
【医師監修】着床痛は存在しない!? 生理前のチクチク腹痛と着床確認の方法
妊娠の始まりである「着床(ちゃくしょう)」。そのとき体にはどんな変化があるのか気になる人も多いでしょう。卵子が着床するときには「着床出血」が起こる場合もありますが、その際、痛みはあるのでしょうか? 排卵から着床までの流れと、着床したころに感じるお腹の痛みについて考えられる原因をお話します。
「着床痛」ってあるの?


着床での痛みは普通感じない
着床による出血は起こることがありますが、痛みは普通ありません。
排卵準備ができた卵胞(グラーフ卵胞)の中の卵子の大きさは、直径100~140μm(=0.10~0.14mm)です[*5~7]。また、精子の長さは約0.06mmです[*8]。
精子と卵子が受精して胚盤胞に育ったとしても、その大きさはとても小さいのです。
そのため、「胚盤胞が子宮に潜り込んでいくことによる痛み」を感じることはほとんどないでしょう。
着床ごろの痛みの原因、2つの可能性
ただし、着床が起こるころに、下腹部に軽いけいれんのような違和感や痛み、頭痛、吐き気などの症状を感じる人もなかにはいると言われています。
これらは、生理前に起こる月経前症候群(PMS)の症状にも似ています。PMSの原因はよくわかっていないものの、黄体ホルモン(プロゲステロン)がかかわっていると言われています。
実は、着床が起こるころというのは、黄体ホルモンの分泌量がちょうどピークを迎え、妊娠していない場合はそこから減少していくものが、妊娠すると非妊娠時のピークの量を超えて増えていく最初の時期です。
つまり、着床の時期に起こる妊娠初期の下腹部の痛みなどは、妊娠により増加し始めた黄体ホルモンが影響している可能性も考えられます。
ほかに、排卵は着床の1週間程度前に起こるものですが、何らかの理由で排卵が約1週間おくれると、排卵痛を着床痛と勘違いする可能性もあります。
着床の時に血が出る「着床出血」はあることも
受精卵が子宮に着床して起こる出血を「着床出血」と言います。着床は子宮内膜に胚盤胞が入り込むことで起こりますが、このときに子宮内膜から少し出血するのだと言われています。
生理予定日、またはその数日前に起こるので、生理と間違われることもあります。しかし、着床出血による出血量は少なく、すぐに終わってしまうところが生理とは違います。
着床出血はすべての妊娠の8~25%に見られるとされています。中でも妊娠・出産経験のある人には着床出血が起こりやすいと言われています[*4]。
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着床出血について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎着床出血はいつ来る? 性行為後の時期の目安
排卵から着床はどう起こる?
では、排卵から着床までどんなことが起きているのか知っておきましょう。

はじまりは「排卵」から
卵子は排卵されるまで、卵巣にある卵胞(らんほう)という袋の中にいます。
脳下垂体という器官から卵胞刺激ホルモンが分泌されると、その刺激でいくつかの卵胞が成熟し始め、やがてその中の卵胞の1つだけが成熟します。この成熟卵胞から、卵子が排卵されるのが「排卵」です。
生理周期が28日の人の場合、排卵は生理開始日から数えてだいたい14日目に起こります。
排卵された卵子の寿命は約24時間[*1](なかでも受精し発育可能なのは約6~12時間と言われている)。この短い時間の間に、精子に出会わないと受精しないのです。
運がよければ「受精」
セックス(不妊治療を受けている場合は人工授精)によって、女性の体内に精子が入ります。
精子は子宮の中まで泳ぎ、卵管を通り、卵管膨大部に到着して卵子に出会います。
セックスして腟に放たれる精子は1回に4億~2億個といわれています[*2]。子宮腔、卵管と進むうち、精子の数はどんどん減っていき、卵管膨大部で卵子のまわりに集まることができるのは、300~500個しかありません[*3]。
さらにそのうちの1個の精子が、卵子と融合して、受精卵という1つの細胞になります。
このように、精子と卵子が合体、融合して新たな遺伝子をもつ細胞が発生する現象のことを「受精」と呼びます。
卵子の寿命は排卵から約24時間(なかでも受精し発育可能なのは約6~12時間)しかないことや、腟に射精された精子が卵子に出会うまでに乗り越える困難を考えると、受精は実はとても大変な過程をくぐり抜けた結果、起こるということがわかりますね。
受精卵は細胞分裂しながら「着床」する
受精後、1つの細胞だった受精卵は2個、4個、8個とどんどん細胞分裂をしていき、胚になります。それとともに卵管の中を通り、子宮に向かって移動していきます。
胚は順調であれば着床できる胚盤胞に育ちます。胚によっては胚盤胞まで育たないこともあります。そのため、受精ができても妊娠できないことは珍しくないのです。
胚盤胞は受精してから5~6日くらいで子宮の中に到着して子宮内膜にくっつき、入り込んで完全に埋没します。こうして「着床」が完了します。
排卵から1週間前後で着床となりますが、その間に体の中では色々な変化が起こっていることがわかりますね。
なお、着床=妊娠の成立と定義されています。
着床したかどうかを確認する方法
着床では通常痛みを感じないものの着床出血が起こることがあり、また着床のころに下腹部痛が起こる場合があることも説明しました。
妊娠を待ち望んでいる女性の中には、症状から着床の有無を読み取れないか、気にしている人も多いかもしれません。しかし、出血や下腹部痛などの症状から着床の有無を知るのは難しいでしょう。さきほど紹介したとおり、着床出血はむしろある人のほうが少ないとされていますし、下腹部痛についてはそれが着床の影響による下腹部痛なのか、別の原因によるものなのか症状だけから区別するのは困難です。
それでは、妊娠の可能性がある場合はどのような方法で確認すべきなのでしょうか。
ステップ1. 妊娠検査薬を使う


着床していれば、妊娠検査薬で陽性反応が出ます。ドラッグストアなどで購入できる妊娠検査薬を使って調べてみましょう。
ただし、着床したらすぐに妊娠検査薬で判定できるわけではありません。正しい結果を得るためには以下の時期に検査する必要があります。
・早期妊娠検査薬:生理開始予定日当日以降
・妊娠検査薬:生理開始予定日の1週間後以降
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妊娠検査薬の使用時期について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎妊娠検査薬は最短でいつから?
ステップ2. 産婦人科を受診する
妊娠検査薬で陽性が出たら、速やかに産婦人科を受診しましょう。
「妊娠が確定できたのだから急ぐ必要はないのでは?」と思うかもしれません。しかし、「妊娠検査薬で陽性と判定が出た=着床している」ということはわかりますが、「子宮内にきちんと着床している=異所性妊娠ではない」かどうかは妊娠検査薬ではわかりません。医療機関で超音波検査を受けることで初めて、正常な妊娠であるかどうか確認できるのです。
異所性妊娠とは受精卵が卵管や卵巣など、子宮以外の場所に着床した場合のことです。少量の性器出血や起こったりやんだりする下腹部痛で済んでいる段階もあれば、激しい下腹部痛、多量の出血により命に関わる事態を引き起こすこともあります。ですから、異所性妊娠の可能性がないか確認しておくことはとても大切です。
異所性妊娠では生理予定日の2週間後(妊娠6週に当たる)ごろに症状が出ることが多いとされています[*2]。妊娠の可能性がある場合は、生理開始予定日の1週間後(妊娠5週に当たる)までに妊娠検査薬を使ってみて、陽性が出たら産婦人科を受診して超音波検査を受けましょう。
まとめ
着床は子宮のごく小さな箇所で起こるできごとです。そのため、胚盤胞が子宮内膜に潜り込むことで着床出血が起こることは低い頻度であるものの、痛みは普通起こりません。もし、着床のころに痛みがあるとしたら、別の理由で痛みが起こっていると考えた方がいいでしょう。
下腹部の痛みを引き起こす原因には色々なものがあります。中には命に関わるような病気が潜んでいることもあります。妊娠の可能性がある人はこれから順調に赤ちゃんを育んでいくため、妊娠していない人も自分の体を守るために、適切なタイミングで受診するようにしましょう。
(文:大崎典子/監修:齊藤英和先生)
※画像はイメージです
[*1]日本生殖医学会「一般のみなさまへ/Q1妊娠はどのように成立するのですか?」
[*2]病気がみえるvol.10 産科, p17, 20, 96, メディックメディア, 2018.
[*3]ラングマン「人体発生学」, 医学書院.
[*4]NEWエッセンシャル 産科学・婦人科学 第3版, P273, 274, 327, 医歯薬出版, 2004.
[*5]Friedrich F, et al. Arch. Gynaecol 218: 269, 1975.
[*6]日本哺乳動物卵子学会:生命と誕生に向けて、生殖補助医療(ART)、胚培養の理論と実際
[*7]理化学研究所:卵母細胞はその大きさゆえに間違いやすい-卵子が染色体数異常になりやすい理由-
[*8]カラー図解「人体の正常構造と機能」VI生殖器、改訂第2版, 日本医事新報社, 2012.
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます