妊婦はいかを食べても大丈夫? お寿司や塩辛を食べたい場合の注意点【管理栄養士監修】
いか(烏賊/イカ)は食卓に上りやすい定番の魚介類ですよね。好物という人も多いのでは。ただ、もしかしたら妊娠中にいかを食べると何か良くない影響があるかも、という話を耳にした人がいるかもしれません。これは本当なのでしょうか。妊婦さんが食べるときに注意したい点と併せて解説します。
妊婦はいかを食べていい?
和・洋・中問わず、幅広い料理に使われている“いか”。妊婦さんが食べるときに何か特別な注意が必要なのでしょうか。
妊婦もいかを食べて大丈夫
妊娠中は口にするものすべてが気になってしまうかもしれませんが、加熱調理し適切に保存されたものであれば、妊婦さんがいかを食べることになんの問題もありません。
いかは妊娠中に摂りたい栄養豊富な食品
いかはたんぱく質豊富で低脂肪。いかのたんぱく質は、人体で合成することのできない必須アミノ酸を比較的多く含んでいます。
また、貝類やいか・タコといった軟体動物は「タウリン」が豊富です。タウリンはアミノ酸に似た物質ですが、コレステロールの吸収を抑えたり、心臓や肝臓の機能を高めるほか、視力の回復、高血圧予防などに役立つだけでなく、胎児や乳幼児の成長、特に脳の成長を助けると言われています。母乳中にも多く含まれており、育児用粉ミルクには合成タウリンが添加されています。
いかは、ほかにも意外とビタミンやミネラルを含んでいるので、妊娠中も食べ方には気を付けながら、積極的に摂りたい食べ物です。
なお、噛み応えがあり、干したものもポピュラーなことから「いかは消化によくない」というイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実は胃腸への負担はほかの魚介類とさほど変わらないと言われています[*1]。
いかを食べる量には注意
栄養豊富で妊娠中もお勧めできるいかですが、食べ過ぎには注意が必要です。いかの栄養成分の一つである「プリン体」を過剰摂取すると尿酸値が高くなり、痛風や尿酸結石を起こす可能性があるからです[*2]。
痛風は男性に多いと言われていますが、プリン体の多い食品を過剰に食べ続ければ女性も痛風にかかるリスクはあります。 どんな食品でも特定のものばかり食べ続けるのは体に良くありません。通常時にも増して健康に気を付けたい妊娠中はとくに、特定の食品に偏ることなく、バランスよく食べることが大切です。
妊娠中は生のいかに注意
プリン体のほかにも、いかを食べる際に注意してほしいことがあります。妊娠中はとくに「生のいかを食べない」ということです。
生のいかに潜むアニサキス感染のリスク
生のいかには、「アニサキス」という寄生虫が潜んでいる可能性があります。
アニサキスは、いか以外にも、さば、あじ、さんま、かつお、いわし、鮭などの魚介類に寄生します。寄生している生物が死亡すると時間の経過とともに内臓から筋肉へと移動するため、アニサキスが寄生した生の魚介類を食べて感染することがあります。
アニサキスはヒトの体内に入ると、胃壁や腸壁に入り込み、激しい痛みや嘔吐、腹膜炎などを引き起こします。冷凍 (-20℃で24時間以上)や加熱(70℃以上、または60℃なら1分)すると死滅しますが、獲れたてのいかを生で食べたりすると、アニサキスに感染するリスクがあります。なお、アニサキスは酢漬けや塩漬け、しょうゆ、わさびでは死滅しないことがわかっています[*3]。
アニサキスに感染すると、いまのところ有効な駆虫薬がないので、胃の中を内視鏡で検査して虫体を摘出することが多いようです。痛みに耐えながらこうした治療を受けるのは辛いものですし、ただでさえ体調の不安定な妊娠中にこのような治療を受けるのはかなりの負担になるでしょう。ですから、妊娠中はとくにいかなどの魚介類の生食は控えることをお勧めします。
妊娠中は食中毒の影響を受けやすい
アニサキス以外にも、いかをはじめとした魚介類では「腸炎ビブリオ」という細菌による食中毒にも注意が必要です。感染すると激しい腹痛や下痢といった症状が現れます[*4]。
これらの食中毒になったとしても、それが直接、おなかの赤ちゃんに影響するとは考えられていませんが、お母さんの健康維持は、赤ちゃんの健やかな成長のためにも大切です。 妊娠中は、それまで感染しなかったり、症状が現れたりしなかったような食中毒にかかる可能性もあるので、とくに気を付けたいですね。
妊娠中のいかに関するよくある疑問
そのほか、妊婦さんがいかを食べる際に気になる疑問をまとめました。
お寿司のいかは食べても大丈夫?
妊娠中はアニサキスや腸炎ビブリオによる食中毒のリスクを避けることが大切です。そのため、生の魚介を使うお寿司は避けるのが安心。いかのお寿司なら、ボイルしたゲソや加熱したものを和えたイカサラダなどのネタもありますよね。 食べるなら、中心まで加熱した状態のものを食べるようにしましょう。
なお、加熱したものであっても、購入後は食品が傷まないよう、できるだけ早く冷蔵庫に入れて、低温での保存を心掛けましょう。細菌は低温でもゆっくりと増殖します。冷蔵庫を過信せず、食品が新鮮なうちに、早めに消費することも大切です。
いかの塩辛は食べても大丈夫?
いかの塩辛は塩漬けにして冷蔵庫で保存するため、食中毒の心配は低そうな気がしますが、やはり加熱済のものより食中毒のリスクは高めかもしれません。とくに最近の塩辛は健康に配慮して塩分濃度が抑えられていますが、低塩の状態だと腸炎ビブリオなどの食中毒菌はかえって増殖しやすいともいわれています[*5]。
妊娠中、いかの塩辛が食べたくなったら、チャーハンに入れるなどしてやはり「加熱してから食べる」のがおすすめです。よく加熱すれば、腸炎ビブリオなどの食中毒にかかるのを防ぐことができます。 塩辛に限らず、妊婦さんが魚介類の加工品を食べるとき、非加熱で製造されているものについては、口にする前にできるだけ加熱調理することを心掛けてくださいね。
なお、生のいかを調理する際には、手指や調理器具の洗浄も入念に行いましょう。腸炎ビブリオは加熱(60℃で10分以上)で死滅しますが、菌の付着した魚介類を触った手でほかの食品を触るとそこから二次感染するリスクがあります。
妊娠中にいかを食べると赤ちゃんに異常が出る?
もしかしたら「妊娠中にいかを食べると、赤ちゃんに異常が出る」という話を耳にしたことのある人がいるかもしれませんが、いかを食べたからといって赤ちゃんに異常が現れることはありません。
前半で紹介したとおり、いかには消化が悪そうなイメージがあるので、そこから連想して赤ちゃんや妊娠への悪影響を気にした人がいるのかもしれませんが、妊婦さんにいかに対するアレルギーなどがなければ心配いりません。
ただし、いかばかりを偏って食べすぎると、前述のようにプリン体の過剰摂取なども心配ですし体によくないので、妊娠中の食事はとくに、さまざまな食品を偏りなくバランスよく食べるようにしましょう。
なお、いかはほとんど問題ありませんが、妊娠中に摂取する際、注意が必要な食品はいくつかあります。詳しくは以下の記事で確認してください。
▶︎妊娠中の食事の注意点!OK or NGの食べ物は?
まとめ
いかはたんぱく質豊富で低脂肪、タウリンが豊富で、妊娠中にもおすすめの食品です。ただ、特定の食品ばかり食べていると栄養の偏りが心配なので、食べすぎには注意しましょう。また、おすすめとはいっても、アニサキスや腸炎ビブリオなどの食中毒のリスクはあるので、妊娠中は生食は避けましょう。ぷりぷりとした食感と独特のうま味が感じられるいか。妊娠中も注意点に気を付けながら、心置きなく味わってくださいね。
(文:山本尚恵/監修:川口由美子 先生)
※画像はイメージです
[*1]全国いか加工業協同組合:イカの栄養と機能成分
[*2]公益財団法人痛風・尿酸財団:食品・飲料中のプリン体含有量
[*3]厚生労働省:アニサキスによる食中毒を予防しましょう
[*4]東京都福祉保健局:食品衛生の窓「腸炎ビブリオ」
[*5]三井農林 食品微生物講座 第1回 なぜ塩辛で腸炎ビブリオ食中毒が起きたのか
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます