#拝啓、復職前の自分へ 「朝の準備=ママ」という“常識”を乗り越えた先にあったもの/吉田明世さんインタビュー(前編)
ラジオパーソナリティとしての顔も持つ、元TBSアナウンサーの吉田明世さん。現在、ふたりの未就学児を育てながら、なんと早朝のラジオ番組を月曜日から金曜日まで担当しています。「ようやく軌道に乗った」と話す吉田さんと夫の、“今”に至るまでの奮闘とは。
4時起床、忍者のように寝室を出る毎日
ーー現在、月曜から金曜日の午前6時から9時放送のラジオ『ONE MORNING』(TOKYO FM)のパーソナリティを担当されていますが、お子さんは4歳のお姉ちゃんと2歳の弟くん……ちょっとすごいことだと思います。
吉田明世さん(以下、吉田) 番組が始まったのは昨年4月1日で、下の子が生後3ヶ月のときでした。今考えると「ありえないことをしたなあ」と思いますが、かれこれ1年7ヶ月担当して、ようやく軌道に乗ってきたなと実感しています。
ーー3ヶ月! 1日のスケジュールがとても気になります。
吉田 朝4時に起きて、4時半には家を出ています。
ーー準備時間たった30分!
吉田 起床後から出発までなるべく短くしないと、子どもたちが起きてしまうので。朝ご飯も食べずに、本当に最低限、着替え、歯磨き、洗顔、だけです。
起きたら寝室から忍者のように出て、一度も戻らないように着替えは前日の夜に洗面所に出しておくんです。水をパシャパシャできないので洗顔は拭き取りで、ボサボサの髪の毛に、ちょろちょろと出した水をつけて寝癖を直しています。
その間に別の部屋で寝ている夫が子どもの隣に移動して、朝まで一緒に寝るんです。とにかく、子どもたちを起こさないことに命をかけて出掛けています。
ーー無音への徹底ぶりを感じます。
吉田 でも、今朝も失敗しちゃったんですけどね。乾燥しているから加湿器をつけたんですが、室内の湿度が変わるのか、ドアを開けるときにギシギシと音が出てしまって。それで起きちゃいました。娘が「ママ〜」と言いながら私の方に来て、その音で息子も起きて、そうなると悲しみの1日がスタートします(笑)。
テーブル上の“黒こげパン”を見て、夫の奮闘に感謝
ーーそれは胸にきますね。お子さんたちは、泣き出してしまう?
吉田 娘は最近、私の仕事を理解してくれて、私の準備中に洗面所の椅子に座りながら見守ってくれて、家を出るときに「いってらっしゃい」と見送って鍵を締めてくれるんです。でも息子はまだ、私がいないと大泣きしてしまうことが多いんです。
ただこの前、大泣きしているところに「ママはこれからお仕事に行ってくるから、このあとまたベッドでねんねして、パパとご飯を食べて保育園に行ってね」と、ちゃんと説明したら納得できたみたいで。今朝はパパに抱っこされながら、「さむいからきをつけてね」と、たどたどしい日本語で送り出してくれました。
ーー復職時の生後3ヶ月のころは、もっと大変だったかと思います。
吉田 大変でした。当時は3時半起きで、寝ている息子を抱っこして、近所にある実家まで行ってベッドに寝かせてもらって。起きてミルクをあげなきゃいけないし、なかなか寝つかないこともあるので、母もすごく大変だったと思います。高齢な母の健康面にも不安が生じたので、4月から夫とふたりでやりくりするようになったんです。
当初は夫も大変でした。朝のラジオが終わって、次の仕事まで時間が空いたときに一時帰宅すると、家の中がぐちゃぐちゃで。机の上には丸コゲのパンがあって、慣れない朝ご飯の準備をしたんだなあ、と。それを見た日は、「がんばってくれているんだな」と感謝の気持ちで溢れましたね。
ーー旦那さまは料理が苦手だったんですね。
吉田 「どうしたらこんなに硬くなるの!?」と思うレベルの世界一硬い目玉焼きを作ったりしていたんです(笑)。でも今は、それぞれの好みに合わせて娘には温泉卵を、息子には目玉焼きを作れるくらいです。そのあと保育園の準備をして送っていくまでが、夫の担当なんです。最近夫が、「人間、何歳になっても成長できるんだね」と言っていました。
部屋の片付けと睡眠、どっちを取る?
ーー実感が込められていますね。仕事後、帰宅してからはどんなスケジュールでしょうか。
吉田 月・火曜日は『ONE MORNING』後に『THE TRAD』(同)という番組も担当していて、17時に終わったら慌てて保育園に迎えに行き、帰宅は18時半前。そこから簡単に夜ご飯を作って食べさせ、お風呂、歯磨き。子どもと一緒に21時にベッドに入ることができれば、万々歳ですね。
ーー寝かしつけながら、そのまま一緒に眠れるんですね。
吉田 いろいろやり残したこともあるんです。洗濯物畳みとか、部屋の片付けとか。でも、それには目をつぶり、とりあえず自分の睡眠時間確保に努めています。
ーーどこかに妥協点を作らないと、自分の体に支障をきたしてしまいますもんね。
吉田 そうなんですよね。よく「家の乱れは心の乱れ!」といいますが、最初のころは「私の心、どれだけ乱れているんだ」と家の汚さにイライラして夫に当たり、夫とケンカをすると子どもたちの情緒も不安定になり……という悪いサイクルしか生まなくて。それで思いきって、家事代行サービスを2週に1回頼むことにしたら、心もリセットされるようになった気がしたんです。今では週1回お願いしています。
出費もかさむし、母が専業主婦だっただけに、最初は「本来ならは自分ですべきことで、時間をかければ自分でできることに、お金をかけるのってどうなんだろう」とすごく抵抗感がありました。でも、頼んでみると心の余裕が生まれてケンカも減ったし、子どもたちと接する時間も長くなったし、お願いしてよかったと思っています。
生後2ヶ月でのオファーに、夫は「やろうよ!」
ーー一歩踏み出すまで、躊躇してしまうんですよね。
吉田 まわりにはひとりでやれている人もたくさんいて、そういう事例を見て「自分もできるんじゃないか」と思っていたんですよね。でも、それぞれ仕事量や環境など同じ尺度で測れないほど多様ですしね。“がんばることの美学”みたいなものが社会からなくなったらいいのにと思っています。
ーー専業主婦が主流だった親世代から、共働き世代の過渡期を経て、いまようやくメディアでそのライフスタイルを発信する人が増え、“夫婦で子育て”が定着しつつあるフェーズに入ってきたと感じますが、吉田さんのご家庭もチームワークを大切にしている姿勢がわかります。
吉田 私自身もラジオの仕事が始まる前までは、なんだかんだ「子育ては母親がすべきもの」という意識がありました。「効率を考えると、夫に頼む前に自分でやったほうが早い」と思い込んで、自分でやっていました。そのあと、「なんで夫はやってくれないんだろう」と悶々とすることがすごく多かったんです。自分で決めたことなのに(笑)。
ーー早朝のラジオのオファーが来たとき、旦那さまはどんな反応をしていましたか?
吉田 お話をいただいたのは息子が生後2ヶ月のころでした。夫には「こんな産後すぐに週5日の朝の生放送は、さすがに私の力だけではどうにもならないし、ムリだよね。オファーはすごくありがたいけど、またチャンスがあるといいな」と話しました。すると、「こんな機会はめったにないし、せっかくのチャンスなんだからがんばりなよ!」と背中を押してくれて。「本当にいいのかな!?」と思いつつ、やらせていただくことになりました。
「朝、母親がいないなんて」という価値観を乗り越える
ーーラジオが始まった当初は、家事分担など、どんな計画を立てていましたか?
吉田 夫の後押しのおかげだったので、当初は「翌朝のご飯の準備は私がする」などいろいろと約束したんですが、夜の寝かしつけもバタバタの中、朝の準備まで手が回らなくて。そうすると、私ができないならできないで夫にも「どうにかしよう」という工夫が生まれ、冷凍のミックスベジタブルで料理を作ってくれるようになったり、不器用ながらやってくれるようになったんです。
最初は「朝、家に母親がいないなんて……」と葛藤していましたが、夫が子どもたちに関われば関わるほどその絆が大きくなるのも感じました。母乳を直接飲ませるといったママにしかできない役割もありますが、それ以外の育児はほとんど性別に関わらずできることばかり。朝ごはんの準備も着替えも保育園の送りも、ママじゃなきゃいけないなんて、一切ないんだな、と。
ラジオの仕事によって、ある意味強制的に夫が子どもと関わるようになったことで、自分に新たな価値観が生まれたいいきっかけにもなりましたね。
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後編では、TBS時代の第一子妊娠・出産から退職までや、仕事へのカムバック、吉田家にとってマストな育児グッズなどについてお伺いします。
【information】絵本専門士の資格を持つ吉田さんが、初めての絵本を出版!
家庭でもナイスなチームプレイを見せる吉田さんと旦那さんが、仕事でもチームプレイを発揮。12月21日発売の絵本『はやくちよこれいと』(インプレスブックス)は、吉田さん夫婦がコンセプトから内容まで、一緒に考え、作り上げました。
発声練習として使用される「外郎売」の長台詞を、吉田さんが子ども向けにアレンジ。親子で一緒に楽しみながら発声や滑舌の練習ができる、ユニークな早口言葉の絵本です。
吉田明世/アナウンサー・ラジオパーソナリティ
元TBSアナウンサー。2児の母であり、絵本専門士と保育士の資格を持つ。2019年にフリーアナウンサーとなり、現在はテレビ・ラジオ・イベント・モデルなど、多彩に活躍。
(取材・文:有山千春/マイナビ子育て編集部)