
伝統芸能『歌舞伎』のお仕事体験! 「ホンモノ」に触れて学べる松竹×JR東日本のイベントが子どもの好奇心を引き出しまくり!
日本の伝統芸能『歌舞伎』の舞台になくてはならない小道具。子どもたちが本物の歌舞伎の小道具に触れて、作って、プロの小道具職人さんから直接学べるイベント「ことむすび・歌舞伎を支えるおしごと体験」が松竹とJR東日本により共催されました。歌舞伎を観たこともない小学生を夢中にさせた盛りだくさんの内容をレポートします。
子どもは楽しく、親は安心!普段は見られない歌舞伎の裏側へ!
子どもといっしょに日本の伝統芸能に触れてみたい気持ちはあるけど、なかなか敷居が高そう。そんな風に感じている親は多いでしょう。小学6年生と4年生の子を持つ筆者もそんなひとりでしたが、見つけました。歌舞伎の製作・興行を支える松竹が開催する、小学生向けの歌舞伎小道具体験イベントを。本物の小道具に触れたり、子ども自身の手で作ってみたりできるというのです。
この「歌舞伎を支えるおしごと体験」は、JR東日本が「学校の勉強が分かる! 面白くなる!」をテーマに掲げ、さまざまな企業とタッグを組んで提供している「おしごと体験学習 ことむすび」のラインナップのひとつ。
というわけで、4月20日に開催された「歌舞伎を支えるおしごと体験」に参加した、小学3年生のはるちゃん親子に密着。歌舞伎座からほど近い、東銀座にある東劇ビルに行ってきました!

小道具さんは舞台のプロ! ぐいぐい引き込まれていく子どもたち

まずは、通常は一般開放していないという入口から、広々とした板の間へと案内されました。座布団が並べられて、和の雰囲気です。そういえば、事前の案内には「裸足は厳禁、靴下を履いてくること」とありました。
「ここは普段、歌舞伎をはじめ松竹の演劇の稽古で使用している稽古場なんです。だから生活感があってすみません(笑)」
と、松竹の広報さんが教えてくれます。そんな普段はなかなか入れない場所に、20組40人以上の親子がズラリ。
おしごと体験学習 ことむすび
「歌舞伎を支えるおしごと体験」プログラム
1.歌舞伎の歴史を学ぶレクチャー
2.実際の小道具に「触れて」「乗って」体験してみよう!
3.蝶々と手習草紙をつくってみよう!
※2.と3.の順番は振り分けられた組により変動あり。
今日のイベントでは、観客としては当然触ることのできない歌舞伎の舞台で使用される小道具を、歌舞伎の舞台を裏で支える「藤浪小道具」のスタッフさんとともに見て、触れ、作り、学んでいきます。
まずは親子そろって「歌舞伎の歴史を学ぶレクチャー」。モニターで歌舞伎の基礎知識を学ぶアニメーションを鑑賞します。

慶長8年、「出雲阿国」という女性芸人による「かぶき踊り」が歌舞伎の始まりでした。その後、女性による「女歌舞伎」が生まれ大人気となりますが、風紀を乱すとの理由で幕府から禁止令が出され、ならばと前髪のある頭髪が特徴の少年たちによる「若衆歌舞伎」が流行りますが、こちらも同様の理由で禁止されてしまいます。
そこで、前髪を剃り落とした月代(さかやき)がある“野郎頭”の成人男性による「野郎歌舞伎」が誕生。女性役も"女方”として成人男性が演じる、いまの歌舞伎の原型が誕生しました。
「ところで、人前で演技をしたり、歌ったり踊った事がある人はいる? じゃあ想像してみてください。学芸会で浦島太郎をやることになりました。どんな役が必要でしょう?」
しっかりと歌舞伎のなりたちの基礎を学んだところで、藤浪小道具の近藤さんが、舞台と子どもたちの親和性を高めるため、お遊戯会や学芸会を例にあげ、子どもたちに問いかけてくれます。

子どもたちは口々に「浦島太郎」「亀」「乙姫」「亀をいじめる人」「ほかの海の生き物たち」など自由に答えていきます。近藤さんは、さらに「役者さんだけではできあがりません」と、子どもの視野を広げていきます。
「海の場面なら、背景に海の絵があってほしいです。龍宮城のセットもほしいですね。そういうお家やセットを作る、大道具さんが必要ですね」
「お姫様の衣裳が必要です。衣裳さんや、化粧をしてくれるヘアメイクさんも必要です」
「明るい舞台を作るために、照明さんが必要だし、波の音を流す音響さんも必要です」
俳優も裏方も含めすべてが「ひとつのお芝居に関わっている」との解説の後、いよいよ小道具が登場。近藤さんが風呂敷から取り出した玉手箱に、子どもたちが「本物!?」とわくわくしながら意識を向けたところで、実際の体験プログラムへと移っていきます。
馬や駕籠に乗り、効果音を鳴らす![小道具体験]
「実際の小道具に「触れて」「乗って」体験してみよう!」ということで、稽古場から、実際に歌舞伎の舞台で使用されている小道具がズラリと並んだスペースへと移動します。ここでは、自由に小道具を見て、触れて、写真を撮ることができます。
人が乗れるサイズの大きな駕籠(かご)や馬も、小道具さんのお仕事なんですね。


効果音を出す小道具も並んでいます。
近藤さんが波ざるを実演しながら、「この音はなんでしょう?」とクイズを出すと、「波の音!」と元気のよい正解が返ってきます。ほかにも、雨の音を出す雨うちわを揺らしたり、刻みが深い赤貝を擦り合わせてカエルの鳴き声を出したりすると、子どもたちは興味津々。


「こうやってアナログな方法で出す効果音は、いまも実際に使われています」(近藤さん)といい、デジタルにはない風合いが歌舞伎の舞台音響の魅力なんだなあとしみじみ。
ここでは、複数人の子どもたちで「場所:海沿い 天気:雨」などシーンを再現する体験も用意されていました。

小道具さんの仕事が、いかに多岐にわたり舞台を彩っているのか、子どもたちもきっと身をもって実感できたことでしょう。
舞台を舞う美しい生き物を手作り[ちょうちょづくり]
次は、「蝶々をつくってみよう!」。最初にいた稽古場に戻って、折り紙を使って蝶々をつくる小道具ワークショップです。
親子で並んで、木でできた低い机の前に座ります。この机、普段は松竹が主催する「こども歌舞伎スクール寺子屋」(※後述)でも使用しているそう。「使ったことがない子どもにとっては新鮮だと思います。年季が入っていますが、リアルな寺子屋気分を味わっていただきたく、用意しました」と松竹の広報さんが教えてくれます。

作るのは「差金(さしがね)のちょうちょ」ですが、蝶は歌舞伎の心情表現において重要な役割を担うそうで、『鏡獅子』の舞台で可憐に舞うといいます。

藤浪小道具のスタッフさんが器用に差金を操ると、先端の蝶がひらひらと舞います。子どもたちは「思ったよりリアル」「すごい!」と声をあげ、手を伸ばして「本物みたい!」と大興奮です。
次は、自分の手で蝶をつくります。

作業の合間に、スタッフさんが「蝶の飛び方にも演技があり、台本に『優雅に飛んでいる』『手に止まる』など書かれている。その飛び方や止まるときの間がとても大切」と教えてくれ、大人も飽きさせません。
10分、15分ほどで差金にちょうちょをつけて完成!


自分だけの、世界にたったひとつの「差金のちょうちょ」は、もちろん持ち帰って家でも楽しめます。お土産を手に、次のプログラムへと移動するはるちゃんの足取りは、小躍りのようなステップを踏んでいました。
江戸版"自由帳”を手作り[わとじ本づくり]
舞台で使う小道具をセッティングしたり舞台裏に用意するほか、いちから製作するのも小道具さんの仕事だそう。この会場にいる3人の藤浪小道具のスタッフさんは、普段は木工の仕事を担当したり、平面に絵を描いたり立体を塗るなどの工芸を担当したりと、ひとりひとり専門分野があるそう。
そしてここでは、「手習草紙(てならいぞうし)」=江戸時代の子どもたちが勉強のために使用した紙の束を、和綴じで作ります!

ほとんどの子どもたちにとって、和綴じ本をつくるのは初めて。なかには、ひとつの穴に3回も紐を通すという複雑な作業が含まれますが、スタッフさんの説明をしっかり聞き、みんな黙々と作業をしています。「こうだよね」「できた!」など、あちこちから自分の力で完成に近づいていく声が聞こえてきます。

紐を通し終えると表紙の文字を筆ペンで書き、色とりどりの千代紙を選び、自由にデコレーション。見渡すと、誰一人として同じデコレーションにはならず、それぞれ個性があふれた手習草紙が完成!

出来上がった手習草紙はお土産としてお持ち帰りできますが、「自分だけの本」の使用を家まで待てず、イラストを描く子どもや、難しい漢字を書いてみる子どももいて、さっそく楽しんでいる様子。自宅では漢字練習をするもよし、イラスト帳にするもよし、とにかく使い方は自由自在です。

これでプログラムは終了! あっという間に2時間が経っていました。
帰宅時間ですが、「もっといたい」と駄々をこねる子どもの姿も。なんとここで知り合った同学年の子と友達になったようでした。歌舞伎をまったく知らなかったはるちゃんも、「もうちょっと馬や傘のところに行っていい?」と体験をおかわりしたのでした。

この日、子どもたちが学んだことは、舞台は、姿が見えなくてもさまざまなプロフェッショナルたちの手によって作られているということ。近藤さんは「俳優として演劇をやりたいひともいるだろうけど、絵を書くのが好きだから小道具さんをやりたいとか、いろいろな参加の仕方がある」と話します。
子どもの好奇心と学習意欲、そして未来の可能性を広げてくれた「おしごと体験学習 ことむすび〈歌舞伎を支えるおしごと体験〉」。伝統芸能「歌舞伎」の世界に構えることなく触れる機会にもなってくれ、親も子も大満足な2時間でした。
※「こども歌舞伎スクール寺子屋」とは、歌舞伎の製作・興行を手掛ける松竹が、日本舞踊や歌舞伎子役演技を通し、和の礼儀作法や日本文化を楽しく学んでもらうことを目的に、開校しているスクールです。稽古着である浴衣の着付けや和装での立ち居振る舞い、日本の伝統的な礼儀作法に加え、日本舞踊や歌舞伎演技の基礎を学ぶことができるんだそうです。例年、夏ごろに夏期体験ワークショップを開催、秋頃から新規生徒の募集を行っているようですよ!
公式HP:https://www.shochiku.co.jp/terakoya/
(取材・文:有山千春)
マイナビ子育てでは、「子どもにとっておきの体験をさせたい!」と考えるパパとママのための会員限定・無料のコミュニティサイト「とっておき体験部!」(以下、「体験部」)を運営しています。今回、取材協力してくれた親子も、体験部活動の一環としての「歌舞伎を支えるお仕事体験」参加でした。体験部について、くわしくは▶こちら