【医師監修】背中スイッチはいつまで続く? 効果的な5つの対策
眠った赤ちゃんをベビーベッドや布団に寝かせようとすると、突然起きて泣き出す「背中スイッチ」。寝かしつけをやり直すことになり、ママやパパを悩ませます。背中スイッチはいつまで続くのか、その原因や対策とともに紹介します。
ママやパパを悩ませる「背中スイッチ」
「背中スイッチ」という言葉は、育児サイトや雑誌、ブログ、SNSでよく使われているので目にしたことがある人も多いでしょう。
せっかく寝そうだったのに……
赤ちゃんを寝かしつけ、やっと寝ついたところでベビーベッドや布団に置こうとすると、突然起きて泣いてしまう。まるで背中に覚醒&泣きのスイッチがあって、それを押してしまったよう。
やっと寝てくれたと思ったのに、また寝かしつけをやり直すことになってしまいます。これは赤ちゃんの「あるある」のひとつで、多くのママやパパが経験しています。
そうはいっても、何度も寝起きを繰り返す時期の赤ちゃんをお世話し、疲れきっている中で起こる「背中スイッチ」。これだけはもう勘弁して!と思うのも当然です。
背中スイッチの原因は?
お世話する側からするととても悩ましい「背中スイッチ」ですが、まずはその原因を知っておきましょう。
浅い眠りの状態で刺激されたから
背中スイッチが発動するのは、まだ深い眠りに入っていなかったのに寝かせてしまったから。抱っこや授乳で寝かしつけをして、赤ちゃんが目を閉じ、うなだれ始めても、まぶたがぴくぴく動いていたり、手足がビクッと屈曲したり、呼吸が不規則であれば、眠っているように見えてもまだ浅い眠りです。そのままベッドに寝かせようとすると、身をかがめて体を離した瞬間に目を覚まして泣く可能性が高いです。
赤ちゃんの睡眠のメカニズムは、大人とは異なります。人の睡眠には浅い眠りの「レム睡眠」と深い眠りの「ノンレム睡眠」があります。大人の場合は夜間の睡眠のうち約20%がレム睡眠ですが、ノンレム睡眠から眠りに入ります[*1]。
新生児期の睡眠時間は大人よりずっと長く一日に16~20時間も眠っていますが、その約半分がレム睡眠と言われています。さらに、このころは大人と違ってレム睡眠から眠りに入ります[*2]。赤ちゃんがちょっとした物音など少しの刺激で目覚めてしまうのは、レム睡眠が多いためと考えられます。
このレム睡眠のうちにベッドに寝かされると、急に大人の体から離されて落ちてしまうと感じたり、赤ちゃんの体勢が変わる(丸まっていた体が伸びる)ことなどが刺激となり、起きて泣いてしまうのです。
背中スイッチはいつまで続く?
原因はわかったけれど……いつまで背中スイッチにつき合っていく必要があるのでしょうか。
生後半年ごろが目安!?
上記で新生児の睡眠は約50%がレム睡眠と紹介しましたが、その後、月齢があがるにつれて熟睡する時間は増えていきます。睡眠時間の中でレム睡眠が占める割合は、6ヶ月で約30%、3歳ごろには約20%となり、大人の比率と近くなります[*3]。
また、新生児期はレム睡眠で入眠しますが、生後6週~3ヶ月ごろからはノンレム睡眠で入眠するようになります[*2]。
一般に、背中スイッチは新生児から見られ、生後5~6ヶ月以降に減ってくるといわれることが多いようです。先ほど説明したように、このころにはレム睡眠の割合が減っていることが関係しているかもしれません。もちろん個人差はあり、1歳ごろまで続く子もいれば、背中スイッチがなかったという子もいます。
背中スイッチの防ぎ方
では背中スイッチを防ぐにはどうすればいいのか、その対策を紹介します。
1.赤ちゃんが熟睡してから布団に置く
まず、いつも通りに赤ちゃんを抱っこして寝かしつけましょう。赤ちゃんが眠ったな、と思ったら、そこからさらに20分ほど抱っこを続けます[*4]。
すると、目を閉じていながらしかめっ面をすることや手足がぴくぴく動くことがなくなり、呼吸は規則的になります。筋肉はリラックスしてこぶしが広がり、手足はだらりとぶら下がっていきます。こうなってようやく、深い眠りに入ったといえます。ここまでしっかり眠れば、ベビーベッドに寝かせることもできるでしょう。
そうはいっても、寝たと思ってからさらに20分は長いですね。赤ちゃんが眠り始めたと思ったら、ソファなどゆったり座れる場所に座って、休憩しながら抱っこを続けましょう。熟睡の兆候として、眼球の動きもヒントになります。レム睡眠は、眠っているときに眼球が急速に動くことから、英語の「Rapid Eye Movement(急速眼球運動)」の頭文字をとって名付けられました。
目を閉じていても、眼球が素早く動いている間はまだレム睡眠の状態です。ノンレム睡眠では急速眼球運動は起こりません。
2.寝かせるときはゆっくり体を離す
布団に赤ちゃんの背中が触れると発動するように見えるので「背中スイッチ」と呼ばれますが、最近の研究によると、赤ちゃんを泣かせているのは背中というよりもお腹側の感覚の変化のようです[*5]。
どうも、背中が布団についていないうちに大人の体から赤ちゃんのお腹が離れると、赤ちゃんは落ちてしまうと感じて急に心拍数が上がり、目を覚ますようなのです。
そこで、眠った赤ちゃんを布団に寝かせるときは、まず大人の体と赤ちゃんのお腹を密着させたまま、そっと背中を置きましょう。そして赤ちゃんが起きないことを確認してから、ゆっくりと体を離してください。寝かす際に、「布団に降ろす」「抱っこしていた人と赤ちゃんのお腹が離れる」「赤ちゃんの姿勢が変わる」という刺激を同時に与えないようにすることが大切なようです。
3.寝かしつけ用のクッションで抱いてそのまま寝かせる
背中スイッチを押さないために、抱っこ紐で寝かしつけたら、装着したまま置いて寝かせたくなるかもしれません。ですが抱っこ紐には部品がいろいろあり、不意の窒息が心配です。そこで、寝かしつけ時に赤ちゃんをくるんで抱っこでき、そのまま寝かせることを想定した専用のクッションを活用するのも一案です。
「抱っこ布団」「ねんねクッション」「トッポンチーノ」などの名で、さまざまな商品が販売されています。成長が進むと寝返りができるようになったり、体がはみ出てしまって使えなくなりますが、背中スイッチが多い低月齢のうちは心強いアイテムです。
おくるみも寝かしつけに使えますが、寝返りを始めるころになるとSIDS(乳幼児突然死症候群)のリスクが高まるので、生後2ヶ月くらいでやめましょう。
4.布団に寝かせた状態で寝かしつける
最初から布団で寝かしつければ、背中スイッチを押すことはありません。抱っこで寝かしつけるより時間がかかったり、赤ちゃんによってはうまくいかなかったりするかもしれませんが、試してみる価値はあります。大人も一緒に布団に横になり、背中をトントンしたり、子守歌を歌ったり、「ねんねしようね」などと話しかけながら寝かしつけてみましょう。
ただし、この方法を試すときは硬めの布団に寝かせ、転落の危険があるベッドでは寝かしつけないようにしましょう。また、まわりに赤ちゃんが払いのけられない布団や毛布などを置かないようにし、また布団や毛布が赤ちゃんの顔にかぶらないよう気をつけてください。
5.生後4~6ヶ月なら「ネントレ」を試してみる方法も
睡眠のリズムが整い始める生後4~6ヶ月であれば、ネントレ(ねんねトレーニング)を試してみても。ネントレの方法など詳しくは下記を参考にしてください。
うまくいかなくても焦らないで
背中スイッチをはじめ、なかなか寝つかない、あまり寝ない、夜泣きをするなど、たいていの睡眠の悩みは成長とともに改善していくものです。今、寝かしつけがうまくいかなくても悲観しないで。
でもひとりで毎日なかなか寝ない赤ちゃんと向き合っていたら、睡眠不足でボロボロになってしまいます。パートナーはもちろん、祖父母などの家族を頼ったり、地域の子育て支援サービスも積極的に利用して体を休めながら、その子に合った方法を見つけていきましょう。
まとめ
赤ちゃんは大人とちがって浅い眠りが多く、少しの刺激で起きてしまうため、背中スイッチは仕方がないことです。できるだけ時間をかけてしっかり寝かしつけ、深い眠りに入ってから布団に置くとうまく行くかもしれません。赤ちゃんが眠り始めたら大人は座って休みながら抱っこする、便利アイテムを活用するなど工夫をしてみましょう。また、寝かしつけが大変なときは、くれぐれもひとりで抱え込まず、パートナーをはじめ家族や地域の力にできるだけ頼ることも忘れないでくださいね。
(文:佐藤華奈子/監修:梁尚弘 先生)
※画像はイメージです
[*1]厚生労働省「e—ヘルスネット レム睡眠(れむすいみん)」
[*2]厚生労働省「未就学児の睡眠指針」
[*3]岡田(有竹)清夏:乳幼児の睡眠と発達, Japanese Psychological Review, 2017, Vol. 60, No. 3, 216–229
[*4]Ask Dr. Sears「8 Facts Every Parent Should Know About Infant Sleep」
[*5]Infant Calming Responses during Maternal Carrying in Humans and Mice, Curr Biol . 2013 May 6;23(9):739-45. doi: 10.1016/j.cub.2013.03.041. Epub 2013 Apr 18.
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます