#拝啓、復職前の自分へ 仕事大好き人間が「仕事がなくなってもいい」と吹っ切れた理由/菊地亜美さんインタビュー(前編)
コロナ禍まっただなかの2020年8月に出産、産後すぐにアップした出産レポートのYouTube動画が大反響を呼び、たちまちママ層の支持を集めた菊地亜美さん。バラエティに欠かせない存在だった出産前から、復職後、まるで別人のように仕事観がガラリと変わったといいます。
「もっと働けるかも!」と思ったら、要注意
ーー2歳のお子さんがいらっしゃいますが、お仕事のペースはいかがでしょうか。
菊地亜美(以下、菊地) 理想は平日週3日ですが、現実は週5日になったり、多くて週6日になることもあります。土日も預けられる保育園なんです。
ーー「理想は週3日」というのは、お子さんと触れ合う時間を作るためですか?
菊地 はい。育児経験のある方みんな、「子育てはあっという間に終わるよ」って言うじゃないですか。今、たった2歳なのにもうその“あっという間”を実感していて。すぐに10歳、20歳が来てしまうのかな……と思うと、今の娘とガッツリ関わりたいという気持ちがあるんです。
ーーでも実際には、週5日になってしまうんですね。
菊地 仕事は大好きなので、週3日で仕事していると「もっと働けるかも!」という気持ちになっちゃうんですよね。それで4日、5日と増えていく。でもそうすると、「私、何のために仕事しているんだろう……。子どもと家族を最優先にすることが私の幸せなのに、なんでこんなにがんばているんだっけ……?」と思ってしまって。
そうを思うようになってからは、「もっと働けるかも!」と思うところで止めるのが、自分のメンタルも体力も安定するんだなと気づきまして。ちょうどいいところがだいたい、週4日くらいなんです。
ーー腹八分目でバランスを取っているんですね。
菊地 そうですね。きっちり週4日というわけではなく、「この週は忙しかったから翌週はゆるくしよう」と週毎にバランスを取ることもあります。
あと、仕事の分量をそのくらいに抑えないと、「子育て、ちゃんとやってないじゃん!」という内なる声が湧き上がってきて、罪悪感が出てくるんですよね。
ーー罪悪感、わかります。誰かに責められるでもないんですけどね。
菊地 家のこともできていないし、子どもとの関わりが少ないし、となると「今日、ダメだな……」と思ってしまう。もともと完璧主義ではないのに、「完璧なママをやらなきゃ」と思ってしまうんですかね。“完璧なママ”なんて、やろうと思ってできるものじゃないこともわかるんですけどね。それでどんどん自分を追いつめてしまうこともあって。
でも、週4日でバランスを取ると、明るく楽しく、ストレスが溜まらずに過ごせるんです。それがこの2年間での学びですね。
出産して初めてわかった「体がボロボロになる」ということ
ーー「このままではいけない」と、自分のストレスに気付いた瞬間があったんでしょうか。
菊地 あったんですよ、この2年間で3回。そのうちの1回は、マネージャーさんに「もっと仕事できるので、仕事入れてください」と言ったときです。そして仕事をたくさん入れたとたんに家の中がグチャグチャになって、「私はそんなに要領がよくないのに、なんでこんなにがんばって仕事しているんだろう。小さい子どもを預けてまで……」という気持ちになってしまったんです。
ーーお子さまが0歳のときからコンスタントに仕事していましたか?
菊地 生後5ヶ月から一時保育を利用していました。
ーーそれでは、復職は5ヶ月のとき?
菊地 いえ、復帰は2ヶ月半です。出産前はマネージャーさんに、「初めての出産で、産後の体力やメンタルがどうなるのかわからない。産後2ヶ月で復帰するかもしれないし、1年休みたくなるかもしれないし、どうなるか保証できません」と話していましたが、実際には2ヶ月半で復帰して、頻度は週1日だったり、月3回だったりでした。そのときは、夫も仕事を調整してくれてました。
でもやっぱり、心は元気だけど体はボロボロだったと思います。だから、復帰は早ければいいというものじゃないと思いましたね。
ーー体が本調子ではないことに気付いた出来事があったのでしょうか。
菊地 産後からずっと歩き方が変だと思っていたんですが、「骨盤矯正ベルトをしていればいいや」と思い整体にも行かず、子どもが1歳半くらいのときにようやく整体に行ったんです。すると、「あなた、1ヶ月前に出産したみたいな体をしているよ」と言われまして。
ーー産後のダメージがあからさまに残っている時期ですね。
菊地 そう。どおりで、子どもとトランポリン遊びをしていたら尿漏れしちゃうんだ、って思って(笑)。そんな自分にびっくりですよ。だから今もずっと整体に通っています。産後の女性の体は心身ともにガクンとくるものなのでしょうが、私は特に体にきてしまった。そういうことも、出産してみないとわからないことでした。
「がんばらなきゃ! テレビに出なきゃ!」という焦燥感がなくなった
ーー先ほど「もっと働けるかも!」と思ったというお話を伺いましたが、視聴者がイメージする菊地さんといえば“バラエティの女王”で、毎日のようにテレビに出ていらっしゃいました。そのスタンスが心身に染み付いているからこそ、「まだキャパがあるんじゃないか」と思ってしまったのでしょうか。
菊地 世間のみなさんから見た私のイメージは、たぶん「仕事大好き! 早く復帰したい!」だと思います。私自身も出産前はそうなると思っていました。でも出産後、「子どもってこんなにかわいいんだ! 仕事したくない! 家にいたい!」という気持ちになったんです。
タレントさんによっては、生活感をまったく出さない方や、夜遅くまで収録する方、バリバリとレギュラー番組をやる方もいらっしゃるし、それぞれですよね。そんななかで私は「全力で家族に振り切るために、自分ができる範囲の仕事をまっとうしよう」というスタンスで仕事をしています。「がんばらなきゃ! テレビに出なきゃ!」という焦燥感は持たなくなりました。
ーー妊娠・出産前はどんなスタンスで仕事していましたか?
菊地 「何でもやります。何時でもいいです。寝なくていいです。休みいらないです」っていうスタンスです(笑)。
ーーNGなしですか!
菊地 NGなしです。「年末年始もGWもいらないです」「明日の夜11時からの仕事? 行きます」という感じでした。ひとりの生活だし、休日前に飲んだくれて翌日は夕方に起きても誰にも迷惑がかからなかったし、部屋が汚くても自分次第でしたし(笑)。自分のためにがっつり仕事して、生活して、それはそれですごく楽しかったんですよ。
それが、妊娠中からガラリと変わりました。もともと子どもが大好きで子育てがしたいと思い妊活し、妊娠して、徐々に気付いていったんです。「自分の子どもは“一生”なんだ。仕事のように『3ヶ月がんばろう!』という一過性ではなく、ゴールがないんだな」と。
ーー出産が現実味を増して、産後の仕事について考えるようになったんですね。
菊地 この仕事って、仕事がなくなったら終わりじゃないですか。だから今まで、仕事を断るということがなかったんですよ。いただける仕事はすべて「ありがとうございます」と受けていた。でも産後は、物理的に夜までの仕事や長丁場の仕事ができない。
となると、「断って仕事が来なくなったらどうしよう……」という不安がつきまといがちですが、仕事に対する向き合い方は、自分の線引き次第なんだなと実感したんです。
自分のラインは自分にしか決められない
ーー相手はこちらの都合で仕事を振るわけではないので、結局は自分の裁量なんですよね。
菊地 たとえば、夜までの仕事が入るとします。夫にお願いして行けることになって安心する一方で、何度もそれが続くと「夜に子どもと離れるのはイヤだな……」と思ってしまう。だから、「17時以降の仕事は、毎回相談してください」と伝えて断ることも多いんです。断る、つまり自分で線引きをしないと、ズルズルと仕事を受けていって、また自分の中でのバランスが崩れて……となってしまうとわかっているので。
ーー最初にお伺いした、「仕事を増やしすぎると不安定になってしまう」というお話ですね。
菊地 線引きがゆるすぎると、顕著に「こんなはずじゃなかったのに」となってしまうんですよ。マネージャーさんとしては私に仕事をしてほしいわけで、それに対して「大丈夫です」というのが口癖になっちゃっていたんですよね。でも全然大丈夫じゃない(笑)。
ーーわかります! 働く身として、反射的に「大丈夫です」と言ってしまうんですよね。
菊地 すぐに言っちゃいますよね(笑)。雑踏で足を踏まれたとき、痛いけど「全然大丈夫です」と言ってしまうのと同じです(笑)。でも、足を踏まれるのは痛いけどあとに響かない一方で、子育て中の仕事の「大丈夫です」は、あとに響きまくる。だから、自分のラインをしっかり持とうと思っています。
ーー「仕事を断りにくい」と悩む方は多いかと思います。
菊地 「断りたいけど、でも……」と思って「大丈夫です」と言っても、また次に仕事が来たら同じ局面で同じようにモヤモヤするはめになってしまう。毎回そんなモヤモヤを抱えるくらいなら、初回から「うちはこういうスタンスなんです。申し訳ないですけれど、またお願いします!」と角が立たずに断ったほうが健全ですよね。他人の家庭に口を出す人なんていないですし、断られた相手は「そうですよね」と受け入れくれることのほうが多いのではと思います。
毎回スタンスが違うと「あれ? 前回は大丈夫だと言っていなかったっけ?」と相手が感じてしまう可能性があるから、やっぱりラインは厳しく設定しておきたいところです。
ーー仕事を断る作業とは、当初から折り合いをつけることができましたか?
菊地 子どもが産まれてからは「もう新しい人生になったんだ」と結構吹っ切れていました。人生の歩み方や生活が一変したので、前と同じスタンスで悩んだりうらやましがったりしたって、以前の自分に戻れるわけではないですもんね。だから、「断って仕事がなくなるのなら、それでいいや」くらいに思っていました。
「今の自分」に求められていることに気づくことが大切
ーータレントさんには、出産すると”ママタレ”というステージもあるかと思います。菊地さんは現在、YouTubeやSNSでの発信で、ママ層から大きな支持を得ていますよね。
菊地 私自身はママタレになりたいとは思ったことはないんです。
コロナ禍の緊急事態宣言下に妊娠7ヶ月で、仕事もなくなるし妊婦だから外に出にくいしで、いきなり生活が変わってしまいました。当初は妊娠10ヶ月くらいまでは仕事をしようと思っていたのに。「このまま仕事がなかったらどうしよう。外にも行けないし」と思っていたところ、開設していたYouTubeチャンネルがあったので、そこで話すことにしたんです。
といっても、そのときやっていたことといえば妊婦健診くらいなので「今日は妊婦健診に行ってきました」という内容しかしゃべる内容がなくて。だから、プレママの自分を発信しようと思ってしたわけではありませんでした。
ーーYouTubeは2019年に1本目を投稿していますね。今とまったく違うテイストで、ドッキリにかかり続ける動画です(笑)。
菊地 そう! 大食いとかもやっていて、そこから急に妊婦トーク(笑)。でも妊婦トークをしてから「私も今妊娠中です」「最近出産しました」という共感の声がたくさん届くようになったんです。むしろ、「ドッキリの菊地さんは、テレビで見てるからお腹いっぱい」って(笑)。「そういうのじゃなくて、家で普通にすごしている姿のほうがいい」と言ってくれた視聴者の方たちに、私は今すごく感謝をしています。
それまでは、「前に出て声を張ってこその菊地亜美」だと思っていたし、「回転寿司で1万円分食べまくります!」みたいなYouTuberっぽい企画をやろうとしていたので(笑)、等身大の私を「いい」と言ってくださる人がいるんだと思うと、とてもうれしくなったんです。と同時に、「仕事がなくなってもいいや」と思えるようになりました。
ーー菊地さんと同時期に出産している方は、不安だらけのコロナ禍出産で心細く、リアルな情報を発信し続けていた菊地さんが頼もしい存在だったと思います。産後すぐにも動画をアップしていましたよね。
菊地 「『鼻からスイカが出る』と表現されているけど、違う。本当は、『お股を100人くらいに引き千切られる』くらいでした」とか、リアルな話だけをしました。担当の産婦人科医には「動画見たけど、痛がっていたわりには元気そうだね」と言われてしまったんですけどね(笑)。
ーーもともとはアイドルで、男性ファンがメインだったかと思います。ファン層が一気に広がりましたよね。
菊地 そうですね。本当にうれしい! 今一番声をかけていただけるのは、「アカチャンホンポ」に行ったときですしね(笑)。YouTubeで発信していて、本当によかったです。
****
後編では、ご家族との関わり方や、復帰直後の仕事で感じた不安、そして気付いたことなどを伺います。
菊地亜美さん/タレント
2008年にアイドルグループ「アイドリング!!!」に所属し、2014年に同グループを卒業して以降、タレントとしてテレビ・CM・ラジオなどで活躍。2018年2月に結婚し、2020年8月に第一子を出産。
(取材・文:有山千春 撮影:松野葉子/マイナビ子育て編集部)