ネットの子育て情報、結局何が正しいの? 誤情報や神話を見分けるコツ『ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』#8
3歳児神話や母性愛神話のような古い価値観に基づく情報ではなく、最新の科学的知見に基づいた育児情報を知りたい人へ。漫画コウノドリの取材協力医師であり、Twitterで最新の医療情報を発信する「ふらいと先生」こと今西洋介先生の書籍『ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社)の試し読み連載をお届けします。
子育てのまわりに神話や誤情報が多い理由
子育てのまわりには、スピリチュアルがかったものや、根拠のないまま社会に受け入れられている迷信、神話が集まりやすいものです。いかにも本当らしく聞こえる誤情報も多くて惑わされます。スピリチュアル=精神的なものはそれ自体がわるいわけではありませんが、「赤ちゃんは親を選んでくる」のように誰かを追い詰める可能性を含むものもあります。
不審に思いながらも、「この情報を無視したら、あとで子どもにわるい影響が出るかもしれない」と不安に駆られることもあるでしょう。大人のお世話がなくては生きていけない幼子を育てているのですから、当然です。とくに第一子であれば、何に対しても「これで合っている?」「これがいちばんよいやり方かな?」と心配になるものです。
どの子にも当てはまる「正解」はない
なぜ子育てのまわりには神話や誤情報が多いのでしょう。それは、子育てには絶対の正解がない場合が多いからだと 思います。加えて、エビデンス(=臨床結果や調査に基づいた科学的根拠)があるもの自体が、じつは少ないのです。子どもの病気や障がいについては、世界中で研究がなされています。しかし、とくにそうしたことがなく育っている子は研究の対象になりにくいのが実状です。そして、「確実に寝かしつける方法」「泣きやませる方法」といったことは、仮に研究が進んだとしても、どの子にも当てはまる方法が出てくるとは思えません。新生児科医・小児科医として、そしてみずから子育てを経験して思うのは、赤ちゃんはひとりひとり違うということです。
不安につけ込む悪質な誤情報
正解がないのは決してわるいことではなく、そこにこそ育児の楽しさ、面白さがあります。しかし、正解のなさを利用してつけ込んでくる悪質な誤情報やスピリチュアルがあることも、また事実です。不安や疲れは、人の判断能力を鈍らせます。「これってほんと?」と思ったときはひとりで悩まず、信頼できる専門家や身近な人に相談する、あるいは専門家がわかりやすく書いた本を読むなどしてみてください。頼れる先は多いほどいいです。この本も、そんな頼れる味方でありたいと思っています。
誤情報や神話を自分で見抜くコツ
上でお話したとおり、子育ては正解がない、エビデンスがない場合が多く、医師としてははっきり断言できないことがよくあります。どんな治療や薬でも、 100人いたら100人同じ効果が出るわけではないので、医師が「必ずこういう結果が出ます」と断言することはほぼありません。裏を返すと、「これをしたら必ずこうなります」 と言い切る相手には、注意が必要だということです。過激な言葉で気持ちを揺さぶったり、不安をあおったりするようなものも、同様です。
個人的な体験ではなく、エビデンス
医師や専門家は言い切ることも、「絶対にこうすべき」 と決めることもできませんが、エビデンスを示すことはできます。正式な手続きで発表された論文をもとに、できるだけわかりやすくお伝えするのが医師の仕事のひとつだと思います。気をつけたいのは、個人の体験や感覚だけをもとに語られる情報です。ほんの少ない例をもって「必ずこうなります」と結論づけることは、そもそも不可能なのです。医師や専門家はエビデンスを示すことで、その人自身が考え、そして決定してほしいと思っています。情報はそのための材料ですから、正しいものしか提示できません。
こうなると、医師や専門家を「冷たい」と感じる人もいるようです。事実に基づかない迷信や誤情報などを意図的に流す人のほうが、話を聞いてくれたり、気持ちに寄り添ってくれたりするように感じられることもあります。
誤情報を判断するための4つの要素
しかし、彼らには目的があります。公衆衛生学では、彼らが求めるものの頭文字を取り「MICE(マイス)」と呼びます。 Money(金銭)、Ideology(信条、政治的姿勢)、Compromise(妥協)、Ego(自我、承認欲求)です。妥協というのは、そこに自己矛盾があっても無理につじつまを合わせようとすることです。たとえば「コロナは風邪だ」と主張する人は、ワクチンを打てないことになります。誤情報や迷信を広めることで、MICEを得る人はいませんか? 高額な商品を販売して金銭を得たり、個人的な信条を貫いたり、ちやほやされたりしていないでしょうか? 冷静にチェックしてみてください。
正しい育児情報にアクセスするコツ
子育ての情報は、ちまたにあふれています。しかし、なかには「これってほんと?」と首をかしげるようなものも多くあります。子育て中の人にとって、インターネットは身近で便利ですが、そこにある情報はとくに玉石混交。それぞれの真偽を知りたい、けれど時間にも心身にも余裕がないなかで見極めるのはむずかしいのが現状でしょう。
じつは、ネット上にも正しい情報はあるのです。たとえば厚生労働省や、日本小児科学会をはじめ専門医が参加するさまざまな学会は、妊娠、出産、子育てをする人に向けての、エビデンスに基づいた情報発信、ときに注意喚起を行い、HPに掲載しています。ただ、一般の人にとって読みやすいとはいえないものも多くあるのが課題です。
「信頼できる」専門家を見つけよう
いっぽう、正確な情報を広く伝えようと熱心に取り組んでいる医師、専門家も大勢います。しかし個々の活動なので、情報が一カ所に集約されているわけではありません。さらにむずかしいのが、医師や助産師、保健師といった専門家にも、正しくない情報を広める人たちがいることです。せっかく SNSでフォローしたのに、流れてくる情報がスピリチュアルなものだったり、ひどい場合はデマともいえる誤情報だったり……しかし不思議なことに人は毎日見ていると信じるようになるので、注意したいところです。
おすすめしたいのが、「ミドルマン」をフォローすることです。ミドルマンとは、「むずかしい専門知識をわかりやすく伝えてくれる人」という意味です。
ひとりを過信せずに、バランスよく
じつをいうと本書で解説をお願いした12人の専門家は信頼できるミドルマンで、SNSほかメディアでわかりやすく発信されています。もちろん今回お願いしたみなさんのほかにも、わかりやすく情報提供している専門家はたくさんいます。ですので、ミドルマンもひとりではなく複数人おさえておきましょう。限定された情報源では、そこから流れてくることを過信しやすくなります。大事なのは、バランス。SNSで医師同士が情報交換や意見交換をすることも多いです。その交流や議論をチェックしておくと、ミドルマンを数珠つなぎで見つけることができるでしょう。
『ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』専門家一覧
東京・丸の内の森レディースクリニック院長。2児の母。産婦人科医の視点から社会問題の解決、ヘルスリテラシーの向上を目的として活動している。著書に『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK』(内外出版社)、『産婦人科医宋美玄先生の生理だいじょうぶブック』(小学館)など。@mihyonsong
森戸やすみ(小児科医)
東京・どうかん山こどもクリニックに勤務。2児の母、小児科専門医。医療者と非医療者のかけ橋となる記事や本を作りたいと考えている。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』(内外出版社)、監修に『祖父母手帳』(日本文芸社)など。@jasminjoy
前田晃平(認定NPO法人フローレンス)
株式会社リクルートホールディングスの新規事業開発室を経て、現在、同法人の代表室長。政府の「こども政策の推進に係る有識者会議」の委員を務める。妻と娘と3人暮らし。noteでは子育てや家族の日常、社会問題を発信。著書に『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』(光文社)。@coheemaeda
堀向健太(小児科医)
小児科医、日本アレルギー学会指導医。東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科助教。医学雑誌や一般向け媒体に医療記事を寄稿しながらYahoo!個人オーサーなどでも情報発信。著書に『ほむほむ先生の小児アレルギー教室』(丸善出版)、『小児のギモンとエビデンスほむほむ先生と考える臨床の「なぜ?」「どうして?」』(じほう)など。@ped_allergy
成瀬裕紀(Dr.アシュア)(小児科医)
千葉・松戸市立総合医療センター小児医療センターの小児科に勤務。小児科専門医・内分泌代謝専門医として地域医療に従事するほか、3児の父親としての経験も交え、Twitterをつうじて医療啓発や情報発信。小学校・中学校に直接出向き出張授業をする地域のプロジェクトにも参加している。@reassure2001
坂本昌彦(小児科医)
佐久総合病院佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした佐久医師会「教えてドクター」プロジェクト(@oshietedoctor)責任者を務める。著書に『マンガでわかる!子どもの病気・おうちケアはじめてBOOK』(KADOKAWA)。
おると@整形外科医(整形外科医)
日本整形外科学会専門医、認定リウマチ医、スポーツ医、運動器リハビリテーション医。TwitterやVoicy、Instagram(@ortho_fl)を中心に、面白くわかりやすい医療解説を発信。SNS総フォロワー10万人。著書に『フリーランス医師のつくりかた』(日本医事新報社)など。@Ortho_FL
内田舞(小児精神科医)
ハーバード大学医学部助教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。日本の医学部在学中に、米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医に。子どもの心の脳科学、妊娠中に新型コロナワクチンを接種した体験などを発信。@mai_uchida
駒崎弘樹(認定NPO法人フローレンス)
日本初となる、共済型・訪問型の病児保育事業を2004年に開始。赤ちゃんの虐待死や障がい児家庭の支援、子どもの貧困問題など、親子をとりまくさまざまな社会課題の解決に、事業と政策提言で取り組む。著書に『政策起業家「普通のあなた」が社会のルールを変える方法』(筑摩書房)など。@Hiroki_Komazaki
木下喬弘(医師・公衆衛生学修士)
米国で臨床研究に従事する傍ら、「みんパピ!」や、新型コロナウイルスワクチンについて情報発信する「CoV-Navi(こびナビ)」を設立。公衆衛生やワクチン接種にかかわる啓発活動に取り組む。著書に『みんなで知ろう!新型コロナワクチンとHPVワクチンの大切な話』(ワニブックス)。@mph_for_doctors
野澤祥子(教育学博士)
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター准教授。発達心理学・保育学を専攻。内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚生労働省「保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会」委員等を歴任。著書に『イラストBOOKたのしい保育子どもの「じんけん」まるわかり』(ぎょうせい)など。
斉藤章佳(精神保健福祉士・社会福祉士)
大船榎本クリニック精神保健福祉部長。ソーシャルワーカーとして、アルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・窃盗症などさまざまな依存症問題に携わる。専門は加害者臨床。著書に『「小児性愛」という病―それは、愛ではない』(ブックマン社)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)など。
(今西洋介・監修『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社)より一部抜粋/マイナビ子育て編集部)
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書籍『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』について
ネットの掲示板やSNSで見かけたあの育児情報。
ママ&パパの親や近所の方など上の世代からの育児アドバイス。
育児界隈にはいつだって、「これってほんと?」と思うような情報があふれています。
その情報は正しいのか、いったい何が本当なのか……。
根拠のない育児情報にふりまわされて悩むのはもう終わりにしましょう!
Twitterフォロワー10万人強、正確な医療知識の発信に奮闘する”ふらいと先生”こと今西洋介先生待望の書籍が登場しました。
本書は、巷で言われる育児のうわさ・神話・迷信に対して、今西洋介先生をはじめとした医療、教育、社会福祉等の専門家たちが、最新の知見に基づいて科学的に答えていく本です。
・赤ちゃんは親を選んで生まれてくる
・産めば自動的に母性が湧き上がる
・帝王切開で生まれた子は体が弱い
・お父さんの出番は3歳から
・離乳食は手づくりがいちばん …
思えば、多くのうわさ・神話・迷信は、お母さんだけに育児の負担や責任を押しつけるもの。
本書の心強いのは、そのひとつひとつを「これってほんと?」と問い直し、専門家が「はい」「いいえ」と明朗回答、その理由もくわしく説明してくれることです。
苦しむお母さんを救いたい、と社会への問題提起を続ける今西洋介先生の思いが伝わります。
最新の科学的知見に基づいて育児をしたいママ&パパはもちろん、育児情報をアップデートしたい祖父母など、赤ちゃんや子どもに関わるすべての人におすすめの1冊です。
今西洋介先生(ふらいと先生)のプロフィール
新生児科医・小児科医、小児医療ジャーナリスト、一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師。作中の今橋先生のモデルでもある。NICUで新生児医療を行う傍ら、ヘルスプロモーションの会社を起業し、公衆衛生学の社会人大学院生として母親に関する疫学研究を行う。SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会課題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。趣味はNBA観戦。
Twitter:@doctor_nw