妊娠中毒症とは?妊娠高血圧症候群の症状と治療法【医師監修】
妊婦さんを苦しめる「妊娠中毒症」は、現在「妊娠高血圧症候群」という呼び名に変更されています。今回は「妊娠高血圧症候群」による母子への影響、症状、治療法についてお伝えします。
妊娠中毒症とは?
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「妊娠中毒症」という名前はもう使われていません
妊娠中に気をつけたい病気の一つ「妊娠中毒症」は、2005年4月より日本産科婦人科学会が正式に「妊娠高血圧症候群」という呼び名を採用し、この病名が普及しました。
「妊娠中毒症」から「妊娠高血圧症候群」へ
「妊娠中毒症」から「妊娠高血圧症候群」へと名称変更された理由は、妊娠中の母子に悪影響を与える中心的な要素が「高血圧」であることが判明し、高血圧を持つ妊婦さんについて、特に気を付けて管理する必要があることが分かったからです。これが、「妊娠中毒症」から「妊娠高血圧症候群」と呼ばれるようになったいきさつです。
妊娠20週~分娩後12週までの期間に、高血圧が見られる、または高血圧に蛋白尿を伴う症状が起きることを、妊娠高血圧症候群と呼んでいます。なお、妊娠高血圧症候群の原因については、まだ不明な点も多くあります。
妊娠高血圧症候群の影響は?
胎児の成長への影響
妊娠高血圧症候群が悪化すると、子宮への血流や胎盤の機能が悪くなり、おなかの赤ちゃんの発育に悪影響を与える恐れがあります。以下、具体的な影響についてご紹介します。
■胎児の発育不全
胎盤や子宮の血行悪化により、おなかの赤ちゃんの栄養・酸素が不足します。特に、低酸素状態が長期間に及ぶと、赤ちゃんの脳に悪影響が出る可能性があります。
■低体重出産
胎内の発育不全により、生まれた時の体重が2,500g未満の「低出生体重児」となる可能性があります。
■死産
妊娠高血圧症候群の悪化で、おなかの赤ちゃんの発育に大きな影響が出続けた場合、胎盤が子宮の壁からはがれてしまう状態(常位胎盤早期剥離)になり、急に赤ちゃんの状態が悪くなることも起こりますし、場合によっては赤ちゃんが亡くなってしまう恐れもあります。
合併症が起きる恐れがある
妊娠高血圧症候群になると、合併症が出る恐れがあります。以下、具体的な合併症についてご紹介します。
■常位胎盤早期剥離
分娩前に胎盤が子宮からはがれてしまう状態です。単胎では約0.6%、双子の場合は約1%に起きると言われています[*1]。常位胎盤早期剥離は、母子の命を危険にさらすことでも知られています。常位胎盤早期剥離では赤ちゃんが死産や新生児死亡となるリスクは7.6倍となり、妊婦さんの死亡原因にもなります[*1]。
■子癇(しかん)
妊娠20週以降に初めて痙攣(けいれん)の発作が出る状態です。子癇が治まらないと、ママと赤ちゃんの命が危険にさらされます。場合によっては、早期の帝王切開によっておなかの赤ちゃんを出してあげなければなりません。
■HELLP症候群
全身の血管内部の細胞障害により、血液中の赤血球が壊れたり、肝臓機能の悪化や、血小板の減少といった症状が出るのがHELLP症候群です。症状が進行してしまうと、多臓器にダメージを受け命に関わる可能性があるため、早めの診断が望まれます。HELLP症候群は重症妊娠高血圧症候群の10~20%に発症すると言われています[*1]。
こんな人は注意!
以下の人は、妊娠高血圧症候群になるリスクが上昇すると言われていますのでご注意ください。
・初めて妊娠・出産を経験する人
・妊娠前から高血圧、腎臓の病気、糖尿病などの合併症がある人
・肥満の人
・高年齢(35歳以上でリスクが高くなり、40歳以上ではさらに危険度が高い。一方で15歳以下も発症率は高い)
・高血圧の家系の人
・多胎妊娠(双子など2人以上のお子さんを妊娠)した人
・前の妊娠で妊娠高血圧症候群になったことがある人
妊娠高血圧症候群の症状
妊娠高血圧症候群はチェックしても気づきにくいので要注意
妊娠高血圧症候群そのものについては、重症化していても自覚症状がほとんどないことがあります。体のだるさや頭痛が症状のひとつとしてありますが、妊娠中にはつい見過ごしてしまう可能性が高いため、早期発見のためにも妊婦健診はきちんと受けましょう。
ただ、妊娠高血圧症候群の中でも、高血圧によって腎臓やほかの臓器に影響が出てくる「妊娠高血圧腎症」になると、血管や血液の異常により全身にさまざまな症状が出てくることもあります。具体的には、全身のむくみ、体重増加、出血しやすい、運動障害、息苦しい、尿が少なくなる、子宮の圧痛、性器出血などです。
これらの症状は妊娠高血圧症候群以外の病気が原因で見られることもありますが、妊婦健診で血圧が高い/高めと言われた妊婦さんでこうした症状が気になったら、放っておかずにかかりつけ医師に相談しましょう。
妊娠高血圧症候群の合併症の自覚症状
妊娠高血圧症候群の合併症については、いくつかの特徴的な自覚症状があります。例えば、「HELLP症候群」ならば、吐き気、嘔吐、みぞおちの痛みなど胃腸炎に似た症状が初期症状として現れます。これに風邪のような症状や下痢を伴うこともありますが、単なる風邪や体調不良と勘違いしない注意は必要です。こうした症状があって悪化していく場合は主治医に相談しましょう。
また「子癇」ならば、眼のかすみやチカチカする感じ、長く続く頭痛、みぞおちの急な痛みがサインとなります。
この病気は、通常出産後には症状が急速に治まります。ただ、重症であった場合は、産後も高血圧や蛋白尿といった症状が続くこともあり、医療機関で経過観察を受けることが大切になります。
妊娠高血圧症候群の治療
妊娠高血圧症候群の治療は、胎児の状態が悪くなっているかどうか、ママが子癇やHELLP症候群といった重い合併症を起こす可能性があるかどうかで少し変わってきます。
これらの兆候が見られる場合は、帝王切開や誘発分娩でできるだけ早く赤ちゃんを取り上げることになります。こうした兆候はないものの重症化している場合は、入院して血圧を下げる治療や痙攣を抑える治療を行いますが、この場合も、ママや赤ちゃんの状態が悪化したらお産を早めることになります。
軽度の場合は、妊娠週数や子宮頸管の状態を確認しながら分娩のタイミングを図り、週数によっては入院管理のもと、降圧薬による治療などを行うこともあります。なお、水分の摂取制限や過度の塩分制限はかえってこの病気を悪化させる可能性があるので、自己判断で行ってはいけません。必ず医師の指導のもと行ってください。
妊娠高血圧症候群は出産すると普通、状態が良くなるので、差し迫った状態ではお産を早める選択がとられます。ただ、赤ちゃんがママの胎外に出るにはまだ小さすぎる場合は、ママと赤ちゃんの状態を慎重に見ながら妊娠継続が判断されることもあります。人によって病状はさまざまなので、妊娠高血圧症候群と診断された場合は、医師に状況を確認し、今後どういった治療が行われるのか説明をよく聞くようにしましょう。
まとめ
妊娠高血圧症候群は自覚症状に乏しく、効果的な予防法も確立されていません。そのため、妊娠中~産後の妊婦健診をしっかり受けて、少しでも気になる点があればすぐにかかりつけ医に相談することが重要です。
(文:マイナビ子育て編集部/監修:浅野仁覚先生)
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[*1]日本産科婦人科学会:産婦人科診療ガイドライン産科編2020.
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の指導を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます