【医師監修】産後の貧血 | 原因と鉄分不足への対処法
産後は育児で忙しく、疲れがたまりやすい時期です。でももしあまりにも疲れやすかったり、頭痛や息切れも続いていたら、貧血になっている可能性もあります。産後の貧血の原因と対処法をお伝えします。
どうして貧血になるの?
赤血球のヘモグロビンが少ないと貧血に
貧血は、血液の中の赤血球に含まれている「ヘモグロビン」が少なくなっている状態のことをいいます。
赤血球は血の赤色のもとになっている細胞で、全身に酸素を運ぶ役割をしています。
赤血球の中のヘモグロビンは、鉄を含む「ヘム」とタンパク質が結びついてできていて、酸素と結合することができます。体内の鉄分が減るとヘモグロビンは減ってしまい、赤血球の酸素を運ぶ力は落ちてしまいます。
そのため、貧血になると全身に十分な量の酸素を運べなくなります。
このように鉄分は体にとってとても大切なので、不足して酸素不足にならないように、肝臓や骨髄、筋肉には鉄分がストックされていますが、それでも色々な理由から鉄分が足りなくなって貧血を起こすことがあります。
鉄が不足して貧血になることを「鉄欠乏性貧血」といいます。
貧血の症状とは
貧血になって全身の酸素が不足するようになると、次のような症状が起こります。ただし、軽い貧血や徐々に進行した貧血では、こうした症状がとくにみられない場合もあります。
・顔色が悪くなる
・まぶたの裏が白くなる
・口の赤みが減る
・疲れやすくなる
・頭痛
・息切れ
・少しの運動でつらくなる
・筋力が低下する
なお、長時間立っていて立ちくらみやめまいがするのは、「脳の一時的な血流不足」によるものです。これは俗に「脳貧血」とも呼ばれますが、貧血とはまた別ものです。
たしかに、貧血がひどくなると立ちくらみやめまいは起こりやすくなりますが、貧血でなくても急に立ち上がったりすると、自律神経の反応が遅れて立ちくらみやめまいが起こることもあるということです
産後の貧血の原因って?
さて、貧血がどのような状態かはわかりましたが、産後には貧血になりやすいものなのでしょうか。
出産でたくさん出血した場合
「出産時に出血がとても多かった」場合は、産後に貧血になりやすくなります。
正常分娩の出血量は500ml未満と定義されていて、それを超える出血量は分娩時異常出血となります。
ただし実際のお産では、経腟分娩した場合は800ml(多胎児の場合は1600ml)、帝王切開をした場合は1500ml(多胎児の場合は2300ml)程度、出血する人が多いと言われています[*1]。
そのため、500ml以上出血するケースは珍しくありません。
産後に意識して鉄分の多い食事を心がけていれば、1ヶ月ほどでほとんどの貧血は改善しますが、それでも貧血が続き、鉄剤による治療が必要になることもあります。
出産前から貧血だった場合
日本では、大人の女性の多くが鉄不足になっていると言われていて、女性の約17%に貧血の疑いがあるという報告もあります[*2]。
若い女性の場合、ダイエットや偏食による貧血も多いと言われています。
妊娠前から貧血になりやすい生活習慣を続けていて貧血気味だと、妊娠中から産後には貧血がより悪化しやすくなります。
授乳だけで貧血になることはありません
母乳育児をしていると、貧血につながらないか心配なママもいるかもしれません。
でも、母乳をあげているだけで貧血になることはありません。
母乳100ml当たり鉄分は0.04mgしか含まれていません[*3]。
そのため、もともと健康な女性であれば母乳をあげただけで貧血になるかもと心配する必要はないのです。
もちろん、もともと貧血気味だったり貧血の人は、母乳をあげることで体内の鉄分がより不足しやすくなります。
妊娠中だけでなく授乳期も、食生活に気をつけて、鉄分などのミネラルはもちろんビタミンなどの栄養素もしっかり摂るようにしたいですね。
産後の貧血の対処法って?
さて、産後に貧血気味になったら、または貧血を予防するためには、鉄分はどのくらい・どのように摂取すれば良いのでしょうか。
産後に摂りたい鉄分の量
日本では、産後のママは、妊娠前よりも1日に2.5mg多めに鉄分を取るように推奨されています。もともと18~49歳の女性は、生理がある場合は一日に10.5mg、生理がない場合は6.5mg程度の鉄分を毎日摂ることが推奨されています。
ですから、産後生理があるなら13mg、生理がまだないなら9mgの鉄分を毎日摂取するようにしましょう。
鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」があります。体内に吸収されやすいのは「ヘム鉄」の方で、吸収率は50%くらいと言われています。ただし、日本人は非ヘム鉄の摂取が多く、非ヘム鉄では吸収率が15%ぐらいしかありません[*4]。
このあと紹介する「貧血に良いメニュー」を参考に、「ヘム鉄」の多い食材も、意識して毎日の食事に取り入れるのがおすすめです。
なお、お茶、コーヒーや紅茶などに含まれるタンニンは鉄の吸収を悪くします。食事や鉄剤服用の前後30分程度は飲むのを避けるようにしてください。
ビタミンや葉酸も意識して摂ろう
貧血を改善するには鉄分を摂るとともに、ヘモグロビンの材料になる「タンパク質」、鉄の吸収が良くなる「ビタミンC」も一緒に摂るようにするのが大切です。
さらに、赤血球を体内で作るには「葉酸」や「ビタミンB12」も欠かせません。
鉄もタンパク質もたくさん含まれている食品としては、牛肉やレバー、カツオなどの赤身魚、あさりなどがあげられます。
また、ビタミンCが多いのは緑黄色野菜や果物などです。
葉酸はレバーやほうれん草、アスパラガス、ブロッコリー、納豆などに多く含まれています。
ビタミンB12は、レバーや魚介類やチーズにたくさん入っています。
こうした食材が含まれているメニューについては、次で紹介します。
貧血に良いメニューって?
貧血改善のためには、動物性食品と植物性食品をバランスよく組み合わせることがポイントです。
具体的なメニューとしては、「レバニラ炒め」「あさりとほうれん草のパスタ」「カツオのたたき(大葉、玉ねぎ、長ねぎなどの薬味と一緒に)」「ひじきと大豆の煮物」などがいいですね。
その他にも、次の鉄分を多く含む食品を使った料理があれば、ぜひ食事に取り入れていきましょう。
鉄分を多く含む食品
<ヘム鉄の多い食品>
豚レバー(生50g) | 6.5mg |
---|---|
鶏レバー(生50g) | 4.5mg |
牛レバー(生50g) | 2.0mg |
あさり水煮缶詰(むき身20g) | 5.9mg |
かつお・きはだまぐろ(生50g) | 1.0mg |
<非ヘム鉄の多い食品>
調整豆乳(200g) | 2.4mg |
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糸引き納豆(50g) | 1.7mg |
小松菜(ゆで75g) | 1.6mg |
ひじき(鉄釜製、ゆで50g) | 1.4mg |
以下より抜粋 [*5]「貧血の予防には、まずは普段の食生活を見直そう」e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-008.html
改善しない場合は受診して
サプリメントで鉄分を大量に摂取すると、体にダメージを与える過剰症を起こすこともあります。
食事などを工夫しても貧血がなかなか治らない場合は、自己判断でサプリメントを摂取する前に、かかりつけ医の診断を受けましょう。
まとめ
産後の貧血の原因は、出産の時に大量出血をしたり、産前から貧血が続いていることです。貧血になると疲れやすくなったり、頭痛や息切れ、少しの運動がつらくなるなどの症状が起きます。元気に赤ちゃんとの毎日を送っていくためにも、産後の貧血は早めに改善したいですね。
基本的には「食事から鉄分を摂取すること」が大切です。吸収が良いヘム鉄を含む食材を中心に、鉄分豊富な食品を意識して摂りたいですね。鉄分の吸収を促しヘモグロビンを作るためには、鉄分と一緒にビタミンやたんぱく質を摂ることも大切です。
食事だけで貧血が改善されない場合は、かかりつけの医療機関で鉄剤を処方してもらいましょう。毎日の栄養分を見直して、赤ちゃんと一緒の日々を快適に過ごしてくださいね。
(文:大崎典子/監修:窪 麻由美先生)
※画像はイメージです
[*1]「産科危機的出血への対応ガイドライン2016」日本産科婦人科学会日本産婦人科医会日本周産期・新生児医学会日本麻酔科学会日本輸血・細胞治療学会
[*2]「国民健康・栄養調査」(厚生労働省,2013)
[*3]「授乳・離乳の支援」堤ちはる 「小児保健研究」77(6):598-603 2018
[*4]「日本人の食事摂取基準(2020年版)」「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書
[*5]「貧血の予防には、まずは普段の食生活を見直そう」e-ヘルスネット
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます