
【医師取材】「HTLV-1ウイルス」って何? 赤ちゃんに感染するの?影響は?
日本全国で108万人の感染者がいると推定されている「HTLV-1ウイルス」。赤ちゃんに母乳から感染するウイルスについて知っておきましょう。
母乳から感染する白血病のウイルス?


※画像はイメージです
HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)とは
ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(Human T-cell Leukemia Virus type 1:頭文字を取って「HTLV-1」)は、白血球の1つである「Tリンパ球」に感染して、成人T細胞白血病を引き起こすウイルスです。感染しても自覚症状はなく、感染者の約95%は生涯病気を発生することはありません。
国内に108万人前後の感染者
我が国におけるHTLV-1の感染者は、平成20年度の厚生労働省の調査で約108万人と推定されています。これは、日本の総人口の約1%で、B型肝炎やC型肝炎の感染者数と大きな差はなく、決して少ない人数ではありません。
HTLV-1ウイルスに感染するとどうなるの?
95%は病気にならない
「HTLV-1に感染したらどうなっちゃうの?」……そんな心配を感じる方も多いでしょう。ほとんどの場合、HTLV-1に感染しても特別な症状は出ません。ウイルスに対する抗体はできますが、ウイルスが体から排除されることはなく、ずっと「無症候性キャリア(感染しているが症状がない人)」として生きていくことになります。
そして、このキャリアの約95%は、生涯に渡ってHTLV-1に起因する病気を発症することはありません。残りの約5%の人は、個人差はありますが多くは感染から長い月日が経ってから、成人T細胞白血病などの病気を発症することが知られています。
発症する可能性のある病気
HTLV-1感染者が発症する可能性のある病気は、主に次の3つです。
■成人T細胞白血病
HLTV-1感染が原因で発症する病気のほとんどが、成人T細胞白血病です。感染者の4~5%が発症すると言われています。多くの場合、潜伏期間は40年以上。全身のリンパ節の腫れ、肝臓や脾臓の肥大、全身倦怠感などの様々な症状がみられ、免疫機能が低下するので、深刻な感染症にかかる可能性もあります。急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4タイプがあり、病気が進行する早さや症状が異なり、それによって治療の進め方も違います。
■HTLV-1関連脊髄症
HTLV-1関連脊髄症はHLTV-1キャリアの約0.3%に発生すると言われています。HTLV-1ウイルスに感染したTリンパ球が脊髄に入ってしまい、慢性的な炎症を起こすことが原因で、脊髄の神経が損傷してしまうことが起きるようです。症状としては、下肢の麻痺や排尿障害などが起きます。有効な治療法はまだ開発されていません。非常にまれな病気で患者さんは全国で約3,000人と推定されています。
■HTLV-1関連ぶどう膜炎
HTLV-1関連ぶどう膜炎は、HTLV-1感染が原因で眼の「ぶどう膜」に慢性炎症を起こす病気です。ステロイドによる治療がよく効きますが、再発するので、継続的に治療を行うことが重要です。HLTV-1キャリアの約0.1%が発症すると言われています。
感染していたら妊娠・出産はできないの?
HTLV-1に感染していても妊娠には影響がありませんし、産まれてくる赤ちゃんに先天異常などのリスクはありません。HTLV-1キャリアであっても妊娠や出産は可能です。ただし、次に述べるように、母乳を介した母子感染のリスクがあるため、感染予防のため母乳による育児が制限されることは、知っておきましょう。
HTLV-1ウイルスの予防法
感染経路は主に3つ
HTLV-1が感染する経路には、次の主に3つがあります。
・母子感染……主に母乳を介して母から子に感染します
・性行為による感染……主に男性から女性への感染です
・輸血による感染
※1986年以降、献血された血液の検査が行われているため、現在、輸血による新たな感染の報告はありません。
※消毒が不十分な器具を用いたピアスの穴開けなどで感染する可能性はあります。
赤ちゃんへの感染を防ぐ
HTLV-1感染の検査は妊婦の標準的検査項目に含まれています。母子感染は主に母乳を介して起こりますので、ママがキャリアであった場合、母乳の飲ませ方に制限がでます。いずれも感染リスクをゼロにすることはできませんが、感染予防策として挙げられるのは次の3つです。
・完全人工乳栄養……初乳を含めて母乳はまったく与えず、人工乳で育てます。
・短期母乳栄養……生後90日まで母乳を与え、その後、人工乳に切り替えます。
・凍結母乳栄養…搾乳し一度凍結した母乳を解凍して与えます。24時間以上凍結することによって母乳に含まれる感染リンパ球が破壊されます。
まったく母乳を与えない完全人工乳栄養で育てても、赤ちゃんの約3%は分娩時などに感染してしまいます。経胎盤感染、産道感染がある考えられるため、感染リスクはゼロにはなりません。また、キャリアのママが母乳を与えると、約18%の赤ちゃんに感染するというデータがありますので、感染リスクを下げるための対策はしっかりと行うことが重要です。
パートナーからの感染を防ぐ
HTLV-1は性行為でも感染すると言われています。性感染はコンドームの使用で予防できます。
まとめ
HTLV-1は感染しても95%は発病しないウイルスです。しかし5%が白血病を発症してしまうようですから、赤ちゃんへの母子感染はできるだけ避けたいですよね。妊婦さんは、かならず妊婦健診でHTLV-1抗体検査を受けてください。もしキャリアだったとしても、しっかり対策すれば赤ちゃんへの感染リスクは大きく下げることができます。まずは、正しい情報を知っておくことが大切です。
※この記事は 医療校閲・医師の再監修を経た上で、マイナビ子育て編集部が加筆・修正し掲載しました(2018.08.20)