【医師監修】産後、生理再開が早い人の特徴|母乳との関係は?
出産後、体の回復とともに生理は再開しますが、再開が早い人には何か特徴があるのでしょうか? また、母乳を与えているかどうかは、産後の生理再開時期に影響するのでしょうか? 産婦人科医に産後の生理再開について、くわしく聞きました。
生理再開が早めなのは「授乳なし」の人
生理再開が早い人の特徴と、生理再開が遅くなる場合のおもな理由は次の通りです。
授乳なしの場合は「産後3ヶ月までの再開」が多い
産後の生理再開の時期については個人差が大きいのですが、授乳していない女性では出産した後2ヶ月ほどは生理がないことが多いようです。授乳していないママでは、その7割が産後3ヶ月までに生理が再開したというデータもあるそうです[*1]。
ちなみに、出産後に生理がないことを「産褥性無月経(さんじょくせいむげっけい)」と言います。
産褥性無月経とは?
「産褥性無月経」とは、産後6~8週間までの「産褥期」から授乳期にみられる「病気や異常が原因ではない無月経」のことです。
卵巣に働きかけて女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)を作らせるものに、「黄体化ホルモン(LH)」と「卵胞刺激ホルモン(FSH)」というホルモンがあります。これらは妊娠期間中には分泌量が低下しますが、産後徐々に妊娠前の状態まで戻ります。
このLHとFSHの分泌が出産前の状態に戻るまでの期間は、生理は来ません。LHやFSHの分泌量が回復し、卵巣から女性ホルモンが分泌されてはじめて、排卵や生理は起こるものだからです。
一般的に、LHとFSHの分泌は産後8週間ほどで回復し、生理再開につながります[*2]。
なお、「妊娠中は女性ホルモンの分泌量が増える」とか「妊娠中、激増した女性ホルモンの分泌量は出産で激減する」と聞いたことがあるかもしれません。LHとFSHが少ないにもかかわらず、妊娠中も女性ホルモンは分泌されています。これは妊娠初期に女性ホルモンの作られる場所が、卵巣から胎盤に変わるためで、妊娠が進むにつれて女性ホルモンの分泌量は右肩上がりで増えていきます。
授乳ありの場合は「生理再開が遅れる」傾向あり
産後、「授乳をしている場合」は、授乳していない女性より産褥期無月経の期間は一般的に長くなります。ただ、この場合も個人差は大きく、早い人では産後数ヶ月で再開することもありますが、授乳を続けている場合は、生理再開までそれ以上~2年程度かかることも珍しくありません。
授乳に欠かせない「プロラクチン」が生理の再開を遅らせる
授乳していると、赤ちゃんが「おっぱいを吸う刺激(吸啜刺激。きゅうてつしげき)」や乳腺に母乳をつくらせるため多量に分泌される「プロラクチン(PRL)」というホルモンが、LHとFSHの分泌を抑えます。さらにプロラクチンには、LHとFSHが卵巣に働きかけ女性ホルモンを分泌させるのを邪魔する作用もあります。
このようなことから、授乳している場合は授乳していない場合に比べ、生理再開が遅くなると考えられています。
母乳育児中に生理再開する可能性も
ただし、授乳をしていてプロラクチンが分泌されている期間は、絶対に生理が再開しないということではありません。プロラクチンの分泌量は産後直後がもっとも多く、授乳期間中、徐々に減少していきます。
産後に子宮や卵巣の状態が回復してくると、母乳育児中であっても排卵の準備が始まることもあるのです。とくに、「赤ちゃんに母乳以外のものを与えている」「母乳しか与えていなくてもおしゃぶりを使っている」「夜の授乳が少ない」「授乳から授乳までの間隔が長い」「1日の授乳回数が少ない」といった場合では、母乳育児中であっても排卵や生理が来やすくなると言われています[*3]。
産後の生理再開は個人差が大きい?
生理はもともと生理周期や持続期間などが人によってさまざまですが、産後再開する時期も個人差は大きいのでしょうか。
生理はもともと個人差が大きく再開時期も人それぞれ
ここまでで解説したとおり、産後、生理再開までの期間は、「授乳している場合」は「していない場合」に比べて一般的に長めになる傾向はあるものの、実際再開する時期は人によってさまざまです。
そもそも生理は個人差が大きいものです。体の状態や年齢だけでなく、人それぞれの環境やライフスタイルからも影響を受けるからです。
産後の再開も、個々の状況により影響を受けるので、その時期は人によって異なります。産後すぐのダイエットや偏った食生活、育児のストレスや睡眠不足、疲労など、生活上のさまざまなことが体調全般の回復に影響します。その結果、ホルモン分泌や卵巣機能の回復時期が左右されることがあります。
「出産で体にかかる負担は人それぞれで異なるうえ、上のお子さんの年齢、育児の協力者の有無など、ママが置かれている環境もさまざまなので、体調回復にかかる時間も人によって違います。
産後の生理再開が一般的な時期より早くても、遅くても、基本的に1ヶ月健診で主治医から何か特別な指摘がなければ、人それぞれのタイミングで生理が再開するので、あまり心配しなくてOK。
これから1ヶ月健診というママは、健診まではなるべく体を休める生活を心がけ、不安なことは質問できるようにメモをつくっておき、健診に持参すると安心です」
つまり、産後、生理がなかなか再開しないことで過度に心配する必要はありませんが、「授乳をやめてから数ヶ月経っても生理が再開しない」場合や「1年以上、生理が再開しない」場合は、産婦人科を受診して体に何か異常がみられないか、念のため調べてもらうと良いでしょう。
生理再開ではない出血もある?
生理の再開と間違えやすい出血についても知っておきましょう。
子宮が回復する過程で見られる出血は「悪露」
産後、子宮が非妊娠時の状態に戻ることを「子宮復古(しきゅうふっこ)」と言います。
この過程で子宮から排泄されるのが「悪露(おろ)」です。これは、子宮のなかで胎盤などがはがれた箇所から出る血液や分泌物などからできています。
悪露は、一般的には「産後直後~4週間程度」までの期間出続けるもので、その色は基本的に「赤色→褐色→淡黄色→白色」に徐々に変化していきます[*2]。
「赤色」なのは血液が多く混じっているから、「褐色」は古くなった血液の色、血液がだいぶ減って白血球がメインになってくると「淡黄色」になります。白血球も減少し、子宮の内側から分泌される粘液がメインになると「白色」になります。
悪露と再開した生理、不正出血は見分けにくいことも
通常、「赤色」の悪露は産後2、3日まで、「褐色」の悪露は産後1週間ごろまでに出なくなり、淡黄色や白色になっていくことが多いと言われています[*2]。ただし、悪露の出方にも個人差があるようです。
「子宮の位置や形も個人差があり、悪露が単に出にくい人もいます。中には、一旦止まったように見えた悪露がしばらくしてからまた出始める人もいます。こうした場合はとくに、再開した生理や不正出血と見分けにくいこともあるでしょう。
また、中には、なんらかの理由で子宮の回復が妨げられている“子宮復古不全”により血液の多い悪露が長く続くこともあります。産後初めての生理は無排卵のことが多いですが、生理前に排卵することもあり、こうした場合では排卵時に出血がみられることもあります。
ただ、いずれにしても、もしも日中に夜用ナプキンを使うような量の出血があれば、かかりつけの産婦人科を受診してください。子宮の内診やホルモンの検査で原因を探し、治療を受けることができます」
産後に妊娠するためには、生理の再開が必要?
産後なるべく早く次の妊娠をしたいと考えている人もいると思います。その場合、生理が再開してはじめて妊娠可能になるのでしょうか?
生理再開前にも妊娠する可能性はある
妊娠中は生理と排卵が止まります。産後もしばらくの間は生理とともに排卵も止まっており、産後最初の生理は排卵はないまま再開することが多いのですが、中には産後も生理が来るより前に排卵している場合もあります[*2]。
こうした場合では、産後一度も生理がこないまま次の妊娠をする可能性もあります。
産後は生理周期が乱れることも珍しくない
ただ、産後生理が再開してもしばらく排卵が起こらず、「無排卵性」の生理であることは多いようです。この場合は、生理が再開していても妊娠しません。
産後、ふたたび排卵し始めるまでの期間も、生理再開までの期間と同様、個人差が大きいとされています。
「私のこれまでの診療経験では、産後、無排卵の期間が比較的長くても特別な問題があったケースはほとんどありませんでした。
赤ちゃんとの生活が落ち着いた頃、次の妊娠までの期間をなるべく短くしたいと希望するママもいて、産後の排卵の有無について相談を受けることもあります。そういった際も、妊娠以前から特別な問題がなかった人の場合は、検査をするとほとんどのママが産後しばらくすると自分の排卵・生理のリズムに戻っています。
無排卵が続いた場合も、概ね1年以内には自然に生理や排卵の周期が安定するので、それまで焦らないで体調を整えていきましょうとアドバイスしています。
けれど、もし心配ならいつでもかかりつけの産婦人科に相談してください」。
まとめ
授乳をしていないママの場合、授乳をしているママより一般的に生理の再開は早い傾向にありますが、実際の再開時期は人それぞれ。体の状態やライフスタイルなどの影響による個人差も大きいようです。産後なかなか生理が再開しない場合でも、生理がみられない以外に気になる症状がないのであれば、あまり心配する必要はありません。
ただ、「できるだけ早く次の妊娠をしたい人」や「授乳終了後しばらく経っているのに生理がない・または産後1年以上生理が再開していない人」「悪露の時期から長期間出血が続いている・または出血量が多い人」「再開した生理で周期の乱れなどについて心配なことがある人」などは、遠慮せずにかかりつけの産婦人科に相談しましょう。
(文・構成:下平貴子、監修:松峯美貴先生)
※画像はイメージです
[*1] Postpartum contraception: Counseling and methods – UpToDate
[*2] 「病気がみえるvol.10 産科」(メディックメディア),p362-367, 370
[*3]水野克己:これでナットク母乳育児, 103p, へるす出版, 2014.
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます