんの夜泣きや夜間授乳による睡眠不足、イヤイヤ・かんしゃくへの対応、何ごとも子供中心の生活で自分の時間がとれない……。ママの多くが抱える育児に対する不安や不満。それが育児ノイローゼというかたちで現れてしまうこともあります。
育児がつらいと思ったときは「もっとできるはず」と自分を追い込まず、家族や親しい友人、先輩ママに打ち明けてみて。子育てに関する悩み相談を受け付けている地域もあるので、躊躇せず相談を。大切なのは一人で抱え込まないこと。適度に息抜きをしつつ、育児に臨みましょう。
(文:山内リカ/監修:窪麻由美先生)
※画像はイメージです
[*1]日本産科婦人科学会『産婦人科診療ガイドライン-産科編2017』
[*2]「妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル~産後ケアへの切れ目のない支援に向けて~」公益社団法人 日本産婦人科医会 平成29年7月
[*3]厚生労働省「人口減少社会に関する意識調査」
[*4]厚生労働省「妊娠・出産包括支援モデル事業の取組事例集」
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます