
【医師監修】妊娠高血圧症候群を予防!妊婦が血圧を下げる方法とは
妊娠中に血圧が高めになったら、「妊娠高血圧症候群」にならないか心配になるかもしれませんね。ここでは血圧が高めの妊婦さんが血圧を下げるためにできることを中心にまとめました。血圧が心配なとき、出産まで健やかに過ごすための参考にしてください。
- 妊娠高血圧症候群は予防できる?
- 妊娠高血圧症候群とは
- 原因不明だが血圧を上げない努力を
- 妊娠高血圧症候群は早期発見が大切
- 血圧高めの妊婦さんが血圧を下げるためにできること
- 1日の食塩は「6.5g未満」を目標に
- 塩分の排出を促すカリウムが豊富な食べ物を摂る
- カルシウム不足にも要注意
- 調味料を選ぶ際のポイント
- 血圧が気になる人にうれしい飲み物
- 高血圧予防のためには「太り過ぎ」にも注意
- 妊婦に必要な摂取エネルギー
- 体重増加を防ぐ適度な運動
- 疲労をため込まないように必ず休息を
- 妊娠高血圧症候群になったらどうやって治療するの?
- 妊娠高血圧症候群と診断されたら安静に
- 食事の注意は医師の指示に従う
- 医師の判断で降圧薬による治療をすることも
- 自覚症状はあまりないがこんな症状が出たら医師に相談を
- まとめ
妊娠高血圧症候群は予防できる?


妊婦健診で血圧が高めと言われたら、「妊娠高血圧症候群」が心配になるかもしれません。妊娠高血圧症候群は予防できるものなのでしょうか。
妊娠高血圧症候群とは
「妊娠高血圧症候群」は妊娠中に高血圧を発症すること。20週以降に初めて高血圧だけを発症した場合は「妊娠高血圧症」、高血圧に加え蛋白尿などもある場合は「妊娠高血圧腎症」に分けられます。なお、妊娠前から20週までに高血圧があった場合は「高血圧合併妊娠」といいます[*1]。
これらの総称が妊娠高血圧症候群です。それぞれ引き起こす可能性のあるリスクが違っているために、このように分類されています。
なお、「高血圧」とは、診察室で測定した血圧が、
「収縮期血圧が140mmHg以上になるか、拡張期血圧が90mmHg以上」
になることです。中でも「収縮期血圧が160mmHg以上、または拡張期血圧が110mmHg以上」の場合は、すぐに降圧治療を受けることになります[*2, 3]。
妊娠高血圧症候群が引き起こすリスク
妊娠高血圧症候群になると、胎盤の発育が悪くなって赤ちゃんがうまく育たなくなったり、ママにけいれん発作を起こしたりすることがあります。また、腎臓や心臓、肝臓、肺などママの臓器に深刻な異常を起こすこともあります。
妊娠高血圧症候群がどんな病気なのか、くわしくは下記の記事を参照してください。
「高血圧」と聞くとありふれた病気であまり心配ないもののように感じるかもしれませんが、妊娠高血圧症候群は心配な病気なのです。
原因不明だが血圧を上げない努力を

妊娠高血圧症候群の原因はまだはっきりわかっていません。最近の研究では、胎盤ができるときに問題が起こり、その影響で全身の血管に異常が起こることが原因ではないかと言われることもありますが、くわしいことはまだよくわからないとされています。
妊娠高血圧症候群は、原因不明なため、予防法も明らかになっていません。ただ、「もともと糖尿病、高血圧、腎臓病の持病がある」「肥満」「40歳以上の妊婦」「家族に高血圧の人がいる」「多胎妊娠」「初産婦」「妊娠高血圧症候群に以前かかったことがある」人はリスクが上がることがわかっています。
これらに当てはまるものがあり心配な妊婦さんは、一般的に言われている予防法で高血圧にならない努力はしておきましょう。
妊娠高血圧症候群は早期発見が大切
妊娠高血圧症候群は予防が難しいため、もし血圧が高くなっていたらできるだけ早く見つけ出し、対策をしていくことが大切になります。
妊婦健診はきちんと受ける
血圧の異常は、妊娠高血圧症候群に限らず、特徴的な症状があまり出ません。そのため、気づかないうちに症状が進行していることもあります。
ですから、妊娠高血圧症候群の早期発見のためにも妊婦健診は必ず受け、血圧や尿蛋白、むくみなどを定期的にチェックしてもらうことが大切です。なお、もともと高血圧がある人が妊娠した場合は、妊娠週数にあわせた複雑な管理が必要なので、内科の併設されている総合病院などの受診が勧められています。
血圧高めの妊婦さんが血圧を下げるためにできること

妊娠高血圧症候群は、妊婦さんが何か努力したからといって必ず予防できるというものではありません。
ただ、妊娠高血圧症候群まではいかないけれど「血圧が高め」の妊婦さんが、それ以上血圧を上げないために努力できることはあります。高血圧予防として一般的に言われている、この後、紹介するような点に気をつけていきましょう。
なお、ここで紹介する内容はあくまで妊娠高血圧症候群と診断される前にできることです。妊婦健診などで異常を指摘されたら、医師の指示に従ってください。
1日の食塩は「6.5g未満」を目標に
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、成人女性の食塩の目標摂取量は1日あたり6.5g未満で、これは妊婦も授乳婦も変わりません[*4]。
食塩を摂り過ぎると血圧は上がります。血圧が高めの人は塩分を摂り過ぎていないか気を付ける必要がありますが、血圧が正常な人でも食塩を摂り過ぎないことは、高血圧予防になると考えられています。「1日6.5g未満を目標に減塩」を心掛けましょう(※)。
※ただし、妊娠高血圧症候群に対する極端な塩分制限の効果は否定的で推奨されていないため、主治医の指示に従ってください。
塩分の排出を促すカリウムが豊富な食べ物を摂る
カリウムは摂り過ぎた塩分を排出してくれるので、塩分の摂り過ぎによる高血圧の予防に役立ちます。妊娠中に必要とされるカリウムの量は非妊娠時と変わらず「2000mg/日」です[*4]。
カリウムは野菜やイモ類、果物に豊富に含まれているので、こうした食品を積極的に摂るようにしましょう。ただ、果物は糖分も多いので摂り過ぎには注意が必要です。
・野菜料理を毎食1皿以上食べる
・1日あたり小鉢5~6杯の野菜料理を摂る
・カリウムはゆでると溶けだしてしまうので、スープや鍋物など汁ごといただく料理がおすすめ
・果物は、「バナナなら1本」「オレンジなら1個程度」を目安にプラス
といった点に気を付けたり、工夫するといいでしょう。
ただし、腎臓に問題がある人はカリウムを制限する必要があるので、必ず医師に確認してからにしましょう。
カルシウム不足にも要注意
さまざまな研究から、カルシウムの摂取量が多いほど高血圧のリスクが減ることがわかっています。逆に摂取量が少ないと、高血圧や脳卒中の発生が多くなるという報告もあります。
そのメカニズムは詳しくわかっていませんが、高血圧の予防や改善には、塩分を控えるだけでなくカルシウム不足にも気をつける必要があります。妊娠期のカルシウム摂取推奨量は「650mg/日」で非妊娠時と変わりませんが、日本人はもともとカルシウム不足の人が多いので、意識して多めに摂るようにしましょう[*4]。
調味料を選ぶ際のポイント
毎日摂取している食塩の多くは、「調味料」に含まれているものです。かといって、減塩のためにすぐに減塩調味料を求める必要はありません。まずは塩分が多く含まれている調味料を知り、かけ過ぎないようにします。
ただ、妊娠中は食事からバランスよく栄養を摂ることが大切です。食事が「おいしくない」と感じないように、塩分を減らした分、「酢や柑橘類の酸味、香辛料、香味野菜などを加える」「天然だしの旨味を利用する」など、おいしく食べられる工夫をしてください。
血圧が気になる人にうれしい飲み物

血圧が気になるときは、次のような飲み物もおすすめです。
牛乳・ヨーグルト
21ヵ国の147,812人を対象とした追跡調査で、牛乳やヨーグルトなどの乳製品を多く摂る人は摂らない人に比べて高血圧や肥満やなどのリスクが低下することがわかっています[*5]。
牛乳に含まれるたんぱく質が消化管で分解される際、「ペプチド」という物質が生成されます。このペプチドに「血圧が上がるのを抑制する働き」があるのではないかと考えられています。ヨーグルトの中には、もともとペプチドが含まれているものもあります。
妊娠中は、カルシウム源にもなるので、
・妊娠初期なら「牛乳コップ1杯」や「ヨーグルト2パック」
・妊娠中期・後期は初期の量に「牛乳ならコップ半分」または「スライスチーズ1枚」程度を追加
して摂ることが勧められています。毎日積極的に摂るようにしましょう。
トマトジュース
トマトには旨味成分の「グルタミン酸」と、グルタミン酸から合成される「GABA(γ-アミノ酪酸)」も豊富に含まれています。GABAには「血圧の上昇を抑える効果」があるのではないかと考えられています。
実際、血圧が正常な人と高めな人でGABAの摂取が血圧に与える影響を調べた研究では、正常な人はGABAを摂取しても血圧に変化がなかったものの、血圧が高めの人が毎日12.3mgのGABAを12週間以上摂取すると、血圧を下げる効果があったとする報告もあります[*7]。
またトマトに多く含まれる「リコピン」という色素にも血圧を下げる作用が期待できるのではないかと言われています。飲む場合は、塩分が添加されている製品が多いので、無塩のタイプを選ぶといいでしょう。
スムージー
スムージーは野菜の栄養を効率よく摂取できる飲み物。上手に活用すれば、野菜に含まれるカリウムやカルシウムを無駄なく手軽に摂ることができます。
ただし、「カリフラワー、キャベツ、ブロッコリー、ほうれん草、レタス、サツマイモ、ナスなど」の野菜には摂り過ぎると尿管結石のリスクがある「シュウ酸」も多く含まれています。こうした野菜を生のままを大量に入れて作るスムージーを毎日飲むのは避けましょう。なお、シュウ酸は水溶性なのでゆでてから口にすれば、摂取量を減らすことができます。
高血圧予防のためには「太り過ぎ」にも注意


肥満には高血圧を発症したり、悪化させたりするリスクがあります。血圧が気になる人は、太り過ぎにも気をつけましょう。
妊婦に必要な摂取エネルギー
摂取エネルギーが過剰になると肥満になります。成人女性に必要なエネルギー量は、活動レベルに応じて異なりますが、だいたい「1700~2350kcal/日程度」です。
これに、妊娠中は
・初期で+50kcal/日
・中期は+250kcal/日
・後期は+450kcal/日
付加することとされています[*4]。
ただし、妊娠したからといって、摂取カロリーの付加量はそれほど多くはありません。あまり食べ過ぎないように注意しましょう。
体重増加を防ぐ適度な運動
健康な妊婦さんにとって、適度な運動は体重増加や脂肪の蓄積を抑え、出産を軽くするなど多くのメリットがあります。また運動することで運動中・休息中の血圧も低下します。
妊娠中におすすめの中程度の運動には、
・ウォーキング
・固定自転車(妊娠後期は除く)
・エアロビクス
・スイミング
・ヨガ
・ピラティス
・ラケットスポーツ
があります。
なお、こうした運動を行う際は負荷が強くなりすぎないよう、運動中でも負担なく会話ができる程度にしてください。
疲労をため込まないように必ず休息を
運動は疲れを残さない程度にして、休息もしっかり取りましょう。疲れたら横になるなどして体を安静にして、睡眠を十分にとることも大切です。
妊娠高血圧症候群になったらどうやって治療するの?


妊娠高血圧症候群になった場合の治療についても説明します。
妊娠高血圧症候群と診断されたら安静に
妊娠高血圧症候群になったら、「運動は禁忌」とされています。重症や妊娠高血圧腎症の場合は入院となります。軽症では積極的な治療は行わず、まずは安静にするなど、生活指導が行われます。
「安静」は「食事療法」や「薬物療法」と並ぶ、妊娠高血圧症候群の症状を抑える治療のひとつです。安静にすることで、交感神経の緊張が緩和し、子宮による下大動脈の圧迫がなくなることから子宮や腎臓への血流が増えて血圧が下がります。
ただ、妊娠高血圧症候群の根本的な治療は「妊娠を終了させる=出産を早める」ことです。赤ちゃんが胎外に出れば、たいていは急速に良くなっていくからです。ただ、赤ちゃんが自力ではまだ胎外で生きていけない段階の場合は、慎重に経過観察しながら妊娠を継続することになります。
食事の注意は医師の指示に従う
妊娠高血圧症候群と診断されたら、塩分や水分の制限などをするとかえって病気を悪化させる可能性があるので、自己判断で行ってはいけません。診断された後の食事は必ず医師の指示に従いましょう。
医師の判断で降圧薬による治療をすることも
妊娠中に使用できる降圧薬もあります。重症の場合や軽症でも改善がみられない場合などで、医師が必要と判断すれば、降圧薬で血圧をコントロールすることになります。
自覚症状はあまりないがこんな症状が出たら医師に相談を


妊娠高血圧症候群に特徴的な症状はあまりありませんが、悪化すると
・全身のむくみ
・急な体重増加
・出血しやすい
・息苦しい
・尿が少なくなる
・子宮の圧痛
・性器出血
などが見られるようになることもあります。こうした症状があって治まらない場合は主治医に相談しましょう。
また、妊娠高血圧症候群に特徴的な合併症である「HELLP症候群」や「子癇」を起こすと、以下のような症状が出てくることもあります。
「HELLP症候群」
・吐き気、嘔吐、みぞおちの痛みなど胃腸炎や風邪に似た症状
「子癇」
・眼のかすみやチカチカする感じ、長く続く頭痛、みぞおちの急な痛み、けいれん
これらの症状が起こったら、主治医にすぐ連絡してください。
まとめ


高めの血圧を気にしている妊婦さんが、妊娠中に血圧を下げるためにできることを紹介しました。妊娠高血圧症候群は努力で必ず予防できるものではありませんが、健康管理のひとつとして運動や食べ物、飲み物に気をつけて、血圧を上げすぎない努力もしていきましょう。
(文:佐藤華奈子/監修:浅野仁覚 先生)
※画像はイメージです
[*1]公益社団法人日本産科婦人科学会 「妊娠高血圧症候群」
[*2]「高血圧治療ガイドライン2019」日本高血圧学会
[*3]日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン産科編2020
[*4]厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版)
[*5]Jミルク 乳製品摂取が高血圧・糖尿病のリスクを低下
[*6]妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針
[*7]カゴメ株式会社「トマト素材と美容・健康に関する研究」
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます