受験本番で子どもが力を出し切れるために。親がすべき、たった3つのメンタルサポート―― 親子のノリノリ試行錯誤で、子供は伸びる
自ら伸びる力を育てる学習塾「伸学会」代表の菊池洋匡先生がおくる連載記事。「親子で楽しく試行錯誤することで、子供が伸びる」ということを、中学受験を目指す保護者さんにお伝えします。
こんにちは。中学受験専門塾伸学会代表の菊池です。
いよいよ年も明け、受験本番まであとわずかとなりましたね。
ご家庭の中にも、緊張感が漂っているのではないでしょうか。
受験本番が近づくと、
「何か声をかけた方がいいのでは」
「このままで大丈夫だろうか」
と、親のほうが落ち着かなくなりがちです。
そうなると怖いのが、その焦りや不安が子どもに伝わり、子どもの力を奪ってしまうこと。
せっかく身につけた力を本番で出し切れなかったら、悔いが残りますよね。
かく言う私にも、これまでの指導経験の中で、生徒が力を出し切れずに終わってしまい、私自身も悔しい思いをした経験があります。
特にショックが大きかったのが、この仕事をまだ始めたばかりの頃のことです。
とても成績が伸びた子たちがいて、11月・12月の模試で第一志望の学校に対して「合格有望(60~70%)」という判定を取っていました。
それなのに、結果としては不合格が続いてしまったのです。
本番で力を出し切れるようにコンディションを整えることの重要さを痛感しました。
それ以来、本番で力を出し切れるようにするためのメンタルのトレーニングを学んで指導の中に組み込んだり、親御さんにも協力してもらって家庭の中の環境づくりもしてもらったりするようになりました。
今回の記事では、そうした本番で力を出し切るためのコツの中から、家庭にしていただきたいお子さんへの関わり方のコツを3つに絞ってお伝えします。
受験本番で子どもが力を出せるかどうかを左右するのは、実は「特別な励まし」や「アドバイス」ではありません。
一番大切なのは、子どもが「今この瞬間の1問」に集中できているかどうかです。
ですから、この記事ではお子さんが集中できるようになるためのサポートについて解説します。
ぜひ最後までご覧になって、実践してくださいね。
1. 不安を消そうとせず受け止める
受験が近づくにつれて、子どもが不安や緊張を口にする場面は増えていきます。
これは決して悪いことではありません。
不安は、「大事なことに取り組んでいる」というサインでもあります。
大事なのは、不安を感じないことではなく、不安を上手に扱うことです。
不安は抑え込もうとすると、集中はかえって乱れる
不安に限らず、人間の感情というのは、抑え込もうとすると逆に爆発してしまう傾向があります。
「笑ってはいけない」という状況だと、余計におかしくなって笑ってしまうというのはわかりやすい例ですね。
不安も同様に、抑え込もうとすることで、余計に不安が大きくなってしまい、悪循環を起こしがちです。
そして、頭の中が「不安を抑えようとすること」でいっぱいになると、目の前の問題を解くために使う集中力がどんどん削られてしまいます。
ではどうしたら良いかというと、不安な気持ちをありのまま受け入れることです。
不安を“受け入れる家庭”では、集中が保たれやすい
日常的に、
・不安を口にしても否定されない
・すぐに解決やアドバイスが飛んでこない
・「そう感じるのは自然だよ」と受け止めてもらえる
こうした関わりがある家庭では、子どもは不安を「出してもいいもの」として扱えるようになります。
すると不安は長く居座らず、自然に通り過ぎていきます。
不安は外に出した方が、頭の中に残りにくいのです。
そこで親がやるべきサポートは、不安を止めることではなく、長引かせない形で受け止めることです。
「そりゃ緊張するよね」
「それだけ真剣ってことだね」
そうした不安を「認める」声かけで十分です。
それだけで、子どもの頭の中では、
「この気持ちがあっても大丈夫」
「今、やるべきことに戻っていい」
という切り替えが起こります。
結果として、問題文を読み、条件を整理し、考えるためのワーキングメモリが、不安処理から解放されます。
これは本番当日だけでなく、模試・過去問・日々の学習すべてにおいて同様です。
親が過程で意識したい、不安への基本姿勢
本番に向けた過程で、親が一貫して持っておきたい姿勢はシンプルです。
・不安を否定しない
・不安を解決しようとしない
・不安の話を長引かせない
「受け止めて、次に進む」。この繰り返しが、子どもにとって集中に戻る練習になります。
そして本番当日も、もし不安がお子さんをおそってきても、それまでの過程の中で
「不安は出してもいい」
「出しても集中に戻れる」
という経験を積んできた子は、うまく不安を手放せるので、大きく崩れません。
ぜひこれからの残りの日々で、不安を受けとめるサポートをしてあげてください。
2. 「今やること」に集中できる状態を守る
受験が近づくと、親の意識はどうしても「結果」に向かいます。
・合格できるか
・どの学校に進むのか
・もしダメだったらどうするか
これは親として自然なことです。
結果次第で2日目以降の出願校が変わることも多いですから、結果を意識しないわけにはいきません。
ただし、結果に対して子どもの意識が向いてしまうと、集中力という点では大きな落とし穴になります。
なぜなら、結果のことが気になると、「今やっている問題」に対して使うはずの脳の処理能力が奪われてしまうからです。
集中力には「使える量の上限」がある
テスト中、子どもが使っているのは、
・問題文を頭に入れておく
・条件を整理する
・考え続ける
といった脳の力です。
これは心理学でワーキングメモリと呼ばれる、非常に限られた脳の作業スペースです。
このスペースが、
・合否の心配
・期待やプレッシャー
・親の反応の想像
で埋まってしまうと、本来使うべき「考える力」が足りなくなります。
その結果、
・知っているはずの解き方が出てこない
・条件を落とす
・ケアレスミスが増える
といったことが起こります。
集中を妨げるのは不合格への不安だけではありません。
「合格したら○○中だね」
「受かったら嬉しいね」
「もうすぐゴールだね」
こうした前向きな言葉も、時に子どもの意識を「未来の結果」に向けさせてしまい、今この瞬間への集中を削ってしまう場合があります。
本番に向けて勉強するうえで、そして本番で問題を解くうえで大事なことは、意識を「今」からそらさずに、目の前の問題に集中することです。
では、どうすれば目の前の問題に集中するのを後押しできるでしょうか。
答えはシンプルです。「ここまでの過程への信頼」です。
「ここまでよく積み重ねてきたね」
「やることはもう変わらないね」
「いつも通りやればいいよ」
こうした言葉は、子どもに結果を背負わせず、意識を「今やること」に戻す言葉です。
「きっと合格できるよ」といった励ましの言葉よりも、今の行動に集中していいという安心感を与えましょう。
これは受験当日でも同じです。
普段から「結果を気にせず、やることに集中しよう」というメッセージを受け取ってきた子は、本番でも自然と「今、この1問に集中しよう」という状態に入りやすくなります。
そうした心の状態でいられれば、培ってきた能力をしっかりと発揮することができますよ。
3. 親が落ち着くことで、子どもの集中を守る
受験本番が近づくと、親はどうしても緊張します。
それは自然なことではあるのですが、やはり子どもへの影響は避けられません。
親が不安だと、子どもの脳は「緊急事態モード」に入りやすくなり、「考えるモード」が働かなくなるのです。
もう少し詳しく説明すると、人の脳は「安全だ」と感じているときにだけ、落ち着いて考えることができます。
逆に、周囲が不安そうだったり、空気が張りつめていると、脳は「今は警戒したほうがいい状況だ」と判断します。
すると、
・視野が狭くなる
・注意が散りやすくなる
・細かい条件を保持できなくなる
といった状態になります。
つまり、脳が「考えてるヒマはない! とにかく逃げろ! あるいは敵と戦え!」というモードになってしまうということなのです。
そうなったら、落ち着いて問題を解くための集中力が出にくいというのはお分かりいただけますよね。
これは精神論ではなく、生理的な脳の働きの問題なのです。
適度な緊張はパフォーマンスを高めますが、過度な緊張ははっきりとパフォーマンスを下げます。
そして、親の不安は、子どもの緊張を「ちょうどいいレベル」から「強すぎるレベル」に押し上げる力として働いてしまうのです。
では、どうすれば子どもに緊張を与えずに、「考えるモード」にさせてあげられるのでしょうか。
ここで多くの方がすぐに思いつく方法が、「大丈夫だよ」といった声かけではないでしょうか。
しかし、実はこうした表面的な言葉には、あまり効果がありません。
なぜなら、子どもは親の言葉よりも、表情・声のトーン・動きから先に情報を受け取るからです。
つまり、たとえ口では「大丈夫だよ」と言っていたとしても、
・表情が硬い
・声が上ずっている
・動きが落ち着かない
といったサインがあると、子どもは無意識に「本当は大丈夫じゃないんだ」と感じ取ってしまいます。
だから、親御さん自身が本当の意味で「大丈夫」と確信し、気持ちが落ち着いた状態にすることが必要です。
では、どうすれば親御さん自身が安心できるのでしょうか。
その方法はすでに1・2で書いた通りです。
親御さん自身も、「大丈夫」と自分に言い聞かせて不安を抑えようとしたりするのではなく、「不安になるのは当然」「それだけ受験が、そして我が子が大切なんだ」とありのまま受け入れましょう。
その方が不安な気持ちが早く通り過ぎます。
そして、塾の送り迎え、お弁当作り、過去問や教材の整理の手伝い、出願の準備など、自分のやるべきことに意識を集中しましょう。
また、これまでのお子さんとご自身の積み重ねてきた頑張りを思い返して確認しましょう。
きっと親子で大きな成長があったはずです。
その頑張りと、それによって得られた成長には、受験の合否以上の大きな価値があります。
受験の合否によって進学先が変わっても、子どもの人生が成功するかどうかや幸せになるかどうかにはほとんど影響が無いということが、教育経済学の研究で示唆されています。
ですが、受験に向けて何年も努力を積み重ねたことは、確実にお子さんの人生の成功を後押しします。
そのことをあらためて確認し、お子さんを信頼することが、受験への不安を手放すうえでもっとも効果的なことだと思います。
受験前にぜひ一度、時間を取って、どんな成長があったかを話し合ってみてください。
■終わりに|親ができる最高のサポートは「信じて任せること」
受験本番が近づくほど、親はどうしても
「何かしてあげなければ」
「この関わりで合っているのだろうか」
と不安になります。
それは、子どもを大切に思っているからこその自然な気持ちです。
ただ、ここまで見てきたように、受験本番で子どもが力を出し切れるかどうかは、特別な声かけや励ましで決まるものではありません。
・不安を消そうとせず、静かに受け止めること
・「今やること」に集中できる状態を守ること
・親が落ち着いていること
この3つは、どれも子どもの力を引き出すために「何かを足す」関わりではなく、「余計なものを足さない」関わりです。
言い換えれば、親がすべきことの多くは「教えること」でも「導くこと」でもなく、信じて任せることなのだと思います。
本番は、親が代わってあげることも、一緒に戦ってあげることもできない時間です。
だからこそ、子どもが自分の力で考え、「今この瞬間の一問」に集中できるよう、親はその環境を静かに守りましょう。
それが、受験本番における最もレベルの高いサポートです。
これまで積み重ねてきた時間は、決して無駄にはなりません。
どうか、お子さんのこれまでの頑張りを信じ、そして、ご自身のサポートも信じて、本番を迎えましょう。
(菊池洋匡)
