妻が打ち明けた「育休を取りたくない」という本音。そのとき、夫は……?#男性育休とったらどうなった?
育児休業を経験し、子育てに奮闘しているパパの声を聞いていくインタビュー連載・「男性育休取ったらどうなった?」。今回はもともと同じ会社の同じ部署で、互いに切磋琢磨してきたママとパパにお話を聞きました。
キャリアと子育ての両方を夫婦で支えあう村井家
今回のパパ
村井脩造さん/30歳/営業/株式会社ファイントゥデイ 日本事業本部 中部支店
●ご家族
妻:村井早織さん/34歳/営業/株式会社ファイントゥデイ 日本事業本部 中部支店
長男:晴信くん/0歳8カ月
●村井家のパパ育休
2022年11月に長男が誕生。出産当日(11月末)から3月末まで、およそ4カ月の育児休業を取得。同じ部署の先輩である早織さんは現在、育休中。産後1年で復帰予定。
パパ育休中のタイムスケジュール
妻のキャリアをサポートしたい
――パパが育休を取ることになった理由を教えてください。
脩造さん 大きく分けて3つあります。1つ目に僕自身が初めてのことは何でも経験したい気持ちがあったこと。2つ目に妊娠が判明したときに、妻から「育休を取りたくない」と相談されたこと。そして3つ目に里帰りはせず、夫婦で出産を迎えると決めたことです。
――最初の2つについて、詳しくお話を聞かせてもらえますか?
脩造さん はい。まず「何でも経験したい」というところですね。そもそも子どもを授かることって、それ自体がとても奇跡的なことだし、生まれた瞬間からずっと側で成長を見守ることも、今回が最初で最後になるかもしれません。そう思うと、育児の楽しさも大変さも全部妻と一緒に経験し、共有しておきたい。むしろそうしないと、絶対後悔すると思いました。
また、仕事の面においても、今後自分が管理職になったときに、リアルな自身の体験談がないと後輩や部下に対して育休への想いを伝えることが難しいように思えたんです。
――今後のキャリアにもプラスになると判断されたのですね。キャリアといえば、当初、早織さんは自身の育休取得に後ろ向きだったということですか?
早織さん はい。10年以上仕事を頑張ってきたのですが、育休を取ることでキャリアがいったん切れてしまうことが、とても不安でした。だから、休むにしても最低限で復帰したかったし、産後の両立もできるかどうか心配で……。
脩造さん 妊娠前から夫婦で「子どもを授かったら?」という話をなんとなくはしていましたし、妻は同じ部署の先輩でその真剣な仕事ぶりも見てきたので、長く休みたくないんだろうとは感じていたのですが、まさか育休を取りたくないとまで思っているとは知らず……。その悩みを打ち明けられたときに、妻の気持ちに寄り添いたかったのはもちろん、妻にだけ育児を任せっきりにしてはいけないと強く思いました。
夫が育休を長く取ると聞いて、びっくり!
――最低限の休みで復帰したいと考えていた早織さんですが、結果的に一年育休を取る予定に。心境の変化があったのでしょうか?
早織さん はい。最初は悩みに悩んだのですが、夫と話を重ねる中で、この初めての育児経験を通して新たな視点を得ることが、自分の成長にもつながり、復帰後もプラスに働くのではないかと思ったんです。しっかり育児に取り組むためにも一年はお休みをいただこうと、気持ちが変わりましたね。
――早織さんは、脩造さんが育児休業を取得すると聞いたとき、どんなふうに思いましたか? 嬉しかったでしょうか?
早織さん 嬉しいのはもちろんですが、それよりもびっくりが大きかったですね。夫が育休に興味があることは知っていたものの、取得するにしても、1週間くらいの短い期間だろうと考えていましたから。
脩造さん 僕自身、妊娠前に男性の育休について話していたときは、純粋な好奇心というかどこか自分本位な気持ちだったと思うんですね。それが妻と話し合い、悩みを共有することで、家族のために取得しよう、それなら長めにしようという気持ちに変わっていきました。期間についても2人で話し合いましたね。
――そして11月にお子さんが誕生してから3月まで、4カ月取得したのですね。
脩造さん ええ。4月の末に新商品の発表会があったので、それに合わせて4月1日からの復帰となりました。うちの子は、比較的夜ぐっすり寝てくれることもあり、そのころには夜中の授乳もなくなってだいぶ落ち着いたので、ちょうどいい頃合いだったと思います。
とてもポジティブだった周囲の反応
――脩造さんの育休について、周りの反応はいかがでしたか?
脩造さん 同僚からは「自分も取りやすくなって、ありがたいです!」、「育休をとって申し訳ないなんて言う必要ないですよ。子育てを楽しんでください!」といった温かい言葉をかけてもらいました。とても嬉しかったです。
上司たちには、早い段階から育休中の体制や引き継ぎ方法について相談に乗ってもらったこともあり、不安な気持ちなく、育休に入ることができました。
ある上司からは「ファイントゥデイという新しい会社(2021年に資生堂のパーソナルケア事業が分離・独立)が今、拡大して人を増やしている中で、村井さんみたいな生え抜き社員が取得してくれると、転職で来た方やこれから入社する方も取りやすくなると思うから、今回のことを積極的に発信してほしい」と背中を押してもらいました。
――それは素晴らしいですね。
脩造さん はい。周囲からの快いサポートが受けられたのは、会社が子育てに向き合う姿勢を制度や社内コミュニケーションによって示してくれているからだと思います。例えば「男女ともに、子どもが3歳になるまで育児休業が可能」、「男性社員は、パートナーの出産後、5日間の有給休暇の取得が可能」といった社内規定があり、子育てしやすい制度を整えてくれています。
また、僕の今回の経験も、社内SNSにインタビュー記事や他部署のパパとの対談動画として掲載されるなど、事例をシェアすることで次に続きやすくなるような空気感が作られていますね。
産後すぐに赤ちゃんが緊急搬送!
――育休中の印象的なエピソードはありますか?
脩造さん 育休中というか、まさに休業初っ端の出来事なのですが、生まれたばかりの息子の呼吸が弱く、すぐに大きな病院に搬送。経過観察のため、入院することになってしまいました。
――それは大変でしたね。早織さんはそのとき、どうされていたんですか?
早織さん 私は元の産院にそのまま入院となり、息子とは離れ離れでした。その分、夫が息子のいる病院に足を運んでくれて、医師から受けた報告を私に伝えてくれていました。
脩造さん 息子は体にいろいろな管をつけられたような状態でしたし、コロナ禍だったので、面会もほんの一瞬でしたが……。ただ、大事には至らず、管も3日間くらいでとることができました。
――退院後は何事もなかったのでしょうか?
早織さん はい。大丈夫でした。ただ、やっぱり寝ているときに息をしているかどうかが気になって不安でしたね。寝不足になりました。むしろ夜泣きをしてミルクをゴクゴク飲んでくれる姿を見て安心できたくらい。静かなときほど心配していました。
――早織さん自身は産後、体調のほうはいかがでしたか?
早織さん 見た目は元気だったと思うのですが、「骨盤がガクガクする」といった症状が出たり、筋力が落ちてしまったせいか、ちょっとした運動でもしんどかったりしましたね。
脩造さん その様子を間近で見て、話には聞いていたものの、やはり産後の体は万全な状態ではないのだなと感じました。僕の育休中からですが、今も妻には骨盤矯正に通ってもらい、その時間は子どもとお留守番をしています。反対に僕がランニングをしている間は、妻が子どもを見てくれています。
育休を取得したことで気づいたことがいっぱい
――脩造さんが育休を取って夫婦の関係性に変化はありましたか?
脩造さん もともと会話は多い方だったと思いますが、より一層コミュニケーションが密になりました。妊娠中も育休中も今も、よく夫婦で話し合いをしています。
早織さん 「ありがとう」を言う回数が増えました。育児の大変さも仕事の大変さも両方理解できるので、お互い思いやりをもって接することができていますね。また、お互いにより健康でいることへの意識が高くなりました。
――先ほど話していた骨盤矯正やランニングがそこにつながるのですね。ほかにも育休を取って良かったことはありますか?
脩造さん 新しい発見がたくさんありました。たとえば平日に外出すると、百貨店のベビールームで男性がオムツ換えやミルクをあげていたり、病院にお子さんを連れてきている光景を見る機会が何度もあり、育休中かな?という男性もだんだん増えてきているように感じました。
また、ベビーカーを使用していることもあり、日常の不便さをいくつも発見しましたし、逆に素晴らしい赤ちゃん向けのサービスや設備や環境があることもわかりました。自分自身が今までより視野が広がり、以前は見過ごしていたことに気づけるようになったと思います。
冒頭の妻の話に戻りますが、女性のキャリアやアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)についてもかなり考えさせられました。この経験や学びを忘れずに一緒に仕事するメンバーの想いに寄り添えたらいいですね。
――早織さんは脩造さんが育休を取得して、どのようなことが良かったですか?
早織さん 私にとっても育児は初めてのことばかりで、すべてが手探り状態の中でしたが、夫がそばにいるので、すぐに何でも相談できたり、体調がすぐれないときには夫に任せられる安心感は精神的な支えになりました。
そうしてしんどいことがあっても、一人で抱え込んだり、自分自身を責めたりせずにいられたおかげで、育児をとても楽しむことができています。
もともと復帰後の生活が不安でしたが、夫が育休を取って、夫婦両方が当事者で育児という新しいジャンルにチャレンジできたことで、その不安がなくなりました。私だけが取得した場合だと、今の状況はなかったと思うので、夫が育休を取ってくれて本当に良かったと思います。
(取材・文:江原めぐみ、イラスト:ぺぷり)