医師が教える「小学生が痩せる方法」が知りたい! そのダイエット方法は逆効果!?
小学生でも痩せたいと思ったり、太り過ぎて痩せる必要があるケースがあります。小学生が健康的に痩せるにはどうすればいいのでしょうか? 済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科の乾あやの先生にお話をうかがいました。
この体重、痩せた方がいい? チェック方法
痩せた方がいいかどうかを知るためには、今の太り具合がわかる肥満度を計算するのがおすすめです。
① まずは肥満度を調べよう
「肥満度」とは、身長別の標準体重に対して実際の体重がどのくらいオーバーしているか、パーセントで表したものです。
肥満度の式は次の通りです。
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肥満度(%)={実測体重(kg)-身長別標準体重(kg)}÷身長別標準体重(kg)×100
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肥満度が20%以上の場合は肥満傾向、-20%以下の場合は痩身傾向です[*1]。どちらの場合も、かかりつけの小児科で相談しておきましょう。
なお、この計算には「身長別標準体重」の計算が必要です。
身長別標準体重は次の式で計算されます。
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身長別標準体重=a×実測身長(cm)-b
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aとbは次の数値です [*2] 。
身長別標準体重や肥満度を計算するのには少々手間がかかるため、インターネットで肥満度を自動計算できるページを探して、そこから計算するのもおすすめです。その場合も性別、年齢、実際の体重と身長のデータが必要です。
BMIがおすすめではない理由
肥満度合いを表す数値としてはBMIもよく知られていますが、BMIよりも肥満度の方がおすすめなのはなぜでしょうか?
BMIは身長と体重の数値が大きく影響し過ぎてしまいます。また、日本には肥満症の人が少ないので、標準体重も通常の体型の数値に近いんです。
そのため、日本人にはBMIよりも肥満度の方が合っていると言えます。
(乾先生)
② ウエストも目安にしよう
肥満度のような数値以外にも肥満かどうかの目安になるものはあるのでしょうか?
ウエストのサイズも目安になります。ウエストを測ってみて、75cm以上、または身長の半分以上の場合は、内臓脂肪型肥満になっているかもしれません。
(乾先生)
「内臓脂肪型肥満」とは、お腹の腸のまわりに脂肪がたまりすぎた状態のことです。
子どもの頃に内臓脂肪型肥満になると、40代、50代くらいで早くも心臓病や脳梗塞など、命に関わる生活習慣病になりやすくなります。その結果、若いうちに命を落としてしまうこともあるのです。
肥満度の数値に関わらず、ウエストが75cm以上、または身長の半分以上になっている場合は内臓脂肪型肥満ではないか、かかりつけの小児科などに相談しておきましょう。
どうして痩せたくなるの?
肥満度が高くなくウエストも細いけれども「痩せたい」と感じる子どもは珍しくありません。
なぜ太っていないのに痩せたくなるのか、その仕組みを教えてもらいました。
肥満ではないのに痩せたい理由
乾先生によれば、きれいな女優やタレントのスリムな体型に近づきたいと小学生のうちから考えたり、太っていないのに痩せたいと思ったりする子どもが少なくないそうです。特に女の子は、スリムになろうとする意識が高い傾向があるのだとか。
でも、すでに大人になっている女優さんと成長途中の子どもでは、体が違います。今すぐ女優さんのような体になろうとしてダイエットをしても、体によくありません。
(乾先生)
特に、高学年くらいから始まる第二次性徴の時期は体が大きく成長するため、さまざまな栄養が必要になる時期です。この時期に極端なダイエットをして体脂肪を減らすと、体の反応から過食しやすくなり、再び体重が増えるリバウンドが起こりやすくなるのです。
健康な大人の体になるためには、小学生のうちに極端なダイエットをするのはやめて、後であげる健康的なダイエット法に取り組むのがおすすめです。
女優さんのようなスリムな体になりたいなら、今すぐではなく、女優さんと年齢の近い10年後、20年後にそうなれるように目ざすようにしたいですね。
(乾先生)
人の目が気になっていませんか?
女優やタレントを目ざしていなくても、自分が太っていると思い込んだり、痩せた方がいいと考えたりする小学生もいます。
年齢が上がるにつれて、人からの目が気になるようになるからです。人の目を気にしていると、まわりの子が細く思えて、相対的に『私は太っている』と思い込んでしまうことがあります。
(乾先生)
また、テレビやインターネット、雑誌などを通じて「痩せている方がいい」という価値観を刷り込まれることもあります。でも、肥満度やウエストの数値を確認して、問題ないのであれば太っているとは言えません。
学校のクラスの子たちの目が気になるとしても、クラスは世界のすべてではありません。たとえば自分が興味をもつものがあれば、それを通してクラス以外の人と繫がることができます。
今は人の目が気になっている子も、小さなコミュニティにとらわれずに外の世界に触れて、楽に過ごせるようになってほしいと思っています。
(乾先生)
子どもの痩せ過ぎはデメリットがいっぱい
子どもが極端なダイエットをして痩せ過ぎると、どんなことが起こるのでしょうか?
成長していく体に必要な栄養が取れなくなって、身長や体重が成長曲線から極端に離れてしまう『成長障害』を起こすことがあります。
また、ホルモンバランスが崩れて生理や骨に影響することもあります。その他にも、心臓や肝臓が悪くなる子もいるんです。さらに筋肉が落ちたり体の防御反応で太りやすい体になることもあります。
(乾先生)
極端なダイエットは精神的にも影響するのでしょうか?
食べ物を食べられなくなる拒食症や、吐いてしまうほどたくさん食べてしまう過食症になることがあります。栄養不足から鬱などの精神疾患が起こりやすくなったり、精神的に不安定になったりすることも見られます。
(乾先生)
極端なダイエットで一時的に痩せたとしても、体調を崩して心身の病気になり、さらに太りやすくなってしまうのでは、メリットはほとんどなくデメリットばかりと言えます。
これから成長発達していく体を大事にするためにも、極端なダイエットは避けておきたいですね。
太っていないのに痩せたい子がいる一方で、実際に痩せた方がいいほど太っている子もいます。
肥満傾向の子について、次からは考えてみましょう。
肥満度20%以上は要注意
肥満度を計算して20%以上となった場合は、肥満傾向です。肥満傾向とわかったらどうすればいいのでしょうか?
肥満と肥満症の違い
そもそも肥満傾向と病的な肥満=肥満症とは同じものではない、と乾先生は言います。
肥満症は病気ですが、肥満は太っていることで病気ではありません。
(乾先生)
なお、大人の肥満症と子どもの肥満症とは医学的な定義が異なります。
大人の肥満症(成人肥満症)は「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態でBMIが25以上」です。
一方、子どもの肥満症(小児肥満症)は「肥満度が20%以上で、体脂肪率が優位に増加した状態」と定義されています[*3]。
つまり、肥満度から肥満傾向とわかっても、体脂肪率が増え過ぎていなければ小児肥満症ではないのです。
肥満症と診断されたら、病院で指導を受けながら減量して、健康な体を取り戻すことが必要です。ちなみに、肥満傾向でもさらに肥満が進んで、肥満症になることもあります。
(乾先生)
だからこそ、肥満度20%以上になったら、肥満症にならないように毎日の生活を見直して太りにくい生活に切り替えることが大切です。
肥満症になるリスク
肥満症になると、どんな問題が起こるのでしょうか?
体の問題としては、高血圧、糖代謝異常、脂質代謝異常、睡眠時無呼吸症候群、非アルコール性脂肪性肝疾患、高尿酸血症、動脈硬化、月経異常などを起こしやすくなります。
(乾先生)
肥満症はさらに心にも影響します。
人によっては自尊心が下がったり、不登校になったりすることもあります。さらにいじめが起こるケースもあります。
(乾先生)
痩せ過ぎと同じように、太り過ぎも心と体にさまざまな影響を及ぼします。
次のやり方で、太り過ぎでも痩せ過ぎでもない、元気で健康な体をめざしたいですね。
痩せたい小学生におすすめの方法! 3つのポイント
痩せたい小学生はもちろん、健康な体づくりをしたい人みんなにおすすめの方法を教えていただきました。
食事と生活リズム、運動の3つを見直すのが一番いい方法です。
(乾先生)
① バランスの取れた食事
食事は栄養を取りこんで、健康な体を作ります。カロリーを減らそうとして栄養バランスを崩してしまうと、体を壊して病気になったり、かえって太りやすくなってしまいます。
栄養バランスの取れた食事を、多過ぎず少な過ぎない量食べるのが大切です。
どうすれば栄養バランスが取れるのか知りたい時には、農林水産省のウェブページ『子どもの食育』がわかりやすくておすすめです!
特に「チャレンジしよう!ワークシート」をやってみると、どんなものをいくつ食べればいいかがわかりますよ。
(乾先生)
② 規則正しい生活
規則正しい生活を送るのも、健康的な体を作るのに欠かせません。
(乾先生)
朝は早起きして夜は夜更かしせず、毎日なるべく同じ時間に寝起きし、1日3食バランスの取れた食事を取り、毎日入浴するなど、規則正しい生活を送ることも、健康な体を作るために必要です。
毎日ばらばらの時間に食事を取ったり寝たりしていると、ホルモンバランスが崩れたり生理的な活動が乱れやすくなるからです。
③ 適度な運動
運動というとスポーツのイメージがありますが、そうではないと先生は言います。
スポーツにこだわらないで、毎日体を動かしましょう。
朝少し早起きして20分ほど歩いたり、運動ゲームをしたり、YouTubeのトレーニング動画をやってみるのでもいいです。
(乾先生)
なお1週間に1度まとめてスポーツ教室に行ったり、走ったりするのではなく、毎日体を動かすのが大切です。
でも毎日となると、気が乗らなかったり時間が取れないこともあります。
エレベーターを使わないことにして、1階分だけ階段をあがるのでもいいんですよ。続けると筋力がつきますし、太り過ぎていたら少し体重が落ちるだけでも動きやすくなります。
(乾先生)
家族と一緒に取り組んでも◎
小学生が毎日1人だけで、栄養バランスの取れた食事を取り、規則正しい生活を送り、適度な運動をするのは難しいものです。
1人でやるよりも家族で一緒に取り組んだほうが続けやすいです。朝一緒に時間を決めて歩いたり、一緒に食事や生活時間を見直したりすると、成功しやすくなります。
(乾先生)
親子で楽しくコミュニケーションしながら、ほどよくスリムで健康的な体を手に入れてみてはいかがでしょうか。
やらないで! 小学生にNGな3つのダイエット
ネットや雑誌ではいろいろなダイエット方法が載っています。
痩せたいと思っているとつい試したくなりますが、中には健康に悪いダイエット方法もあります。特にやめた方がいいダイエットはどんなものでしょうか?
1. 過剰なプロテインやサプリメントのダイエット
最近、肝機能の悪化した子どもの患者さんがスポーツドクターの紹介でよく来院するようになりました。
プロテインやサプリメントを使い過ぎると、腎臓や肝臓に影響することがあります。プロテインやサプリメントはできるだけ使わずに、普通の食材から栄養を取るのがおすすめです。
(乾先生)
2. 食べないダイエット
極端に食べるものを減らすダイエットも、成長発達に悪い影響を与えます。
(乾先生)
食べないダイエットではなく、普通の量を食べて運動するようにしたいですね。
3. 短期集中〇〇ダイエット
◯◯ダイエットと名前がついて宣伝されているものは、簡単にできそうに見えても健康的に痩せられないものが少なくありません。短期間で簡単に、太り過ぎず痩せ過ぎていない、健康的な体を作るのはまず無理だと思っておきましょう。
まとめ
痩せたいと思ったら、まずは肥満度とウエストのサイズを測って、痩せた方がいい体なのかどうか確認しましょう。太っていないのに痩せなくてはいけない、痩せたいと思ってしまう場合は、人の目が気になりすぎていることもあります。
小学生の体はこれから成長発達していくので、痩せ過ぎても太り過ぎても心身の健康に影響してしまいます。健康的に成長発達を遂げて将来素敵な大人の体を手に入れられるように、食事と生活リズム、運動を見直しましょう。小学生のうちは1人で取り組むのは難しいので、親子で一緒に楽しみながら取り組めたらいいですね。
(文:大崎典子/監修:乾あやの先生)
※画像はイメージです
[*1]「日本人小児の体格の評価」日本小児内分泌学会
[*2]「児童生徒の健康診断マニュアル(改訂版)」日本学校保健会
[*3]「第65回日本小児保健協会学術集会 シンポジウム6『小児肥満のこれから 小児肥満症と診療ガイドラインについて』」原光彦 小児保健研究 第77巻 第6号、2018
[*4]「子どもの食育」農林水産省
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます